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男達の心配


あきらはタモンと【SRシックスロード・リィンカーネーション】についての話を続けている。

狼が強化されたのは多分【甲虫の角】との相性が良かったからだとタモンは言う。

タモンが【大鷲の爪】を【水牛】で使用しても大して変化が無かったそうだ。


「それにアスラはあんまり死に戻ってないんだね。」


「んー、タモンにやられて四回目かな。」


「俺はたぶん二十回以上逝ってるよ。

 だからいまの進化を見つけられたのかもしれないけどね。」


「え?どゆこと?」


話についていけない晶をタモンはさらに置いてきぼりにする。


「俺は【大鷲の爪】を狙って【大梟】に付けた訳じゃないんだ。

 一回偶然【大鷲の爪】を【大梟】に付けて変化に気付かないまま死んだ。

 その次のキャラメイクで【大梟】の名前と姿の変化に気付いたんだ。」


「んぁー?何回もやると名前が変わるってこと?」


「と言うより転生内容が確立された、ということかもね。

 【大鷲の爪】を使って【大梟】として転生したならば、

 【たたりもっけ】として生まれ変わるよ、ってね。」


晶にとってだいぶ難しい話に聴こえたが、ひとつわかったことがあった。


「あの白いフクロウは【たたりもっけ】って名前なんだ?

 なんだか日本的な名前に聞こえるね。」


「そう、【たたりもっけ】は日本の妖怪の名前なんだ。」


「うぇぇ?そうなの?

 あ、でも餓鬼とかもいるからおかしくないのかな?」


そこでタモンがパネル操作でたたりもっけについて検索し、

晶にその説明をしていく。


「ふぅ~ん、悲しい妖怪なんだね、たたりもっけ。」


「そうだね、悲しさの中に恐ろしさもある。

 悲しみの深さが怨みの深さになっているんだから。

 いろんな魔物と戦ったけど大体爪の一撃でKOなんだよ。

 その代わりなのかすごく耐久力が低いんだけどね。」


「ほほぉ~、

 あ、じゃあ、次は私の狼ちゃんの正体の予想を見てみようよ。」


そう言って今度は晶がパネル操作して【わざわい】を検索し始める。

二人で禍の解説を立体画像付きで見ていった。


「へぇー、伝説上の生き物だったのか。

 ただ角の生えた狼ってわけじゃなかったんだ。

 そうだよね、なんか竜巻が飛んできたよね。

 あれがこの風を巻き起こす、って説明のところか。」


「えへへぇ~、

 まぁまだ予想でしかないんだけどねー。」


「それなら明日【SR】やったらすぐ分かるよ。

 たぶん名前変わってるから、俺みたいに。」


「あ、なるほど。」


ここでタモンは仮想現実内なのにしっかりと晶の眼を見て話し掛ける。


「きっと【SR】にはまだまだキャラやスキルの進化先が存在すると思う。

 せっかくフレンド登録したんだからさ、色々メッセージで教え合おうよ。」


そんな真剣な表情のタモンに晶は満面の笑顔で返答する。


「うん!こちらこそよろしくね!

 いっぱい楽しんでいっぱい見つけるよ!

 そしたらいっぱいメッセージ送るね!」


晶の笑顔と返答にタモンもホッとしたような笑顔を返す。


「うん、よろしく!

