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天狗に挑む


魔界の中にある【林地】、あたりは雲が厚く巡らされ薄暗く、

夕闇のような気配を漂わせている。


魔界には【夜】というものは存在しないらしい、

時間の流れがあるかどうかも怪しいところだ。


いつもより光が少ないこの状況もランダム設定された環境変化の一部のようだ。


現実ではHCヒュージコンピュータが定めた世界標準時刻によって人々は生活している。


だが魔界では時間を意識する暇もなく、常に電子の命がやり取りされ、

そこかしこでハラハラと散っていく。



この場所でもこれから二人の強きもののうち片方の命が消されることとなる。



一人は既に大木の頂点に立ち、


【好敵手】の到着をいまかいまかと待ち構えていた。




顔のみならず全身を朱に染めるタモンは、別に怒りに燃えているわけではない。


【大天狗】へと進化したタモンだが鼻が高くなることなく、

人間に近い顔面には黄色く鋭いクチバシが存在感を放っている、

ただその全身の赤い体色が天狗らしさを醸し出していた。



「少し早く来すぎたな。」


誰に言うでもない独り言を呟きタモンは周囲を探る。


早く来て【以津真天】や【グリフォン】を狩っておこうと思っていたのだが、

どうやらアスラが既に退治してしまっていたらしい。


アスラの従弟であるシャチからのメッセージでいまそれが判明したところだ。


白に僅かに斑の模様が入った美しい横笛、

龍笛りゅうてき】が空腹感を和らげてくれるとはいえ、することが無い。


タモンもアスラ同様【蒼翼祓魔そうよくふつま】スキルを得ているので、

この付近のNPCが近寄ってくることが無い。



近くに観戦に来ているシャチとメッセージをやり取りしてもいいのだが、

それはアスラとの【決闘】に対しての集中力が削がれる思いがする、

一旦クリアアウトして時間を置いてスタフインしてもまた同様だろう。


再び周囲をぐるりと見回す。



シャチよりさらに離れた場所にいるのがアスラの言っていた【アルマロス】だろう。


うねり暴れ回るような存在感がある、なかなかに強者のようだ。


以前アスラが言っていた『強さが分かる』とはこの感覚のことなのだな、

とタモンは納得と敬意が入り混じった気持ちになる。


そのアスラを相手にこれから闘えるのだ、

タモンの胸に決戦へ湧き立つ気持ちが再び溢れ出す。



たぎる闘争心を乱さぬように精神統一を続けるタモン。


だが間を置かず、

タモンが思っていたよりかなり早い時間に求めていた【好敵手】が姿を見せた。


タモンの索敵範囲に悠然と現れたその存在感はもはや【魔王】と呼んでもいいのではないかとタモンに思わせるものだった。


ついさっき会った時とは別の存在のように周囲を圧倒する闘気が知覚出来る。


先程のアルマロスのような暴力的な存在感ではない。


まるで灼熱の太陽が近付いてきているような、そんな錯覚をタモンは感じていた。





昂る気持ちを抑えられず、晶は予定時刻よりだいぶ早くSRへスタフインした。


「以前タモンと闘ったのも【林地】だったんだよ。」


脳内の眷属、ティーリィに話し掛けながら決闘の地へ向かう。


「私って闘うことが楽しいんだなぁって思う。」


高まる晶の闘争心が晶の口を饒舌にしている。


「積み上げた強さが消えちゃうかもしれないスリル、最高だよね。」


一歩踏み出すたびに、熱く燃える気持ちが溢れて周囲へと撒き散らされる。



【林地】エリアに到着して晶は移動速度を緩めた。


自分たち以外の邪魔者がいないか、

と確認するだけの冷静さはなんとか保っているようだ。


進んでいくうちに中心部分の大木にタモンの【大天狗】の存在を感じた。


少し離れた場所に来里の【ピンク象人間(ガネーシャ)】が居ることがわかる。


ならばさらに離れてこちらから視認ギリギリの場所にいるのがアルマロスだろう。


晶はアルマロスに以前と違う存在感を感じる、何に進化したのだろうか?


だが今の晶は眼の前のタモンとの決闘に意識が集中している。


来里とアルマロスは二人の勝負を邪魔することは無い。


晶は今まで蓄えた【全能力ちから】を出し尽くすつもりでいる。


出し惜しみなどもったいなくて出来ない。


この闘いを余す所無く楽しみたいのだ。






「やぁ、アスラ。

 今日はここ、いつもより暗い気がしないか?

 これだと俺が有利な気がしてしまうな。」


「そんなことないよタモン。

 風が無くて利用出来ないこの状況はタモンにとって不利なんじゃない?」


「良く知ってるね、あ、アスラも同じようなスキルがあったか。

 じゃあ同じ条件だろ?」


「ん、じゃあろうか、

 正々堂々だよ。」


「あぁ、恨みっこなしだ。」



初めての勝負の時と同じ言葉が交わされ、二人の【決闘】が始まった。




大木のてっぺんを飛び降りた大天狗が星狼鬼の周囲を窺うように飛翔する。


そして挨拶代わりとばかりに宝棒を振り、特大のつぶてを放ってきた。


星狼鬼の礫が大人のこぶし程度の大きさなのに対し、


大天狗の礫は大人の頭部よりも大きく見える桁違いのものだ。


だが巨大なぶん数は一つだけだ。


星狼鬼は高速で飛んできた巨大礫を


「しゃくじょーっ!!」


金剛の破壊力を秘めた金色錫杖で打ち砕き、粉々にした。



「やるなアスラ!

