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滾る鉄火肌


大型生物同士の対決はなかなかの迫力だった。


観戦するあきらはワクワクした気持ちで戦いの行方を見守る。



大蟹カルキノス】が振り下ろすハサミの腕をがっちり押さえこむトロール(ティーリィ)


大蟹の腹部目掛けてトロールが膝蹴りを見舞う。


だが大蟹の固い外殻はトロールの膝蹴りをものともしない。


逆に大蟹の鋭い脚がトロールの腹部目掛けて突き出される。


するとなんとトロールの緑の長い毛が大蟹の脚に巻き付きその動きを阻害する。


両腕に力を込めるトロールが大蟹の腕関節に悲鳴を上げさせる。


大蟹も負けじと毛に絡み取られた脚を動かしミチミチとトロールの毛を引き千切りだす。


怪獣大決戦といった様相で戦いは白熱していた。




『いいねいいねー、真っ向勝負って感じだねー!』


晶はカルキノスとティーリィの戦いを純粋に楽しんでいた。



「頑張れティーリィ!

 カニくんは吹き出す【泡】で防御力を高めてるよ!

 脚から倒してけー!」


だいぶ離れた場所からだが晶の応援の声はティーリィに届いているようだ。


緑の巨人はその身体中の体毛をざわざわと波打たせて応援に応えている。


大蟹の脚を捉えている体毛がより激しく絡みついて締め上げ始めた。



体勢不利と判じたか大蟹は口部分からトロールの顔面へ【泡】を吹き掛けた。


ダメージにはならなそうだがトロールの視界を塞ぎ挙動を乱そうとしたか。


だが森の精霊たるトロールは頭部分にある緑の体毛を自在に震わせ、

【泡】の連射を全て脇へ逸らしていく。


「おおっ!ティーリィってあんなこと出来るんだぁ!?

 行け行けーっ!」



大蟹の苦し紛れの攻撃を受け流したトロールは反撃に転じた。


掴んでいた大蟹の左ハサミを渾身の力で引き抜いたのだ。


強烈なダメージによって大蟹の脚によるトロールの拘束が緩む。


ここを好機と判断したトロールは前蹴りによって拘束を断ち切り、


右手で掴んでいる大蟹のハサミによってその大蟹を殴打し始めた。


硬度が同じ大蟹の外殻同士のぶつかり合いによって殻が砕けてゆく。



大蟹は横移動でその攻撃から逃れようとするが、トロールがそれを許さない。


いつの間にか大蟹の足元からトロールの体毛と似たツルが伸びて脚を捉えていた。


そこからはトロールの容赦ない殴打が的確に大蟹の急所たる頭に集中した。


頭を引っ込めることもままならず、遂に大蟹はその身を光の粒子へ変えていった。




勝利したティーリィだが、受けたダメージはかなりのものなようだった。


晶が近付いていくが、片膝をついたまま動くこともままならない状態だ。


「ティーリィ、よく頑張ったね。

 素晴らしい戦いだったよ。」


晶の賞賛にティーリィは僅かに頷き、苦しそうにそれに応える。


「……アスラよ、……お主の声のおかげぞ。

 ……ぬしの声で、……力が湧いた。」


「えー?なになにもー、照れちゃうなー、えへへー。」


晶はアハハと照れた声を上げるが、ティーリィによると普通にスキルの力らしい。


確認すると確かに【鼓舞】のスキルを取得していた。


「あぁ、なんだ。

 スキルの力なのかー。

 ティーリィが私のことを好きだから力が湧き出たとかかと思っちゃった。」


「……アスラよ、……前にも言ったが、

 ……わしらに好悪の感情はほぼ無いからな。」


「うーん、残念。

 でもティーリィに好きになってもらえるよう仲間として頑張るよ。

 あ、私の中に戻ると傷が治っていくんだっけ?

 じゃあ戻すね?」


「……うむ、……頼んだ。」



「戻れっ!ティーリィ!」


声と共に星狼鬼の下腕が両掌を開き始め黒い球体を生み出す。


静寂の世界が周囲を包み、緑の精霊は巨体を揺らめかせ球体に吸い込まれた。



「いやー、でもホントにいい勝負だったよねティーリィ。

 結構強くなったのかなー?」


明るく問い掛ける晶だったが、ティーリィからの返事が無い。


おや?と脳内パネルで確認すると【眷属】欄に、

ティーリィ(療養中)との記載があった。


『あ、結構傷ついてたんだねティーリィ。

 そうだよね、きっと連戦だったんだもんね。

 お疲れ、ティーリィ、ゆっくり休んでね。』


自らの中に眠る森の精霊に労わりの声を掛け、晶は周囲を見渡す。


索敵範囲の中で晶の強敵になりそうな存在は見当たらない。


砂漠のエリアボス【バジリスク】にこのまま挑むべきだろうか?


