01 己を殺したその先にあるもの
初めて小説を投稿するので、誤字とか文法のミスとかえげつないと思いますが、なにとぞよろしくお願いします。
「検体1538番、こちらへ」
「はい」
白い、無機質な部屋で白い服を着た大人に、名前ですらないその識別番号を呼ばれて返事をした。
彼の目には生気がなく、手足は残酷なほどにやせ細っている。今の日本からすれば、まずありえない光景である。
白衣を着た大人は隣にあるもう一つの部屋に入り、機械をいじりつつも、カプセル状の薬をいくつか取り出した。その動作には一切のよどみがなく、それだけを見れば洗練されているようにも見える。
ほかの部屋には、彼とはまた別の、いや、一目見ただけでわかるその残酷さや、生気のなさでいえば同じような、まだ年端もいかない小さな子供がたくさんいる。
ここにいるのは、全員が、親から捨てられた、もしくは売られたり、騙されたり、借金の返済という名目で連れ去られたもののいらなくなった子供しかいない。
そして、その全員がこの施設で支給されるカプセル状のクスリを服用することで生き延びていて、生き延びることで人体実験や精神実験などに利用されている。
苦しみに耐えきれずに自殺、もしくはストレスで死んだ子供の数を数えれば、一杯の茶碗に盛られた米粒よりも多い。
それでも生き延びることができた子供は推定年齢が20歳を迎えると同時に、それまでの実験の記憶とそれに関連する記憶を消される。そして、一般的な社会に必要な知識を無理矢理詰め込まれた後、多額の報奨金と名前を与えられ、社会に放り出される。
ということになっているが、社会に放り出された者のそれまでの記憶が完全に消えていることはあまりなく、普通の生活に慣れたタイミングでフラッシュバックすることが多い。そのため、その衝撃に耐えきれずに死ぬ。
苦痛やストレスがフラッシュバックするのとは少し違うが、身体は長年に話あって行ってきた動作や技術を簡単に忘れることはない。つまり、クスリに耐えるために受けた人体開発や精神開発はずっと引き継がれ、周りから恐れられ、結局社会に適合できずに、孤独死をする。
そんな開発を受けた子供の中でも特に優秀だった彼は、施設の中では期待の星だった。
2歳で施設に入り、4歳でこの施設の数々のトップスコアを年齢関係なくすべて塗り替えた。薬に対する適性率は98%だった。
それでも、彼の異常さはそこで止まりはしなかった。
彼は、周りの子供が目の前でどれほど残酷な死に方をしても、表情一つ変えることなく、殺せと言われればどれだけ親しい人間でも無表情、下手をすれば笑顔で殴り殺せるほど残酷だった。
それほどの能力を持っていても、決して自分の意志で表に出すことはなく、施設からすれば最高の実験台だったに違いない。
しかし、施設にとっては脅威でもあった。
いつ暴走して、施設の人間を皆殺しにするか、彼ほどの能力であれば、糸一本で街一つを壊せるだろうと。
人体実験の実験台としていいように利用するだけ利用して、人体兵器として忌み嫌われ、彼の言葉には誰も耳を貸さない。
誰一人、正確な未来を予測するのが不可能な施設の中で、ただ一つだけ正しいことがあるとするならば、彼の運命は易しいものではなく、おそらく誰も同じ運命を受け入れることはできない。受け入れたとしても、一瞬で人格は崩れ、ヒトではなくなるだろうということだけ。
これは、地獄の人生を味わった彼が、一人の人間として生きていく物語である。
次話の投稿までに時間がかかると思いますが、長い目でお付き合いいただければ幸いです。