有耶無耶スッキリ
強くて、優しくて、凄い人か……
冬夜と別れて帰宅して部屋で一息ついていると、あの時の言葉と表情が頭から離れなかった。
そもそも冬夜と源さんには、接点がなかったにもかかわらず何故、冬夜はそんな風に思ったのかが気になり心のなかに霧がかかったように変な気分だった。
「ハル!ご飯出来たから食べよう」
母さんの無駄に明るい声に一瞬にして気持ちが切り替わった気がした。
台所へと向かうと鼻歌交じりで夕飯の支度をする母さんと目が合った。
「ハル………まだ制服で居たの?早くお風呂に入って着替えちゃいなさい。」
そう、言いながら俺の背中をグイグイ押しながら、お風呂場へと押し込まれた。
「下着と寝間着は持ってくるから、しっかり温まりなさいね。」
そう言うと母さんの足音が離れていった。
今だに俺の事を小さな子どものように、扱う時があるのは周りでは珍しい一人っ子だからか?
自分で着替えの用意ぐらい出来るのにと思いながら、脱いだ服をカゴに投げ入れた。
湯船に浸かっていると、冬夜のあの言葉をまた思い出していた。
確かに源さんは怖いけど理不尽な事では怒鳴ったりはしない、そんな所が優しいって事なのかな?
強いと言うのは、そのまんまだから分かる気がする………
なんでか分からないけど、さっき晴れた心の霧がまたモヤモヤして来た。
「ハル、下着と寝間着おいておくね」
母さんの声を聞いて、さぁ出るかと思ったものの頭をスッキリさせたく冷水を浴びてみた………
まだ時期が早すぎたみたいで全身に鳥肌がたったから、もう1度湯船へと戻りしっかり温まってから、お風呂場を後にした。
俺に気付いた母さんが、早く食べようお母さんお腹空いちゃったわとニコニコした笑顔を浮かべてる。
向かい合って、食事をしていると母さんの視線が痛いほど刺さる事に気付いた。
口元は笑っているのに目の奥が笑っていない………
「何?」
そう目を合わせないように声をかけると、ハルの言い方が怖いから忘れちゃったと、なにかを含んだ言い方をされた事にイラっとしてしまった。
「言いたいことあるならハッキリ言ってくれないと気持ち悪い」
そう溜め息をつきながら言うと、母さんは一瞬信じられないと言う様な顔つきをした後に真面目な顔になり
「ハル、源さんに迷惑を掛けて源さんの家に行ったんだって?何をやらかしたの?」
そう真剣な面持ちで尋ねてきた。
母さんの問いかけに思わず飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになった。
小さな町だし大げさではなく、みんな知り合いみたいな所は有るのは事実だけど伝わるの早くない?
しかも若干、湾曲されて伝わってるし………
「ハル、何がしてしまったならお母さんも一緒に行くから話してくれない?」
いつもにもなく真剣な顔に、帰ってきた時の無駄に明るい感じは俺を心配しての事だったのかと思うと、なんとなく嬉しくて口元が歪んだ。
「母さん俺じゃないよ」
そう話した時の、ホッとした顔はきっと忘れないだろう。
ざっくりと、今日の出来事を説明していると言葉を遮ることなく聞いてくれた。
俺は今だに晴れないモヤモヤの話を母さんに相談する事にした。
【強くて、優しくて、凄い人】
母さんは、少し考えた後に口を開いた。
「冬夜くんは人の事を良く見ているのねと言い、ハルは冬夜くんよりも長い付き合いの源さんの気付かなかった所を指摘されて羨ましくなってしまったのかもしれないね」
そうアドバイスを貰って胸の中に何かがストンと収まった気がした。
部屋に戻って窓から外を見上げると、日は沈み星が瞬いていて見ていると気持ちが落ち着いてきたのがわかった。
そうかあの時、俺は源さんに嫉妬したんだ。
冬夜に、強くて優しくて凄い人と思われたかったんだ。
源さんに比べたら、まだまだたいした人生経験はしては居ないけれど、冬夜に少しでも頼ってもらえる人になりたい………
そんな事を考えていたけれど、知らぬ間に眠っていたらしく、気付いた時には朝の光が部屋を照らしていた。
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