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工夫の仕方


あきらは林地で少しの間(たたず)み、全身に刺さった羽根の痛みが消えるのを待つ。

待っている間、錫杖を地面に軽く叩きつけながら遊環を鳴らしきらめかせる。

周囲に何も無いため両肩の狼面はピクリとも反応しない。


『んー、でもこれが発動のサインだと思うんだよなー?』


さらに思い付いた新たなスキルの使用法をいくつか試す。

その内の二つぐらいは上手くいくように思われた。



『よし、あとは実践だね。』


晶は心を決め再び森林エリアの奥に向かい歩き出した。



先程より手前の位置で晶は黒犬の群れに襲われる、それもかなり数が増えている。


晶は錫杖を地面に叩きつけ遊環を鳴らし煌めかせ、そして吠えた。



「ウオオオォォォ―――――ン!!!!」



途端に両肩が周囲から何かを大量に吸い込み始めた。


晶は視覚ではなく【心眼】による感覚で周囲の黒犬達から何かを吸引していると感じた。


すると前回と違いヘルハウンドのみならずバーゲストまで地面にへたり込み、

そして光の粒子に変わり始めた。


晶は来里らいりの【聖慈雨】を浴びた時のような身体の回復を感じた。



『これはイケる!【吸気精】【降魔】【魔狼の咆哮】の合体技!

 これで【牛鬼うしおに】の小蜘蛛攻撃も止められるよね。』


スキルの併せ技に成功し晶は得意気に錫杖を振り回す。


さらに奥地へ移動して黒犬の群れを同様に斃し続ける。

やがて晶は新スキルを獲得する。

【同族殺し】という名前に晶は心の内側の顔を盛大にしかめる。


『うわー、なんか嫌な響きのスキルだなー。

 でも嘘では無いんだよねー。

 これ他のキャラだと付かない名前だよね?』


晶はそんなことを考えながら周囲に警戒の目を向ける。


今までの経験から強敵が現れることを確信している。


ほとんど待つこと無く、晶はすぐ近くに強敵の存在が出現したように感じた。


晶はそっと動きだし木々の間の草をかき分けその存在のもとへ向かう。



そこには巨大な花が咲いていた。



毒々しいぐらい真っ赤な花弁を広げた植物は今の人狼(あきら)の倍以上の高さがあった。


一瞬呆気に取られた晶だが、すぐにこの植物の正体に気付く。


その植物はゆらゆらと揺れたと思った瞬間に花弁の間から人間の女性の上半身を産みだし始めた。


その女性は体色が薄緑なのに髪は真っ黄色と明らかに通常の人間ではない。


そしてその女性は大きく口を開け突然大音量の怪音波を発生させた。



「ギィァァァ―――ッ!!」


「ウオオオォォォ―――――ン!!!!」


晶は繰り返してものにした【吸気精】【降魔】【魔狼の咆哮】の併せ技で対抗した。


両肩の狼面は砂漠でブエルの呪いを吸い込んだ様に広がる怪音波の力を吸収し終えた。


晶はこの巨大植物の正体に心当たりがあった。

怪音波を吸収し終えたところで話しかけてみる。


「やぁ、キミって【アルラウネ】くんだよね?

 あ、【マンドラゴラ】くんかな?

 私は【アスラ】だよ、ちょっとお話をしてみない?」


それを抜いたら即死効果のある叫びを放つ魔の植物、

それが【アルラウネ】、別名マンドラゴラやマンドレイクと呼ばれる存在だ。


知っていたからこそ今の呪いの叫びに咄嗟に対抗することが出来た。



「クキィ―――!」


アルラウネは晶の呼び掛けに対し、耳障りな音を女性の口部分から発生させる。

およそ人間では発声し得ない音のように感じられる。

そして地面から根と思われる茶色く太い足のよう部分を引き抜いて移動を始めた。


晶は短期決着を試みて両手を力強く叩き合わせた。


ゴオオォォォ―――――ッ!!!


