表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/100

生れた問い


錫杖の【七宝】全スタイルの顕現に成功したあきらは満足気に微笑み、

それぞれの特徴を再確認してみた。


金色こんじき】錫杖はもはや切り離せない相棒とも思える基本スタイル、

どんなことをしても壊れず信頼性抜群の金剛力を思わせる能力がある。

どんな戦闘でもまずはこのスタイルで敵の強さを計ることになるだろう。


白銀しろがね】錫杖は金属製の煌めきを放つ荘厳な外見をしている。

今のところ【吸気精】と【降魔】を強化させる能力が判明している。

また、体力回復を早める効果があるように思われるが未検証。


瑠璃るり】錫杖は深みのある青色が心を落ち着かせるラピスラズリの態様。

感覚を鋭くする能力があるので回避する状況で力を発揮する。

この能力に気付かなかったら【高原】で【ファルキィエル】の光の槍によって死に戻りは必至だっただろう。


玻璃はり】錫杖は水晶が神秘的な輝きを放ち続け美しい。

【心眼】を強化する能力が判明していて移動時は大体このスタイルにしている。

見た目的に一番壊れやすそうなので晶はおっかなびっくり扱っている。


珊瑚さんご】錫杖はコーラルピンクの優しい色合いの見た目をしている。

だがその外見と違い能力はとても有用で攻撃スキルを大幅に強化出来る。

体感的に威力が五割増しになっているように感じられる。

今後の戦闘での出番は金色と双璧になるぐらい多くなるだろう。


瑪瑙めのう】錫杖は角度によって赤黄緑青紫茶黒と様々にその色を変える、

その輝きは暗く鈍く他とは一線を画す摩訶不思議なスタイルをしている。

今のところ判明しているのは空腹感をやわらげることが出来るというものだけ、今後様々な場面で使用してその効果を検証していく必要がある。


真珠しんじゅ】錫杖は穢れない真っ白なスタイルで清らかさを感じさせる。

今まで不明だった下側の両腕を開かせ【日輪】と【月輪】というスキルを発動させることが出来るとたったいま判明した。

だがその【月輪】の方は発動したもののその効果は不明のままだった。

これもまた【瑪瑙】と同様に検証が必要なスキルだ。



「いいねぇ、しゃくじょー。

 色んな能力が手に入ったじゃん。

 でもまだまだ隠された力がありそうだよね?」


いつもの金色錫杖を右手に掲げ、晶はいつも通り話しかけ続ける。

先程【SR】再開した時から空腹感は襲ってきていたがもう慣れが出てきて穏やかに過ごすことが出来る。


「さーて、どこ行こっかしゃくじょー?」


答えは返ってこないがニコニコと晶は相棒に微笑みかけてから周囲を見回す。


視界には【草原】と【林地】が見える、別方向には湖があるはずの丘も見えている。


『湖は何もないし、草原のザラタン殿にはまだ挑みたくない。

 林地だともう誰もいないよねぇ。

 ん~、あ!あそこ行ってみよ!』


晶は閃きを感じて錫杖を【玻璃】に変えて索敵強化メインにし駆け出した。





それから間もなく、晶が到着したのは【沼地】だった。


『よし、あいつ(・・・)はいるかなぁ?』


晶は濁った沼を眺めながら水際に近付きすぎないようにしてうろつく。

【河童の天敵おおましら】スキルによって水虎や鬼蜥蜴は近付いて来ない。



「お、いた!

 ルリィ!いくよ!」


瑠璃錫杖を顕現させ晶は水際へ駆け出す。


ヒュンッ


晶が言う【あいつ】が水中から飛び出してくる。


高速で飛び回る羽根を持った蛙、【切裂蛙ウォーター・リーパー】だ。


以前は目で追えない速度で飛翔する切裂蛙に晶は手も足も出なかった。


来里らいりとの連携による罠攻撃で倒したものの晶単体では未勝利の存在だ。



瑠璃錫杖を口に咥えて集中する晶、切裂蛙の動きを捉えんと全感覚を研ぎ澄ます。


『わかるっ!』


右斜め前から自分に向かって飛来する奇怪な蛙がその硬質な羽根を羽ばたかせている姿を捉えることが出来た。


蛙の飛翔の軌道を見極めカウンターで右回し蹴りを叩き込んだ。


晶の右足と激突した瞬間、蛙の身体は爆散した。


「よっし!」


晶はぐっと握り拳をつくり喜びを露わにした。


以前出来なかったことが出来るようになった実感が湧いたのだ。



それから五匹ほど切裂蛙を爆散させたが空腹感が軽減されないので晶は奥地へ進んだ。



昨日

みんなで共闘して戦った相手がそこにいた。


植物のツルによって編み込まれた身体に人型の仮面をつけた巨大な人形、


【ウィッカーマン】が大量のスケルトンに囲まれて晶と対峙している。



「ウィッカーマン!

 昨日は名乗らなかったよね、私は【アスラ】!

