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揺らめく影


あきらは喜ぶ来里らいりからスキル変化について話を聞いている。

どうやらいくつかスキルが増え、【角突き】は【嵐角撃】に進化したようだ。


「ふぅ~ん、結構強くなったのかな?

 インドラは【蚯蚓の珠】でキャラ進化したみたいだし、

 一旦転生してもいいんだから・・・

 玉砕覚悟で次は強敵に挑んでみよっか?」


「う、うん!

 いま、僕なんだか調子がいい気がする!」


「うん、そっか。

 あ!まずはカブトムシくんがいたね!

 よし!シャチ君、草原にGOだ!

 【甲虫の角】を取りに行こう!」


「うん!行こう!」


そう言って来里は駆け出した。

晶にとっては早歩き程度の速度だが、

昨日に比べるとかなり早くなった。


『若いもんは成長が早いねぇ。』


そんな感想を漏らす十四歳。

しかし草原に着く前に問題を知覚した。


『あ、【蛾の天敵】あるから虫が寄ってこないや。』


そこで晶は来里に事情を説明し、一人で甲虫狩りをするよう指示した。


「うん!頑張ってカブトムシ倒すよ!

 アイテム取れたらフレコールするね!」


来里はどうやら強くなっている自分に昂っているようだ。

晶はそんな来里を微笑ましいような心配なような複雑な気分で見つめる。


「じゃあ姉ちゃんはあっちの林の方にいるからね。

 芋虫イジメとかは時間の無駄だよ、

 強い相手を倒さないと意味ないからね?

 頑張ってね。」


そういって別行動を開始した。




『【鬼殺し】は鬼たちを沢山倒したら取れた。

 【蛾の天敵】はモスマンを沢山倒したら取れた。

 この【林地エリア】だと誰を倒せばいいんだろ?

 やっぱピュイピーかな?』


林地を歩き、木々を見上げながら晶は思索する、


と、急激に反応する【危険予知】、この感覚に晶は覚えがあった。


「しゃくじょーっ!」


晶は飛び退り襲ってきた【大鷲】を躱しつつ錫杖を突き入れる。

貫かれた【大鷲】はその姿を電子の塵に変えていく。


以前倒せなかった大鷲を屠ることが出来て晶はご満悦だ。

しかし空腹感に軽減がないので強さは大したことはなかったのだろう。

晶は林地でさらに敵影を探し求めた。



『ん?あれ何?初めて見るなぁ。』



それは一見すると羽の生えた鹿のような生き物のようだった。

その翼は蒼く、ゆっくりとはためいている。

鹿自体の体色も蒼が混じっており、全体的にじんわりと光っている。


その蒼翼鹿は五頭で群れており、宙に浮かんでいるのか揺らめいている。

晶は何か不気味なものを感じたが、そろそろと慎重に近付いていく。


『えぇ?なんで動かないの?

 こっち見えてないのかな?』


ただ揺らめいているだけの蒼翼鹿に晶はドキドキと鼓動が激しくなるのを感じた。

観劇のホラー作品で未知の生物が襲ってくる前の静寂が頭に浮かんでいた。


晶は心の内の恐れを振り払うように鹿の群れに声をかけてみた。


「し、シカさん、こんにちはぁ~?

 何してるんですかぁ?

 あ、あの、私は狼女なんですけどぉ~、ひっ!」


急に鹿たちが動き出した。

晶の方に向かってゆらゆらと近付いてくる。

この挙動に晶は見覚えがあるように感じた。


『この動き・・・砂漠の亡霊みたい。

 てことはこのシカさん達も?

 ん?んんん?

 あのシカの影・・・人間の形してるっ!

 気持ち悪ぅーい!!』


晶は蒼翼鹿の影が全て人間の形をしているのに気付いた。

しかも影の人間は晶を捕まえようとするかのように手を伸ばしてくる。


『うひぃぃ――!

 HCヒュージコンピュータは相変わらず趣味が悪ぅーい!!』


晶はもはやなりふり構わず全力で両手を叩き合せ【迦楼羅炎】を発動した。


ゴォォォ―――――!!!


