表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/100

眷属の親玉


熊童子を撃破したあきらはその消えゆく様を見届けるとへたり込んだ。

荒い呼吸を続け体力の回復を待つ。

最後の攻撃で倒せなかったら勝敗の行方は違うものとなっていただろう。


『たぶんだけど、熊童子が【エリアボス】だよね?

 これで、違うのが出てきたら、おしまいだなぁ。』


晶の懸念は幸運なことに杞憂だったようだ。

ウィッカーマン戦で【生贄の魂】を獲得したように、

今回の戦いでも【熊鬼の剛腕】というアイテムを獲得出来ていたのだ。


『いやー、さすがエリアボス、スキルが進化してる。

 【狼爪一閃】が【毘摩狼斬びまろうざん】、

 そんで【縮地】とか【稲妻瞬歩】とかの移動系スキルが全部統一されて、

 【瞬動】になったんだね、これはすごそう、いひひ。』


スキル進化にご満悦の晶。

いまの熊童子戦でのスキルの活躍にも顔を綻ばす。


『【軍荼利颯天】はパンチと併せると雷も付与されるんだなぁ。

 【金剛夜叉礫】はキックと同時に出せるし威力が凄い。

 でも【迦楼羅狂焔】は前よりもさらに連発出来なくなったなぁー。』


【迦楼羅狂焔】は発動してしまうとしばらく次が撃てない。

気力をごっそり奪うスキルになってしまった。


『その代わり威力はグッと上がってるからいいんだけどー。

 使いどころを見極めないとなぁ。』


ここで晶は思考を変え、先程の熊童子や黒鬼との会話を思い返す。


『ついに会話をするNPCが出て来たよー!

 これはみんなに報告していいんだよね?』


強くなるための情報は教えなくていいと言われた晶だが、

【SR】の謎に関しての情報なら問題無いように思われた。


自説が正しかったことにウキウキしながら晶は仲間たちにメッセージを送る。


『強い敵ほど知性が高くなるのかもしれないなぁ。

 またピュイピーに会いに行ってみようかなぁ。』


晶は次の目的地を林地と決めた。


だがまだ空腹になっていない、それだけエリアボスは強かったということだ。


晶はしばらく【毘摩狼斬】や【瞬動】の練習に励んだ。



「うっわ、【瞬動】って速過ぎて逆に使い辛ぁい。」



晶は速すぎる移動に感覚が追い付かない。

しばらく【瞬動】に慣れるため時間を費やす。

やっと慣れてきた頃に空腹感も襲ってきた。


『よし、行こっかな。』


晶は【瞬動】で身体がブレるような動きをしつつ岩場を出発した。




『NPCと全然会わないなぁ。』


岩場では鬼が逃げ出し、林地へ着いても鳥や鹿が逃げ出す。


もはや相手はグリフォンか以津真天しかいないかと晶には思われた。


『そういやこっち(・・・)の林地にはピュイピーはいないんだったなぁ。』


以前そのようなことをタモンが言っていたと到着してから気付いてしまった。


『んでこの先には別の【草原】があるんだよね。

 以津真天は後回しにして草原に行こっかなー?。

 エリアボスがいるかもしれないし。』


晶はまだ足を踏み入れていない別方向の草原に少し興味が湧いた。


『ピュイピーの代わりに別のNPCがいるかもだしね。』


そんな考えに至り晶は四足に切り替え【瞬動】で加速して林地を駆け抜けた。



僅かな時間で晶は草原に到着する。


【蛾の天敵】効果で弱い虫たちは近寄ってこない。


『ここでもムカデくんが出るのかなぁ?』


晶は既に二度倒している巨大昆虫を思い浮かべすぐ消した、

あまり思い出したくない外見の敵であることに気付いたのだ。


そんな晶の【心眼】に知覚される存在が近付いてきた。


『んー?この匂いは覚えがあるぞー?』


現れたのは【大蟹】だった。


前回の初遭遇時は【薬叉礫】連発の力技で撃破した。

今回はその礫スキルがパワーアップしている、比較に丁度良く思われる。


「カニくん、前に戦ったこと、覚えてる?

 私、今回こそはキミよりだいぶ強いこと、証明出来るよ!」


晶の言葉に反応したかどうかわからないが、大蟹はぶくぶくと泡を吐き始める。

あの泡が実は曲者くせもので防御能力を大幅に上げる存在である、

晶は前回の戦いでそれを学んでいた。


「つまりー、まずはこれだっ!」


そういって晶は両の腕を交互に振り【軍荼利颯天】を大蟹に向け飛ばす。


竜巻は大蟹に激突して表面の泡を巻き込み吹き飛ばす。


その間に距離を詰めていた晶は前回同様礫の嵐を撒き散らす。


「でりゃりゃりゃ―――っ!」


大蟹はすぐに原形を留めぬ無残な姿になり電子の霧を撒き散らし消えていった。


「どうだいカニくん?強かったでしょ?」


微笑みながら余裕の面持ちで大蟹に語らう晶。

先ほど熊童子を倒せたことで自分の力にかなり満足いくものがあるようだ。


空腹感が僅かばかり軽減され気持ちが落ち着いてくる。

晶はどうやってエリアボスを探そうか、と思案する。

両手首を腰に当て考える晶の索敵に、初めてと思われる敵が感知された。


『んー?これは?

