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別々の道へ


「え?じゃあ全員同じアイテムを同時に手に入れてたの?」


晶が来里から説明を受けて驚きの声を上げている。

他の面々も驚いた様子を見せているが、

タモンだけは何やら思案しており考えをまとめているようだ。

そしてそのタモンが口を開く。


「うーん、なるほどね。

 どうやらHCヒュージコンピュータの方針としては

 協力プレイを全否定するわけじゃないようだな。」


「そうだね、むしろ他のプレイヤーを騙す行為はダメなんでしょ?

 弱いキャラしか選択出来なくなるみたいだし、ね。」


「ほほほ、なんにしろアスラもアイテム取れて良かったよ。

 次会ったとき気兼ねなく勝負出来るものね?」


「なるほど、さすがインドラ。

 その通りだね。」


「うわぁ、なんで姉ちゃん達そんなに戦いたがるの?

 いま戦い終わったばっかなのに。」


来里が呆れたように晶に問いかける。


「シャチは戦うのが嫌なの?」


「うーん・・・NPCと戦うのは問題ないけど、

 せっかく仲良くなったみんなと戦うのは・・・嫌かなぁ。」


来里の言葉にタモンやナッキィは微笑み、インドラは眉尻を下げる。

対して真剣な表情になった晶が来里に語りかける。


「ら、シャチ。

 私ね、仲良くなれたからこそもっと闘いたい。

 シャチが言うように、闘わないでも仲良くなれるかもしれない。

 でも闘って、闘って、それでも仲良くなれる方がきっとすんごく嬉しい。

 そう思うの、変かな?」


晶に真っ向から問いかけられて来里は返事に窮する。

普段人工知能相手に人間の感情の機微を学んでいるが、

それはあくまでも過去に生きていた人間を模した感情だ。

来里の中に晶が変かそうでないかを定める知識は備わっていないのだ。


「ご、ごめん姉ちゃん。

 よくわかんないよ。」


「アスラ、シャチが困ってるよ。

 アタシは闘うのは大賛成だね。

 だからいま進化したスキルとかは教えなくていいよ。

 闘う時のお楽しみってやつさ。」


「ほほほ、ナッキィ、良いスキル進化あったの?」


「だから教えねーっての!

 アタシはアスラみてーに素直に伝えたりしないからな。

 あ、アスラ、闘いたくない時以外はあんな毎回メッセージ送らなくていいぞ。」


「えー?でも攻略情報隠すのってフェアじゃなくない?」


晶の言葉に少し考えたタモンが口を開く。


「じゃあこうしようか。

 攻略に重要な情報とかはシャチ君に伝えるんだ。

 シャチ君は俺たちと闘うことに消極的なんだから構わないだろ?

 そして俺たち四人はどうしても行き詰まったらシャチ君に教えを乞う。

 まぁ俺たちにもプライドがあるからね、そう頻繁には訊かないだろうし。」


「ほっほー、いいんじゃない?

 シャチ次第だけどバランス取れそうな気もするし。」


「そうだな、別に強くなる方法を教えなくてもいいんだろ?」


「教えたい人だけシャチに伝えりゃいいさ。」


「はっ、甘ちゃんどもめ、アタシは勝負に勝つまで教えないよ?」


「あぁ、それでいいんじゃないか?

 勝ったら教えてくれる、ってことだろ?」


「ほほほ、じゃあ勝ち続けて教え続けようかな。」



ウィッカーマン、ヒュドラというボス級の強敵を二連破して

皆腹が満たされ和やかに話している。


晶も至福の感情が溢れている。

どうにかここにいる仲間たちにその気持ちを伝えたくなった。


「あ、あのねみんな!

 共闘してくれてありがとう!

 さっきヒュドラに呑み込まれてもうダメだと思った!

 でもみんなが助けてくれた!

 本当にありがとう!」



晶の真っ直ぐな気持ちの吐露にみなも応える。


「あぁ、ヒュドラの出現で俺は正直ビビってた。

 でもアスラが一人で飛び出していった時、

 俺はどうしても助けなきゃって思ったんだ。」


「ふふ、ワタシあの時思ったよ。

 アスラって小さい時に観てた物語のヒーローみたいだなって。」


タモンとインドラに続いてナッキィも話し出す。


「まったくさ、気が付いたらアスラが化物に向かって特攻したってんだからね。

 後先考えないで突っ込むのも時と場合によるんだ、覚えとけよ?

 ま、今回は結果的にうまくいったけどさ。」


「でもナッキィさん、

 ヒュドラの毒が無効化出来るかわからないのに真っ先に飛び出しましたよね?

 あれ無効化出来なかったら共倒れでしたよ。」


「ほほほ!アレはカッコ良かったよナッキィ!

 ワタシもアレ見たら夢中でヒュドラに突進しちゃったの!」


「な、なんだよやめろよ。

 実際アスラを引っ張り出したのはタモンだろ?

