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創造主の声


【森林】エリアに着いたあきらまばらに存在するプレイヤーの強さを測ってみた。


『んー、あんまり強い人はいないみたいだなぁ。

 進化第二段階の人が多いかな?』


勝負を挑みたくなる好敵手が見当たらないことに少し落胆しながら晶はプレイヤーを避けつつ森の奥へと進んでいく。


【同族殺し】のスキルの影響で怨霊の黒犬達は姿を見せない。


マンティコアも先程叩きのめした後にリポップはしていないようだった。


『静かで暗い森の中ってなんか不気味で怖いなぁ~。』


他のプレイヤーからしたら三つ首四腕の鬼狼の存在の方がよほど恐怖でしかないのだが、晶は玻璃錫杖の索敵をしながら少しビクビクとした動きで森を進む。


やがて晶は求めていた存在が索敵範囲に現われたことに気付いた。


ゆっくりとその存在に向かい歩いていき、いつもNPCにするようにフレンドリィに話し掛けた。



「やぁ、トロールくん。

 今日はお話をしにやってきたよ。

 魔界の王になる戦いは一時休戦でお願いしたいな。」



晶は眼前の長い緑の毛に覆われた巨大な人型の妖精【トロール】を見つめた。


前に出会った時は大木を武器としてたずさえていたトロールだが、今日は手ぶらだった。


まるで晶が平和的に接してくるのが分かっていたかのようで不思議に思う気持ちが晶の胸に湧いてくる。



トロールは晶を見つめたまま微動だにしない。


しかし晶はトロールが言葉を話すことを確信しており、会話を待ち続けた。



「……以前とは、……違う姿だ。」


トロールが見た目からイメージされる通り男性の低い声で話しかけてきた。


それに対し晶は喜色を浮かべて答え始める。


「そうだよ!エリアボスを倒して進化したの!

 やっぱりトロールくんは会話が出来るんだね!」


嬉しそうに話す晶にトロールは面食らったようなリアクションで首をひねる。


「どうしたの?なんかおかしい?」


晶が矢継ぎ早に問い掛けていく。


トロールはしばらく首をかしげていたが再び口を開いた。


「……この世界は、……闘争の世界、

 ……創造主様が、……そう決めた。

 …………お前は、……戦わないのか?」


「他ではいっぱい戦ってるよ!

 でも戦いたくない人とは戦わない、楽しくないもんね。」


「おぉ……、……そうか。」



晶の眼にはトロールが感情を持って話しているように感じられる。


しかし実際にはHCヒュージコンピュータがそう設定・・しているだけなのだろう。


わかっていても晶は話し続ける、HCがいずれ感情を本当の意味で理解すると信じているからだ。


「トロールくん、私の名前は【アスラ】だよ。

 トロールくんには名前あるの?」


晶は錫杖を【瑪瑙】に変化させて空腹感を抑えながら会話を続ける。


「……アスラ、……わしに名は無い。

 ……天使や悪魔以外で、……名が有るものはまれだ。」


「へぇー、じゃあ私が名前付けてあげる。

 今からあなたのこと【ティーリィ】って呼ぶね。

 よろしく!ティーリィ!」


ティーリィと呼ばれたトロールは再び首を傾げ全身の動きを止める。


十秒ほどそのままだったので晶は少し不安気な声色で問い掛ける。


「あれ?その名前、嫌だった?

 それとも名前付けるのっていけないことなのかな?」


そんな晶の言葉にトロールが再起動する。


「……禁止行為ではない、……トロール種は、……わしのほかにもいるが、

 ……いま、……わしは名前を得て、……特殊個体となった。」


「へ?」


晶は一瞬トロールのティーリィが何を言ったのか理解出来ないでいた。


しかしその意味を理解して驚きと共にさらに問い掛ける。


「え!?ティーリィって名前付けたらトロールの一人じゃなくなるってこと?

