表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/100

シャチ驀進


晶は来里を伴い砂漠へとやってきた。

来里は初めて入る砂漠エリアに緊張気味だ。


「シャチ、もうお腹減ってるよね?

 さ、バンバン倒していくよ!」


「先生、お手本は無いんでしょうか?」


「私とシャチだと戦い方が違うから参考になんないよ。

 ほら、いるよ、構えて。」


「え?」


来里は晶の言葉に慌てて周囲を見渡す。

しかし敵らしき影は見当たらない。


『えぇ?どこにいるの?

 でもアキ姉ちゃんがいるって言うんだからどっかにいるよね。』


来里は油断なく周囲の気配を探る。

すると足もとから微妙な振動が感じられた。

来里は震源地を探り歩を進める。


『いる!あそこだ!』


来里は立ち止まり前足で地面を力強く叩く。

【追衝波】が砂の大地を震わせる。


ゴワッ


【大蠍】がその黒光りする身体を現した。

来里はその恐ろしげな姿に気持ちが怯むのを感じた。

チラリと後方の晶を見やるとすぐさま叱咤が飛んできた。


「シャチ!敵から目を逸らさない!

 来るよっ!」


晶の怒声に来里は再び大蠍に目を向ける。

その距離はあっという間に詰められていてもはや目前に迫っていた。


「うわぁっ!」


斜め前方に飛び出し蠍の尾撃をなんとか躱す。

そのまま距離を空け大蠍と正面に相対する。


「シャチ!【煌炎】で怯ませて【角突き】で突進!

 自分の強さを信じて!」


来里はそんな晶の激励を受け自らを奮い立たせる。


「姉ちゃん!僕やるよ!」




猛る水牛が大蠍に突貫した。


大蠍はジグザグに動き水牛の突進を躱そうとするが、


水牛が頭を振り生み出した炎がその進路を塞ぐ。


大蠍が横に避けようと動きを変えたところを狙って水牛が体当たりを敢行した。


その一撃は大蠍の固い外殻にヒビを入れ弾き飛ばす。


地面にひっくり返った大蠍がその身を反そうとあがく。


しかし水牛が大きく跳び上がり四足を揃え大蠍のがら空きの腹目掛け落下した。


【追衝波】込みの全体重を乗せた攻撃は大蠍を倒すのに十分な威力があった。


電子の靄を宙空にあげながら大蠍は消えていく。


水牛が放心したかのように動かないでいる様を人狼が満足気に見つめていた。




「姉ちゃん、すごいよ。

 すごく満腹だし、すごく力が湧いてきてる。」


「うん、いい戦いだったよ。

 スキルも確認してみて、きっと増えてるよ。」


「う、うん。

 えーと、あ!すごいよ!

 【跳躍】【気配探知】【踏みつけ】【頭突き】だって!

 いっぱい増えてる!」


喜ぶ来里を見つめ、晶はうんうんと嬉しげに頷く。


「シャチ、その調子で【大蠍】を見つけて倒していって。

 お腹すくまで今覚えたスキルを練習して、

 お腹すいたら【気配探知】して倒す。

 これを繰り返して。」


「え?お腹すくまで倒しちゃ駄目なの?」


「シャチ、それじゃ無意味な殺生になるでしょ?

