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精霊の特訓


草原に向けてのんびり歩きながらあきらはティーリィと会話を続ける。


瑪瑙めのう錫杖の力で空腹感が鈍っているので気持ちに余裕がある。


『しかし先程の戦いを経てもわしは強さが変わらぬようじゃな。』


「そっかー、私の中にいるとあんま強くなれないんだね。」


『だがスキルの変化とアイテム取得は起こるようじゃの。

 昨日得た【猛虎の牙】に続き【大鷲の爪】というものを手に入れておる。』


「えっ?すごいじゃん!

 じゃあティーリィもきっと【種族進化】したり【武器】を手に入れられるよ!」


『そうなのかの?

 スキルも【危険察知】を得ておる。』


「なるほどね、私の中にいても全くの無駄ではないわけだ。

 でもそのままだと進化しないし攻撃力も上がらなそうだね、

 やっぱり【草原】で特訓しよっか。」


『うむ、アスラに任せる。』



歩いている途中で火蜥蜴サラマンダーや猫又のプレイヤーとすれ違ったが、

誰も晶と目すら合わせずノーリアクションで去っていった。


晶も戦うつもりは無かったが、ガン無視されるのは少々ショックに感じた。



『アスラほど強者になると弱い人間からは接することもせんのだな。』


「あ、あはは、そうかもしんない。」


ティーリィの感想に作り笑いで応えるうちに草原へと到着した。




「よーし、出てきて、ティーリィ!」


晶の掛け声とともに森の精霊たるトロールが草原に出現した。


「……アスラよ、……ここが戦いの場か?」


「そうだね、実際のとこ私もティーリィの強さが分かってないからさ。

 まずはカブトムシくんと手合せしてもらって、

 そこからモスマン、カニくん、ムカデくん、と段階踏んでいこう。

 あ、私がいるとみんな出て来ないからティーリィの単独修行だよ。」


晶は来里を鍛えたのとほぼ同じスケジューリングを立てているらしい。


だがティーリィは来里よりも更に従順な姿勢で特訓に向き合っていた。


「……うむ、……大体アスラの考えは理解した。」


「うん!じゃあ張り切っていこー!

 あ!弱い奴は相手にしなくていいよ、強い奴とだけ戦ってね。

 あ、あ、ティーリィたちってお腹すくの?満腹の時は戦わないのがいいかな?」


「……アスラよ、……我ら魔界の住人は常に飢えておる。

 ……満腹など感じたことがない。」


「えー、それってなんか可哀想。」


「……アスラよ、……憐れむことは無い。

 ……わしらは飢えを辛く思わんのだからな。」


「そう?……うーん、じゃ、うん!頑張ってね!

 私は気配の感じられる距離でムカデくんとかと戦ってるから。

 ティーリィも危なそうなら私を呼んでね!」


「……うむ、……わしはアスラの眷属となったのでな、

 ……呼びかけはアスラに届きやすいじゃろう。」


「あ、そうなんだ。

 じゃあ結構離れても大丈夫かな?」


「……あぁ、……アスラも好きに戦うがよいぞ。」


「それなら砂漠のバジリスクに挑んでみよっかなー、

 あ、私とフレンド登録してる友達の情報は共有出来てる?

 みんな私ぐらい強いから近付いてきたら逃げてね。」


「……ほぉ、……人間の強者たちじゃな。

 ……ぬ、……この巨象と小象は森で見かけたな、

 ……確かに強者の存在感じゃった。」


「うん、象のインドラはたぶん私と同等以上に強い。

 あ、小象の方はそこそこかな?」


「……そうか、……アスラの指示に従おう。」


「じゃあティーリィ、あとでね!」


いいざま晶はティーリィに手を振りつつ加速して砂漠へ驀進した。


ザラタン以外で唯一勝利していないエリアボスを打ち倒すために。





晶は来里の特訓以来数日ぶりに砂漠へと足を踏み入れた。


「うんうん、【土竜もぐら大将】のスキルのせいでみーんな逃げちゃうね。」


それまで地中にいたであろう蠍やワームたちが一目散に索敵範囲から遠ざかっていく。


「うーん、バジリスク以外だとあの【ブエル】ぐらいしか出て来ないかな?

