久々の歓談
ザラタンとの死闘を制し、晶は六つのエリアボスに勝利した。
晶の知る限り他にエリアボスは存在しない。
インドラやナッキィのように新たな道を切り拓く必要があるだろう。
インドラは東端、ナッキィとタモンは中央の山地へ向かっているらしい。
晶が思い描いている次なる目的地は別の場所だ。
だがそれより前にあの撃滅天使をぶん殴ってから【高原】も調べてみたいと思っている。
体力の回復を待つ間、ティーリィとピュイピー相手にそんな話をしていたらHCからゲーム終了の【推奨】メッセージが届いてしまった。
「うーん、スキルに大きな変化は無しかぁ、残念。
でもまた【赤鴉灼熱】が点滅してる。
雷の力込みの【日輪】が発現出来るんだろね、温存しとこ。」
「……アスラよ、……早く人間の世界へ戻れ。
……創造主様の御意向に疾く従ったほうが良い。」
「はいはい、あ! 【亀蟹の甲羅】ってのが取れてるよ~。
なんか普通の名前のアイテムだなぁ~、
ザラタン殿のアイテムだからもっと難しい名前のものかと思ってたぁ~。」
「……アスラよ。」
「はいはい、わかりました。
じゃあティーリィ、ピュイピー、頑張って強くなってね。
あ、協力してコンビネーション攻撃を開発してみても面白いかも。
じゃあねぇ~。」
困惑した様子の二体を置き去りにして晶はクリアアウトした。
「ふぃ~、昨日より断然少ないプレイ時間なのに確かに疲れてる。
ふひひ、ザラタン殿、強かったなぁ~。」
ポッドから抜け出て肩を回しながら晶は満足気に呟く。
まだ夕飯まで時間が有ったが、ピュイピーの言葉が気にかかり人工知能を呼び出してそれに関する授業を受けることにした。
授業時間が足りず充分な知識を得られなかったのでそれは明日に回し、夕飯のため家族の待つ居間へと向かった。
「だからね、いまアキね、近くのエリアだと一番強いんだよ!」
「ほぉ、大したもんだ晶、さすが俺の孫だ、はっはは!」
「ケンゴ、もうアキラは十四歳なんだから、甘やかさないの。」
「えぇ~、ばぁばもアキを褒めてよぉ~。
HCの役に立ってるかもしんないんだよぉ~?」
「うんうん、偉いぞ晶、さすが俺の娘だ、なぁエリー?」
養父と夫の類似性に苦笑いを浮かべつつエリーゼも愛娘の頭を撫でて甘やかす。
晶が主張するHCが人間の感情を理解しようとしている話は実際の所かなり前から人類側も把握している。
HCに隠そうとする意図が無いため方向性はすぐに理解できるのだ。
老化によって日常生活が困難になった人間は専用ポッドに入り、コールドスリープ状態で仮想現実でのみ暮らし、死を待つことになる。
そんな老人たちからHCは人間の感情や思考回路の機微を汲み取ってデータ化していることを伝えられている。
22世紀現代ではそれが常識となっており、コールドスリープに向かう時が家族葬のような扱いになっている。
晶も父方の曾祖母との別れを幼い頃に経験している。
幼過ぎて別れの悲しさは感じていなかった。
ただ手を握り『また遊んで』と話しかけたことだけを覚えている。
SRのように輪廻があるならば、また会える時が来るのだろうか?
そんなことを不意に思い出して晶はハンナにしがみ付いてただ甘えた。
タモンとの約束の時間が近付いたので晶は自室に戻り仮想世界に飛び込んだ。
ホームには珍しく誰からもメッセージが無いことに寂しさを覚えた。
もう友達との交流にかなり自分の意識が奪われていることを自覚しつつ、タモンと来里が待つフォーラムを検索し始めた。
もう二人は集合しているようだ、いや、四人が待っている、と晶は気付いた。
「ほほ、アスラ、ビックリした?」
「タモンとの闘い以外はアタシらも話に加わるからね。」
「うへへぇ、なんだよもぉ~、ビックリさせないでよぉ。」
これがSRだったら晶は涙を流していただろう、なぜかは分からないがそれぐらい嬉しかった。
「じゃあ俺との闘いの話からしていいか?