ナッキィからの情報によると大蛇の怪物【バジリスク】は、

【毒】【麻痺】【石化】などの状態異常攻撃に加え、

【超音波】【砂嵐】【怪光線】などの中遠距離攻撃を持つらしい。


晶の作戦としては白銀しろがね錫杖による【吸気精】でそれらを吸い取るつもりだったが、【以津真天】の煙と違い【砂嵐】や【怪光線】は吸い込めないだろう。


それならそれで晶は力技で乗り切る予定だったが、

ティーリィの奮戦を観たことで晶はもっと創意工夫した戦いがしたくなった。


『できればティーリィが復活してから【バジリスク】に挑みたいなぁ。

 そんでティーリィが褒めてくれるような戦いがしたい。

 人工知能にも【闘いの感動】を味わってほしいなぁ。』


難題とはわかっているが晶は挑まずにはいられない、

幼い頃から接していた人工知能に【恩返し】をするような気持ちだった。



難題ゆえになかなか良いアイデアが浮かばず、

晶は空腹軽減のための瑪瑙錫杖をブンブンと回転させ唸り続けた。



すると晶の索敵内に強敵の存在感が現れ急速に近付いてきた。



みるみるうちに晶の所へ辿り着いた【強敵】はバサバサと音を立て降りてきた。


宙を飛びやって来たその【強敵】いや【好敵手】に晶は覚えがあった。



降り立ったのは紅蓮の炎のような赤い体色で鳥のような顔、そして翼を持ち、


日本風の鎧を着込んで右手には魔を打ち据える煌びやかな槍【宝棒】、


左手には真っ白に輝く横笛を持つ、まさに【大天狗】といった存在だった。




「【タモン】、なんだか強そうな進化してんじゃない。」


「アスラ、君こそ頭が三つになってるよ、

 あれ?腕も四本になってる?

 インドラとシャチくんの影響かな?」


そう、現れたのは【タモン】だった。


烏天狗からすてんぐ】からの進化はやはり【大天狗】だったようだ。



「私のこれは【星狼鬼タラカースラ】らしいよ。

 タモンは【大天狗】でしょ、前に話した通りだね。」


「うんうん、俺のこれは【大天狗】なんだけど・・・。

 アスラのそれタラカースラ?

 俺の思うタラカースラとかなり違うんだけど・・・。」


困惑気味に問い掛けるタモン、それに対し晶は何故かドヤ顔で話し出す。


「ふへへ、インドラもおんなじこと言ってたよー。

 私の進化って狼関係が続いたからその影響じゃないかって言ってた。」


「あ、そう・・・。

 アスラにはいつも驚かされるな。

 じゃ、闘おうか、空腹感に問題は無い?

 アスラは満腹だと闘わない主義なんだろ?」


「それがさー、いま私ってば満腹なの。

 砂漠でおっきな石の蜘蛛を倒したばかりなんだ。」


晶の返答にタモンは大きく肩を落とし溜め息を吐く。


「えぇ・・・、そいつぁ参ったな。

 俺の方は戦う気満々だったんだが・・・。

 おや?アスラ、その錫杖、前と色が違うよね?」


「おやおや、タモンくん、良いところへ目をつけなさった。

 じゃじゃ~ん!

 私のしゃくじょーは進化して七つの姿になることが出来るようになったのだー!

 ぶへへ、羨ましいでしょー!」


無邪気に喜ぶ晶にタモンは毒気を抜かれたようにポカンと口を開けていた。


そして数秒後、またいつものように愉しげに笑い話し始める。


「なるほど、アスラは色んなことを発見してるんだねぇ。

 いまアスラの【存在感を薄くしてる】のはその錫杖の力なんだね。」


「ふへ?存在感が薄くなってる?ホント?」


戸惑う晶に対しそれに戸惑うタモン。


「え?気付いてなかったのか?

 アスラはいまナッキィの【気配隠蔽】みたいな状態になってるよ?

 アスラ狙ってその状態じゃないってこと?」


「ふへぇー、いま知ったよー。

 あぁ、そういえば思い当たることもあるなー。」


そんな晶を見てタモンが不敵に笑う。


「ふふ、どうやらアスラはまだその七種の錫杖の力を使いこなせてないんだね。

 俺は新しい力をだいぶ使いこなせ始めてるよ?」


「お?自信ありげですなー、タモンくん。

 種族進化と【宝棒】の進化と、あとその【横笛】の力かな?」


「ふふふ、それは闘ってみてのお楽しみさ。

 いま闘えないのが残念だなぁ。」


そんなタモンの態度が晶の闘争本能へ着火させた。


闘いたい、という欲求が爆発したのだ。


「ならタモン!

 今日の夜、時間を決めて【決闘】といこうじゃない!

 今度こそ私が勝つよ!」


「いいねぇ!アスラ!あとでメッセージを送る。

 立会い無しの二人だけの勝負だ!」


「オッケーだよベイビィちゃん!

 アスラの力におののくがいいさ!」


タモンは満足気に笑い、バサリと羽音をたて急上昇して去っていった。



晶はたぎっていた。


闘争心がぐつぐつと煮えたぎっているのがわかる。


これが【強敵】、これが【好敵手】、これが【友】だ!!!


晶の精神はどこまでも高揚し続けていった。



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