 あーいうのがヒーローじゃねーか?」


「いや俺も無我夢中だった。

 引っ張り出した時もっと格好良い台詞でも言えば良かったな。」



仲間たちが話し合う姿に晶は込み上げるものを感じた。


幼い頃に憧れた、童話の中にしかいなかった仲間が、目の前にいるのだ。



「ありがどうみんな、わだじうれじぃ。

 今日のごど、ずっど忘れないがら……。」


泣き声になった晶に気付き四人にもその感動が伝播した。


「アスラ、ワタシも嬉しいよ。

 友達って本当に素晴らしいと思えたの、ありがとう。」


「姉ちゃん、僕も忘れないよ。

 一緒に【SR】しようって誘ってくれて本当にありがとう。」


「俺も感謝している。

 アスラと出会えてこうして共闘出来たのは幸運と思えている。

 ありがとうなアスラ。」


三人が次々に晶に感謝の言葉を伝える。

最後にナッキィがぶっきらぼうに話し出した。


「まぁ、なんだ。

 アタシに三回も勝っておいて不様に負けるのは無しだからな。

 助けたとは思ってないから共闘の礼だけ言っとく、ありがとな。」


皆の感謝の言葉に晶の感情は高まるところまで高まってしまった。


「ヴヴゥ、ごっぢごぞ感謝だよぉ!

 ざいごうのぎぶんだよぉー!」



その瞬間、


「なんだ!?」

「え!?」

「これは!?」


その場にいた五人の身体が白く発光した。


それは一瞬だけそれぞれの全身を包みこみ、すぐに消えた。



「なんだったんだ今のは?」


「わかんないです。

 あ、スキルとかアイテム見てみましょうよ。」


来里の言葉に五人とも脳内パネルを開き確認する。


すると全員にスキルが追加されていることがわかった。


「【朋友の赤誠】か、何のことか分かるかシャチ?」


「うーん、友達の真心、という意味だと思うんですけど・・・

 何のことだかよくわからないです。」


「なんにしろ悪いスキルじゃなさそうだ。

 またキャラ進化に影響があるやつじゃないのか?」


「そうだね。

 ほら、アスラ、そろそろ泣き止んで、ほらっ!」


「うわわわっ!」


そう言うとインドラは鼻を伸ばし晶を掴まえると自分の背に乗せた。



「んふぅー、ありがど、インドラ。

 ちょっど落ち着いだよ。」


鼻声で礼を言う晶にインドラは楽しげに笑う。


まだ激闘の余韻は残っているが今日はこれで解散することとなった。



「じゃあ次に出会って双方が空腹なら闘う、それでいいかな?」


「あぁ、いいよ。

 で、アンタらこれからどうするつもりなのさ?」


「私は単独でエリアボスに挑もうと思ってる。

 あと【鬼殺し】的なスキルを取って出会える敵全員に会う。

 そしたら別エリアに移動しようかな。」


「そっかぁ、僕はどうしようかなぁ。」


「シャチ君、よければワタシと少しだけ共闘続けない?

 ワタシ大きいから毒攻撃が避けきれないの。

 エリアボスはみんな毒がありそうだから一緒にいてくれると心強いの。」


「えー?姉ちゃん、どう思う?」


「それはシャチが決めることだよ。

 私はしばらく一人で強くなろうと思ってるし。」


「おいシャチ、いい機会じゃねーか。

 たまには姉ちゃん以外から学びなよ。

 ヒュドラにかました最後の攻撃はいい感じだったしさ。」


「あぁ、人見知りのインドラにとってもいいことじゃないか?

 シャチ君さえよければ俺からもお願いするよ。」


来里はタモンとナッキィの言葉に背中を押され、

少しはにかみながらインドラに了承を伝えた。

晶は少しだけ寂しさを覚えたが来里の成長を願いぐっと堪える。



「よし!じゃあそれぞれ別々の方向へ行こう。

 共闘してすぐに闘うのはさすがに嫌だしな。

 俺は沼地を飛び越えて山に向かう、

 もう一度飛竜を見に行こうかと思うんだ。」


「じゃあアタシは砂漠に行こうかな。

 同じ蛇タイプらしいからね、毒無効出来るなら戦えそうだし。」


「ハァム、じゃあワタシは森の蜘蛛に挑もうかな。

 マンティコアにもリベンジしたいし、シャチ君どう?」


「はい!大丈夫です!」


「すると残りはタモンと闘った林地で【以津真天】かー。

 それともまだ未発見の草原か岩場のエリアボスを探すか。

 うーん、悩むなぁー。」


悩んだ末とりあえず岩場に向かうことに決めた晶。



仲間たちは四方へ別れ歩き出す。



晶は名残惜しさを押し殺しながらも、背後を何度も振り向き手を振る。



今日の佳き日を生涯忘れまいと晶は心に決めていた。



大切な想い出を胸に、晶は自分が少し成長できたように感じていた。



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