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流れる風景


十日前、【SRシックスロード・リィンカーネーション】というこのゲームは【生き残りゲーム】なのだろうとあきらは思っていた。

ゲームを離れていく者が出ている今、プレイ内容もゲームに対する姿勢的にも実際にそうだろうと晶の周囲の人たちは賛同すると思う。

だが今の晶には【SR】というものが、ゲームという概念を越えたものに感じられた。


HC(ヒュージコンピュータ)による理念が詰め込まれているこの【SR】には、人間たちに対するメッセージのようなものが感じられるのだ。



晶は空腹感が収まっていることもあって、思考しながら仲間たちにフレンドメッセージを送っていく。

インドラや来里らいりにだけ錫杖の進化も併せて伝える。

ナッキィやタモンに伝えると余計な情報を送るなと注意されそうだったからだ。

アルマロスにも【SR】に対する見解を中心にメッセージを送る、出来れば返信が欲しいと付け加えて。


タモンからはすぐ返信が届いた。

タモンが山で遭遇した天使は名乗らなかったが外見的特徴から【ファルキィエル】ではないだろうとのことだった。

つまり天使は複数いるのだろう。


あの強さの存在がごろごろいる上に、【ファルキィエル】はアズラなんとかの配下だと言っていた。

強さの先はどこまで続くのかと晶は呆れる思いが出てくる。


晶は【SR】を始めてから十日目になる。

過去に体験したゲームと違い攻略情報が皆無なため、

今までのように他のプレイヤーと自分を比較することが出来ない。

かなり強くなってきた気はしているが、自分はこの世界でどの程度の強さの存在なのだろうかとの疑問が湧いてくる。


『うーん、パパの話だと強くなれない人は

 どんどん【SR】から離れてるらしいからなー。

 実際のところ全世界でどれくらいの人数がこのゲームやってんだろ?』


【玻璃錫杖】によって【心眼】が強化されたので晶はかなり広い範囲を探ることが

出来るようになった。

その能力で周囲にいるプレイヤーの存在もおおよそだが把握出来ている。

先程までいた森林エリアの中だけでもプレイヤーはうじゃうじゃいた。

だが自分や仲間たちぐらい強いプレイヤーはほとんどいなかった。


『それでも何人かは強いプレイヤーもいるんだよね。

 【フィリップス】さんみたいに知らないエリアにもいるだろうしなー。

 あ、ヒーシィも別なエリアにいるよね、この川の向こうかな?』


ナッキィの親戚であるヒーシィはどれぐらい強くなっているだろうか?

ただナッキィの性格上、晶たちが知る【SR】の強さに関しての知識は全て教えてはいないだろう。

自らの力で強くなることをナッキィは望んでいる節がある。

一昨日の共闘に向けての打ち合わせでもそれは感じ取ることが出来た。


『ふへへ、私って友達のこと理解出来てるなぁ。

 あ、いや、ダメダメ。

 調子に乗ると【しろがね】みたいに壊れちゃうかもしんないよね。

 うんうん、ナッキィにはもっかいメッセージ送っとこ。』


ヒーシィに関してナッキィに追加メッセージを送り晶はひと心地つく。

長年望んでいた友人関係を失うことに晶は怯えるような恐怖を感じていた。

自然とメッセージを送ることが頻繁に行われてしまう。

ナッキィがそれを一番鬱陶しがっているのだが晶はそれに気付いていない。



『よし、川沿いに歩いてみよっか。』


満足気に微笑んで晶は歩き始める。


歩きながらスキル確認してみたが何も変化は無かった。


『もう一回や二回の戦いだと変化がなくなっちゃったなぁ。

 エリアボス級と戦わないとダメなのかな?』


ブンブンと【玻璃錫杖】を頭上で回転させながら晶は歩を進める。


右方向に広がる大河の先にある陸地を眺めていたが、その続きが急に途絶える。


『あれ?陸地終わり?