固まって移動していた蒼翼鹿が炎の蛇に包まれる。


様々な強敵を燃やし尽くしてきた迦楼羅炎だが、今回は例外のようだった。



「うっそ!?効かないの!?」



蒼翼鹿は五頭とも燃え盛る炎の蛇をすり抜けるように近付き続ける。


ダメージを受けた様子も無くただただ揺らめきながら近づいてくる。


「うひぃぃ!」


晶は若干パニックになり【竜巻砲】や【薬叉礫】を次々に放つ。


そしてそのどれもが蒼翼鹿をすり抜ける。


「うわわ、しゃくじょっ!」


慌てて取り出した錫杖を地面に叩きつけジャランッと遊環を鳴らし煌めかせる。


すると不思議なことに蒼翼鹿たちの動きが緩慢になった。


晶は錫杖のスキルが【金剛破邪】だったので幽霊に効くかも、と


イチかバチか試してみたのが正解だったようだ。


「よーしっ!シカくん達っ覚悟しろ!」


そう言って錫杖を振り回し先頭の蒼翼鹿に突き入れる、が、



「おぉ?」



その槍先はまたしても鹿の胸元をすり抜けてしまった。


「くぬっ!」


さらに錫杖を回転させ音を鳴らしながら石突で殴ろうとするもまたすり抜ける。


苦し紛れに尻尾から毒針を発射したが何も変わらなかった。


「あわわわわわ!!!」


完全にパニクってしまった晶は何度も錫杖を地面に叩きつける。


地を叩く度に遊環が音を鳴らし煌めかせることで蒼翼鹿の動きを鈍らせる。


しかしそれはダメージにはなっていないらしく距離をじわじわ縮め続ける。


逃げる足もすくみシカ達はもう晶の目の前まで近づいた。



「あ、う、ふんぬぅぅぅ―――!!!」



怯えた表情から一転、憤怒の感情を曝け出した晶は猛然と動き出した。



先頭の蒼翼鹿に向かって全力の右フックを叩き込む。



ボグゥ!!



何故かその殴打は蒼翼鹿の顔面がひしゃげるほど強烈に命中した。


晶は怒りと恐怖に圧迫されそれを不思議と思わず次々と鹿を殴り蹴飛ばす。


五頭いた蒼翼鹿はみるみる電子の墓場へ送り込まれる。


そして最後の一頭が横腹に痛烈なボディアッパーを喰らい消えていく。


晶の眼には一瞬、鹿の影人間が頭を抱えるような仕草をしたように映った。



「んはぁ~、んはぁ~、

 なんだったの?いまの。」


この場に晶の疑問に答える者はいない。

後で母方の祖母エミリィに訊いたところ、

あのシカ達はペリュトンという怪鳥らしかった。


さらにこれも後でエミリィから教えられた【スチュパリデス】という名の

翼やクチバシなどが金属でできた鳥にも襲われた。

しかし硬いだけで特殊攻撃は無かったので、

金属部分以外を攻撃することで楽に倒せた。


そうしている内に晶は来里からメッセージがあったことに気付く。


『おっとっと、シカくんやトリくんを倒してて気付かなかった。

 どれどれ~?もう【甲虫の角】は手に入れたかな~?

 って、え!?

 死んじゃったの!?何やってんのライめぇ~!』


不甲斐ない弟子にプンプンと怒りながら晶は来里からのフレコールを待つ。

待ってる間にスキル確認を行おうと脳内パネルを開いた。


『まったくもうライったら!

 んーと、【殴打術】が【追衝殴打】か、ライの【追衝波】みたいなもんかな?

 あとは・・・【削ぎ取り】が【爪撃】、

 うーん、これって攻撃の軸にはなんないかなぁ~。』


晶が新スキルについて思案していると来里からフレコールが入った。


「ちょっとライぃ~、

 なにやられちゃってんのぉ~?」


「ご、ごめんね、姉ちゃん。

 あ、ライじゃなくてシャチだよ?」


「わかってる!

 こぉらシャチ!いまどこ!?」


「うぅ、草原の・・・どこだろ?

 山は見えるけど・・・」


「だいたいわかった。

 今いくからね、シャ・チ・くん。」


そう言ってフレコールを終える晶。

即座に四足で駆けだす。


荒地を通り過ぎ草原の浅い部分を山側に曲線を描くように進み来里を探す。

【心眼】を取得してこうしてエリアを巡るとプレイヤーが結構いることに気付く。

しかし晶の御眼鏡に敵う存在はほとんどいなかった。


『うーん、第三段階まで進化してる人ほとんどいないなぁ。

 私ってアイテム運が良かったんだなぁ。』


ナッキィの話だとアイテムはなかなか出ないものらしい。

タモンもいま現在【鬼の金棒】が取得できず苦悩している。

晶は甲虫との最初の一戦でアイテム入手できたのだ、相当運が良いと言える。


そんなことを考える晶の索敵能力が来里の存在を捉えた。

来里の方へ方向転換しながら晶は小さい頃を思い出していた。


仮想現実の中で会う親戚、それがどういった間柄なのかもわからないまま、

晶は来里と出会い、共に遊んだ。


それは晶にとって初めての同年代の遊び相手だった。

人工知能ではない、人間の遊び相手と晶は全力で遊んだ。


お別れのときには全力で泣いた。

次の日また会えるよと母に宥められてもひたすら泣いた。

その理由はもう覚えていないが、きっと寂しかったのだろう。

今日という日が過ぎ去ってしまうことが。



『まったくライってば幾つになっても世話がやけるんだから!』



思いと裏腹に口の端に笑みを浮かべながら、

晶は来里の許へと走っていった。



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