集う仲間達
晶たちはフォーラムでの話し合いを終え、
それぞれがホームへ戻り消えていく。
最後に来里と挨拶を交わし晶もホームへ戻った。
『あー、もっと話すこといっぱいあったのになー。』
晶は事前に思っていた話題を半分も出せなかったことを悔やむ。
来里が戦わずにアイテムを取得した件や、ハルピュイアが強さを増した件、
トロールの他に知性ある敵はいないか?、草原の真のエリアボスは誰か?など、
話すことはたくさんあったのに時間が有限なことが恨めしい。
晶はアルマロスにメッセージを送ると電子世界から抜け出した。
そして家族の待つ居間へと向かう。
晶は上機嫌で話し合いの内容を伝え、
明日の共闘に向け本日と同じ内容の申請を明日の予定に組み込む。
また母と風呂に入り【友達】というものについて考えていることを伝える。
母に優しく微笑まれその気持ちは【ゆっくりと育てる】ことが大切と教えられた。
晶は自室の全包ベッドで何度も観返した子供用のホログラム童話を起動する。
主人公が友達と力を合わせ冒険を成功させる物語だった。
晶は温かい気持ちが胸に広がるのを感じつつ、眠りに落ちていった。
「おはよう姉ちゃん、
昨日の夜さ、楽しみでなかなか眠れなかったよー。
こないだインドラさんに誘ってもらった時に励ましてくれてありがとね。
こんなに楽しみに思えるなんて考えられなかったよー。」
朝食後に電子世界に赴くと来里がすぐに合流してきた。
かなりテンションの高い又従弟をなんとか宥め授業を開始した。
ノルマの時間を終え昼食も済ませ、いよいよ決戦の時が来た。
「それではゲームを再開します。
生き残るため、戦うのです。」
もう聴き慣れたアナウンスを目を閉じながら受け入れる。
今日はなんだかニュアンスが違って聞こえた。
『そう、戦うんだ、【みんなで生き残るために!】』
晶は強い決意と共に眼を見開く、荒地が広がっていた。
まだ来里はスタフインできていない、フレンド表示が暗いままだ。
しかし次々と並んでいる表示が明るくなっていく。
『うわー!なんだか緊張してきた!』
一番気配察知能力が低い来里の所へ集合する手筈になっている。
来里の存在が晶の索敵に引っ掛かかった。
『よし、行くか!』
晶は勇んで駆け出した、冒険が始まるのだ。
初めて【友達】と一緒にする冒険が、いま始まるのだ。
「あ、姉ちゃん。
僕まだドキドキしてるよ、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、楽しみ過ぎなだけだって。
姉ちゃんもそうだよ、ドキドキしてる。」
来里と合流した晶は疼く気持ちを抑えきれず四足になり大地を踏みしめる。
全身から気合を放出するように身を震わせていると強者の気配を感じた。
岩場の方角の空を見上げると飛行する人型の影が見えた。
その影はぐんぐん近付いてきて二人の目の前にスッと音も無く舞い降りた。
「お、俺が三番目か。
二人ともこの姿で会うのは初めてだね。
【烏天狗】って二人は知ってた?」
降りてきたのはタモンだった。
頭部は黒い鳥のようで円錐形で黄金色の飾りが付けられている。
身体は羽根の生えた人間体だが黒い羽毛で覆われている。
数百年前の日本の修験者と云われるものの服装に身を包む妖怪だ。
その手には【宝棒】という槍を持っている。
「烏天狗はゲームとかで良く見るし昔話で出てきますよ。
日本だと割とポピュラーな方の妖怪だと思います。
結構イメージ通りの烏天狗に見えますよ。」
「そっか、この世界は鏡が無いからさ、
自分の姿がよくわからないのが嫌だよね。
川のあるエリアに行けば自分を見れるかな?」
来里と話をしながらタモンは宝棒を振るっている。
昨日取得したばかりなので手に馴染ませているのだろう。
そんな三人に気配を感じさせず近付く者がいた。
晶が振り向き目を合わせると少しガッカリした様子を見せる。
「なーんだよアスラ、こないだより気配探知が鋭くなってんじゃんかよ。
ビックリさせてやろうと思ったのに。」
ナッキィが蛇行しながらスルスルと三人の所へやってくる。
やってきてすぐにナッキィは笑い出す。
「アッハハ、アスラの言う通りシャチはなんか面白いねぇ!
