捕らえられた◯◯
なぁハル、東京の学校で冬夜は笑顔で過ごしてるかな?
そう声をけてきたのは隣の席の亜樹ちゃんだった。
なにか気になる事とか有った?と、尋ねると亜樹ちゃんとは反対の方から返事が返ってきた。
「冬夜って少し人見知りタイプじゃない、私達と初めて会ったときも、お地蔵さんみたいに動かないから背中にゼンマイが付いているのかと思ったぐらいだったよ。」
そう話すのは、この中学で唯一の女の子の小夏だった。
そう言えば、そんな事もあったねと皆で声を出して笑ってしまった。
冬夜が東京へと帰って、もうすぐ4ヶ月が過ぎようとしていた、季節は夏から秋そして冬へと移り変わり時折、チラチラと綿毛のような雪が舞う時もあった。
「亜樹ちゃん、冬夜に年賀状を出すのってどう思う?」
唐突だったかもしれない俺の提案だったけれど、亜樹ちゃんは面白い考えだねと賛同してくれつつも、冬夜の住所が分かれば出せると思うんだけどハル分かる?と逆に質問されてしまった。
また遊ぼう、明日もここで待ち合わせな!
そう約束をする事はあっても、東京の住所を聞いた覚えは無かった。
明日も必ず会えると思っていたからこそ、敢えて聞かなかったのは俺の落ち度だった。
俺がうんうんと唸っていると、亜樹ちゃんに冬夜のおばあちゃんの家は分かるか聞かれた。
詳しい場所は分からないけど、海辺の近くの白い家って事は分かると伝えると、学校が終わったら駐在さんに聞きに行こうと亜樹ちゃんが計画を立ててくれた。
俺も亜樹ちゃんも小夏ちゃんも1日中ソワソワしていたからか、先生から授業が終わったら楽しいことがあるかもしれないけど今は先生の話を聞こうな!と注意をされてしまった。
俺たちの住んでいる場所は、自然豊かと言えば聞こえは良いが実際は、過疎化が進み子供の人数も少ない。
通っている学校も今は3年生と2年生しか居ないし全校生徒は20人も居ない事もあり皆で同じクラスで授業をしている。
そして俺たち2年生が卒業したら廃校になる事も決定していた。
だからこそ、あの日ひまわり畑に1人で居た冬夜は目立っていたし声を掛けたのはごくごく普通のことだった。
きっと、亜樹ちゃんや小夏ちゃん雷、風も同じことをしただろう。
そんな事を考えていると、先生!今日の授業は終わりですか?と腕をピンと上げた小夏ちゃんが先生に質問をしていた。
その姿を見て何人かが必死で笑いを堪えているようだった。
「小夏の集中力はもう切れてしまったのかな?」
先生は苦笑いを浮かべながらも、帰りの会の準備をいつもよりテキパキとしてくれていた。
そんな状態なのに、小夏ちゃんは私達には急がねばならない任務が有るのです、早く帰りの会を終わらせてくださいと大真面目な顔で足をバタつかせながら先生を煽っていた。
それを見た亜樹ちゃんは、小夏ちゃんパンツ見えるよ恥ずかしいよとやんわりと注意を促してた。
亜樹ちゃんはクラスがザワつくとスマートに落ち着かせてくれるのは本当に凄い、1つしか違わないのに来年亜樹ちゃんが卒業したらと少し不安になった。
先生の、それではみなさんさようならの声が掛かるやいなや小夏ちゃんは誰よりも早く支度をして早く駐在さんの所へ行こうと亜樹ちゃんの手を掴んで上下にブンブンと振っていた。
小夏ちゃんを見ていると本当に亜樹ちゃんと同じ年なのが不思議で仕方ない。
そして、そんな小夏ちゃんと亜樹ちゃんのやり取りを見て雷と風は我慢の限界だったのかお腹を抱えて笑っていた。
「駐在さん!いますかぁ?」
小夏ちゃんが、ありったけの声で叫ぶと中から駐在さんが出てきてくれた。
「大きな声だと思ったら小夏ちゃんだったかい?何かあったのかい?」
そう聞かれて、俺たちは海辺の近くの白い家に俺たちぐらいの孫がいる、おばあちゃんが住んでいないかと尋ねた。
駐在さんは少し考えてから、もしかしたら薫子さんの所かもしれないから確認してみようと奥に電話をしに行ってくれた。
その間、俺たちは駐在所の前で冬夜のおばあちゃんの家だと良いねと話しながら待っていた。
「冬夜、俺達からの年賀状が届いたら喜んでくれるかな?」
そう雷が言えば。
「冬夜、俺たちに会いたくなって泣いちゃうかもな」
そう笑いながら風が答えたのを聞いて俺と亜樹ちゃんと小夏ちゃんは、ありえる!と声が被ってしまい皆で顔を合わせて笑ってしまった。
今、この場所に冬夜も居たらもっともっと楽しかっただろうなと、ここに居るみんなが同じ気持ちだったに違いない。
楽しそうだなと言いながら戻ってきた駐在さんは俺にメモを渡しながら、やっぱり薫子さんのお孫さんが冬夜君みたいだよ。
薫子さんに話は通したから、ここからそんなに時間もかからないから、今からはメモに書いた場所に行ってみると良いよ、とアドバイスを貰い俺たちは意気揚々と冬夜の、おばあちゃんの家へと向かった。
「ハルちゃん、駐在さんの地図あってるの?」
そう話す小夏ちゃんは既に歩くことに飽きているようで、頬を膨らませながら少し遅れながる着いてきている。
「小夏ちゃんおんぶしようか?」
そう雷が聞けば子供扱いしないでと怒り。
「小夏ちゃん、お姫様だっこしようか?」
そう風が聞けば、風のお姫様にはなりたくないと怒っていた。
最終的には雷と風に手を繋いでもらう事で落ち着いたようだった、いつの間にか俺と亜樹ちゃんの前を歩いている3人を見て亜樹ちゃんから、なんか既視感ない?と聞かれて思わず。
『捕らえられた宇宙人?』
そう答えると亜樹ちゃんは、そうそうそう!と思いきり目尻を下げながら笑っていた。
「俺、実際には見たこと無いけど」
そう亜樹ちゃんに言うと、亜樹ちゃんも俺もと返してくれた。
そんな話をしていると前の3人のテンションが上った気がした。
「ハルちゃん亜樹ちゃん!見て!見て!」
そう興奮する小夏ちゃんが指差す先には海を背景にまとった真っ白な家が見えた。
「目的の場所まであと少しだね」
そう雷が言うと。
「そうと決まれば!やることは決まってるよね」
そう風が言うと3人は手を繋いだまま猛ダッシュで白い家へと向かった時折、小夏ちゃんが空中を走っている姿を見て、俺と亜樹ちゃんは笑いを堪えることができなかった。