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新たな領域


錫杖の新たな姿、新たな力を得ることが出来たあきらだが、

それによって草原のエリアボスであるあの巨大な亀蟹、

【ザラタン】に勝利できるイメージは湧いて来なかった。


『ザラタンのあの防御力を突破出来るような何かが欲しいなぁ。』


晶は先程の実験で白銀錫杖は【吸気精】と【降魔】以外のスキルは強化しないことを学んでいた。


ザラタン相手では【吸気精】が効いたとして僅かばかりも影響は無いだろう。

他の戦法を見つける必要がある。



今のところ第一候補は【毘摩狼斬びまろうざん】である。

既に試しているがザラタンの脚に真空の刃は通用しなかった。

だが頭部の眼の部分などは一発で切断できると思える、

次に戦う時は頭部を引っ込めた穴に全力で叩き込むつもりだ。


そして第二候補は【金剛夜叉礫こんごうやしゃつぶて】だ。

脚を振れば鋭く尖った硬い礫が五発飛ぶのだから、

ザラタンの頭部や脚の穴に連発で叩き込めばダメージは確実にあるはずだ。

実際前回は礫によってハサミを二つとも使用不可に追い込んだ。

しかし破壊まではいかないところに悩ましさを感じて第二候補としてある。


『【迦楼羅狂焔かるらぐれん】は位置固定での攻撃だから逃げられちゃう、

 【軍荼利颯天ぐんだりはやて】は攻撃威力が弱いからなぁ。

 脚とか直接殴れればどうかな?いや、すぐ引っ込めちゃうか。』



フルフルとデュラハンを倒して少し空腹感が軽減され、

晶は既存エリアで最強と目しているザラタンの倒し方を考えていた。


『あ、錫杖の【精密投擲】ってスキルも強くなってるかな?

 試してみなきゃだ。』


そう思い立ち晶は林地へ移動する。


そして最初に目についた木に向かって投擲を始めた。


「いっけーしゃくじょーっ!」



ブンッ!


金色に輝く錫杖は唸りを上げて飛んでゆき、

かなり離れた木の幹を大きな音を立て貫いていった。

幹の半分ほどを抉られた木はゆっくりと横向きに倒れていった。


手首のスナップで錫杖を手許に戻し晶は嬉しげに語りかける。


「いやー、ホントに強くなったよねしゃくじょー。

 あ、しろがねの方はどうなのかな?」


晶は白銀錫杖を呼び出し今と同じように投擲してみた。



ブンッ!


白銀の光を放ちながら唸りを上げて飛んでゆく錫杖。

だが今回はその白銀の金属部分がビィィンッ!と木の幹に突き刺さっただけで、

木は変わらず立ち続けていた。

しかも晶の鋭敏な六つの狼の耳は白銀錫杖から何かミシミシ軋む嫌な音を捉えていた。


背筋に冷たいものを感じて晶は今錫杖が刺さっている木に向かって走り出す。

最悪の想像をしてしまってうまく足に力が入らない。


なんとか泳ぐように身体を振り回して木に刺さる錫杖の近くまで来れた。


「しゃ、しゃくじょー、大丈夫?大丈夫だよね?」


木にめり込んでいる白銀錫杖にそっと手を伸ばし柄を両手で優しく掴む。


ゆっくりと力を込めていき、木から引き抜く。


外見上は破損はしてないように見受けられた。


「ちょ、ちょっと休んでようかしゃくじょー、大丈夫だよね?」


スッと姿を消した錫杖。



晶は一旦深呼吸する。


「ふはぁー、うんうん、よーし・・・

 しゃくじょーっ!」



いつもならばすぐに現れる錫杖が出て来ない。



「ふぇぇぇっ!!しゃくじょぉ――っ!しゃくじょぉ―――っ!!」


精神的ショックによって晶は何度も錫杖の名を呼び続けた。

だが錫杖は姿を現さない。


「うぁーん!ごめんなさいしゃくじょー!

 壊れちゃったの!?ごめんなさいー!

 うあぁぁぁ―――!!」


マジ泣きを始める晶。

地に膝をつきがっくりと項垂れて頭を抱え涙を零す。


『また私調子に乗っちゃった……

 しゃくじょーが何も言わないからって無茶させちゃったんだ……』


過去のトラウマまで思い出されてしばらく動けないで泣き続けた。



「うぐっ・・・ひぐっ・・・、

 ふぐぅっ・・・。」


晶は泣きながら歩き始めた、思考が定まらずただ歩いた。

相棒を失った悲しみで何も考えられなくなっていた。


最初は歩いていたがすぐに悲しみを振り払うように全力で走り始めた。

林地を抜け、荒地を通り過ぎ、森に入り、木々の間を何も考えずに突き抜けて走った。


走りに走って疲れを覚えるぐらい移動した先の森の奥には岩山があった。


荒い息を吐き、血走った目で岩山を睨む晶。


未だ哀しみが消えない晶は眼の前の岩肌を全力で殴打した。

電撃と竜巻の力を込めたマジパンチによってドスンと大きな音が鳴る。


全力の八つ当たりを受けた岩はバキリと音を立て表面の岩が剥がれ落ちた。



そんな音を聞きつけたのか、晶の索敵に近付いてくる強者の存在が感知された。


森と岩山の間を通り抜け、その生き物は姿を現した。


それはまさしく晶の思い描くドラゴンそのものだった。


深緑の体色、鱗に覆われた蜥蜴が原型の身体、

頭部からは幾つもの角が後部に向けて生えており口からは煙が吐き出される、

蝙蝠型の黒い翼が広がっており、長い尻尾をビタンビタンと地に叩きつける。


ただ大きさだけが想像と違っていた。


眼の前のドラゴンは今の晶と総体積で言えば同じぐらいの大きさしかなかった。

そんなドラゴンが晶に向かって言葉を発してきた。



「ちょっとアナタ、何してくれてんの?