 あれ?でも【ブエル】って悪魔だよね?

 グリフォンとかムカデくんとかとは違う存在ぽいけどなぁ?」


そんな晶の疑問に応えるかのように近くに巨大な存在感が出現した。


まだ視認出来ぬ距離だが晶の索敵でもその大きさが感じられた。


「なるほど、ブエルはあの時に偶然遭遇しただけだったかー。

 道理であんま強くなかったはずだよ。」


晶はうんうんと頷きながらまずは金色の錫杖を顕現させる。


頼れる相棒片手に敵が現れるであろう方向を睨む。


やがてその姿は砂が舞い狂う中でシルエットを露わにしていく。



「うぇぇ、硬そうなやつが出てきたなぁ。」


晶の言葉通り、現れたのは石柱で構成された縦長の蜘蛛のような怪物であった。


後でティーリィに訊いてみたところ、

エジプト神話の【アナンシ】という怪物であるとのことだった。


真ん中の大きな灰色の石柱には模様が刻み込まれていて、


その周りに蜘蛛の脚のような八本の石柱が生えている。


沈み込む脚の深さから重量はかなりのものと察せられた。


高さがおそらく星狼鬼である晶の数倍、重さは十倍以上ありそうだった。



「うーん、【ザラタン】殿に挑む前の練習相手ってとこかな。

 石蜘蛛くん、このアスラがお相手するよっ!

 いざ尋常に、勝負っ!!」


晶が石柱の前面にある人の顔面のような模様に向け開戦の啖呵を切る。


アナンシの方もギシギシと音を立て脚を踏み鳴らしそれに応えたのだった。




戦いは静かな始まりだった。


星狼鬼は石蜘蛛の背後を取ろうと回り込むが、

石蜘蛛が脚を蠢かせその場で回転し正面の位置取りを崩さない。


星狼鬼が足を振りつぶてを飛ばすが石蜘蛛は躱しもせず、

石の身体で礫を弾き返す。


ならばと星狼鬼は金色の錫杖を【号砲必撃】のスキルで全力投擲するが、

巨体に見合わぬフットワークで石蜘蛛は錫杖を掠らせもしない。


炎や真空の刃も試したいが石蜘蛛の防御力のあまりの高さに、

消耗する体力に見合うダメージが与えられるか疑問が起こってしまう。



「硬過ぎるでしょー、でもどこかに弱点がありそうだなぁ?」



脚の関節部分か、中央の石柱のてっぺん部分か、

有り得そうなのはその二ヶ所と星狼鬼は目星を付けている。


だが石蜘蛛の攻撃スキルがまだまだ判明していない。


近付いた所に粘着糸でも出されて動きが鈍ってしまえば、

先程の俊敏なフットワークで石柱の脚ラッシュを喰らって一瞬で死ぬだろう。


星狼鬼はまだ中遠距離攻撃の種類が残っている、

まずはそれを試そうと竜巻を出すため腕を振り上げた瞬間、



「うわぉっ!!??」


音も無く石蜘蛛の脚のうちの一本が星狼鬼目掛け、

まるで昔子供向け観劇で見たロケットパンチのように飛んできたのだ。


危うい所で頭部の直撃をまぬがれた星狼鬼は、

石蜘蛛と石柱の脚を結ぶ黒い腱のような部分を錫杖でぶっ叩いてみた。


ビィィィィンッ!


ゴムのような弾力があるようで叩いた錫杖が同じ速度で上へ跳ね上がる。


その間に石蜘蛛から第二撃のロケットパンチが放たれた。


星狼鬼は慌てて錫杖を仕舞い多段空歩のスキルでその場から跳び退すさる。


星狼鬼のいた場所を貫いた石蜘蛛の脚が同じ速度で元に戻っていった。



「面白味の無い戦いをするねぇ、石蜘蛛くん。

 他にスキルが無いようならもう私の勝ちだよ?」


ピンチを逃れたばかりの星狼鬼が石蜘蛛を煽る。


石蜘蛛の石柱部分にある人の顔のような模様に変化は無いが、

怒りの雰囲気が脚の動きから星狼鬼に伝わってきた。


石蜘蛛は攻撃への予備動作なのかその場で黒い腱を伸び縮みさせ、

身体を上下左右斜めにとグングン動かし始めた。


「どしたのどしたの石蜘蛛くーん!