 プレイヤーかな、いやNPCっぽいかな?

 なんか分かり辛い人が来たなー。』


動き方に知性があるような、ないような、微妙な存在が近付いてきている。

【危険予知】の反応具合からそこまでの強敵ではないと判断出来る。

だが油断は禁物だ、過去に同じような反応の難敵に何回も遭遇している。


『どうせなら可愛い敵が出ないかな?

 あ、でも可愛いと倒したくなくなっちゃうか、難しぃー。』


晶が取るに足らないことをぼんやり考えていると、

バサバサと翼をはためかせ、異形の獣人といった存在が視界に入ってきた。



その頭部は鹿そのもので首が長い、上半身は人間のものだが背中には翼がある。

下半身も鹿なのだが尻尾は燃える炎の蛇のようにうねうねと動く。

全体的に色味は黒だが上半身の人間の肌がやけに青白く見えてしまう。


晶がいつも通り何と言って声を掛けようかと迷っていると、

逆に鹿獣人の方が大声で晶に叱責を始めた。



「貴様!我は26の軍団を率いる序列34番の地獄の大伯爵【フルフル】であるぞ!


 何の挨拶も無くこうべを垂れることも無い!無礼千万である!」



晶はますますこのフルフルなる獣人がNPCなのかわからなくなっている。

あまりにも流暢に言葉を並べるフルフルに驚きが隠せない。

そして同時に【あの嫌悪感を感じる人物】がフラッシュバックしてしまう。



「この誇り高き大悪魔の眷属たる下々の者ならば地に這いつくばれ!


 小賢しくも多くの命を糧にしおってからに生意気な……ギャボォ!」



大悪魔と自称していたフルフルは晶の【毘摩狼斬】によって両断されてしまった。


べらべらとよく喋っていたが強かったかどうかはもはや分からない。


晶は次会ったらまた秒殺しようと固く心に刻み込んだ。


ヤツ(・・)に名前も似てるし雰囲気も似てる、秒殺されるに相応しい理由だった。



空腹感がほんのちょっぴり軽減したことに晶が鼻を鳴らしていると、


待っていた本命の存在感がゆっくりと近付いてくるのがビンビンに感じられた。





やって来たのは巨大な亀だった。


インドラの白聖象より数倍大きい。


青緑の甲羅が鈍く光り金属質の輝きを見せる、

あの甲羅には攻撃は全く通らないだろうと思わせるものがある。


甲羅は完全に亀のものなのだが、その中身は違うものが詰まっていた。

飛び出た頭部は甲殻類の目玉と口、前足は巨大なハサミ、

足は細長くワサワサと動いている、つまり【大蟹】が詰まっているのだ。


『こぉれは、防御力が激強モンスターってことだよねぇ?

 このプレッシャー、こいつがエリアボスで間違いないね。』


晶が相手の攻略法を考えていると、またしてもその相手が声を掛けてきた。



「我が名は【ザラタン】。我が眷属の仇、取らせてもらうぞ。」



その巨体に相応しい威厳のある男性的な低い声が周囲一帯に響く。


【眷属】とは先ほど晶が倒した大蟹のことだと思われた。



「我こそは魔界の人狼【アスラ】、汝が眷属は強敵ゆえに倒した次第。


 命のやり取りは魔界の常、せめて正々堂々と勝負しませいっ!」



晶の観劇趣味丸出しの名乗りがザラタンの巨体に向かい放たれる。



「よかろう、【アスラ】とやら。


 その小さき身体の全ての力を振り絞るがよい。


 我がその全てを撥ね返し貴様の命を眷属に捧げようぞ。」



「ザラタン、もう眷属の心配などしなくていい世界へ送ってあげよう。


 この【しゃくじょー】の輝きを恐れぬならば、かかって来いっ!」



「その意気や好しっ!」



ザラタンはガチガチと硬質な足音を立てながら人狼へ迫る。


人狼は相手が巨体ゆえに小回りが利かないことを見抜き【瞬動】で駆ける。


人狼はあっという間に【多段空歩】でザラタンの背中へ飛び乗る。


無防備な背中からハサミや頭部を攻撃しようと錫杖を構える。


が、突如として人狼はザラタンの背中から転がり落ちるように回避行動をとった。


寸刻前まで人狼がいた空間を黒く鋭い影が唸りを上げ過ぎ去っていく。


それはザラタンの尻尾だった。


ザラタンの尻尾は蠍の尻尾に酷似していた、おそらく毒もあると思われる。



「なるほど、セーフティゾーンは無いってことかぁ。


 やるじゃん、ザラタン。」



「アスラ、小さき者よ。


 じきに口を開けぬようになる、今のうちに好きなように申すがよい。」



「ふんぬー!結構おしゃべり出来るんだねザラタン!


 そっちこそもうおしゃべり出来ないようにしてやるんだからねっ!」



晶はNPCの会話能力に驚きと怒りを覚え動き出す。


かつて出会っていない知性を湛えた強大な敵を向こうに回し、


晶は焦りが自分の中に積もり重なっていくのを感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