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暗闇の中で


【フィリップス】と名乗るバグベアを倒し、あきらの空腹感は消え去っている。


『やっぱりプレイヤーは空腹軽減が大きいんだなぁ。

 あ!【精密投擲】が【号砲必撃】になってる!

 今のフィリップスさんを倒したからだよね?』


晶は物は試しと目についた木に向かって金色錫杖を投げつける。

木は当たった部分を中心に幹を消失させズズンと倒れていった。


「おぉ~!いい感じじゃないのしゃくじょー!

 必殺の威力になってきたぞ~。」


晶はご機嫌で相棒を振り回す。


良く見ると金色錫杖は先端と石突部分のみならず、

今までは木の棒であった柄の部分にも金色が侵食してきていた。


「おぉ?しゃくじょー、もしかして強くなり続けたら全部金色になるの?」


晶がうれしそうに問い掛けると錫杖は揺れてもいないのにピカリと光った。


もはや晶は錫杖の返答であることを疑いもせず嬉しそうに何回も頷く。


「そっかそっかー、しゃくじょー、私と一緒にもっともっと強くなろうね!」


満面の笑みで錫杖に語りかけたのち、

晶は空腹感が襲うまでなにをしようか考える。


『うーん、【SR】の中からばぁばにはメッセージ送れないしなぁ。

 あ、そもそもフィリップスさんはハンドルネームか、

 ばぁばの知ってる人と違う人だったら話しちゃまずいのかな?』


晶は先程闘った【フィリップス】と名乗ったプレイヤーともう一度話してみたいと思っていた。


『今日の夜にフォーラムを覗いてみるしかないか。』


フィリップスの件はそう結論付け当面の行先を考える。


『【ザラタン】にはまだ挑めないなぁ、何か足りない気がする。

 今日は自由にやるって決めたしなぁ、行ったこと無い場所を探そっかなー。』


岩壁に沿って再び歩き始める晶。

錫杖は【玻璃錫杖】にして索敵を強化しておく。


歩いている途中で小さな竜のような生物に出会うが晶を格上と理解しているのか、

全く攻撃を仕掛けてこなかった。

晶も満腹状態だったので攻撃されなければこちらから仕掛けることは無い、

悠々と歩き続けた。


『うーん、この岩山って登れないのかなぁ?

 結構高いなぁ、【多段空歩】で登ったら疲れちゃうか、やめとこ。

 今日はなるべく疲れないで長く自由にプレイするようにしよっと。』


岩壁を見上げながら晶は軽く息を吐く。

またこちらに近付いては逃げ去る小竜たちを眺めながら歩き続けた。


やがて晶が飽きを感じ始めた頃、岩壁に大きな穴が開いているのを発見した。



『おぉ?洞窟ってやつかなぁ?

 現実なら絶対に入りたくない場所だけど。』


現実を模した仮想世界では様々な場所を訪れることが出来るが、

晶は暗くて狭い場所は嫌いなのでそういった場所は入らない。

だからこそ余計に深海探査などのニュースを興味深く観るのだ。

ヒュドラに呑み込まれた際には身の毛がよだつほどの嫌悪感を感じていた。


『うーん、入ってみて狭かったらすぐやめよっと。』


晶は心を決め洞窟探検を開始した。



『暗いなぁ』


星狼鬼タラカースラ】に進化した晶だが夜目はあまり効かないようだ。

暗闇の中、たまに玻璃錫杖を軽く地に叩きつけ光を放ちながら進んで行く。

【心眼】のスキルによって洞窟内の道筋はぼんやりと伝わってくる。


『強そうな敵はいない、かな?』


あまり分かれ道は無く道が狭まることもないので、晶はどんどん奥へ入っていく。


やがて晶の【危険予知】がビンビンに反応し始める。

この先にいる明らかな強敵の存在を伝えてきたのだ。


『こーれは!かなりの強敵の予感!

 うーん、でもどうしよっかなぁ?

 大してお腹減ってないし今日はやめとこうかな。』


晶はくるりときびすを返しタタタと駆け出して入口へ向かう。

背後の存在はこちらを感知しているのかどうかわからないが動きを見せなかった。


『エリアボスみたいな奴かもしんないなぁ。

 今度お腹すいてる時に戦ってみよっと。』


考えながらも走り続ける晶は【玻璃錫杖】と【心眼】の力であっさりと入り口まで


戻ることが出来た。



明るさに眼を細めながら晶は再び岩壁に沿って歩き始めた。

だんだんとこの先がどうなっているのか気になってくる。


『この【SR】の世界がじぃじとかパパが言うみたいな【地獄】だとしたら、

 燃える山とか針の山とかがあるんだよね。

 この先にそういうのあるのかも!』


晶はわくわくした気持ちで歩き続ける。

空腹感も相まってやや早足になっていた。


『あぁ~、さっきのフィリップスさんと話しときゃ良かったな~。

 きっとこのあたりのこと知ってたよね?

 あ、でも向こうからいきなり攻撃してきたのか。

 話し合うヒマ無かったんだよねぇ。』


晶はぼんやり考えながらも早足を続ける。


考え事をしながら歩く晶だが、急に立ち止まり錫杖ごと両手を天に突き上げた。


「思い出した!サンゴだ!」


声に出して喜ぶ晶。

【七宝】の残り三色のうち一色を思い出したのだ。


すぐに手首をスナップして玻璃錫杖を消し、思い出した色を呼び出す。



珊瑚さんごしゃくじょーっ!」


元気よく叫んだ晶に応えるようにジャランッと力強い音を立て錫杖が顕現した。


晶の右手に現われた相棒はその色をピンクに変えていた。


「おぉーっ!しゃくじょーピンクになったかー!」


晶はワホワホと小躍りして桃色の相棒をジャランジャランと鳴らしまくる。


しばらく歓びの踊りを繰り返した晶は漸く気が済んで珊瑚錫杖へ語りかける。


「さて、さんごー、キミの力を調べるぞー?」


そうして晶はまた珊瑚錫杖片手に様々な行動を試し、調べ始めた。


そしてその効果はすぐに判明した。



「おおぉぉぉ―――――!!!

 さんごー!!これはすごいぞー!」


【珊瑚錫杖】を手にして【軍荼利颯天ぐんだりはやて】などの攻撃スキルを使用してみると、

その威力が五割程度増していたのだ。


竜巻を利用した高高度ジャンプをするとかなり高く舞い上がり周囲を見渡すことが出来た。

錫杖を口に咥えて【毘摩狼斬びまろうざん】を放つと範囲と威力が増していた。

金剛夜叉礫こんごうやしゃつぶて】は飛び散る礫の数を九つに増やしていた。

体力のことを考え【迦楼羅狂焔かるらぐれん】は一度だけ試してみたが、

燃え立ち昇る火炎の大蛇の群れはもはや巨体の【ザラタン】ですら呑み込めるほどの大きさになっていた。


「これは・・・ザラタン殿に挑めるかな?

 いや、まだ早いよね。

 いっぱい慣れて工夫しないとあの防御は破れない。」


晶はザラタン戦に向けて一筋の光明を見い出していた。


【七宝】の残り二色、その存在が晶をさらに勇気付ける要因になる。


「いい感じだよしゃくじょー!

 もっともっと強くするからね相棒!

 魔界一の宝物になっちゃおー!!」


輝くような笑顔で晶は錫杖に語りかける。


錫杖は遊環を鳴らし、人間が頬を染めるような色の光を放ち続けていた。




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