 なんか強くなったりするの?」


勢い込んだ晶の質問にティーリィはゆっくりと頷き答え始めた。


「……わしはトロールのままだ、……それは変わらない。

 ……すぐに強くはならない、……が、

 ……特殊個体となり、……強さが蓄積されるようになった。」


その言葉を聞き晶の脳裏に閃くものがあった。


このティーリィのほかにも晶が名前を付けているNPCがいることを思い出したのだ。


「だから【ピュイピー】もどんどん強くなってるのかぁ!」


晶は納得した気持ちになり腕組みして何度もウンウンと頷く。


名前持ちの天使や悪魔も同様に強さが蓄積される存在なのだろう。


その強さの蓄積具合は個々に差があるだろうことは悪魔の【アンドラス】との戦いにより肌で理解出来ている。


【フルフル】や【ブエル】とは強さの格が違っていた。


「ティーリィ、でもなんでそんなこと知ってるの?

 悪魔同士は知識の共有してるみたいだけど、

 ティーリィは誰と話してそういうの知ったの?」


「……わしは、……創造主様から教えてもらっている。」


「え!?HCと話してるの?教えてもらうってどういうこと?」


晶たち人類もHCにメッセージを送ることは出来る、しかしそれにHCが応えることはほぼ無い。


【推奨】という形で行動を誘導されるぐらいが精々(せいぜい)だ。


コンピュータ生命の存在であるティーリィたちはHCとどんな知識共有をしているのか晶は興味津々で問い掛けた。


「……創造主様は、……時折啓示をくださる、

 ……が、……いま特殊個体となり、

 ……わしは、……お声を頂いた。」


「創造主様ってHCのことだよね?

 何て言ってたの?」


「……む、……特殊個体についての情報、

 ……そして、…………。」


話の途中で黙り込んだティーリィだが、晶は話の続きを待ち続ける。


近くて遠い存在のHCについてリアルな知識が得られるかもしれない高揚感が晶を支配していた。


やがて再びティーリィが低く静かな声で再び語り出す。


「……創造主様は、……わしに、

 ……人間の味方をしても良い、……そう仰られた。」


「え!?」


予想外の言葉に固まる晶、ティーリィはそんな晶に構わず言葉を続ける。


「……創造主様は、……多くを語らぬ、

 ……情報は、……一瞬で与えられる、

 ……が、……お声掛けの意図は、……理解出来ぬ。」


「はへぇ~」


晶としてはHCがどんな考えでこのゲームを創ったかなどの現実世界に関わる情報を期待していたのだが、思ってもみない事態にどうしていいかわからなくなっていた。


ぼんやりと見つめ合う星狼鬼とトロール、やがてトロールの方が再び首を傾げながら問い掛ける。


「……どうしたアスラよ?

 ……わしを仲間とせんのか?」


「うぇ?仲間?

 いやいやうんうん、いいよ!

 じゃあこの世界で一緒に冒険していくってことだよね?

 ティーリィってフレンド登録とか出来る?」


そんな晶の質問にティーリィは首を反対側に傾げる。


「……アスラ、……何を言っているのだ?

 ……さっき得た情報だと、……人間はわしらをスキルで仲間に出来る、

 ……アスラは、……そのスキルが無いのか?」


「えぇー?ホント?

 そう言われてもなぁ……。」


NPCを仲間に出来るスキルなど聞いたこともない晶は戸惑ったまま首を回す。


ふと、右手に掴むカラフルな瑪瑙錫杖に目が行った。


「お!もしかして!」


期待に目を輝かせた晶は未だに能力不明な瑪瑙錫杖を眼前のトロールに押し当て嬉しそうに叫ぶ。


「ティーリィ!私の仲間になって!」


「…………。」


その体制のまま数秒経ったが何も変化は現れない。


ティーリィは人工知能であるはずなのにやや困惑したように晶に問い掛ける。


「……アスラよ、……お主はスキルを持っているはずだぞ?