なんでピンクなの?こういう生き物なの?え?神様の子供?嘘でしょ?」
ナッキィは来里のガネーシャの姿に笑いのツボを刺激されたようで笑い続ける。
来里は昨日の晶で笑われる反応に慣れてしまっており、
愛想笑いしながら鼻や背中から生えている腕を動かす訓練をしている。
晶もナッキィと話しながら【狼爪一閃】を虚空に放ち精度を研ぎ澄ます。
ナッキィもまた【ハルバード】を振り回し地面に叩きつけて訓練し始めた。
槍状の鉄棒に斧の刃がプラスされたハルバードはかなりの重量に見える。
だがラミアの膂力はかなりのものらしく軽々と振るっている。
「いいねぇナッキィ、ハルバードって強そうだね。
少し模擬戦してみる?」
晶の提案にナッキィは獰猛そうな笑顔を浮かべる。
「いいよ、でもアスラ、アンタの武器は木の棒だろ?
アタシのハルバードを受けたら折れちまうんじゃないか?」
「ふっふー、私のしゃくじょー君は【金剛杖】と云われるぐらい頑丈なの。
それに私の相棒としてどんどん強くなっている手応えがあるんだ。
ハルバード相手でも折れないと思うよ。」
「ほぅお、いいね。
じゃあ少しやろうかっ!」
言いざまにナッキィはハルバードで横薙ぎに払う。
晶は宙に飛び【二段跳び】による空中からの方向転換でナッキィの眼前に迫る。
ナッキィは晶による錫杖の石突での突きをハルバードの柄を回転させ叩き払う。
先程の晶の言葉通り錫杖はハルバードで叩かれてもビクともしない。
晶は続けざまにナッキィの頭部や脇腹へ目掛け錫杖を振り回し叩きつける。
ナッキィは重いハルバードを器用に回しながらそれを受ける。
晶が十連撃以上叩き込み一息つくと攻守交代になり、
ナッキィがハルバードを振り回し重い攻撃を仕掛け始める。
斧の部分を受け止めるのはさすがに躊躇われるので受ける位置を考え応酬する。
錫杖の柄とハルバードの柄がぶつかり二人は両手で押し合う。
「ウッフフ、アスラ、速さだけじゃなくて力もあるんだねぇ?」
「ふへへ、こうやって闘わないとそういうのわかんないね。」
二人は同時のタイミングで押し合い距離をとる。
再び槍を交えようかと構えたところで終了を告げる声が聞こえた。
「ワゥワ!なんでもう楽しそうなことしてるの?
ずるいよ二人とも!」
インドラが到着したのだ。
晶は進化したインドラを見るのは初めてだった。
いやその場の全員が初めてのようだった。
現れたインドラに驚いている様子が見てとれる。
デカい。
【白聖象】とインドラは言っていた。
間近で見ると象とはこんなに大きいのかと驚きが隠せない。
これはキャラとして反則なのではないかと思うほど大きい。
同じ象のキャラなのに来里とはえらい違いだな、と晶は思った。
「ほほほ、遅れてごめんなさい。
かなり急いだんだけど最初砂漠の近くに出ちゃったの。
でも沼地に近付いたら強い人の匂いがすごいからすぐわかったよー。」
「強い人の匂い?どういう匂いですか?
僕はまだわかんないなぁ?」
「ほっほほ!シャチ君!
話通りすごく可愛いね!どれどれ?良く見せて?」
そう言うとインドラは白い鼻を伸ばして来里をその鼻先に乗せ顔の近くに寄せる。
インドラの鼻に座る形になった来里は半笑いのまま動けないでいた。
「あのー、インドラさん。
顔が三つあるようなんですけど、どういう感覚なんですか?」
インドラは三つの顔がある白象の姿をしていた。
動いているのは正面の顔だけだが左右に付いた顔も眼鼻口が存在している。
「ほほほ、まだ慣れてなくて真ん中の顔がメインの感覚だよ。
右と左の顔は視界が広がっている感覚かな?
でも慣れたら鼻も動かせそうな感じはしてるよ。」
「へぇー。」
横で聞いていた晶が興味深げに感嘆の声を上げる。
「顔がいくつもあったら感覚がオーバーヒートしそうだけどなぁ?
でも鼻での攻撃が三箇所で出来るようになったら強そうだね。」
「そうかも、でもまだ動かせないから今日の共闘には間に合わなそう。」
「あ、インドラさん、僕まだ鼻がうまく動かせないんです。
コツを教えてもらえますか?」
「ほほほ、いいよ。
でも時間が惜しいからね、歩きながらにしようか。」
「はい、そうですね。
では行きましょうか、みなさん。」
来里の言葉に晶らは頷き歩き始めた。
既に戦意は高められるだけ高まっている。
来里はそのままインドラの背に乗せられ歩みと共に揺られている。
そのインドラは上機嫌に鼻先にヴァジュラを持ち振り回し進む。
そしてその上を低空飛行して周囲を警戒しながらタモンがついていく。
インドラの右を晶が四足で歩き、左をナッキィがスルスルと蛇行する。
五人は沼地の奥を目指す。
エリアボスとの戦いの時が迫る。
死力を尽くして戦える相手がこの先に待っているのだ。
晶は心底の闘争心がこれ以上なく燃え広がっているのを感じていた。