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鎧袖一触す


「あ~あ、残念だなぁ。

 グリフォンとか黒鬼くんとかカブトムシくんとか、

 仲間にしたいNPC結構いたんだけどなぁ。」


『ホホホ、グリフォンはあまり強くないが良いのか?

 それより次の眷属は【竜】なぞどうじゃ?』


『アスラよ、【月輪がちりん】を鍛えたければとにかく使い続けるのだ。

 スキルは効果的に使うのが一番経験となるが、

 これ以上眷属を増やせぬ以上、無意味でも数をこなすしかあるまい。』


あきらは草原に向かい歩きながら【月輪】を連発した。


【月輪】発動中は時が止まった様に動けなくなるので、

歩きながら立ち止まり、歩きながら立ち止まる不思議な感覚を味わっていた。



やがて草原についたのでティーリィを顕現させる。


「いいティーリィ?

 また【大蟹カルキノス】と戦い続けて、

 楽に勝てるようになったら次の段階、

 【巨大蛾モスマン】を狩り続けたら現れる【大百足おおむかで】を倒す。

 ムカデくんを倒せるようになればエリアボス相手でも攻撃が通ると思う。」


「……うむ、……【大天狗】戦では、

 ……あまり役に立てなかった。」


「地面に激突するところを助けてくれたでしょ?

 あれが無かったら負けてたんだから最高に助かったよ。

 でも攻撃の方もまだまだ強くなれるから頑張って!」


少し落ち込み気味のティーリィを励ましたあと、晶は移動を開始した。



草原の【ザラタン】に挑む前に砂漠の【バジリスク】に挑む前哨戦として、

沼地の【ヒュドラ】に挑むのだ。



晶としてはバジリスクを一蹴してザラタン殿に挑戦!と意気込んでいたが、

ティーリィがピュイピーの戦力把握を先に行うべきと提唱したので受け入れた。


そして逆にピュイピーがティーリィの戦力不足を指摘したため、

いま森の妖精は草原で猛特訓開始となったのだ。



ティーリィの鍛練時間を長く取れるように晶はのんびり沼地へ向かう。


晶にとっては沼地ではエリアボスの【ウィッカーマン】よりも【ヒュドラ】の方が


強敵に感じられる。


一度呑み込まれて死にかけたのが若干トラウマになっているのかもしれない。


また【月輪】を繰り返し発動しながら晶は脳内でピュイピーと会話を続けた。




「ピュイピーはさぁ、HCヒュージコンピュータのことをどう考えてるの?」


『どう?とはどういうことじゃ?

 HCはこの世界のゲームマスター、それ以外あるかえ?』


「んー、ティーリィはHCのことを【創造主】様って呼んでてね、

 絶対服従、って感じがするけどピュイピーにとってはどうかなって?」


この晶の質問にピュイピーは興味無さ気なトーンで返答する。


『確かにこの世界を管理しておるのはHCじゃ。

 だがわらわがこの魔界でどう振る舞おうが文句を言われる筋合いはない。

 わらわはただ強者を屠るためにこの爪を振るうのみ、じゃの。』


「ふーん、やっぱりねぇ。」


ピュイピーはただ只管ひたすらに闘争本能の赴くまま戦いたいらしい。


そしてその気質を晶は直接拳で語り合ったことで既に理解していた。


ピュイピーにはナッキィに近い性質があるように思える、


そしてその性質は晶にとって非常に好ましいものと感じられるのだ。




沼地エリアの入り口付近に晶は【切裂蛙ウォーター・リーパー】の存在を知覚した。


初遭遇時の苛立ちが瞬時に思い出された晶は錫杖をすぐさま瑠璃るりに変える。


沼と沼の間にある湿った道を歩き始めてすぐに切裂蛙が飛び出してくる。


それを晶は裏拳一発で消し飛ばす。


次々飛来する切裂蛙が拳や蹴りで爆殺されてゆく。


そしていつの間にか全ての気配が遠ざかるようになっていった。



『ほぉほぉ、さすがアスラ。

 あの速さをものともせぬとはなぁ。』


「な~に言ってんの、ピュイピーに比べたらあんなのノロノロだよー。」


『ホホホ、そうかえそうかえ。』



やがて見覚えのある場所へ着いた、

以前共闘して怨念の呪い人形(ウィッカーマン)を倒した丘だった。


晶はあの戦いを思い出し、満足気に微笑む。


だが巨大な人影は周りを見渡しても見付けることは出来なかった。


他のプレイヤーが既に倒してしまっている可能性もある、


晶は新たなプレイヤーの強敵が出てくるかもしれない、と期待を膨らませる。



『うーむ、なかなか遭遇せぬのぉ。

 早うわらわの進化した新たな強さをアスラに見せたいのじゃがなぁ。』


「でも正直なとこ私、ピュイピーの強さはある程度わかってるからさ。

 ぶっつけ本番でエリアボス連戦してもいいのに、ってちょっと思ってる。」


『ホッホホ!気が合うのぉアスラ!