迦楼羅狂焔かるらぐれん】が発動しアルラウネを炎の大蛇が包み込む。


だがアルラウネは炎の渦を何事も無いようにすり抜ける。


『しまった!亡霊系だったんだ!?』


晶は迦楼羅狂焔の発動によりごっそり気力が失われている。


「しゃくじょぉっ!」


再び錫杖を地面に叩きつけ【吸気精】を発動させ僅かに気力体力を回復させる。


アルラウネはそんな晶を恐れることなく近付き花弁を硬質化させ弾き出す。


晶は襲い来る花弁を錫杖で防ぎきりアルラウネの胴体部分である茎に全力投擲を行う。


錫杖はアルラウネの茎に突き刺さるがダメージは大きくないように感じられた。


さらに近付いてきたアルラウネはその太い根を晶へ横薙ぎにぶつけてくる。


晶はそれを真っ向から打撃で迎え撃つ。


振り回されてきた茶色い根に電撃竜巻込みのパンチを叩き込む。


バキンッ!と甲高い音が鳴り、何かが割れたことが感じられた。


晶はそれが相手側であることを確信し追撃する。


晶の判断は間違っておらずアルラウネの根は折れかけている。


根は一本ではないので他の根が次々に襲ってくる。


晶は折れかけの根への追撃を即座に諦め他の根の迎撃を真っ向から行う。


振り回されてくる根は殴り返し、地中から襲ってくる根は躱しつつ礫入りの蹴りをぶつける。


晶の中でアルラウネは【蒼翼鹿ペリュトン】と同タイプに選別された。


直接打撃が有効なタイプということだ。


「しゃくじょ―――っ!!」


晶は力強く地面に錫杖を叩きつけ最大限に光を発生させ周囲を照らす。


アルラウネは亡霊系のはずなのに動きを鈍らせる程度の影響しか与えられなかった。


だが晶にはそれで充分だった。


アルラウネのすぐ傍に接近を果たした晶は殴打と蹴撃を繰り返し放ち続けた。


バキンッバキンッとアルラウネが壊れ続ける。


「クキャァ―――!!」


悲鳴のようにも聞こえる音を立てアルラウネが高速で花弁を飛ばし硬質化した葉っ


ぱごと枝を振り回す。


しかし晶はそれさえも拳で叩き落としてみせた。


花弁は舞い散り枝は砕かれ葉が揺れ落ちる。


全力のストレートパンチがトドメの一撃となりアルラウネは茎が折れ、横向きに倒


れていった。


電子の靄を放ちながら消えていくアルラウネを晶は無言で見送った。


やや歯応えに物足りなさを感じたがそれを口に出すのがはばかられたのだ。




『さて、本命を探しに行こうかな。』


アルラウネの消滅を見届けた晶は【牛鬼】退治のために移動を始めた。

本日はまだ蜘蛛の巣どころか糸の一本も見つけられていない。

牛鬼の気配が感じられないのだ。


『でも前回もそうだしインドラも急に出てきたって言ってたしなー。』


晶は油断しないように感覚を鋭く研ぎ澄まし、草をかき分ける。


やがて、低い木の間を透明にも感じられるほど細い糸が繋いでいるのが感じられた。


一本見つけると続々と他のも見付けられていく。


気持ち悪いほどに絡み合った糸の塊もあるが、全てを躱して奥へと進んだ。



そして見付けた。



巨大なクモの身体、醜悪な牛の頭、白く尖った爪のような脚、毒々しい体色。


【牛鬼】が高い木々の間に大きな蜘蛛の巣を張り中央で待ち構えていた。



ゲボォ!


牛鬼は問答無用で口から小蜘蛛を吐きだし尻部分から糸を撒き散らし始めた。


晶はぼたぼたと落ちてくる小蜘蛛を錫杖で叩き潰し刺し殺す。


だが数十にものぼる数を捌ききることは不可能に近い。


晶は糸を避けつつ、相棒を地面に叩きつけ咆哮を上げた。



「ウオオオォォォ―――――ン!!!!」



魔狼の雄叫びは劇的な効果をもたらした。


小蜘蛛が一斉に消滅したのだ。



これには本体の牛鬼も動揺したようで糸の噴出も止まっている。


晶はどのスキルが効いたのか判断の付かないまま牛鬼目掛け錫杖を投擲する。


牛鬼は錫杖の飛来を察知して蜘蛛の巣を揺らしこれを躱す。


高い木々の上に位置取りをしている牛鬼へ届く攻撃手段は限られる。


インドラは【天上の白炎】と【電光雷轟】の広範囲攻撃によって接近戦に持ち込んだようだが、晶は迦楼羅狂焔が連発出来ないため同じ戦法は難しい。


大木の幹を【多段空歩】で繰り返し登る手段もあるがこれは体力の消耗が激し過ぎる。


牛鬼の許に辿り着いてもヘロヘロの状態では話にならない。



ということで、晶はハルピュイア戦後に開発・練習した新たなスキル活用法を繰り出した。


思いっ切り右腕を振り上げて大きな竜巻を発生させる、


すかさず竜巻を追いかけその渦巻の真上に跳躍する、


そして上方向に吹き上がる上昇気流に乗って真上に向かい【多段空歩】で垂直に駆け上がる。


この方法は晶を今までの三倍以上の高みへと舞い昇らせた。


急激に何もない空間を昇ってきた狼面の怪物に対し、

牛鬼は驚愕したかのようにただ眼前を見つめていた。



ゴオオォォォ―――――ッ!!!



晶は両手を叩き合わせ【迦楼羅狂焔】を発動させて牛鬼ごと蜘蛛の巣を燃やし尽くす。


牛鬼本体は炎に焼かれる寸前に逃げ出したが蜘蛛の巣はよく燃えた。


晶はぎりぎり炎に巻き込まれない位置から自由落下に身を任せ、華麗に着地した。



そのすぐ近くに牛鬼はいた。


大きな爪のような脚なのに地面をザクザクと刺しながらかなり速い動きで晶から距離を取っていく。


事前情報通り接近戦は好まないようだ。


だが晶としては是が非でも接近戦に持ち込みたい。


木の幹を伝っていく牛鬼に向け【軍荼利颯天】を連発する。


それは牛鬼には届かない低い弾道で飛んでいくが晶には二の矢があった。


右足を全力で振り抜き【金剛夜叉礫】を竜巻に向けて猛スピードで放ったのだ。


礫は塊のまま竜巻に飛び込むと同じ勢いで竜巻の上方向に弾き出される、


すなわち牛鬼目掛けて飛んでいったのだ。


狙いは的中して蜘蛛の胴体に礫がめり込み、脚は木の幹から離れ牛鬼は落下する。


木の下では晶が錫杖を構え待っていた。


落ちてきた牛鬼は【金剛破邪】の杖術により滅多打ちにされ、

接近戦の強さを見せられないまま電子の墓場へ直行してしまった。


「牛鬼くん、【アスラ】の技の冴え、堪能してくれたかな?」


晶は消え去る牛鬼に対して得意気に自画自賛の言葉を贈った。


それほど晶は今の戦いに対して満足出来ていた。


工夫した戦い方が出来たことに充実感を覚えていたのだ。



『戦い方を工夫した上での真っ向勝負!


 うん!素晴らしいね!』


両手を天に突き上げ、晶は勝利の雄叫びを上げ始めた。



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