 お腹がすいたら倒して飢えを満たす。

 それが生き物の最低限の【原罪げんざい】ってやつじゃない?」


「おぉ、姉ちゃんが難しい言葉を言ってる。」


「は?なにそれ?馬鹿にしてんの?」


「いや違うよ、聞き慣れない言葉だったからちょっとビックリしちゃっただけ。」


弁解しながら来里は晶の根底にある思想が少し理解出来た気がした。

人間は生まれながらに罪を背負っているというキリスト教の教えがある。

ただ生きるだけで人間は罪を犯し続けているのだ。


他者に迷惑をかけないための究極の方法は死ぬことしかない。

他者の命を奪い自分が生きることは太古の昔から行われた宿業だろう。


『そういえばゲーム情報のHCヒュージコンピュータの言葉、

 【カルマの果ての果てを経たならば、

  ほかの誰にも到達できない魔界の王の座は与えられるでしょう】

 あれって何のことを示してるんだろう?』


来里が思考に耽っていると晶から別行動を提案された。

来里はしばらく【大蠍】を相手にして、

晶はその間に飢えを満たす強敵を探しに行くと言う。


来里は現状として晶と強さに格段の開きがあるのだから了承するしかない。

無理してついていっても死ぬだけだと思われた。


お互いフレンドコールをこまめにすることを確認してしばらく別行動となった。


『よーし!強くなってアキ姉ちゃんをビックリさせよっと!』


来里は【煌炎】の威力を確かめながらそんな目標を心に決めた。





『さて、どこに行こうかな?』


晶は来里が大蠍と戦っている間にインドラ達のメッセージを確認していた。

それぞれが強くなるため行動を開始している。


インドラは進化して【白聖象アイラーヴァタ】になったらしい。

タモンとナッキィはアイテム入手に専念している。

アルマロスもユニコーンから【猛天馬ペガサス】になったとのことだ。

アルマロスも共闘に誘ったが断られた。

プライドの高いアルマロスらしい、と晶は諦めた。


晶は行先に思いを馳せる。


あまり砂漠から離れると来里の強さの確認を怠ることになる。

来里がある程度強くなったら甲虫かぶとむしや虎と戦わせるつもりだ。

アイテム入手が第一目標のため倒す相手は決まっている。


『近いとこだと【草原】かな。

 またモスマンを咆哮で倒してスキルを定着させようかな。』


晶は目的地を定め四足で駆けだした。




晶は草原に到着すると巨大蛾モスマンを【魔狼の咆哮 改】で倒し続けた。

わずかながら空腹感が軽減されるのでそれが無くなるまで続ける。

やがて倒しても軽減が感じられなくなった頃、

蛾の天敵(モスキラー)】というスキルを入手した。


『ふぅん、これは【鬼殺し】と同じ感じのやつかなぁ?』


晶はその効果を確かめるべく、草原を歩き回った。

晶の推測は正しかったようで芋虫や巨大蛾が逃げていくのが感じられた。


『ということは・・・、

 あの【ズルっこ鬼】みたいなのが現れるかもだね?』


晶は用心して錫杖を出し時折地面に叩きつけ遊環ゆかんを光らせる。

しかししばらくしても不意打ちを仕掛けてくるような存在は出てこなかった。


その代わり、



『ぐげぇ!なにアレ!』



それは巨大な蛇の様に見えた。

しかしその頭部は昆虫のもので横向きに生えた牙をガチガチと鳴らしている。

長い胴体には無数の細く黄色い牙のような足が並んでいてワサワサと動いている。

茶黒にヌメる胴体に触覚のような頭部の毛が晶の嫌悪感を掻き立てる。

そんな怪物が音も無く晶の視界に突然現れたのだ。


『虫かな?ムカデってやつかな?

