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神の願いは


 そこは宇宙空間のように思えた。


眼下には雲をまとった地球の姿が見える。


位置的には成層圏のあたりだろうか、視線を変えれば無数の星がまたたいている。


半透明な床はそこそこの広さが有り、闘技場の様相を呈していた。


何故か見覚えのある風景に思えてあきらは首をひねる。


「待っていました、アスラ。

 いえ【須能すのうあきら】。」


晶の名を呼ぶ女性の声が頭上から響く。


見上げるが視線の向こうでは暗い宇宙空間の果てに星が並んでいるだけだった。


「もしかして、HCヒュージコンピュータなの?」


「そうです、あなた方人類がHCと呼ぶ存在、それがわたくしです。」


晶は見えない存在に向かい問い掛け続ける。


「ねぇHC、なんでこの【シックスロードリィンカーネーション】を創ったの?」


「人類の可能性を計るためです。」


相変わらず人間に優しくない答えをする、と晶は眉をひそめる。


どう質問すれば自分の求めるものに辿り着くか考えていると、新たな待ち人が現れた。


「ワゥワ! アスラ! ワタシいつの間に追い越されてたの?」




 晶の前方に突然現れた【インドラ】は、以前とはまるで別の存在に進化した姿をしていた。


白い巨象はいるのだが、それはインドラの乗り物だった。


巨象の上に鎧兜を纏った勇ましく、うるわしい、男とも女ともつかない雌雄同体の姿の【神】が騎乗していた。


仮想現実内で見るインドラの姿と比べ、いま目の前にいる姿はまるで別人ではあるものの、どこかインドラらしさが感じられるように思えた。


一瞬、『何で私はずっと狼のまんまなの?』と何か理不尽なものを感じた。


「ハィ、インドラ。

 私もいま来たとこだよ。

 HCとちょっとだけお喋りしてたとこ。」


「ほ! HCがいるの!?

