死合い準備
タモンとの対決に向け晶は燃えていた。
『にしてもタモンにはいつもいろいろ気付かされるなぁ。』
瑪瑙錫杖に【気配隠蔽】の能力があること、
通りすがりのプレイヤーにガン無視される程度では気付かなかった。
右手に持つ相棒に目を向けながら、
晶はまだまだその相棒の力を引き出せていないことを反省した。
『今夜の決闘に向け、あまり時間は残されていない。
錫杖の能力も気になるけど解明する暇は無いよね。
タモンとどう闘うか、いま私が持つ戦術で通用するものは何か?』
深く考え込む晶だが、それは晶にとってとても楽しく感じられた。
信頼のおける【友】との【死闘】、それは至福の時間となるだろう。
やおら笑顔となる晶。
本来ならインドラやナッキィらにも見てもらいたい二人の闘い、
しかしそれは後日彼女たちと闘う際のハンデとなってしまう、
それは彼女たちも望まないだろう。
そう、晶とタモン、二人だけの勝負なのだ。
それもまた素晴らしいものに思え、晶は自然と笑顔になっていたのだ。
タモンの闘い方はある程度予測できる。
烏天狗の時と大きくは違わないだろう。
空を翔けて制空権を握ることは間違いない。
天狗火や天狗礫、あと厄介な竜巻【毘風撃】という広範囲攻撃もある。
そこから【宝棒】による接近戦、あと【操雲】による妨害もあるかもしれない。
『でも【大天狗】に進化していることによってそこからどう変わったかな?
あの【横笛】も気になるし、新しいスキルも絶対増えたよねぇ。』
ここで晶の相談相手が復活した。
『アスラよ、ずっとここで動かずにいたのか?
何をしておるのだ?』
「お!ティーリィ復活したんだ?思ったより早ぁい。」
晶はティーリィにタモンとの決闘について説明した。
『ほぉ、死合いに挑むというにアスラは随分楽しそうじゃな。』
「タモンは友達なの、でもすごく強いライバルでもあるの。
信頼出来る強い敵と強くなるために闘う、それが楽しいの!」
『うーむ、人間の感情を理解することはやはり難しいのぉ。』
そこから晶はティーリィ相手に戦術確認をしてみた。
一人で考えるよりも別の意見を交えながらの仮想試合の方がためになる。
ティーリィとタモン戦への秘策を練っていった。
「たぶん【横笛】は超音波攻撃に近いものなんじゃないかなぁ?、
それなら【魔狼の咆哮】で相殺できる。」
『話を聞く限り【毘風撃】かその上位の竜巻攻撃をどうするかじゃな。
広範囲攻撃は厄介じゃぞ?対策はあるのか?』
「【毘風撃】のままなら【軍荼利颯天】が勝つけど、
進化してたらどうかなぁ?良くて相殺になるのかな?
空中のタモンのとこに跳び上がるためにも竜巻は必要なの、
相殺になるとまずい、【多段空歩】だけだと高さが足りないと思う。」
『アスラの竜巻は飛び込むと上昇するんじゃったな、
向こうがそれを知らぬなら初回に限り確かに有効な攻撃となるの。
相手の竜巻を消すためと見せかけて不意の一撃にはなるのじゃないか?』
晶は腕組みして着々と脳内眷属とともに戦略を組み立ててゆく。
「最終的に接近戦になれば私が有利なんだけどなぁ。」
『大天狗も接近戦は弱くないじゃろ、油断禁物じゃぞ?』
「うん、【宝棒】もあるし弱くは無いだろうね。
でもやっぱり接近戦なら私の方が強い気がする。
タモンは中距離の間合いを得意としてるように思う。
中距離からダメージを重ねてから一撃必殺とどめの攻撃を放つ戦い方。
共闘した時にみんなの強さと特徴はある程度掴んでるし。」
『ならば接近戦に引きずり込みたい所じゃな。
策はあるのか?』
「無いからいま考えてるの!
前に何も考えないで闘って負けてる相手なんだから!
