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同族の群れ


あきらは森へと歩きながら来里らいりとスキルの話を続ける。

傷を癒す【聖慈雨】がかなり羨ましいようだ。


「いいなー、傷を治すスキルってさー、

 他のゲームだと結構あるよね?

 【SR】だと初めて聞いたよシャチの【聖慈雨】みたいなの。」


「うん、そうかもね。

 姉ちゃん、そういうのも夜にみんなと話そうよ。」


「そだね、うひひ、みんな驚いちゃうかもね。」


晶は悪戯っこのような笑顔で来里に話し続ける。

来里も晶の話に対し一言一言に相槌を打ちながら反応する。


「そういやシャチは他のプレイヤーとどれぐらい対戦した?」


「うーん、僕は弱いからいつも逃げてるなぁ。

 明らかに勝てない勝負なら避けてもいいよね?」


「えー?私なら闘うけど。

 んー、でも明らかにヤバイ奴だとしょうがないかも?」


「そうだね、急に姉ちゃんみたいなのが出たら僕は逃げるね。」


「えへへー、姉ちゃんそんな強そうに見える?」


来里は内心で『超ヤバそうに見える』と思ったが、

それが晶にとって褒め言葉になるかどうか微妙なので適当に誤魔化した。

こんなヤバそうな人狼に喧嘩を売る強者つわものはそういないように思えた。



やがて木々が生い茂る森林地帯に到着した。

大木が密集する森林にはまた大型の獣の気配がそこかしこに感じられた。


「シャチ君、では森の入り口辺りで虎や熊と戦いアイテム獲得に励みなさい。」


「わかりました師匠。

 師匠は何するんですか?」


「うむ、気は進まないけどマンティコアというキモい怪物を倒してくる。」


「へぇ、強いんですか?」


「強いというか速い。

 攻撃が当たれば勝てる、当たらなきゃ負ける。」


晶の説明に来里は軽くため息を吐く。


「あー、僕だと絶対勝てないタイプ。

 さっきのハーピーにも躱されまくっちゃった。」


「咄嗟に動けるような感覚を常に持って戦って。

 【危険察知】まだ取れてないよね?

 相手の攻撃をギリギリ躱すようにして【危険】とは何か肌で感じるの。」


「虎とか熊相手にそれ出来るかな?」


「シャチ君はまだ敵の強さが把握できてないねぇ。

 だから逃げなくていい相手に逃げて【逃げ足】スキルが取れないし、

 【危険察知】が取れないんだろね。」


晶にさらっとダメ出しされて凹む来里。

だがその課題をクリアすればさらに強くなれると思えた。


「分かりました師匠!ギリギリの戦い、やってみます!

 師匠もお気をつけて!」


「うむうむ、ではな。」


晶は手を振る代わりに右腕の狼爪をジャギンと繰り出し森の奥へ去っていった。


強そうな人狼が消えた途端に虎が姿を現す。

来里はこれが野生の本能かと感心しながら角を構え、戦う姿勢に移行していった。





『探してみるといないもんだなぁ。』


森の中をぶらぶら四足で散歩する晶。

まだ【鬼殺し】のような特殊スキルは取ってないのに虎や熊が逃げている。

エリアボスの巨大蜘蛛とはまだ戦いたくないので、

現状森林で晶の知っている強敵は【人面虎マンティコア】だけだ。


『あのキモいやつ以外で強い敵いないかなぁ?』


晶はまだ空腹感が軽微なためのんびりと暗い森の中を歩きまわる。

そんな晶の索敵に群れをなす一団が知覚された。



十匹ほどの集団は晶の方へ真っ直ぐ向かってくる。

統制のとれた動きで木々が生い茂る中をするすると近付いてきた。


やがて木々の隙間から現れたのは同族と思われる存在だった。

しかし彼らは晶よりかなり【犬】に近い。


そしてその全てが黒い存在たちだった。

群れのリーダーらしき存在は長毛種の黒犬だった、他のものより一回り大きい。

その頭部には黒いツノが生えており、爪は長く黒く鉤形をしている。

他の犬たちも真っ黒に塗りつぶされたような姿で獰猛そうに唸っている。


『不気味だなぁ、でも単体の強さはそこまでじゃない?

 熊より強そうなのは確実かな。』


晶は錫杖を右手に顕現させ地面を叩いた。

遊環が音を鳴らし煌めき黒犬たちを一瞬照らす。

するとそれまで統制のとれていた黒犬の群れが足を竦ませるのが分かった。


『ふーん、亡霊的な存在なのかな?』


林地の蒼翼鹿が思い出され、どの攻撃が通用するか懸念される。



晶はまずはいつもの声掛けをしてみる。


「やぁ、クロイヌくん。

 私は狼女だよ、イヌ科の仲間だね。

 仲良くできるかなぁ?」


晶の明るい呼び掛けに対し、黒犬たちは暗い遠吠えで応えだした。


ワォォ―――ン!

ワォォォ――――ン!


