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上に立つ者


「それではゲームを再開します。


 魔王よ、他の魔王全てに打ち勝ちなさい。」



「えっ?」


聞き慣れないアナウンスにあきらは思わず声をあげた。


どうやら晶は【SR】内で【魔王】と認識されたらしい。


前回までは以前通りだったので【ザラタン】を倒したことがきっかけなのだろう。


【他の魔王】とはだれを指しているのかが気になるところだ。


タモンやザラタンに匹敵する強さを持つ者はあとどれくらいいるのだろうか。


晶は確実に立ち塞がるであろうインドラの顔を思い浮かべながらゲーム開始の瞬間を待ち構えた。



 目の前に広がったのは曇り空の草原だった。


前回の戦いの跡は消え去り、ザラタンとの死闘でえぐれたはずの地面はどこにも見当たらない。


『地形の回復はどのタイミングでされてんだろなぁ?』


ぼんやりそんなことを考えつつ玻璃はり錫杖しゃくじょうを顕現させ、周囲へ広く索敵を行う。


リポップしていないのか別地域にいるのかザラタンは見当たらない。


晶としては早期の再戦は望んでいないので助かった気持ちになる。


昨日よりも索敵能力が上がっていることを実感したがティーリィとピュイピーの存在を知覚することは出来なかった。


「戻ってきて! ティーリィ! ピュイピー!」


晶の呼び掛けに応え腹部に合掌された下腕が漆黒の球体を生み出し、再びゆっくりと球体を仕舞い込むように閉じられた。。


『戻ったかアスラよ。』


『そなたの言う【コンビネーション】を練習しておいたぞ。』


「え? ティーリィとピュイピーのコンビ技?

 見たい見たーい!」


『闘う相手無しに見せられる技ではないのう、

 簡単に言えばわしの体当たりじゃ。』


ティーリィの説明によるとピュイピーが生み出した竜巻に飛び込んで加速を付けたティーリィが体毛を硬化させて敵に体当たりする技らしい。


「へぇ! すごいじゃんすごいじゃん!

 じゃあ新しいスキルになってる?」


『無いのう、【打撃】が色濃くなっとるだけじゃ。』


『わらわの方も変化はないの。』


考えてみると晶の竜巻と多段空歩を組み合わせた急上昇攻撃にも特別なスキル名は無い。


HCヒュージコンピュータが想定した攻撃方法以外には名前が付かないものと思われた。


『おそらく創造主様はご自身の考えの埒外らちがいの現象を好んでいる。

 アスラが着実に強さを得ているのはその為かも知れん。』


「なるほど、そういう可能性もあるんだ。」


HCと創意工夫の関連について晶が思いを馳せているとティーリィから別の報告がなされる。


『アスラよ、眷属を増やすことが出来るかもしれぬぞ。

 【月輪がちりん】と【玉兎静謐ぎょくとせいひつ】は連動しておる。

 先の【ザラタン】戦でスキルが強化され眷属枠が広がったのだ。』


「え! やった! 誰でもいいの?」


『わし程度の強さならば大丈夫じゃろう。

 この高慢ちきに比する者は無理かもしれん。』


『ホホホ、この年寄りとわらわでは比べものにならんぞ。』


コンビ技を習得するほど共闘を続けてもこの二人は仲良くならないなぁ、と晶は内心で顔をしかめる。


だが仲間を増やせることは単純に嬉しい。


誰を仲間にしようか脳内で相談しながら、晶は予定通り森の奥を目的地として歩き始めた。



 晶の考える眷属候補はかなり多い。


信念である【正々堂々真っ向勝負】を体現するNPCは全て仲間にしたいと考えているからだ。


草原の【甲虫かぶとむし】、岩場の【黒鬼】、エリアボスが許されるならば【熊童子】も好ましい、【ザラタン】殿も大変好ましいが強さの関係上無理だろう。


あと林地の【鷲獅子グリフォン】もいと思える、強さ的に最も可能性があるのではないかと思っている。


それに森で出会った悪魔の【アンドラス】もいる。


ティーリィの話だと【悪魔】は【魔界】を引っ掻き回す存在で、価値が低いと言っていた。


だが晶はアンドラスとの勝負を佳きものと記憶している、おそらく良い【個性】が宿っているのではないかと思わせられるのだ。



 まず通りすがりに岩場の【黒鬼】を探してみる。


逃げ惑う小鬼や赤鬼の群れの中に黒鬼は見つけられない。


またしても奇襲を狙って近付いてきた【穏形鬼おんぎょうき】を金色錫杖を一閃させて葬っておく。


【熊童子】でもいいから出てこないかと呼びかけながら数十秒待つと、【黒鬼】が現れた。


「アスラ、強き者、もはやワシ、相手にならない。」


黒鬼は金棒を振り上げることもせず、項垂うなだれている。


戦意喪失してしまっている黒鬼を寂しい気持ちで見つめながら晶は話しかける。


「黒鬼くん、もしもっと強くなりたいなら私の仲間にならない?