ティーリィも一緒に考えて!」
晶はさらにティーリィと話し合い、闘い方を決め、
仮想タモンとして林地で【以津真天】を相手に危なげなく完勝し、
夜の決闘へ万全の準備を整え、納得したのちクリアアウトした。
白い世界に戻ってくると晶はメッセージを確認した。
タモンから時間と場所が簡潔に記された決闘状が届いている。
インドラ・ナッキィ・シャチにもそれは送られていて、
【手出し無用】とこれまた簡潔な一文が込められていた。
晶はまた笑顔を浮かべ我知らず拳を握る。
『タモンってば気合い入ってるなぁ。
絶対にお互い満足できる闘いになるよね。』
握った拳をぶんぶん振りながら晶はアルマロスにもメッセージを送っておいた。
宣戦布告のような言葉を最後に会っていないアルマロスだが、
あれから初めて返信が届いた。
おぉ!と晶は慌ててその内容に目を通す。
そこには晶とタモンの決闘を遠目でいいから観戦したい、と記されていた。
晶にとっては問題無い話だがタモンはどうだろうか?
タモンにその旨をメッセージで確認してみると、
『離れた場所からの観戦なら構わない』とすぐに返信が来た。
晶がアルマロスにタモンからの言葉を引用して返信すると、
短いながらも感謝の言葉が返ってきた。
『近いうちにアルマロスと闘うことにもなるのかな?
それで仲良くなれればいいんだけどなぁ。』
そんなことを考えているとタモンから再びメッセージが届く。
アルマロスと同様にシャチも観戦希望なんだけどいいか?とのことだった。
来里はなぜ自分ではなくタモンに確認するのか?と少し胸がざわついたが、
何も問題は無い、と返信しておいた。
準備は終わったと仮想世界から脱しようと晶が脳内パネルを開くと、
来里からメッセージが届いた。
内容を確認して返信し、
目を閉じて決闘について考えていると、すぐに来里が現れた。
「アキ姉ちゃん!タモンさんと決闘するんだって?
僕それ観てていい?タモンさんはいいよって言ってくれたんだけど!」
「私も構わないよ。
なーによライ、随分楽しそうじゃん?」
自分より先にタモンにメッセージを送った弟子に対し、
晶は若干トゲのある態度で来里に接している。
だが来里はそんな器の小さい師匠の態度に気付かず話し続ける。
「いやぁ楽しみだよ!
強い人同士の勝負ってどんなんだろなぁってワクワクする気分。
インドラさんも観に行きたいみたいだったけど、
能力のネタバレになるから遠慮しておくって言ってた。
姉ちゃんによろしくって、どちらかといえば姉ちゃんを応援してるってさ!」
インドラはタモンの従姉なのだがいいのだろうか?
少しタモンが可哀想な気もしたが晶は素直に嬉しい気持ちを感じた。
「なんだぁ、タモンの応援いないじゃーん。
これは私の勝ちだなー。」
「いや姉ちゃん、僕は中立の立場で観戦するつもりだけど・・・」
「はぁ?弟子が師匠を応援しないの?
ライ、どういうつもり?
返答次第ではタモンの次にライを粉々にしてあげちゃうよ?」
怖ろしい台詞を吐いて腕組みしたまま来里を見つめる晶。
来里は曖昧な笑顔でわたわたと両手を振り『違うよ違うよ』と呟き、
【仲間】として晶とタモンにリスペクトがある故だと言い訳し始めた。
少しむくれていた晶だが【仲間】という言葉に機嫌を直す。
「うん、そういえばシャチ君は私たちの連結役だったね。
私たちの強さをしっかりと確認して、研究するといいよ。
それでインドラとナッキィには確実にそして曖昧に伝えるように。」
「う、うん、わかった、頑張る。」
滅茶苦茶な指令を師匠から受け取った弟子は困惑の表情のまま去っていった。
そして晶も仮想世界から抜け出し、家族と共に夕食をとり始めた。
晶はタモンとの決闘を控えていることを愉し気に伝える。
「へぇ、インドの小僧とまた闘うのか。
そいつぁ負けられねぇなアキラ!」
「ボッコボコにしてやればいいんだ!
晶なら出来る!」
やけに熱の込められた煽りともいえる応援をする祖父と父。
そんな男たちに呆れた眼差しを送る祖母と母。
男親たちの感情に気付かぬまま晶はその熱い応援を背に自室に戻っていく。
パンパンと右拳を左手の平に打ち付けながら自室の中央で精神統一する。
このSR、シックスロードリィンカーネーションというゲームにのめり込むきっかけとなった闘いがタモンの【たたりもっけ】との一戦だ。
闘い終わった時、再びあの時のような感動を味わうことが出来るのだろうか?
晶は緊張と高揚を同時に感じながら大きく深呼吸する。
紛れもない【強敵】に挑む晶の心は
灼熱の太陽のように光り輝き、熱く燃えていた。