 それでこそ倒し甲斐がある!」


「倒され甲斐、の間違いでしょっ!」



言い様に星狼鬼が錫杖の色を桃色に変え、


お返しとばかりに脚を連続で振り上げ計十八の礫を空中の大天狗に向け放った。



自らに目掛け飛来する礫に大天狗は慌てもせず左手の【龍笛】を横薙ぎにする。



するとどこからともなく湧き出した黒雲が大天狗の前面に移動し、


飛来した礫を全て防ぎ、逆に星狼鬼目掛けて吐き出した。



星狼鬼は既に礫を放った位置から離れていた為、無人の地に礫が次々舞い落ちる。



一瞬の静寂の後で二人は不敵に笑い合う。




「ワゥワ、アスラの相棒はなかなか強そうだね、特殊な効果もあるのかな?」


「ふへへ、タモンの【操雲】も厄介そうな進化してるみたいだねぇ?」



何故か嬉しそうに再度笑い合うと今度は星狼鬼が先手を取った。


「てーりゃっ!」


渾身の力で右手から【軍荼利颯天ぐんだりはやて】を放つ。


大型の竜巻が大天狗目掛け飛んでいく、

縦長に伸びる空気の渦が大天狗へ近付けるようなら奇襲の好機チャンスだ。


竜巻へ飛び込む準備を整えつつ左手も振るいもうひとつ竜巻を解き放つ。


だが、大天狗の対処は星狼鬼の戦略を打ち砕くものだった。



大天狗は星狼鬼が竜巻を放ったのを知覚した瞬間に両手で印を結んだ。



「オン ベイシラマンダヤ ソワカ、【毘沙門颱風びしゃもんたいふう】」



静かな呟きと共に大天狗の周囲が空気の流れを加速させて動かしてゆく。


それはまさにハリケーン、


星狼鬼が全力で発生させた竜巻二つを軽々と消し飛ばし周囲を呑み込んでいった。



「うぅっ、身体が持ってかれる!」


『アスラよ!耐えろ!

 空中に投げ出されては無防備に攻撃を受けるぞ!

 練習したアレが通用するかはわからんのだぞ!』


脳内でティーリィが警告してくるが大天狗の颱風は耐えられる風圧ではない。


「ぬぬぬ、大博打おおばくちだけど試してみる!

 しろがねーっ!」


白銀に煌めく錫杖が右手に現われた瞬間、


その白銀錫杖によって地面を叩き遊環を鳴らし、


星狼鬼は【吸気精】込みの咆哮を上げた、



渾身の【魔狼の咆哮 改】だ



「ウオオオォォォ―――――ン!!!!」



両肩の狼の頭が僅かに颱風の力を吸い取ったかな?


星狼鬼がそんな感触を抱いた瞬間、その身は勢い良く空中に跳ね上げられた。



「うっわ―――――!!!

 ダメだった―――――!!!」



星狼鬼の大博打はどうやら外れを引いたらしい。


颱風を消すこと叶わず星狼鬼は空中に投げ出され、


眼前には【宝棒】を振り構える大天狗が待っていた。



「ぬんっ!!」



裂帛の気合を込めて振り下ろされた【宝棒】は、


空中で踏ん張ることが出来ない筈の星狼鬼による【金色錫杖】で受け止められた。



「なにっ!?」



相対した錫杖の力強さに大天狗は驚かされ僅かに隙を作った。


【多段空歩】で空中を踏みしめ攻撃する練習が役に立ったことを確信し、


その隙を見逃さず星狼鬼は全力の攻撃を仕掛けた。



「てりゃっ!!」



短い気合と共に星狼鬼が交差した両腕を振り抜き、


全力の【修羅神薙しゅらかんなぎ】を放ったのだ。


真空の刃が至近距離の大天狗を捉えたかと思われたが



「ソワカッ!!」



またしても大天狗の呪言と共に左手に握られた【龍笛】が輝き、


星狼鬼と大天狗の間に黒色のからすの群れが発生して刃を相殺した。



バスッ!!と大きな羽音を鳴らして大天狗が星狼鬼との距離を空ける。


その隙に星狼鬼は自然落下に加え【多段空歩】を使い、


大天狗に隙を見せぬようにジグザグに地上へ向かい体勢を整える。



「強い!アスラは俺が思っていた以上に強い!」



タモンの賞賛を晶は心地良く受け入れた。


決闘前に【以津真天】で色々試しておいて良かった、と改めて感じた。


先程の空中戦もその賜物だ、タモンにいい所を見せられて大満足だ。



しかも晶はまだ奥の手を用意してある。



「タモン、ありがと。


 でもさっきのハリケーンには私も驚かされた。


 タモンも自分が思ってる以上に強いと思うよ。」



「ありがとう、アスラ。


 なにか余裕だね?


 まだスキルを隠してるのかな?


 見せて欲しい!アスラ!キミの全てを!」



まるで恋愛物の活劇のような台詞だが二人とも闘争心丸出しで、


とてもそんな甘い雰囲気など感じられない覇気を醸し出している。



二体の【魔王候補】が爛々と輝く眼から火花を発し、


電子の命と己の闘争心に満足の区切りを得る為、再び闘い始めた。



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