 一緒に川を越えて冒険しようよ。」


「アスラ、強き者、ワシ、もう大将いる、仲間、ならない。」


晶は黒鬼の忠義の心に触れ感心した。


やはり人工知能は人間の思考回路をかなり深く再現出来るようになっている。


黒鬼の種族に入っている【個性】に高潔なものを感じた。


「わかったよ、黒鬼くん、残念だけど今は諦める。

 でも私が【魔界の王】になったら、熊童子ごと私の仲間になってね。」


「わかった、大将に伝える。」


そうして晶は黒鬼と戦闘することなく岩場を離れていった。


勧誘は断られてしまったが、晶は清々しい気持ちになることが出来た。



 西側の【草原】では晶の勧誘相手が現れることは無かった。


【カブトムシ】では強さが違い過ぎて近寄ることすら出来ないらしい。


何度呼びかけても近付いて来なかった。


『アスラよ、お主はザラタン戦前後から高熱を周囲に放っておる。

 カブトムシの強さでは近くに来ただけで電子の光となるぞ。』


晶はオレンジ色に変化した己の毛並みを見回し、溜め息を一つ吐くと草原をあとにした。



 【西の林地】にて、上空を旋回している者が晶の狙っている交渉相手だ。


先程から呼びかけているがカブトムシと同じ理由からか降りてこない。


仕方なくピュイピーを顕現させ交渉役を任せた。


ピュイピーは張り切って上空へ舞い上がり、【グリフォン】と交渉を始めた。


晶としてはこの二体は以前共闘していたので仲良しなのかと思っていた。


だが見上げた先で二体は明らかに険悪な雰囲気になり、やがてグリフォンは空の彼方へ飛び去って行ってしまった。


戻ってきたピュイピーが『ピュイ! ピュイッ!』とうるさいので体内に仕舞い込み脳内で話を聞いてみた。


どうやらグリフォンにとってピュイピーは敵にこうべを垂れた裏切り者らしい。


いつかまとめて倒してやると捨て台詞を吐かれたようだ、かなり怒っている。


残念ではあるが、晶の心の奥底ではそんなグリフォンの気持ちも好ましく感じている。


強い者に反発する思考回路を晶も持っているのだ。


いつかまたグリフォンと熱い闘いをしたいと思い、それをピュイピーに伝えると意外な答えが返ってきた。


あのグリフォンは既に他のプレイヤーに名前を付けられていて【特殊個体】になっているそうだ。


だが名付けたプレイヤーがなかなか強くならないため、あのグリフォンの強さは頭打ちの状態らしい、晶に挑める強さになるとしてもかなり時間が必要とのことだった。


『アスラは強いからのぉ、わらわを更なる高みへ導いてたもれ。』


『ワシらは以前よりかなり急激に力をつけておる、アスラの影響じゃろう。』


ピュイピーとティーリィがそう話して、主と眷属の関係性についての考察に証明の一助を加えた。


「そうなんだぁ。

 ところであのグリフォンってどんな名前付けられてたの?」


『【グリグリ】だそうじゃ、ふざけた名前じゃろう? ホホホ。』


【ピュイピー】という名前はふざけてないだろうか?と晶はハラハラした気持ちのまま、森に向け早足で歩き始めた。




 森に入ると晶の発する高熱が小さき存在を寄せ付けない、それは足許の草をも焦がし木の枝を落とすが今のところ火災に発展する気配は無い。



近くに【アルラウネ】が出現したがティーリィに任せて【鼓舞】スキルの経験だけ積んでおいた。


もうすぐ森の端という場所で、晶は望む相手と出会うことが出来た。


黒い狼に騎乗し、黒い梟の頭部と白い翼を持つ悪魔が現れたのだ。


「星狼鬼よ、いや、天道の力を身に付けつつあるな。

 もはや【魔王】の一柱たる存在となったか、アスラ。」


「へへへ、それほどでも・・・。

 ところで【アンドラス】ってプレイヤーの眷属になること出来るの?」


「……HCからそのような【設定】は聞いておらぬな。

 ふむ。

 アスラ、再び問おう。

 貴公はHCを信じておるか?」


晶はアンドラスの質問に対し穏やかに笑い、ティーリィとピュイピーを顕現させた。


「私はHCを信じてるし、この【魔界】で得た仲間も信じてる。

 この二人がその証明だよ。」


アンドラスは妙に納得した色をそのふくろうの眼に宿した。


「見事なり、【魔王アスラ】よ。

 今は貴公の列に加わること叶わぬが、

 地獄の大侯爵たるこのアンドラス、

 いずれ貴公の為のつるぎとなることを誓おう!」


そう言い残し、アンドラスは森の闇の中へ消えていった。



 全ての眷属候補に振られてしまった晶だったが、その心中には穏やかな落ち着きがあった。


おそらく彼らはいずれ仲間になってくれる。


約束してくれた者、誓ってくれた者、闘争心を燃やす者、あの様々な者たちが自分と共闘する未来が見えた気がして、晶は【魔王】としての自覚が出来つつあると思えていた。






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