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膨張する威


あきらを取り囲む【ブエル】軍団総勢四十九匹の怪物たち。


その長であるブエルは宙に浮かんだまま獅子の頭を中心に五脚を回転させる。



「さあお前たち!その大言壮語を吐く鬼女を焼き殺せっ!


 死に際に不様な言の葉を残せんように跡形無く消し炭にするのだぁっ!」


星の悪魔はだいぶ興奮した口調で部下たちを煽る。


キマイラ、ぬえ、カプリコーンの三軍団は己の能力を活かしながら迫る。


キマイラは断続的に炎を吐き出しながら、鵺は自身に雷を纏わせながら、


カプリコーンは毒々しい水を周囲に漂わせながら晶に向かい距離を詰める。



晶の眼には無策で迫る怪物たちが飛び込んできたご馳走にしか見えない。



「ウオオォォ―――――ン!!!!!」


まずは超音波入りの【魔狼の咆哮】をお見舞いする。


途端にカプリコーンがバタバタと地に墜ちてもがきだす。


さらに交差した両腕を振り放ち【毘摩狼斬】で地上の鵺たちを両断する。


「しゃくじょぉっ!」


そして空中へ飛び跳ねると次々とキマイラに飛び乗りその頭蓋を砕いていく。


時折地に降り立ちもがくカプリコーンや鵺にトドメを刺しつつまた跳び上がる。


時間にして一分もかからずブエルの配下である怪物軍団は全滅した。



「馬鹿なっ!?」


地獄の大総統【星のブエル】は戦慄した。


アスラと名乗る鬼女のあまりに圧倒的な暴威に恐れおののいたのだ。



対して晶は自分の右手に握られた相棒を感慨深げに眺める。


「しゃくじょー、なんかすんごく強くなってるねー。」


思えば晶が【狗賓】【タラカースラ】と徐々に大型化していくのに比例して、


【錫杖】もまたその大きさと威力が肥大化しているのが実感されたのだ。



「さぁっ!残るはブエル!キミだけだよっ!


 悪魔の大総統なんでしょ?一対一が怖いのかな?」


晶が挑発するとブエルは空中で器用に地団駄を踏み出す。



「ええいっ!かくなる上は我輩自らが相手してやろう!」


言うや否やブエルは足先に炎を宿した五脚を回転させ晶へと向かってきた。


晶は迫り来るブエルの獅子の顔面目掛けて錫杖を投擲せんと構える。


が、投擲寸前でブエルの眼が怪しく輝く。



「止まれぃっ!!」


ブエルの雄叫びに晶の身体が硬直する。


【魔狼の咆哮】とは違う、呪いのような不可思議な力で晶は動けなくなった。



無防備な星狼鬼に星の悪魔が体当たりを敢行する。


バスンと跳ね飛ばされた星狼鬼は身体のあちこちに炎のダメージを感じた。



『なに!?動けなかった!』


晶は混乱しながらも動けるようになった身体を確認して体勢を整える。


再び距離を空けた宙に浮かぶブエルを睨みつつ今の理解不能な攻撃を思い返す。



『ブエルの雄叫びで身体が動かなくなったのは間違いない。


 身体が動いてる間にあの雄叫びを止めるしかないっ!』


晶が逡巡してどう対処しようか迷っているのが伝わったのか、


ブエルは余裕を取り戻し高笑いを始めた。



「ふはははは!どうした?もう減らず口は叩かんのかアスラ?


 我輩の【カースボイス】が恐ろしくて動けんか?ふはははは!」



晶は痛む身体を励ましながら怒りを燃やしアドレナリンを分泌させる。



「ブエル!減らず口を叩いてるのはどっち!?


