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再会と離別


蠍に勝利したあきらは一声【雄叫び】を上げ、周囲を警戒する。

しかし【気配探知】にはなんの反応もなく、【危険察知】も働かない。

安心してスキルの確認を始めることにした。


『うむうむ、【捨身タックル】が濃くなってるね。

 【雄叫び】と【旋風弾】も少し濃くなったかな?

 お?【回避】が【緊急回避】になった?

 さっきバタついて逃げたからかな?』


晶は少し疑問を感じたが、進化したのだから悪くはないと自分を納得させる。

スキルだけではない、狼からなにがしかの変化により身体能力も高まっている。

最初の【頭突き】しかなかった兎の頃から比べれば急激な進化と言える。



そこから晶は旋風能力や螺旋移動などの練習を重ね、

空腹を感じたら蠍を探し倒して飢えを満たす行動を繰り返した。



『ん~、【気配探知】が【気配看破】、【敏捷】が【健脚】に変化、

 ほかの薄かったスキルもくっきりしたなぁ~。』


晶は満足気に首を振る。

無意味につむじ風が舞っているが気にしない。


『よし!

 また場所を移動してみよう!

 んで【ウィッカーマン】みたいな強敵を探してみよう!

 【甲虫かぶとむし】の時みたいに勝てるかもしんないし!』


今のところ晶が勝てていない強敵は【ウィッカーマン】だけだ。

しかしアレはまだまだ勝てる相手ではない、と晶には思えた。

つまり【ウィッカーマン】より少し弱くて、

晶がギリギリ勝てるような強敵が必要だ。

SRシックスロード・リィンカーネーション】の世界は広い。

まだまだ色々な強敵がいるはずだ。


晶は獲物を求め走り出した。


一面が砂の世界では方向感覚も狂いそうになる。

たまに立ち止まり、山などの方向を確認してまた走り出す。

とことどころに蠍の気配は感じたが無視して走り続ける。


いまの晶は強敵を求めている。

蠍ではその飢えを満たすことはもはや出来ない。


いつのまにか周囲は砂漠のような無味な景色ではなく、

まばらに低い木が立ち並ぶ林地となっていた。


柔らかくなった地面の感触を確かめながら晶は走る速度を緩める。


この先の木の上に、【強者】の存在を感じたのだ。


おそらく蠍など比較にならない、そんな存在感が感じられた。


晶はゆっくりとその木に近付く。

周囲の中では一番高い木だろう、

その木の頂点付近の枝から【危険察知】がビンビンとその存在を伝えてくる。

それは離れた場所からでも見上げなければならない高さにいた。

問答無用で襲い掛かってくるかと思われたその存在は、

意外にも晶に向かって動揺した声を掛けてきた。


「君は、もしかして・・・

 アスラなのかな?」


「え?

 もしかして・・・タモン?」


木の上にいたのは真っ白な大梟だった。

しかし昨日とはその存在感がまるで違っている。


「タモン、その姿は?

 昨日は白くなかったよね?」


「あぁ、あるアイテムを使ってキャラメイクしたらこうなったんだ。

 アスラ、君こそその角はどうしたの?

 それに昨日より大きい。」


どうやらタモンも晶同様に異形のキャラとなったようだ。


「私もおんなじだよ。

 アイテム使ったらこうなったの。

 ね、昨日の約束、覚えてる?」


「そりゃね、

 昨日のことだからね、

 覚えてるよ、残念なことに。」


「そうだね、残念だね。」


「あぁ、そうかぁ。

 アスラも腹ペコかぁ。」


「うん、

 正々堂々だよ。」


「よし、

 恨みっこ無しだ、行くよ。」


タモンはその言葉と共に音も無く舞い降りる。


白い猛禽類は翼を広げ猛スピードで左右に揺れながら近づいてくる。


晶は自分の様な特殊能力がタモンにもあるのではと警戒して大きく距離を取る。


タモンは旋回しつつ急上昇して枝に紛れていく。


「アスラ、

 戦い方は慎重なんだね。

 ちょっと意外だな。」


「あれー?

 なんか引っ掛かる言い方だなぁ。

 私って猪突猛進タイプに見える?」


「ああ、いやいや。

 でも直感直動タイプかなぁとは思ってる。」


「おぉん?

 同じ意味じゃない?それ?」


晶はプンプンとその場で地団駄を踏むがタモンまで届く攻撃が無い。

【旋風弾】は届かないだろうし手の内を晒したくない。

【捨身タックル】であの木は壊せないだろうか?と晶は考えるが、

出来なかった場合、目を回した間抜け狼にタモンがトドメを刺すだろう。

そんなことになれば恥ずかしくて二度とタモンに会えなくなる、

晶はこの案を強く却下した。


結局地の利によるタモンの滑空攻撃にカウンターを合わせるしかない、

晶はそう結論付けた。


タモンに特殊能力があると万事休すなのだが、

晶にその能力を特定する時間も材料も眼力も無い。


次々攻撃を躱しながらチャンスを待ち続ける手もあるが、

甲虫かぶとむしの時のようにうまくはいかないだろう。

タモンの動きが素早いうえに先程見せた急上昇能力がある。

甲虫とは段違いの動きだと言えるだろう。


そんな晶にタモンが頭上から話し掛けてきた。


「アスラ、

 良ければ今日の夜、

 【SR】のフォーラムで話をしないか?」


そんな提案に晶は驚き、そして喜んだ。


「あ、うん!いいよ!