 あ、じゃあ時間も遅くなってきたし、

 今日は終わりにしようか。」


「そだね、

 またいつでも連絡できるからね。

 じゃね、おやすみ、タモン。」


「ああ、おやすみ、アスラ。」


二人は挨拶を交わしフォーラムから姿を消す。


晶はホームに戻るとタモンと話したことによる満足感でため息を吐く。

笑顔で息を吐き出した晶はメッセージが届いていることに気付いた。


『お、ナッキィからだ。』


ナッキィからの返信内容は、しばらくは【SR】しかやらない予定なので、

【SR】でお互いが納得するまで存分に戦い終わった後なら、

話し合い次第でフレンド登録なり協力プレイなりをしよう、というものだった。


『へへへ、ナッキィらしい~。』


あまり平和的な提案ではないが、正直な提案に感じた。

それならば納得するまで戦うのみだ、シンプルでわかりやすい。

どちらかが圧倒的に強くなるか、面白味がなくなるまで何回も戦うかだ。

ナッキィへ受けて立つとメッセージを送っておく。


プレイヤー同士の戦いでの晶の勝率は高い。

タモンとの話し合いで気付いた点はいくつかあるが、

そのひとつで驚いたのが動物の五感を感じるデメリットについてだ。

晶は無難に出来ていたが、他のプレイヤーは四足歩行に四苦八苦したようだ。

というか二日経ってもまだ感覚に慣れていない者もいるとのことだった。

ナッキィも大蛇での動き方に窮屈さを感じると言っていた。


『私は結構器用な方だったんだなぁ。

 フクロウとか選んでたらタモンみたいにすいすい飛べたのかな?』


晶はそんな呑気な感想を抱いていたが、

タモンの話では選んだキャラを使いこなすために何回も死に戻りしたそうだ。

晶も狼の嗅覚が鋭いために餓鬼との戦いでは悪臭に苦しめられた。

あの戦いだけはダメージを受けながらの勝利となったので記憶に残っている。


兎の時の死因はだまし討ちによる蛇の毒からの鼠の噛み付き。

子猫の時の死因は甲虫との真っ向勝負からの角による貫き攻撃。

狼の時の死因はウィッカーマンとスケルトンに囲まれての撲殺。

一角狼の時の死因はたたりもっけとの好勝負の末の爪の一撃。


次にナッキィと会う時、彼女はどんな姿でいるだろうか?

タモンのように進化した姿になっているだろうか?

タモンと闘ったような好勝負が出来るだろうか?

晶にはそれがとても楽しみに思えた。


電子世界から現実世界へと舞い戻り、

気分よく鼻歌を歌いながら自室を出て居間へ向かう。


「お、おう、アキラ。

 その、タモンってやつはいたか?」


父の吾朗がやけにたどたどしく晶に問い掛けてきた。

晶は何でもないことのように気安く返答する。


「いたよー。

 いっぱい話せて楽しかった。」


「な、ど、どんなやつだった?

 嫌な感じじゃなかったか?」


今度は祖父の憲吾が前のめりに質問してくる。

何をそんなに気にしているのだろうか、晶は疑念を覚えたがまた答える。


「ううん、すごい良い人だった。

 初めてフレンド登録したよ。

 これからもいっぱい話すんだ、えへへ。」


「んなっ、なー!」

「あっ、アキラ、そ、そいつって!」


父と祖父がやけに興奮しているなと晶が不審に感じていると、

母と祖母が晶に寝る準備をするように促してきた。

言われるがままにまず浴室をナノマシン洗浄しようとパネル操作を始める。

居間の方から父と祖父の声が響いてきたがすぐに止んだ。


「ふひー、さっぱりしたぁー。

 あれ?

 パパとじぃじ、どしたの?」


「なんでもないよ、

 ほらアキラ、もう寝なさい、おやすみ。」


「うん、おやすみ、ばぁば。

 ママとパパとじぃじもねー。」


「はいはーい、おやすみー。」


頭を抱えて座り込む父と祖父がだいぶ不可思議だったが、

晶は挨拶を終えると自室へと入り、全包ベッドに横たわる。


プルフラスの言動に振り回されたり、

そのプルフラス自身の強制退去だったりは衝撃的だったが、

それらを除けば今日は概ね良い一日だった。


明日はどんな一日になるだろう、

【SR】ではどんな人と出会えるだろう、

殺伐としたゲームに平和な期待をしながら、

晶は眠りの世界へとその意識を沈めていった。



22世紀になっても人間は睡眠時夢を見る。

夢とは人間が記憶の再構築を行う時の副作用とも云われるが、

未だにそのメカニズムは解明されていない。

もしかしたらそれは人類が個体で形成した仮想現実なのかもしれない。


『イェーイ!

