07 もはや運命みたいなもの
まわりを見てみれば、新入生が座る範囲では同じ中学から進学してきた者同士や、偶然出会って意気投合した者同士で話しているグループ、スマホをいじっているグループに分かれている。
また、2年生や3年生でも似たような光景がうかがえるが、一つだけ違う点がある。
2年生と3年生は全員がスマホのようなものを持っているが、そのデバイスはスマホとは少し違うのだ。
基本的に掌に収まるサイズに違いはないのだが、微妙に違う。なんというか、すべてがほとんど同じデザインなのだ。
とはいっても、色やケース、つけているストラップなどはそれぞれ違うのだが、そもそもの形状や構造はどれ一つ違うものがない。まあ、いつかはわかると思うので今は考えても仕方がないのだが。
やがて10分前になって、隣の席に誰かが座る気配がした。
なんとなく視線だけでその正体を確認すると意外な事実が俺の脳内で処理される。
隣に座ってきたのは、登校中に出会った紗綾だった。
だが、わざわざこちらから話しかける必要がないので無視をしておく。
「あれ?櫂斗……だよね?」
紗綾もこちらに気づいたらしく、話しかけてきた。
べつに無視してもいいのだが、それはそれで気まずい気がしたので返事をしておく。
「ああ、偶然だな」
「そうだね。もしかして、運命、だったりして」
字面だけ見れば、ふざけているようにも見えるだろう。
しかし、紗綾の表情には苦しみのようなものが浮かんでる。一瞬だったので確実だとは言えないが、完全に間違っているということもないはずだ。
「なあ、何を我慢しているんだ?俺の間違いなら無視してくれていいんだが」
「え……?どうして?私、我慢なんてしてないよ?」
口先では強がっているようだが、今の一言で確信に変わった。
紗綾は、急ぎの案件ではないだろうが何かを我慢している、もしくは何かにおびえている。その何かを察するにはまだ情報が足りなさすぎるが、これだけは確かなはずだ。
といっても、相談されたわけでもなければ、打ち明けられたわけでもないので無理して探る必要もないだろう。
「なんで気づかれたんだろ……」
紗綾は俺に聞こえないように小さな声で呟いていたが、500メートル先の米粒が落ちた音が聞こえる俺には丸聞こえだった。
やがて、始業式の時間になり、まわりのざわつきが収まる。
新入生の中には比較的落ち着いた生徒もいれば、逆に緊張している生徒もみられる。
少しだけ間をおいて一人の女性がステージの壇上に上がる。
施設で培った知識を用いて表現するならば、美女という言葉がぴったりなのだろうと思った。
切れ長の目には黒曜石を埋め込んだかのような澄んだ瞳、女性らしい起伏に富んだ体つき、一目見ただけでさらさらだと分かる艶やかな髪。
そのすべてを認識したであろう新入生の男子生徒数名がごくりとつばを飲み込む音がした。
「校長の加宮凛です。2年と3年からは進級して最初の長期休み明け、1年からは入学式のようなものだと思います。1年の皆さんはこの学園が近未来的実力主義だと知っていると思います。これから配るものはこの学園で過ごすために必要不可欠となるものです。教師の皆さん、お願いします」
加宮凛と名乗った校長は澄んだ声音で、体育館の隅に立っていた教師に合図をした。
その合図で教師は手に持っていた大きめな袋を開き、前の生徒から順に個装された何かを配っている。
俺にも同じ何かを配り、もちろん隣の紗綾にも配り、そのまま立ち去って行った。
紗綾も「これなんだろ?」と首をかしげていたのは言うまでもない。