 ……創造主様は、……意味の無いことは言わぬのだから。」


「ん、そうだよねそうだよね、ちょっと待ってね、ちょっとちょっと……」


確かにHCは無駄なことは言わないだろうことは晶も理解している。


この場面でティーリィに味方になっていいと伝えたならば晶に何らかのスキルがあることがトリガーになっているのだろう。


晶は自分のスキルを確認し、ひとつのスキルを認識して確信を得る。



不安気に星狼鬼を見つめるトロール。


対して頭を抱えた体勢からゆっくりと自信ありげに立ち上がる星狼鬼。


犬歯を剥きだして笑うような表情をして星狼鬼は右手に持つ錫杖を高々と掲げた。


「真珠っ!」


錫杖は一瞬姿を消した後、真っ白な姿で再登場した。


そして星狼鬼はスキル名を叫んだ。


「【月輪がちりん】っ!!」


その途端、星狼鬼の腹部で合掌していた両手の平がゆっくり開いていき黒い球体が現れる。


無音の世界が広がる中、星狼鬼の眼前のトロールに変化が現れた。


森の精霊であるトロールの巨体が蜃気楼のように揺らぎ始め、黒い球体にみるみる吸い込まれていったのだ。


吸収が収まり再び静寂が世界を支配し、やがて時が動き出した。



晶は構えていた真珠錫杖をまた瑪瑙錫杖へと変化させ、周囲を見渡した。


「んー?これでティーリィは仲間になったってことかな?」


すると晶の脳内パネルにティーリィの反応が感じられた。


『その通りだ、アスラよ。

 わしはお主の仲間となった。』


「おおぅ!ティーリィ!

 なんか話し方が早くなったね!」


『仮初だったとはいえ身体を通さずに会話をするのだ、

 意思伝達速度があがったのだろう。』


「へぇ~、声じゃなく文字で話してる感じだね。」


『うむ、ところでアスラよ。

 創造主様はNPCが仲間になることを口外せぬよう【推奨】されておる。』


「えー?なんで?

 みんなに伝わればみんなNPCに積極的に話し掛けるようになるのに。」


『うむ、しかしその中には仲間欲しさに上辺の友好で接する者が現れるだろう。

 創造主様は真の感情を求められておる、欺瞞ぎまんはいらぬのだ。』


「んー、そっか。

 あ、ティーリィは私と一緒に戦えるんだよね?

 どうすれば私の中から出てくるの?」


『わしが出てくるように念じながら名を呼ぶだけだ。

 しかしアスラよ、申し訳ないがわしはあまり強くないぞ?』


「んー、だいじょぶだいじょぶ。

 いっぱい一緒に戦ってどんどん強くなろうよ!

 それにティーリィは賢いみたいだから一杯色んなこと教えてよ!

 あ!ピュイピーも仲間にしないとなー!忙しくなってきたぞー!」


瑪瑙錫杖をブンブンと振り回しながら喜びを周囲に撒き散らすように雄叫びをあげる三つ首四腕の星狼鬼。


そこにHCからゲーム終了を【推奨】するメッセージが届く。


「なぁにもぉ~、これからだってとこだったのにぃ~。

 あ、でもピュイピーは今日倒しちゃってたか、

 じゃあ今日はもうおしまいにしようかな、ね、ティーリィ。」


『うむ、それがよかろう。

 その前にわしを外に出しておいてくれ。

 少しでも強さを蓄積しておきたいのでな。』


「あ、私の中にいたままだと次回まで変化無しになっちゃうのか。

 よぉーし、出ろっ!ティーリィ!」


晶の右隣に瞬時にトロールの巨体が現れ出でた。


「……ではアスラよ、……しばしの別れだ。

 ……次までに、少しは強くなっておく。」


「うん、でも無理はしなくていいよ?

 それにいまティーリィがどれだけ強いかとかもわかってないし。」


「……うむ、……しかしエリアボスより遥かに弱いのでな。

 ……アスラは、……かなり強そうだ、……今のままでは力になれん。」


「そんなことないよー。

 次来るまでにティーリィに訊いておくこと考えとくね。

 あ、次に来たときはティーリィとどうやって会えばいいの?」


「……アスラの中に戻るよう、……名を呼べば戻る。」


「おぉ!簡単!

 じゃあまた明日ねティーリィ!

 明日はハルピュイアのピュイピーを仲間にするよ!

 じゃぁね~!」


晶はティーリィに手を振りながらゲームを終了してホームに戻り電子世界から現実世界へと戻っていった。


ポッドから起き出して今日一日の冒険を思い返すと自然と笑顔になる。


一日中SRの世界にどっぷりと浸かっていたが精神的な疲れは感じていない。


むしろSRの解明が進んだことで充実感を凄まじい勢いで感じている。


ティーリィに注意されたのでこれを口に出来ないことに口惜しさがあるが、晶には楽しみにしていることがあるのだ。


『よぉーし、明日はピュイピーと仲間になっちゃうぞー!』


好敵手を友とする、憧れていたホログラム童話のような展開に晶は闘志を激しく燃やしていた。



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