 いいと思う!

 20時ぐらいがいいと思う!」


「ありがとう、俺もそれぐらいがいいと思ってた。」


「うんうん!

 話すことあるんだ!

 楽しみ!」


「ハハ、

 じゃあ・・・倒させてもらおうかな?」


「倒してください、の間違いじゃない?」



幻獣同士が睨み合い殺気をぶつけ合う。



先手はやはり白妖梟はくようきょうだった。


滑空して今度は一直線に一角狼に迫りくる。


一角狼は雄叫びを上げ白妖梟の動きを止め小竜巻を飛ばしながら距離を詰める。


竜巻に巻き込まれる寸前で白妖梟は斜めに急上昇して旋回する。


しかしそれは先程より高度が低い。


一角狼は再度雄叫びを上げて白妖梟の動きを鈍らせると空中へ躍り上がる。


その牙は梟のあしを捕らえるかと思われたが、すんでのところで躱される。


白妖梟の雄叫びで怯まされたのだ。


着地には成功した一角狼だがその頭上に白妖梟が迫る。


気配を察知した狼は前方へ飛び出しそのくちばしを間一髪免れる。


そして急停止すると螺旋を描きながらターンして梟を迎撃する。


飛行を妨げる小竜巻をひとつ飛ばすと再び螺旋を描きながらタックルを仕掛けた。



タモンが必死の動きで竜巻を躱すのを目の当たりにして晶は勝利を確信する。



しかし、狼の角が梟の身体を貫く正に寸前、梟の足先がその角に絡みついた。


梟はかすめた角を掴んだまま鉄棒競技のように回転し、狼の突進から離脱した。


決死の攻撃を躱されバランスを崩した狼の背に梟は音も無く着陸し、


そして決着は着いた。


白妖梟の長い爪の力は凄まじいもので一角狼の背中を易々と砕いてしまった。



「ぐぅ、タモン・・・強いじゃない。」


「いや、アスラ・・・君こそ、

 実は角が少し刺さってたんだ、

 相討ちになるかもしれない、ね・・・」


晶にはもう見えないがタモンはダメージに苦しんでいるようだ。

さらに話しかけようとした晶だがその前に視界が暗転してしまった。


気付けばお馴染みの白い世界に戻ってきている。


『あー、負けちゃった。

 でもあんまり悔しくないなー。』


悔しくない理由に晶は思いを馳せる。

負けた相手が好感のもてるタモンであったこと、

全力を出し尽くしたと自画自賛できる好勝負であったこと、

何より、今晩フォーラムで再会出来ることが晶の心から悔しさを消し飛ばす。


『いやー、

 今のはいい勝負だったよねー。

 タモンもきっとそう思ってるよねー。

 ふふふ、夜が楽しみー!』


仮想空間ではしゃぐ晶だが、ゲームによる疲労が溜まったらしく、

HCヒュージコンピュータからゲーム終了を推奨するメッセージが届いてしまった。


諦めて【SR】を終了し、現実世界に戻り居間の家族の許へ向かった。

いまの勝負の満足感を家族に伝えないと!

そんな謎の使命感に燃えた晶だったが、

タモンに何故か好感を持っている自分自身を不思議に思う気持ちが存在していた。



夕食後、家族の団らんを終えた晶はウキウキとした様子で自室に入っていく。

父や祖父の心配した視線を浴びながら。


健康診断で激しいゲームは禁止という結果を出されたが、

フォーラムに参加するのには問題が無い。

念入りに髪型や服装のチェックをして、

時間を確かめつつ【SR】のフォーラムをチェックする。


『あ、もういるじゃ~ん。』


お目当てのタモンを見つけ出し、パネルを操作し移動する。

昨日より【SR】のフォーラムは爆発的に数を増やしている。

タモンのいるフォーラムも昨日ナッキィと会ったフォーラムより密度が高い。

それでも仮想現実の中ならば他人とぶつかることはない。

すいすいとタモンに近付き声を掛ける。


「やぁやぁタモン!

 人間として会うのは初めてだね!」


晶は思っていたより大きい音量で声をかけてしまい戸惑いながら相手の顔を窺う。


「やぁ、アスラ。

 そうだね、初めまして、か、さっきぶり、かな?」


タモンは薄い褐色肌の若く落ち着いた男性だった。

学生と言っていたが晶より年上に見える。


「あれぇ~?

 タモンって学生って言ってたよね?