 笑うのは私に勝ってからすれば!?」



晶の言葉にブエルは笑いを収め無言で五脚の足先を燃やし回転させ始めた。



「愚かなる鬼女め、戦いに明け暮れるしか能のない貴様ら如き、


 我輩の敵ではないわ!喰らえぃっ!」



星の悪魔が再び星狼鬼へ迫る。


そしてその獅子の口が開き呪いの言葉を発する。



「止まれぃっ!!」



その言葉が放たれる寸前、星狼鬼は錫杖を振り回し地面に叩きつける。


錫杖の遊環が荘厳な音を鳴らし白い光を周囲に放つ。


そしてそれに呼応するかのように星狼鬼の両肩の狼の口が開いた。


狼の口は何かを吸い込むかのように周囲の空気の流れを変える。



「なんだとぉっ!?」



ブエルの眼にはハッキリと映っていた。


己の【カースボイス】の力がアスラの両肩の狼の口へと吸い込まれていったのだ。



慌てて空中で速度を落とす星の悪魔、


だがその眼前には煌めく錫杖の槍先が迫っていた。



「ぐがっ!!」



獅子の顔面を貫かれたブエルが断末魔を上げる。


キラキラと輝く粒子にその身を変えていくブエルを晶は見つめる。


「ブエル、また正々堂々と勝負しよう。


 次はもっと強い部下を連れてきてね。」



晶の言葉に獅子の顔が怒りに歪んだように見えたがすぐに消失した。


かなりの頭数を倒したおかげか晶は空腹感が消えていることに気付いた。


『うんうん、キマイラ達もそんなに弱いわけでもなかったもんね。

 ブエルはあの【カースボイス】以外はスキル無いのかなぁ?』


勝利の余韻に浸りながら晶はスキル確認をするが特に変化は無かった。

やはり現在の強さに見合った強敵でないとスキル進化は難しいと感じられた。


『【カースボイス】を破った時のあの感覚はなんだったんだろ?』


晶にも両肩の狼の口が何かを吸い込んだ感覚はあった、

だがそれは意識的に行われたものではないため再現が難しい。


『【吸気精】か【降魔】のどっちかだよねぇ?』


【タラカースラ】に進化した際の二つの新スキルは依然として謎のままだ。

先程の【カースボイス】吸引はスキルの字面からはどちらとも言えない。

錫杖を鳴らし光らせたことが発現のきっかけでよいのかどうかもわからない。


錫杖で何回か地面を叩き光らせたが両肩の狼はピクリともしない。

腹に回されたもうひとつの両腕も合掌したまま動かない。


『うーん、【バジリスク】に挑むのは後回しにして、

 今はこの身体に慣れるのを優先しようかなぁ。』


晶は方針を転換し荒地へ移動を始めた。

とりあえず【鬼殺し】的スキルの最後の一つを取るため森林へ向かうのだ。



晶は空腹感が無いためゆっくりと歩いて移動している。

体格が変わったためもう四足移動がぎこちなくなってしまったのが残念だった。


『この合掌してる腕が邪魔なんだよねぇ。』


ぼんやり考えながら歩く、両肩の頭や合掌する両腕は依然動かない。

尻尾の時とは全然感覚が違うように思われた。




ふと、索敵に反応が感じられ空を見上げる。

輝くように白い馬が白い翼を広げて飛翔しているのが見える。

それはぐんぐん近付いてきて晶の眼前に舞い降りた。



「久しぶりだね、アスラ。」


「おー、久しぶり、アルマロス。

 それが【猛天馬ペガサス】かー、綺麗だねー。」


現れたのはアルマロスだった。

メッセージをやり取りしているので進化の具合は伝わっている。

一角馬ユニコーン】の時も思ったが晶のセンス的に羨ましい美麗さだ。


「ふん、アンタの方は強そうだね。

 どうやら共闘はうまくいったみたいね。」


「そうだよー、アルマロスも参加すればよかったのに。」


「アタシはつるむのは好きじゃないね。

 本当はいまアンタと戦いたいとこだけど、アタシも馬鹿じゃない。

 強さの格が違ってるのは分かるよ、滅茶苦茶悔しいけどね。」


「アルマロス、そんな・・・」


晶は何と声を掛けていいか迷う。

そんな晶をアルマロスは気にかけずに言葉を繋ぐ。


「構わないさ、アタシも逆転を狙って色々やってる。

 次に会う時はきっと違う姿で強さも段違いになってみせるよ。

 楽しみにしてな、じゃあね。」


「あ、うん、またね。

 またメッセージ送るから!」


飛び立つアルマロスに晶は精一杯の声を掛ける。


強くなってきている自分を確認できたが、


それは寂しさを伴うものとして晶の胸に強く残るものになってしまっていた。



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