 この先って【海】ってこと?』


晶がさらに歩いていくと右側にあったはずの大河が前方にも出現した。



『ありゃー、これは【海】だね、間違いない。

 向こう岸なんて見えないもんね?』


現実世界の海と違い魔界の海は青黒くて毒々しい気配が漂っている。

間違っても海水浴などしたくはないと感じられた。

波打ち際に近付くと【危険予知】がピクピクと反応するほどだった。


黒く広がる水平線の向こうを目を凝らして見つめるが陸地など影も形も無い。

ただただ不気味な紫の空が延々と続いているだけだ。


仕方ないので左に曲がり海沿いに歩き始めた。


既に木々などまるで無い荒地になっており、周囲に生物の存在は感じられない。

歩きながら海を眺めるが何も出現する気配は無かった。



『ここらへん何にも無さ過ぎでしょ!

 んもぉ!走っちゃお!』


晶は【瞬動】全開で海沿いの荒地を駆け始める。


右側には海が、左側には荒地が続く無味乾燥な景色が流れていく。


つまらないマラソンを数分行い、晶はやっと景色の変化を感じた。



『お?あれって何だぁ?』


小高い丘に立ち、左側の荒地の向こうを眺めると水面が見えた。


変化に飢えていた晶はその方向へ駆け出す。

空腹感も襲ってきているので獲物にも飢えていた。


『おぉー!あれは【湖】かな?沼なんてもんじゃないもんね。』


先程見た【大河】ほどではないが水面の向こうの陸はかなり離れている。

更にその遥か向こうには【林地】があるのがわかる、【以津真天】のいるあの林地だろう。


晶は警戒心を露わにしながら湖面に向かい歩き始める。

晶の索敵は水中に対してその能力が大きく損なわれるためだ。

おそらく嗅覚が索敵の主格を担っているためだろう。


丘に囲まれるような形で湖は存在していた。

晶は視界の開けた場所に立ち、湖全体を見回してみる。


『おー、さっきの【海】と違って綺麗な水に見えるなぁ。

 波も穏やかだから水面で自分を見ること出来るかな?』


【河】や【海】は入るのに気が引ける色合いをしていたがこの【湖】は入れそうだ。

晶は少しウキウキした気持ちで湖面へ近づいていく。


周囲に生命反応は感じられない、油断しているわけではないが過度な緊張はしていない状態だ。


「ほほぉ~、私ってこんななんだぁ~。

 初めて見たなぁ~。」


晶は足首の深さまで水際に入りその冷たさと反射する自分の姿を楽しむ。

自分の姿の珍妙さに思わず独り言を呟いてしまった。


『それにしてもこの合掌してる両腕はいつ動くんだろ?

 たぶんだけど特殊能力があるんだよね?

 どうすりゃいいんだろ?』


ゆらゆらと揺れる足許の自分の姿を見つめながら晶は下側の両腕を上側の両腕でゆさゆさと揺らす。

しかし下側の両腕は合掌した形でビクともしない。


晶は顔を真上に向け上の両腕を腕組みの形にして眼を閉じる。

今日のプレイの中で一番リラックスした状態で思考を続けていた。



『下側の腕の動かし方を来里に教わろうかなぁ?

 ヒントぐらいならもらってもいいよね?

 あ、その前に水の中で動くスキルを取れないか試そうかな?』


思い立った瞬間に晶は金色錫杖を右手に顕現させ高速で回転させ水飛沫を高く跳ね上げる。


次第にざばざばと水遊びをすることに熱中し始めてしまう晶。


【SR】をプレイする中で、闘争以外のことを楽しめていることに晶は少しだけ感動していた。


【ファルキィエル】やお喋り悪魔たちから【争ってばかりの悪鬼】のように罵られたことを晶は僅かな怒りと共に記憶にとどめている。


『私だって戦ってばかりじゃないもんね!

 あ、思い出したらまたムカムカしてきた!

 今度会ったらぶん殴ってやるぞあの威張りんぼ天使めぇっ!!』


錫杖や礫を湖面に乱打し、激しい水飛沫を上げながら晶は【ファルキィエル】に対しての闘争心を猛烈に燃やし始めていた。


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