 この魔界の王様になるんだからちゃんと覚えておいて!」


ギギギ、とウィッカーマンは首を動かし三つ首四腕の人狼を見下ろす。


眼下の星狼鬼を脅威と認識しているのかツルの内側から山羊やヒツジのゾンビを次々と生み出し周囲を埋め尽くしていく。


さらにはスケルトンも昨日の共闘時より多く湧き出している。



「えー?なんで五人で来た昨日より数が多くなってんの?

 私と会うのが三回目だから?

 でももう関係無くなったけどね。」


そう言うと晶は錫杖を【白銀】にスタイルチェンジして雄叫びを上げた。



「ウオオオォォォ―――――ン!!!!!」



【魔狼の咆哮 改】に含まれる【降魔】スキルによって周囲に群がっていたスケルトンが次々に光の粒子に変わっていく。


湧き出し続けていたスケルトンだが、二回、三回と吼え続ける内に地面は盛り上がることなく静けさを取り戻した。


そしてウィッカーマンから生み出されていたゾンビもまた【降魔】によってブルブルと震えながらサラサラと砂のように崩れ去っていった。


しかしウィッカーマンの身体に詰め込まれている山羊やヒツジの死骸はその量を減らしたようには見えない。


ゾンビを生み出すことが無意味と覚ったのかウィッカーマンは自らの直接打撃を加えんと人狼に向かって歩き出した。


鈍い動きに見えるが昨日の共闘時に実は素早い動きが出来ることも判明している。


星狼鬼は分身したかのような速度でジグザグにウィッカーマンへ迫る。



「てーやっ!」



振り払うように殴りかかるウィッカーマンの腕をかいくぐり星狼鬼は足部分を全力で殴りつけた。


ツルの内側に詰まったゾンビの肉体が黒い飛沫をあげて弾け飛ぶ。


その飛沫が身に付かぬようにすぐさま星狼鬼はバックステップで距離を取る。



『アレが付いちゃうと麻痺するんだよね、危ない危ない。

 しゃくじょーで叩いてもたぶんおんなじだよね?』



下がりつつ脚を蹴り上げると六つの礫が高速ですっ飛びウィッカーマンの腰部分にぶち当たる。


星狼鬼に向かって動き出そうとしていたウィッカーマンはこの礫の直撃によって脚の動きを鈍らせる。



「ウオオオォォォ―――――ン!!!!!」



その機を逃さず星狼鬼は再び雄叫びを上げると桃色の錫杖を顕現させ口に咥え、

ウィッカーマンへ向かい跳び上がり渾身の力で両腕を振り放った。


修羅神薙しゅらかんなぎ】へと進化した真空の斬撃がウィッカーマンの首部分に炸裂した。


昨日の共闘時には進化前の【毘摩狼斬びまろうざん】で先制の一撃を命中させたが、さしたるダメージを与えることは出来なかった。


だが、いま星狼鬼の眼前でウィッカーマンの植物のツルで編み込まれた肉体は、

メキメキと音を立てて切り裂かれた首から胸部分が崩壊し始めていた。


完全に動きを止めたウィッカーマンへ星狼鬼が追い討ちをかける。



ゴオオォォォ―――――ッ!!!!!



叩きあわされた両掌によって【迦楼羅狂焔かるらぐれん】の炎の大蛇が舞い狂う。


崩壊しかけている生贄の大巨人の身体へ深紅の炎が纏わりつき舐め回していく。



「メノゥッ!」


勝利を確信した晶は能力不明の【瑪瑙】へと錫杖を変化させ燃え上がるウィッカーマンに向けて竜巻や礫を放つ。


だがその攻撃には何も違和感は感じられず能力は分からずじまいだった。



「しんじゅっ!」


続けて錫杖を真っ白な姿にしてその石突で地を叩く。


月輪がちりんっ!」


そしてこれもまた効果不明の【月輪】スキルを試してみる。


下の両腕の手の平の間へ黒い球体が発現する。


前回同様に周囲から音が消え去り静寂の世界へと変貌した。


『うぅ、やっぱり身体が動かない・・・』


意識ははっきりしているが身体が動かない状態が数瞬続き、やがて終わった。


新スキルの能力が判明せず晶は消化不良気味だが、対戦相手のウィッカーマンは最早もはや燃え尽きようとしていた。


反撃の気配が感じられないままその巨体を電子のもやへと変化させていく。


「ウィッカーマン、これで一勝一敗一引き分けだね。

 最初の頃はキミを倒せるのか不安になるぐらいの強さだったよ。

 ありがとね、何回も戦ってくれて。」


白く美しい錫杖で再度地を叩き、晶はもう一つの新スキルでウィッカーマンを葬送することにした。


「日輪っ!」


先程の【月輪】とは正反対の白熱した球体を掌内に発生させた途端、周囲は光に包まれウィッカーマンは雪が高熱で溶けるかのように消え去っていった。


勝利した晶だがそこには穏やかではあるが笑顔ではない表情が残っていた。


『前に比べてどんどん強くはなってる。

 でも・・・これで【魔界の王】になれるのかな?

 もっと違う形の【強さ】って無いかな?

 NPCに訊いてみたいなぁ。』


満たされぬ渇望に突き動かされ、

晶は会話可能なNPCに問い掛けをすべく【森林】へと駆け出していった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