 歳いくつ?」


「ハハハ、家族からも老け顔って言われてるよ。

 14歳なんだけど。」


「えぇ~?

 私と同じ年齢?

 見えなぁい。」


晶とタモンはそんな世間話から始まり、色んな話をしていった。


「へぇー、アスラはそういうニュース見るんだ?」


「うん、探査状況がじわじわ進むから次を楽しみに出来るんだよ。」


興味のあるもの、お互いの国の話、家族の話、

しかしやはりいま一番熱を持って話すのは【SR】についてだった。


「あぁ、結局あの後は怪我が回復しないまま死んじゃったよ。」


「えー?

 私を倒したのに回復しなかったんだ?」


「おそらく体力は回復しても欠損は治らないんだと思う。

 勝負は引き分けだね。」


「いやタモンの勝ちでしょ。」


先程の勝負について真っ先に話し合う。

タモンはあの後死んでしまったようだ。

晶としては折角自分に勝ったのに、と少し残念に感じた。

引き分けと言われたが実質タモンの勝ちなのは間違いないと思った。

しかし他に話すことはたくさんある。


「そうか、アスラは【大鷲の爪】じゃなかったのか。」


「そうだね、私のは【甲虫の角】だった。

 大鷲って動物は見たことないかも。」


「あ、そうなんだ。

 俺と戦った木のあるゾーンにはたまにいるよ?

 明日にでも見てみなよ、色んな動物を見る楽しさもあるからさ。」


「あ、確かにそうだね。

 でも可愛くない生き物ばっかりな気がするんだけど。」


「ハハハ、確かに可愛くないのばっかりだね。」


晶とタモンは他のフォーラムのグループには入らず、

二人だけで椅子に座り対面で話し合いをしていた。

そしてまだまだタモンと【SR】について語ろう、

そう意気込んでいる晶に声を掛ける者がいた



「おい、お前アスラってやつだろ。

 さっきの狼の角について教えろよ。」


自分が声を掛けられたのだと気付いた晶が顔を上げる。

そこには自分と同じかそれ以下の年齢と思われる少年が立っていた。

急に話しかけられて晶が戸惑っていると少年は苛立たしげに言葉を重ねる。


「おい、早く教えろよ!

 情報を独り占めするつもりか?

 道徳教育が足りてないんじゃないか?」


「え?え?」


突然のことに晶は訳が分からず言葉が出てこない。

すると横にいたタモンが晶に代わり少年に話し掛けた。


「ちょっと待ってくれるかな?

 君はアスラの知り合いなの?」


「なんだお前?

 関係ないやつは引っ込んでろよ!」


「うーん、

 アスラにとっては君の方が関係ないやつじゃないのか?」


「なんだと!?

 おいアスラ!

 俺はさっきお前と戦ったプルフラスだ!

 お前はゲームで俺を負かしたからって調子に乗ってるんじゃないのか?

 さっきの角の力にしても何か汚い手を使ったんだろ!

 その方法を教えろ!このクソ野郎!

 教えなきゃ人間として劣ってるって全世界に・・・ギャーーー!!!」


プルフラスと思われる少年は急に悲鳴を上げ消えてしまった。

晶は未だ訳が分からず何も言えないでいる。


ここは仮想現実内なので周囲の音は聞こえない、

直接コンタクトしている二人以外プルフラスが消えたことに気付かないのだ。

やっとの思いで気を取り直した晶は震える声で問い掛ける。


「た、タモン、いまのって・・・何だったの?」


「うーん、俺もあまり経験が無いけど、

 おそらくHCに粛清されたんだと思う。」


「え?今のが?」


晶は驚きに目を見開く、たかがゲーム情報を訊いただけで粛清?と思ったのだ。


「たぶんね、まぁ粛清までいかなくても強制退去は確実だね。

 最後のとこ、脅迫みたいなこと言ってたし。」


「えぇー、こんなことで罰をくらうんだぁー。

 私も気を付けなきゃだなぁー。」


「いまの奴は言葉遣いも悪かったし、

 想像でしかないけど素行も悪かったんじゃないかな?

 まぁ想像で言うのは駄目なんだけど、

 でもあんな簡単に強制退去されるのには理由があったと思うな。」


「まぁ確かに【SR】でも態度悪かったなぁー。」


「あ、知ってる人ではあったんだね。」


「ううん、一回会って勝負しただけなんだ、よく知らない人。」


「それであの態度なのか、俺がHCでも即粛清するな。

 全く好感が持てるタイプじゃなかったよ。」


出会ってから初めてタモンは感情を露わにしたな、晶はそう感じた。


タモンのその感情が、晶の立場で考え共感を得てのものなら嬉しいと感じた。


晶はタモンと先ほどのプルフラスの件も含め【SR】について語り合った。


そして晶はタモンと【フレンド登録】をした。


生まれて初めての【フレンド】だ、


嬉しげにそう報告する晶に、タモンは照れくさそうに微笑み返していた。



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