 いまアナタが大きな音を立てたせいで小さな子供たちが泣いてるんだよ?

 どう思ってこんな意味の無いとこで大きな音立ててんの?」


「え?」


確かに晶は苛立ちと哀しみに任せて岩肌をぶん殴ってしまった。

周囲の迷惑など一欠片も考えずにやってしまった行為だ。

そのドラゴンらしき生物はさらに晶を追い詰める。


「え、じゃないでしょ?

 悪いことをしたら謝るでしょ普通。

 なにアナタ、私たちにこんな非道いことしといてバックレるつもり?」


「え、あ、いや、ごめんなさい。

 すいませんでした、もうしないので許してください。」


晶は素直に謝る。

人工知能との授業では対人対応の科目があり、

謝罪の仕方なども一応学んでいた。



「はぁ~?そんなもんで許されると思ってんの?


 もっと地べたに頭すりつけて謝んなさいよっ!」



バギィッ!



ドラゴンらしき生物は晶にぶん殴られてすっ飛んでいく。


頭部が一部砕けて角が欠け鱗が剥がれている。



「な!なにすんのよっ!

 アンタが悪い癖に逆ギレすんじゃないよぉっ!

 この森の大精霊【アイアタル】様になんてことすんだいっ!」


吹っ飛んでなお晶に向き直り【アイアタル】と名乗るドラゴンは文句を言い募る。



「うっさいっ!


 私はいま相棒を失くして悲しいのっ!


 キミたちのくっさい芝居に付き合ってるヒマはないのっ!」


晶は地面をダンダンと踏みながら怒りをぶちまける。


晶の【心眼】は既に【アイアタル】の仲間らしき存在が多数この場所を取り囲んで


いることを知覚していた。



「はんっ!バレちゃあしょうがない。


 ヴィーヴル!アンピプテラ!やっちまいな!」


岩山の上からはナッキィの【騰蛇とうだ】を思わせる羽の生えた空飛ぶ蛇が舞い降りてきて、森の木々の間からは顔部分だけが人間の女性になったようなドラゴンが現れた。

どうやら空飛ぶ蛇のようなドラゴンたちが【アンピプテラ】、

人間の顔をしたドラゴンたちが【ヴィーヴル】と呼ばれているようだ。



晶は錫杖を失った悲しみを戦いで癒すべく突貫した。



ヴィーヴルはその爪で晶を切り裂こうとするが、

振りかぶる動きをする間に晶はヴィーヴルを数匹殴り倒し蹴り殺している。


アンピプテラが空から晶に向けて毒液を放つが、

毒液が地上に落ちるより早く晶は空を駆けアンピプテラを殴り倒し蹴り殺す。


錫杖を使えればもっと速かったのだろうが、

いまその相棒は姿を現すことが出来なくなってしまった。


晶は想い出を振り払うように二種のドラゴンを駆逐していった。



「ショエェィッ!!」



いつの間にか近付いていた【アイアタル】が地中から伸ばした植物のツルで晶の足首を縛り付けていた。


つい今しがたヴィーヴルとアンピプテラは殲滅し終わって、残るはこのアイアタルだけになっている。


アイアタルは晶の移動を封じたことで喜色を浮かべている。


「ハッ!ざまぁないねぇ鬼狼おにおおかみっ!


 ヴィーヴル達の仇、これでも喰らいなあっ!!」


気合と共にアイアタルが口から灼熱の火の玉を吐き出そうとする。



「てやっ!!!」



だがそれより早く晶が交差した両腕を振り抜き、


真空の刃がアイアタルを両断し、さらに何本かの木を切り倒した。


両断されたアイアタルの上半身は仰向けに倒れ中空に小さな火の玉をほうって消えた。



「しゃくじょーがいればもっと簡単に倒せたのになぁ・・・」



晶はしばらく項垂れてからついにはしゃがみ込んだ。


そして少し経ってからスキル確認していないことに気付き脳内パネルを開く。


『あーあ、何にも変わってない。

 あんなに殴ったり蹴ったりしたのにな、ふんだふんだ!

 ・・・って、あれ?』


スキルに変化がない、ということは【七宝調伏】もそのままということだ。

晶は慌ててもう一度確認する。


『ある!【七宝調伏】がある!

 てことはアイテム欄の方はーえーとえーと・・・

 あるっ!!!

 【錫杖】があるよぉぉぉ―――――!!!!!』


晶は歓びのあまり雄叫びを上げる。


アイテム欄には【錫杖】が残っていた、カッコ書きで【修復中】となっていた。


それがいつ完了するかは分からないが、【錫杖】と再び会える、


それを知ることが出来た晶は歓喜の咆哮をしばらく続けていた。


姿を見せられない相棒へ、少しでも喜びと謝罪の気持ちが届くように、と。



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