20 運命とは時に残酷なもの
「櫂斗、付いてきてくれてありがとね」
「ああ、別にすることもなかったからな。それに、紗綾1人で出歩くのは危ないから」
とは言っているものの、俺は既にひとつの気配が先程からずっと付いてきていることに気がついていた。足音や歩幅などから察するに、身長170cm前後の男といったところか。ただ、そのリズムにはボクシングをしている奴の独特なものが混じっている。
少し用事があると言って近くにあったコンビニに紗綾を入らせて、俺はコンビニの影に身を潜めた。このまま男が怪しい様子なく素通りすれば何事もなく済むのだが、コンビニに入ろうとするならば警戒しなければならない。
コンビニの中であれば安全であるはずだが、万が一ということもありうる。そうでなくとも、前提として紗綾に会わせる訳にはいかない。初めて会った俺を信頼してまで外に出たのだ。守る義理くらいはある。
幸いというか、施設では様々な格闘技にも対応できるように訓練を受けたためボクシングにも対応できるはずだ。
案の定、男はコンビニに入ろうとしたので抵抗できないように重心を乗せて肩をつかんだ。男は一瞬抵抗しようとしたが意味が無いことに気がつき諦めたようにこちらを向いた。
「チッ。せっかく紗綾と会えると思ったのに」
暗くて表情は見えないが、ストーカーで間違いないようだ。
「なんだよ、離せよ」
まだ抵抗する意思は残っていたのか悪態をついているがなんの効果もない。
「離すわけにはいかない」
「チッ。これはしたくなかったんだがな、怪我しても知らねー⋯⋯ぞ!」
力を抜いていたタイミングで男が反転し最短距離でジョブ、フック、アッパーを繰り出してくる。それに対して俺は最小限の動きだけで躱す。足元のリズムや動きを見るだけで男が次に何を行おうとしているのかが分かる。
「なんだよ、全然当たんねえじゃねーか!」
見ればわかるような状況に悪態をつきつつも疲れが来たのかラッシュが遅くなる。その瞬間を狙い、突き出された左手の手首を掴みつつ内旋させることで弾くような形になり勢いを殺す。そのまま男の懐に潜り込みガラ空きの胴体に肘打ちを食らわせた。
「うっ⋯⋯!」
「これに懲りたらもうやめておくんだな」
男が足早に立ち去るのを待ってからコンビニに戻る。
紗綾は書籍コーナーで立ち読みをしていた。最近人気の漫画だった気がする。
「待たせた」
「ん?ああ、全然いいよ。じゃ、行こっか」
「ああ」
何故か先程よりも軽い足取りでコンビニを出る沙綾の後を追うように俺も続いた。
寮に戻った時には12時を過ぎていた。
さすがに疲れたのか、紗綾は寮に着くなり一目散に部屋に戻って行った。
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