 すっごーい!』


晶は空を飛んでいる、

何故か自分自身の姿を客観的に認識できる、

その姿は白いフクロウとなっている。

空を自由自在に飛び回り、それを不思議と思わないでいた。


む?と晶は地上で何かがこちらに吠えているのを感じとった。

良く見ると豹の様な猫がギャーギャー吠えていた。

内心恐ろしく感じたが晶は強がって空中から挑発する。

すると恐怖に足もとがすくむ感覚に襲われどんどん高度が下がっていく。


『やだ!なんで?』


必死に羽を動かし高く飛び上がろうとするがうまくいかない。

凶暴に吠える大型の猫が目前に迫ってくる。


『やだやだやだ!助けて!』


猫が凶悪な爪で晶を捕まえようとした瞬間、

誰かにすくい上げられ、抱きかかえられた気がした。

助かったんだ!そう気付いた晶が振り向いてその人物の顔を見ようとし・・・



「ふへ?」


全包ベッドの中で晶はここがどこなのかわからないでいた。

現実世界と仮想現実の区別がつかなくなることはまれにあるらしい。

その症状がひどくなるとHCヒュージコンピュータから警告がきてしまい、

毎日ポッドで長時間のカウンセリングが行われることになってしまう。


晶はそんなHCの救済措置を思い出し意識を覚醒させた。

慣れ親しんだ自分の部屋であると確認し、

先程の自分の意識のあやふやさを不思議に感じた。

何故自分の部屋がわからなかったのか理由が思いつかなかった。

しかし夢のことはかすかに覚えていた。


「おっはよー!」


晶が居間に入っていきながら明るく挨拶すると家族全員揃っていて、

みなそれぞれにこやかに挨拶を返してくる。


晶は家族と色々な話をするタイプだ。

以前学生の悩みフォーラムに参加したことがあるが、

家族に秘密を持つ学生が多いことに晶は驚かされた。


晶は家族に色々な話をする、

そう、タモンに対する自分でもよくわからない感情のことまで。

その話が男親たちの心の琴線にビンビンと響くことなど知らずに。


そして今朝も晶は明々白々と自分が今朝ぼんやりしたことや、

夢で誰かに掬い上げられ【抱きかかえられた】ことを話し出す。


「あ、アキラ、

 その、アキラを、抱きしめてたやつ、は誰なんだ?」


何故か具合が悪そうに問い掛けてくる父を晶は心配そうに見詰める。


「パパ、どしたの?

 体調悪いの?

 はやく健康診断してみたほうがいいよ。」


「んーん、ありがとな、アキラ。

 すぐ受けるよ。

 その前にその夢の話もっと聞かせてくれるか?」


「おぉ、じぃじも聞きたいぞ。

 そのガ・・・こぞぅ・・・少年の話をな。」


父と祖父の様子がいつもと違うように晶は感じたが、

母と祖母が何も言わないので普通に接することにした。


「少年?夢には人間は出なかったよー?

 猫とー、アキがフクロウでぇ、

 あれ?あと誰かいたかな?」


「もう夢の話はいいでしょ?

 アキラ、もっと楽しい話をしよ?

 あ、今日もママと授業受けちゃう?」


「ふひひー、

 じゃあロボット操作の授業一緒に受ける?

 バトルしちゃう?」


晶は夢の話をやめ、母と楽しげに話し始める。

父と祖父は不満げだが祖母に睨まれ黙って朝食を食べている。

晶は父たちが話に乗ってこないのを少し物足りなく感じたが、

もともと細かいことは気にしない性質たちだったのですぐに忘れた。


家族の前で【SR】で勝利した際の小躍りする様を披露したのち、

自室に戻り電子生命の奪い合いを行うべくポッドにその身を沈ませた。




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