 もしかしてわらわに入ってる【個性】はお主のモノかものぉ!』


「えぇ~?私ピュイピーみたいな威張りんぼじゃないよ?」


暗黒の女王が晶の脳内で愉快気に笑っている。


だがその笑いがピタリと止んだ。


彼女も近付いてくる存在に気付いたようだ。


毒々しい紫の巨体と九つの首を揺らしシューシューと不気味な音を鳴らし、


【ヒュドラ】がその巨大な姿を現した。



以前戦った時から種族進化して一回り大きくなっている晶だが、

【ヒュドラ】に比べたらその変化は微差程度に感じられた。


「やぁ、数日ぶり!相変わらずおっきいね。

 でも私、強さは結構変わったと思うんだよヒュドラくん、

 あ、今日も助っ人がいるんだよ。

 ピュイピー!出ておいで!」



「ピュイッ!」



可愛らしい鳴き声と共に晶の頭上へ顕現したケライノー(ピュイピー)


翼を軽くはためかせて近付いてくるヒュドラの頭よりさらに上空へ昇っていく。


そのピュイピーに向けて晶が大きな声で呼びかける。


「ピュイピー!さっきの作戦通りいくよー!」


「ピュイ!」


可愛らしい返事だがおそらく内容は高慢な女王のものなのだろうと晶は推察する。


だが肯定の意志は感じられる、これが眷属効果なのかもと考えながら走り出した。





ヒュドラは前回同様、九つの首から毒液を撒き散らかし始めた。


しかし前回と違い、その動きはすぐ強制的に止められた。



「ピューイッ!」



暗黒の女王(ケライノー)八又の毒巨蛇(ヒュドラ)の周囲に無数の竜巻を起こし、


さらに全身から黒色の羽根を射出してその竜巻たちに撃ち込んでいった。


撃ち込まれた羽根は明らかにその数と大きさを数倍に変えヒュドラに刺さってゆく。


大きくのたうつヒュドラは苦しみながらも反撃を試みる。


空中のケライノー目掛けて毒液を吐いたり首を振り回し威嚇を始めた。



だがここで静観して周囲を駆けていた星狼鬼タラカースラが攻撃に動き出す。



「てやっ!!」



隙だらけのヒュドラ目掛けて交差した両腕を振り抜く、


修羅神薙しゅらかんなぎ】によって一度に二本のヒュドラの首が斬り落とされた。


星狼鬼から距離を置こうとまた激しく地面を揺らすヒュドラだが、


今度はケライノーに隙を見せる状態となってしまっていた。



「ピュイーッ!」



女王の宙空を切裂く鳴き声により、大量の竜巻がどんどん姿を変えてゆく。


渦の激しさはそのままに竜巻はその縦の長さがみるみる圧縮され、


まるで回転する円形の刃のようになっている。



「ピュイッ!」



そしてその刃が一斉にヒュドラに襲いかかった。



薄い竜巻の円形刃、事前に晶がピュイピーから聞いたところの、

嵐撃の刃(シュトロームクリンゲ)】が残った大蛇の首を切り刻む。



ズタボロになったヒュドラの首を星狼鬼が錫杖で叩き千切り、


ケライノーがその鋭い鉤爪で握り潰していった。



九つの首を全て失い、苦し紛れに繰り出した尻尾も潰されてしまったヒュドラ、


もはや為す術なく、首を復活させることにのみ勝利の可能性が残されている。


だが、



「ピュイピー!戻って!」



下腕の両掌を開き、黒い球体へケライノーを格納した星狼鬼は



「しんじゅっ!」



掲げる錫杖を純潔の白色に変化させヒュドラにトドメを見舞った。



「【日輪にちりん】っ!!」



黒色の球体と入れ替わるように白色の球体が現れる。


そして星狼鬼を中心として音も無く光と熱の爆発が起こり、


真っ白な半球体が形成され広がっていく。


瞬く間にヒュドラの巨体が再生を許されず焼き消されていった。



自分をあれほど苦しめたヒュドラに手も足も出させなかったことで、


星狼鬼はケライノーと己の力の進化を確認出来、満足気に頷いた。



晶は実に心穏やかな勝利を得ることが出来ていた。




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