プロローグ
ひまわりが咲き誇り一面黄色の絨毯が広がっていたあの夏の日、東京から来たと言う彼と初めて出会った。
夕日に染められた、ひまわり畑とは対照的な漆黒の髪と陶器のような白い肌をした少年は今にも消えてしまいそうで、思わず声をかけた。
「ねぇ、この辺では見ないけど道に迷ったの?」
俺がそう尋ねると振り返った彼の濡れ羽色をした瞳に一瞬にして捕らえられてしまい目が離せなくなってしまった。
「夕日を……夕日を見に来てただけなので大丈夫です、気にかけて頂きありがとうございます。」
そう話す声は、まだ声変わりをしてないのだろうか、鈴の音のような透明感に見た目の大人っぽさのアンバランスが更に俺の胸を掻き立てた。
そんな俺を見つめる彼は、あきらかに戸惑っているのが分かった当たり前だ見ず知らずの人に、いきなり声を掛けられたら不審に思うだろう、俺は改めて自己紹介をする事にした。
「俺は、この近くに住んでいる川端ハル中2だよ、この辺りは子供が少ないのもあって皆顔見知りだから見かけない子が1人で居たから声掛けちゃった、日が沈むと本当に真っ暗になるから危ないよ」
そう話すと、緊張が解れたのかふわっとした笑顔を向けてくれた。
「僕は瀬田冬夜同じく中2、夏休みの期間だけ東京からおばあちゃんの家に遊びに来てるんだ」
同じ年齢と言う事もあり、俺たちはあっと言う間に仲良くなりお互いを名前で呼び合うようになるのに、そんなに時間はかからなかった。
そして俺の通っている学校の友だちも含め毎日おひさまが傾くまで遊ぶことが多かった。
初めの頃の冬夜は、虫が怖いと固まり少し離れた場所から見ていたが今では自ら率先してカブトやクワガタを捕まえに行こうと言うくらいには進化していた。
更に日にも焼けて、出会った頃の儚げな雰囲気は薄れたように感じたが、それでも冬夜は魅力的だと思っていた。
太陽が傾き始めると皆は、また明日と家路へと急いでしまうが俺と冬夜は、出会ったひまわり畑が見渡せるベンチに座って一日を振り返るのが日課になっていた。
2人で過ごす時間を重ねる度に膨れ上がる初めての感情に名前をつけるのなら『初恋』なのかもしれない。
冬夜の事を好きだと明確に感じたのは最近かもしれないが、出会ったあの時から俺は冬夜に捕らえられて居たのかもしれない。
視線を感じ、隣に座る冬夜へと顔を向けると思いきり目が合って胸の奥が温かくなった気がした。
今の関係を壊したくない気持ちが強く俺は気持ちを伝えるつもりは無かった。
「ハルのその髪は染めてるの?」
そう聞かれて俺は首を横に振った。
「冬夜には話してなかったかな?俺のおじいちゃんは綺麗なプラチナブロンドに緑色の瞳を持った人だったんだ、写真でしか会ったことは無いんだけど」
そう話すと何故かゴメンと謝られた。
「別に謝ってもらうような子とじゃないし俺はこの髪も瞳も凄い気に入ってるんだ」
そう話すと、冬夜は僕もハルの髪はお日さまみたいだし目だって凄く綺麗で好きだよと言われ、頬が赤くなるのを感じて思わず顔を反らしてしまった。
その後は、ただただ心臓の音が煩くて何を話したかあまり覚えては居なかったけれど楽しかった事だけは、しっかり記憶に残っていた。
楽しい時間と言うのは本当に、あっと言う間に過ぎてしまう。
俺たちの夏休みももうすぐ終わってしまう、カナカナカナとひぐらしが鳴き始めた頃に、また来年の夏にまた遊ぼうと冬夜は俺たちに言うと東京へと帰っていった。
いつも遊んでいたメンバーで冬夜の乗る列車が小さく、そして見えなくなるまで手を降って見送った。
また来年の夏に一緒に楽しいことをしようと願いを込めて。