森に木霊する黒犬の遠吠え、その木霊が消える前に群れは動き出した。



人狼の背後へ回り込むように駆ける黒犬の群れ。


「ウォォォ―――――ン!!!」


人狼も咆哮を響かせ錫杖を重なり合う群れに先制の投擲を行う。


錫杖は一匹の黒犬を捉えその姿を電子の塵へと変えていく。


一匹が犠牲になる間に群れは人狼の後背から次々と違う角度で跳び掛かる。


人狼は跳び上がり避け、更に【二段跳び】による横っ飛びで大きく位置を変える。


跳び上がった黒犬たちは空中で避けることも出来ず飛来する礫の餌食となる。


しかしここで人狼を驚かせる事態が起こる。



礫によって肉体を失った黒犬が黒く揺らめく炎の塊に姿を変えたのだ。



三つの黒炎に再度【薬叉礫】を放つが蒼翼鹿同様にすり抜けてしまう。


その間に他の黒犬たちがリーダーの角黒犬指揮のもとまた集団戦を仕掛けてくる。


【縮地】で瞬時に位置を変えようとするが動線上に黒炎が入り込む。



「あぁっちぃ!」



黒炎は霊魂のようなものかと思ったが現実的な熱も持っているようだ。


人狼はその炎に脇腹を軽く焼かれ痛みに苦しむ。


『かすってコレじゃあ、直撃したら痛くて動けなくなりそう。』


動きを鈍らせた人狼に、好機と見た黒犬たちが襲い掛かる。


「しゃくじょぉっ!」


だが黒犬の直線的な攻撃は錫杖による杖術の格好の餌食となる。


黒犬は突かれ弾かれその身を次々と消していく。


『あれ?』


ここで人狼は疑問を抱く。


なぜ今の黒犬たちは【黒炎】に変わらないのだ?と。



瞬間、脳裏に天啓を得た人狼は勇躍し黒炎に向かい錫杖を振り回した。



「てぇーりゃっ!」


軽快に振り回された錫杖の石突が黒炎のひとつを弾き飛ばす。


黒炎はシュワシュワと泡のように消えていく。


「そりゃそりゃーっ!」


さらに残りふたつの黒炎も錫杖の煌めきと共に貫かれ消えていった。



『なんだかわかんないけど【しゃくじょー】が効くっ!』


晶のシンプルな直感が戦闘を晶の勝利へと傾かせる。



残りの黒犬たちも錫杖によって叩きのめされ、


リーダーの角黒犬だけが忌々しげに人狼を睨み唸っていた。


しかし人狼は知覚していた、周囲から黒犬が次々と集まってきていることを。



『これってコイツ(・・・)が呼び寄せてるんだよね?

 てことは早く倒さないとどんどん増える、ってこと?』


人狼は素早く錫杖を旋回させ角黒犬目掛けて投げつける。


だが角黒犬はひらりと躱すと木々にその身を隠していく。


人狼が逃げようかと距離を離すと後を追うようについて来る。


そして追いかけると角黒犬が索敵可能と思われるギリギリまで逃げる。


そうこうしている内にまた十数匹の黒犬が援軍に到着してしまった。



『これは厄介だぁ。

 いい案が浮かばなーい!』



打開策が見当たらず焦る人狼。


また襲い来る黒犬たちを錫杖によって蹴散らしていく。


まだ疲れは感じないが時間の問題に思われた。



『んもぉー!

 やるしかないっ!イチかバチかだぁーっ!』



賭けに出た人狼は黒犬の群れに突進した。


鋭角に宙を駆け錫杖を地面に叩きつけながら再度【二段跳び】で宙空を蹴る、


群れを跳び越え着地した先で更に錫杖を叩きつけ遊環を鳴らし敵の動きを鈍らす。


そして真っ直ぐ駆けた。


大木に隠れる角黒犬目掛けて。


角黒犬は錫杖の音に一瞬硬直していたがすぐに逃げ出す動きを見せる。


だが人狼は二足で走りながら交差させた両腕を力を込めて振り放つ、



『【狼爪一閃】っ!いっけぇぇぇ―――――!!!』



「キャゥンッ!」


気合と共に打ち出された真空の刃は大木の向こう側にいた角黒犬をも両断した。


轟音を上げて大木が倒れる。


それに巻き込まれぬよう人狼は駆け抜け、


「しゃくじょーっ!」


角黒犬から湧いて出たひと際大きい黒炎を錫杖で貫いた。


その黒炎が消え去ると、呼び寄せられた黒犬は怯えた鳴き声をあげ逃げ去る。



「へふぅ~、クロイヌくん。

 なかなか手強かったなぁ。」


言葉に出して角黒犬たちの健闘を称えた。

角黒犬たちに比べ、単体で言えば晶の方が圧倒的に強者ではあるが、

一歩間違えば敗北したかもしれないしたたかな戦いをしていた。


空腹感は収まっていないが、晶は今の戦いに少し充実感を覚えていた。



だが、そんな晶の前に間を置かず次の挑戦者が現れる。


ズシン、ズシン、と黒鬼を思わせる足音を響かせ、ソレは姿を見せた。



「ほぁ~、キミ、でっかいねぇ~。」



晶は【心眼】によってソレが近付いてきているのは分かっていた。


しかしその強さは分かっても大きさは分からない。


現れたソレのことを晶は知っていた。



「キミって【トロール】くんだよね?


 ちょ~っとお話できるかなぁ~?」



長い毛に覆われた巨大な人型の妖精は大木に手をかけ、


眼下のやけに馴れ馴れしい人狼を無言で見つめていた。



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