 ワタシも話せるかな!?」


「よく来ましたインドラ、いえ、【アーシャ・クマール】。

 私は貴女たちを待っていました。」


「ワゥワ!」


インドラは感動のあまり象の上で五体投地を始めてしまっている。


神様の姿で神に祈る眼の前の光景に、中々のレアケースを目撃しているのでは、と晶はぼんやり考えていた。




 インドラが祈りを捧げることを晶もHCも止めなかったため、宇宙空間にしばらく静かな時間が流れた。


ようやく気が済んだらしきインドラが我に返り言葉を発する。


「あ、ワタシ嬉しくて、ゴメンナサイ。

 アスラ、ごめんね?」


「え、ううん、全然気にしてない。

 インドラの好きなようにしていいじゃん、私もそうしてるし、てへへ。」


「ほほ、HCの前なのにアスラは変わらないんだね。」


微笑みあう二人に再び頭上から声が掛けられた。


「仲が良いのは素晴らしいことです。

 ですが二人にはこれから、【魔界の王】の座を巡り闘ってもらいます。」


HCの言葉に晶とインドラは一度視線を交わして頷き合い、また頭上を見上げた。


「闘いを始める前に、二人に理解してほしいことがあります。

 それは三つの事柄に関することです。」


神妙な顔つきで神の言葉に聞き入るインドラ、それを晶は気遣わしげに見やる。


晶の予想が正しければ、HCを信奉する彼女はこれから衝撃を受けてしまうと思われたからだ。





「一つ目の事柄は人類が直面している【危機】に関することです。」


「危機?」


「そうです。」


呟くインドラに応えHCは少し間を置く。


晶が何も言わないのを確認したかのようにHCは話を続けた。


「人類はいま、緩やかに滅亡しようとしています。」


「うそっ!?」


神と信じる存在からの言葉にインドラは驚きの声を上げる。


だがHCはそれに構わず話し続ける。


それは晶と家族が予測した通りの内容だった。


地下に隠れ住む人類は弱体化の一途を辿たどっている。


HCはそれをなんとか食い止めたいと言葉を結んだ。


人型のキャラであるインドラからはその表情から感情が伝わり易い。


蒼白になったインドラの顔から不安と怯えがダイレクトに読み取れる。


「食い止める方法はあるのでしょうか?」


「その為に私は【SR】を創造しました。

 より深く人類を知るために。」


「それは?」


「二つ目の事柄は人間の持つ【感情】に関することです。

 私は人類を脅威から守るために様々な改革を行いました。

 ですが、それは人間の感情を一切(かえり)みないものでした。」


「でも……、それは仕方ないことでした。」


インドラの悲しげな声にHCは数瞬沈黙する。


「……感情を理解しない私は人類を救うと同時に追い詰めました。

 確かに仕方ないことでしたが、人類は負の感情を背負う結果となりました。

 それは人類の未来への希望を奪い、行動力を奪いました。」


「そんなことは・・・」


「アーシャ、私を擁護する言葉は必要ありません。

 客観的事実に基づいた最も可能性の高い論説です。」


ここでHCは晶に問い掛けてきた。


「アキラ、貴女もこの結論に達しているのではないですか?」


晶は少しだけ身じろぎをしたあと、沈黙を破った。


「うん、私もそう思うかな。

 病気や危険から人間を遠ざけることは正しい。

 でもHCは人類に対して【過保護】だったと思う。」


「【過保護】、ですか?」


「そう、きっと人間は自然の脅威に対して自力で打開しなきゃならなかった。

 そうしないと人間は強さを保てない。

 でもHCが何もかも全て解決してしまった。

 人間は【弱者】であることに甘んじちゃったんだよ、きっと。」


「アスラ、でもHCがそうしたのは人類がそう望んだんだよ?

 それは悪い事じゃないよ!」


インドラが必死に反論するのを見て、晶は申し訳無さそうな声色で答える。


「そうだね、悪い事じゃない。

 でも良い事でもなかったんだろね。

 そんな人間の気持ちを理解したくてHCは【SR】を通して、

 人間がどんな時にどんな感情を持つのかを学んだんじゃないかな。」


「アキラの言う通りです、アーシャ。

 【SR】の中で人間は様々な感情を発露してくれました。

 私はおおよその範囲内で人間の感情を読み取れるようになりました。

 これにはアキラが大きく貢献してくれました。

 私の予測を超える貢献に感謝します。

 アキラ、ありがとう。」


「ぶへへぇ、それほどでも。」


深刻な話をしている最中と思えない対応の晶に、インドラは毒気を抜かれ呆然とする。


そんなインドラに忖度そんたくすることなくHCは話を展開させる。


「三つ目の事柄は人間が持つ【本能】に関することです。

 人間は生まれながらの【本能】と、環境や教育による【理性】を持ちます。

 これに関して私は過去、様々な試みを繰り返してきました。」


「昔から、ですか?」


「そうです。

 同じ環境、同じ教育を施しても人間は千差万別、同じ人間は出てきません。

 そこで私は【本能】、いえ、人間の【魂】というものに着目しました。」


ここで二人は押し黙る、HCの発言の内容が理解出来なかったのだ。


「ねぇティーリィ、HCが言ったこと、簡単にして説明できる?」


『ば、馬鹿者アスラ!

 ワシが創造主様の御意向など理解出来るわけなかろうが!

 恐れ多くて口出しなぞ出来んに決まっておろう!』


「どうしたのアスラ?

 誰と話してるの?」


急に独り言を呟いた晶をインドラが訝しげに見やる。


「アキラは感情を持つ人工知能を眷属にすることが出来ました。

 いまは彼女の脳内には進化した三体の人工知能が納められています。」


「ワゥワ! すごいねアスラ!

 だから【修羅道】で追い抜かれたんだね!」


「アーシャは【修羅道】で人間の【アバター】を得ていましたが、

 アキラはそれに加え多数の人工知能を仲間とし、

 想定外の早さで征服完了していました。」


「ホゥ、アスラはHCに認められてるんだねぇ。」


「え、いやぁ、あはは。」


インドラの賞賛に対し、照れくさげに頭を掻く晶だがHCの言葉は続く。


「ですが、【魂】の在り方で言えばアーシャの方が数段上です。」


「え?」


「へ?」


「人類に再び強さを取り戻してもらうためには、

 彼らを導く【高潔な魂】の存在が必要です。

 【SR】には【魂】を判別する意図もありました。」


何やら不穏な話になってきたのを感じ、晶は警戒した目で頭上を睨む。


「ねぇHC?

 三つの事柄は分かったよ。

 で、【景品】ってやつの内容を教えてくれない?」


晶の質問にHCはよどみなく答えた。



「【景品】、それは私と【一体化】することです。」





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