二人はコンタクトを外してくれないかな?」
「はぁー、しゃーないねまったく。
アスラ、早く山地エリアに来なよ、アタシも進化したからさ。」
「うん、あ、でも私しばらくは別方向かも・・・」
「ワゥワ、じゃあワタシの方に来るの?
いまワタシ準備中なんだけど。」
「あぁ、違う違う、どっちでもないの。
私いま心当たりがひとつあるんだぁ~。」
姦しい話し合いをタモンが手で遮り強引に止める。
「ほら、後で話しなよ。
俺がアスラと約束したのに割り込んできたのはそっちだろ?」
「ほほほ、タモンったら、ヤキモチ焼いてるみたい。
ナッキィ、ちょっとだけワタシと話そうか?」
「あぁ、お互いの知らない敵の話でもしようか。」
インドラが最後までタモンをからかう素振りを見せながら色彩を消した。
ナッキィも同様に影のような存在に変化していった。
「まったく、最近インドラがやけに元気なんだ。
アスラみたいな友達が出来て嬉しくて仕方ないんだと思う。」
「えぇー? 私って良い友達で居れてる? ぶへへぇ。」
「姉ちゃん、社交辞令ってわかる?」
「はぁ?」
晶が来里を睨みつけるとスススッとタモンの陰に隠れていった。
そんな二人の様子にタモンが微笑みながら口を開く。
「決して社交辞令じゃないけど、まぁいいか。
まずは闘ってくれてありがとう、本心から礼を言う。
自分でも思うけどすごくいい闘いが出来たと思う。」
タモンが誇らしげな顔で言い、アスラに軽く頭を下げた。
これに晶が少し泡を食って頭を下げ返礼する。
「いやいや私の方こそありがとうだよ!
すごく満足できたし新しいスキルも発見できたし勝ったのは偶然だし・・・」
「姉ちゃん、落ち着いて、早口過ぎて同時翻訳が追い付かないかもだよ。」
「いや大丈夫、アスラもあの闘いを特別に想ってくれてるのが伝わった。
……ところで最後のあのスキルは一体なんだったんだ?
迷惑じゃなければ教えてくれないか?」
タモンが先程とは違い、真剣な顔で晶に尋ねてきた。
もちろん隠す気など更々無い晶は上機嫌になり答え始める。
横で来里は『少しは隠してもいいのに』と言う目で晶を見ている。
だが晶はただただ強い相手を求めているだけなのだ。
昨日の勝負で晶はタモンの力を奪い差が開いた、それを埋めたいのだ。
来里はその思考回路は理解出来ないが心境は理解出来ていた、己の又従姉の並々ならぬ闘争心にはもうお手上げなのだ。
『たぶん僕ってSRで姉ちゃんと闘う時は来ないんだろなぁ』
どんどん強くなっていく幼馴染みが手の届かない存在のように感じてしまい、来里は少し寂しくなった。
「そうか、アスラは【毘風撃】を手に入れたか。
あれは移動阻害を一番の目的にしたほうがいい、ダメージ狙いは無理かな。」
「だろうね、私も使い所次第のスキルだと思ってる。
でも広範囲攻撃だからね、私あんま無かったから活用したいな。」
「いやいやアスラ、あの凄まじい白熱スキルは広範囲だろ?
俺のカラスたちを一瞬で消し炭にしたじゃないか。」
「あ、ホントだ、【日輪】が広範囲だったか。」
「それに【毘摩狼斬】だったか、
アレだってそこそこ広範囲だろ?
カラスで防げたけどヒヤッとしたよ。」
「あぁ、【修羅神薙】に進化してるからさ、
ウィッカーマン戦の時とは別物みたいだったでしょ?」
晶とタモンはスキルについて熱く語っているがほぼ晶側の話ばかりだ。
二人ともそのつもりは無いだろうけど『これはいかん』と来里が口を挟む。
「姉ちゃんのスキルの話ばかりになってるよ?
タモンさんのスキルの話もすれば?」
来里の言葉にタモンはハッとした表情になり、晶は訝しげな顔になった。
晶としては『それの何がいけないの?』という考え、と来里は覚っている。
「今度またタモンさんと闘うんだったらさ、
今は正々堂々隠し事無しの状態にしとけばってこと。」
鈍い又従姉には苦労するなぁ、と来里はため息交じりに息を吐く。
再び興奮気味に話し出す晶を、来里はまた悟った顔で見つめだした。