 体操してても私は倒せないよー?」


星狼鬼はさらに煽る、どっしり構える相手より動き回っている方が隙が出来る、

この相手にも【個性】が入っていることが分かっているので煽りは有効なのだ。



怒りのボルテージを上げた石蜘蛛が遂に動いた。



一本の脚を星狼鬼の左前方の地面に突き刺したと思った次の瞬間、


グンッと石蜘蛛の巨体がその脚に引き寄せられるように跳んだ、


更に別の脚を星狼鬼の後方へ飛ばしそちらへ高速で跳ぶ、


グングンと星狼鬼の周囲を石蜘蛛は跳び回り、時には石柱で攻撃を加えてくる。



『これは、やっぱり、

 ピュイピーより断然遅い(・・)っ!!』



跳び回る石蜘蛛から飛来した石柱の脚から伸びる黒い腱、


それを



「たぁ―――――っ!!!」



修羅神薙しゅらかんなぎ】で一気に二本断ち切った。



バランスを崩し砂に向かって斜めに突き刺さった石蜘蛛、


その石柱の頭頂部分に星狼鬼は【瞬動】と【多段空歩】で瞬時に降り立つ。



「珊瑚っ!!」



そして錫杖を口に咥え石蜘蛛の頭に向かって



「でーりゃでりゃでりゃでりゃでりゃでりゃでりゃでりゃでりゃ―――――!!」



時には竜巻と電撃込みの拳で、時には礫込みの蹴りで、


時には金色錫杖の金剛の破壊力で、


眼の前の石の身体に打撃を叩き込みメキメキと割り砕いていった。



実に巨大な石柱の半分ほどを星狼鬼は直接打撃で粉砕しきった。


やはり頭頂部分は他に比べ防御力が低いのだろうと推察された。


石蜘蛛は最早為す術なくその巨体を電子の霧に変えることしか出来なかった。



「石蜘蛛くん、次までに何か新しいスキルか動きを覚えておくんだね。」


晶は上から目線のアドバイスをアナンシに伝え、その死を見送った。


魔界の輪廻は死から強さを得ると分かったのだ、


今までよりも安心して強敵の死を見送ることが出来る。



『お、満腹になっちゃったなぁ。

 一旦ティーリィの様子を見に戻ろっかなぁ。』


晶は錫杖を瑪瑙に戻し、スキル確認などを行いながら砂漠をあとにした。




『うーん、スキル進化は無しかぁ。

 【修羅神薙】以降スキルが変わんないなぁ。

 【心眼】あたりが進化してもっと強さがはっきり分かるようになんないかな?』


晶は満腹状態なため時折錫杖を変化させ、

【日輪】や【吸気精】【降魔】などを発動させスキルの経験を積みながら歩いた。


色が薄く見えるものを重点的に発動させたが、

【毒撃】や【尾擲撃】は鍛えても使わないんだろなぁと思いながら尻尾を振っていた。


『【魔狼牙】とか【メテオタックル】で【バジリスク】を倒したら、

 スキル進化しないかなぁ、いや、進化してもこの先使わないかなぁ?』


使用頻度の少ないスキルを鍛えるべきか迷っているうちに晶は草原に帰ってきた。



『ティーリィはー、

 あ!いた!

 おぉー!もうカニくんと戦ってるじゃーん!

 順調順調!』


緑の巨人が大きな蟹とがっぷり組み合って殴り合っている。


『あー、なんかホログラム童話でこんなのあった気がするなぁ。』


電子の命を賭けた巨大生物同士の殺し合いなのだが、

晶は何故かほのぼのとした気持ちでその戦いを観戦するのだった。



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