02 記憶の片隅にあるもの
さっきぶりの投稿です。
後から見返して名前に難しい漢字が入ってるのに読み仮名がないじゃん!って気づいたので足しました。
それは、晴れた日のことだった。
「検体1538番、お前は今日から結樹櫂斗と名乗れ。外で必要なことはもうすでに教えてある。あとは不要な記憶を消すだけだ」
無機質な白い部屋で白衣を着た大人からかなり大きなカバンを受け取っている。
結樹櫂斗と名付けられた俺はまだ推定年齢は15歳だ。
表向き(といっても表に公表できるものではないので、俺や子供たちに対してだが)、俺の能力に施設が追いつけなくなった、らしい。まあ、嘘だというのは大人の表情を見ていればすぐに分かった。
学力の成績はフルスコアで、IQは220を超えているといわれた。
体力の成績ももちろんフルスコアを叩き出し、武術に心得のある大人が10人がかりで武器を装備して一斉に殴り掛かっても片手でいなせる。もちろん素手で。
クスリの投与だけの生活でも一度も体調を崩さず、睡眠時間は平均30分。
まさに人外の体質を持つ俺は最高の実験台であり、最凶の人体兵器だったのだろう。
これは俺の推測に過ぎないが、施設の考えとしては俺が暴走した時の抑止力になりえるものがなかったから手放すことにしたのだろう。
しかし、俺は暴走どころか自分の意志で暴力や虐殺なんてする気がない。本当は、それをしたところで何の利益もないし、ただ人が苦しむだけだと知っている。
今までは表情に出していなかっただけだ。
本当はめちゃくちゃ怖かったし、自分が死ねばこれ以上人が死なずに済むのでは、と何度も自分で命を絶とうとしたこともあった。それでも、俺が今生きているのは施設の精神開発のおかげでもあるのだろうか。
何度か大人に打ち明けようとしたこともあったが、話そうとするだけで逃げるように立ち去って行ったので、無理なのだと悟った。
おそらく、そんな理由で施設から出ることになった俺は、今まで入ったことのない真っ黒い部屋に案内された。
その黒い部屋は、本当に真っ暗で油断すれば上下の感覚すらわからなくなりそうだ。そして、今から記憶を消すという場所としてはピッタリすぎるほどにたたずんでいる。しかし、それでいて不安をあおるような構造になっている。
部屋の中央には椅子があり、そのすぐ上にはヘルメットのような流線型のフォルムをした装置が鎮座している。
黒い部屋に隣接しているもう一つの部屋には、俺を監視するかのようなまなざしを向けている十数人の大人がいた。
「検体……いや、結樹櫂斗。この椅子に座れ。今から不要な記憶を消す」
「はい」
今まで通りの命令をするような態度の大人に、俺もいつも通りの感情のこもっていない返事を返す。
俺はこれからされることに、嫌な記憶が消えることを喜ぶのか、脳みそをいじられることを嫌なことだと思うのか、それとも、もうすでに人としての感情があまりない俺は何も感じ取ることができないのか。わからない。そして、誰にもわかることはないかもしれない。
ヘルメットのような装置が俺の頭にかぶさり、機械的な作動音とともに俺の意識が少しづつ薄くなっていく。
大人たちは実験台を失う口惜しさと、危険な存在がいなくなることに喜んでいる表情が入り混じっている。
数分後には装置が自動的に外れ、頭にかかっていた負担が消えていく。
心なしか俺自身でも、自分の今の感情が分かりにくくなるほど、意識が薄れていた。
「確認だが、君の名前はを言ってみろ」
「結樹櫂斗…です」
記憶が薄れているのは感じつつも、確かに社会に必要な記憶は消えていなさそうだ。
意識がもうろうとしながらも、残っている記憶と気力だけでなんとか会話を成立させていく。
その後、いくつかの質問の後にいつの間にか意識を失っていた。
意識を闇の中に手放す瞬間に何かを考えていたような気がするが、それすらもわからなくなっていた。
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