薫風
冬夜と付き合い始めて気付くと、もうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。
頬を撫でる風が春の風から少し湿度を感じる夏の風へと変わっていた。
俺と冬夜の関係は付き合った頃と、あまり代わり映えは無いように思ったけれど、思い返すと少しずつだけど確実に変化をしていた。
初めて手を繋いだ、あの時とは違い今は、当たり前のように2人で居る時は必ず手を繋いでいる。
恥ずかしかった気持ちが今は安心感へと変化していた。
✽✽✽✽
今日も冬夜を待とうと、あのベンチへと歩き始めると既に座っている人影が目に入った。
間違えるはずがない、冬夜だと思うと同時に体が動いた。
「冬夜!」
そう呼びかけると、振り返り俺の顔を確認するやいなや笑顔を向けてくれた。
この笑顔はずるい…………
どんな事でも言うことを聞きたくなる………
「冬夜、おれ待たしちゃったかな?いつもより家をでるのが遅くなっちゃってさ、ゴメンな。」
言い訳っぽくなって自分でも嫌になる………
「とりあえず、ここに座りなよ」
冬夜は自分の隣をトントンと叩いた。
俺は隣に腰を下ろしながら、待たせてゴメンと伝えると冬夜は鞄から取り出したハンカチを俺に手渡した。
手ぬぐいではなく、ハンカチって所が冬夜らしいなと思った。
「ハルは悪くないよ、今日はいつもより少し早く起きたから早めに出てきたんだ、たまには僕がハルを待つのも悪くないでしょ?」
冬夜の言葉に、それなら良かったと答えハンカチを返した。
ハンカチを返した手を、そのまま繋いでいる状態にもっていく自然な動作は凄いなと改めて思った。
あらためて、この自然な流れを作り出す人物が本当に同じ年なのかと不思議で仕方がない。
「ハル、覚えてる?僕たちが出会ってからもうすぐ1年が経つんだよ、あの時からハルは僕の心を惑わせていたから、今こういう関係になれて凄く嬉しいんだ。」
冬夜の話を聞いているだけなのに、自分の顔が赤くなるのが分かった。
そんな時から俺のことを思ってくれていたのが嬉しいと同時に、あの時は俺の中でも何かが芽生えたのは確かだけど、それが何か気付いたのは最近のことで………
何か言葉にすると嘘くさくなりそうで繋いだてを強く握った。
冬夜はフッと笑うと俺の耳元に口を地下付けて
「ハルも同じ気持ちで嬉しいよ」
そう囁いた。
不意打ちの距離感と吐息混じりの言葉に文字通り開いた口が塞がらなかった。
1年前に出会った時は鈴の音のような綺麗な声をしていたのに今は、あの時より低くてお腹に響く様な声に変わってしまった。
背だって俺より低かったのに気付いたら、顔を上げないと目が合わなくなった。
なんでも、余裕そうにこなす冬夜を見ると自分が情けなく感じてしまい、もう!と発して繋いだ手を振りほどき、冬夜をベンチに残して走り出した。
「ハルごめん!僕が悪かったよ!」
そう後ろから声が聞こえるけど、知ったこっちゃない。
冬夜の事が羨ましくて、拗ねている自覚はある
それでも、俺だって格好良いと思われたいんだ。
そんな事を考えながら走っていると後ろから、うわぁ〜と聞き慣れない声が聞こえ、振り返ると今まで見たことがないぐらいの綺麗な転倒姿が目に飛び込んできた。
俺は一瞬なにが起きたか分からなかった。
何でも出来る冬夜の意外な一面を見て、当たり前だけど冬夜も人間なんだと思った。
そんな姿をみたら拗ねている自分が幼く感じて冬夜の元へと方向転換をした。
冬夜に声をかけて手を差し出すと、ありがとうと言いながら手をとってくれた。
「恥ずかしい所を見られちゃったな」
そう恥ずかしそうに笑っていた。
そのまま手を繋いだまま学校へと向かった。
学校まで、あと数十メートルって所で冬夜から手を離され、いつものことながらも少し淋しい気分になった。
「ハルはずっと、そのままでいてね………」
そう満面の笑顔で言われて、理解するのに少し時間がかかった。
「俺だって去年から少しは身長は伸びてるから!来年には冬夜を抜かすから楽しみにしててよ!」
俺の言葉に冬夜は生ぬるい笑顔を浮かべてた。
覚えとけ!絶対に抜かしてやる!
最後まで読んで頂きありがとうございます。