 なんにしろ倒すしかないっ!』


晶は四足で地面を踏みしめいつでも動けるよう警戒しながら大百足を睨む。




「ウォォォ―――――ン!!!」


人狼の咆哮で戦いは始まった。


大百足は咆哮に対しやや怯んだようだがすぐに動き出す、効き目は薄いようだ。


ならばと人狼は駆け出し勢いのまま【薬叉礫】を叩き込む。


礫が四つ飛び散り大百足の黄色い足をいくつか消し飛ばす。


だがそれは大したダメージとはならなかったようで大百足が反撃に出る。


身体をくねらせ人狼の斜め上からその黄色い足を射出し始めた。


鋭く尖った牙のような足が槍のように人狼に襲い掛かる。


人狼は【稲妻瞬歩】で飛来する足を躱し大百足に肉薄する。


「しゃくじょぉっ!!」


そしてその手に相棒を呼び寄せ全力の突きを胴体の腹部分目掛け突き入れる。


その槍先は大百足の腹に刺さりはしたものの動きを止めることは出来ない。


至近距離で大百足の黄色い足が再度射出される。


大きく跳びのいた人狼だがその左肩に足が一本刺さっていた。


「うぐっ!いったーい!」


無理矢理その足を引っこ抜いて投げ捨てるが痛みに顔をしかめる。


だが立ち止まっていては格好の餌食となる、人狼は足を止めず動き回る。


大百足はチャンスとばかりにその長い身体で人狼を包囲するように螺旋を描く。


人狼はそれに巻き込まれないようにステップを踏みすきを窺う。


そして大百足が再度向きを変え螺旋を描こうとした隙を衝く。


「しゃくじょぉっ!」


気合と共に右腕一本で錫杖を大百足の口部分目掛けて投擲する。


錫杖は遊環を煌めかせながら飛翔して大百足の口の牙を粉砕する。


大百足は痛覚が無いのか螺旋の動きは止まらないが人狼の位置は見失ったようだ。


大百足が人狼の存在を掴もうとのたうつ。



人狼は大百足の胴体の上に乗っていた。



そして大百足の頭部を背後から睨みつけ、痛みに耐え両手を叩き合せた。



ゴォォォ―――――ッ!!!



【迦楼羅炎】が発動して大百足の頭部を炎の蛇が包む。


しかし一撃では大百足の息の根を止めるに至らずもがくように暴れ回る。


人狼はその背から飛び降り再び錫杖を大百足の頭部へ投擲した。


錫杖の槍先が再び大百足の口部分に的中しその内側に突き刺さり貫通した。


ここで漸く大百足は電子の塵を撒き散らし始め、その身をゆっくりと消し去った。


人狼は左肩の痛みをこらえながら強敵の最期を看取る。



『ふはぁー、強敵だったぁ。

 このムカデくん、【蛾の天敵】スキルを取ったから現れたんだよねぇ?

 他のエリアも同じようなスキルを取ったら強敵が出るのかな?』


晶は【鬼殺し】を入手した途端に穏形鬼の襲撃を受けたのを思い出していた。

NPCには出現法則があるのでは?晶はまた検証すべき案件を発見した。


ここで晶は来里からのメッセージに気付いた。

どうやら大蠍攻略は順調に進み、亡霊も【煌炎】で倒せたとのことだった。


『うーん、ライの強化は順調だなー。

 カブトムシくんには勝てるだろね。

 じゃあそろそろ迎えにいこっかな。』


大百足を倒しご機嫌の晶は砂漠に向かい駆け出す。

早足で駆けながらスキル確認も行う。


『お!【駿足】が【縮地】になった!

 あと【投擲】が【精密投擲】か、うんうん、いいね!』


気付けば走る速さもかなりのものな気がしていた。

砂漠にもあっという間に到着した。


『どぉれ、ライはどこかなぁ?

 うぇ?』


晶は慌てて駆け出した。

来里のすぐそばに【デスワーム】の存在を感知したのだ。


『せっかく強くなってきたのにー!

 死んだらちょっとだけど後退しちゃうよー!』


晶は焦る気持ちを抑え脚を動かした。

そして遠目でもデスワームの姿が見え始めた。


「シャチー!今いくよー!

 ・・・・・・ってあれ?」


晶は足の回転が鈍るのを感じた。

驚きで脚が止まったのだ。


晶の視界の中でデスワームが電子の塵となり消え去っていく。


ゆっくりと勝利した来里に近付く晶。


来里が晶に気付いて嬉しそうに歩み寄ってきた。



「姉ちゃん!

 今ね、でっかいミミズ倒したよ!

 【蚯蚓みみずの珠】っていうアイテムも取れたよ!

 これってすごく順調じゃない!?」


「うん、すごく順調、順調すぎるぐらい順調。」


大喜びする来里に対し、晶は困惑する自分に困惑していた。


『うーん、私なんで困ってるんだろ?

 ライがこんなあっという間に順応したからかな?

 もうちょっと出来なくて後ろをついてくるライを楽しみたかったなぁ・・・』


幼い頃の交流を懐かしく思い返しながら、

その頃から見ると大人になってしまった自分たちに、

晶は一抹の寂しさを覚えてしまっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