闘い三度目
油断なく見つめ合う獣人二人。
砂漠から吹く砂混じりの風が二人の間を通り抜ける。
不意に晶から明るい声が発せられた。
「ハーイ、ナッキィ。
不意打ちとはズルっこなことしてくれるじゃん。
どうやって気配消してるの?」
「ア~ォ、さすがだね、アスラ。
【気配隠蔽】ってスキルだね、すごく便利だよ。
アタシは蛇系のキャラばっか使ってたからね、
いつの間にか覚えてたよ。」
「へぇ~、いまのそのキャラは何?メデューサかな?」
「いや、【半人半蛇】だよ、男ならナーガらしいね。」
晶の明るい問い掛けに触発されたのかナッキィも明るく返答する。
だが、会話をしながらも二人はお互いに円を描くように距離を取り合う。
油断なく隙を窺いながらも会話によってその能力を探り合っていた。
「じゃあナッキィはもう空を飛べないのかな?」
「さぁ、どうだろうねぇ?
アンタはどうだい、アスラ?
こないだは石とか火を使ってたけど、新しい能力はあんのかい?」
「えへへ、すんごく強い相棒ができたよ。
すんごく助かってる。」
「なんだって?」
ナッキィは鋭い目を周囲に向け警戒を強める。
「どういうこと?
アンタひとりじゃないか。」
「うっひひ、そういうことじゃないよー。
私、【武器】を手に入れたんだー。」
「【武器】?【スキル】じゃなくて?
ハァン・・・
どうやらアスラ、アンタはアタシより先を行ってるみたいだねぇ。
さあっ!全力でお相手するよっ!」
「応っ!
アスラ参るっ!」
突然に二人の会話は終焉し闘いが始まった。
地を滑るように低い姿勢で高速移動するラミア。
ジグザグに地を蹴り砂を巻き上げ疾走する人狼。
まずは人狼が地面スレスレに礫を放つ。
ラミアは鱗で固められた腕でそれを弾いていく。
晶は今朝闘ったオッセも鱗を使って礫を防いだことを思い出す。
今度はラミアが腕を振り鱗らしきものを人狼に放ってきた。
ナッキィはずっと蛇系のキャラを使用していると言っていた。
この鱗の攻撃にも毒が込められている可能性がある、僅かの被弾も許されない。
軽快なステップで鱗を躱し人狼はラミアに迫りながら腕を振り竜巻を起こす。
ラミアは砂を巻き上げ迫る竜巻を残像が見えるようなヌルリとした動きで躱す。
そして竜巻を躱しつつラミアはその頭髪から毒針を連続で射出し始めた。
近付きつつあった人狼がバックステップで大きく距離をあけそれを躱す。
獣人たちはまた睨み合う展開に戻ってしまった。
「ナッキィ、その毒針ってちょっとでも喰らったら死んじゃうのかな?」
「どうだろねぇ?ゴブリン程度ならすぐ死ぬけどねぇ。
で?
アスラ、アンタの相棒ってのはいつ見せてくれんの?」
「それは見てのお楽しみだよ。
名前は【しゃくじょー】だよ。」
「シャクジョー?どっかの地名みたいな響きだね。」
「へぇ、フランスにそんなとこあるの?」
「いや、知らない。」
「なーにそれ。」
また突然に会話は終了して狼と蛇の怪人が激しく動き出す。
人狼が真っ直ぐにラミアに向かい突撃する。
ラミアもまた鋭い爪を振り上げながら真っ直ぐ人狼に迫る。
お互いが猛スピードで突っ込んだため反射神経が追い付かず激突する。
狼の胸部と蛇の頭部がぶつかったが打ち勝ったのは人狼だった。
仰け反るラミアの上半身を殴打で追撃しようとする人狼、
しかし真横からラミアの尻尾が唸りを上げ振り抜かれる。
人狼は跳躍して躱す、そこにラミアは狙い澄ました毒針を打ち込む。
だが人狼は空中を蹴りラミアの真横に着地して相棒を呼んだ。
「しゃくじょぉっ!」
人狼の手に現われた錫杖は気合と共に突き出されラミアの鱗を砕き突き刺さる。
「くうっ!」
なんとか左腕でガードしたラミアだがもはやその腕は使いものにならないだろう。
劣勢となったラミアは奥の手を出した。
ラミアが口を大きく開けたと人狼が思った瞬間、
キ―――――ン!!!
およそ人間では感知出来ない超音波がラミアの口から放射されたのだ。
鋭い聴覚を持つ獣人相手ならとても有効な攻撃となる。
人狼にもそれは当てはまり苦しみながら膝をつく。
すかさずラミアは己の持つ最大の攻撃方法を行う。
すなわち蛇の身体を使い獲物を締めあげる【ヴァイスプレス】というスキルだ。
みるみるうちにラミアは人狼の身体を登り螺旋状に巻きついていく。
晶は蛇の締め上げる力は同じ重量で比較すると世界一の強さと聞いた覚えがある。
ラミアは腕の痛みに耐えながら人狼を締め上げる。
人狼はほとんど身動きが出来ない。
両腕が動かせないので【迦楼羅炎】の自爆攻撃も不可能だ。
尻尾を動かして毒針を出したがラミアは毒に耐性があるようでビクともしない。
人狼を締め付ける力は増々強くなる。
苦しむ晶の頭上でナッキィは勝利を確信した。
しかし、
「しゃくじょ―――――っ!!!」
締め上げられる人狼の手の中に錫杖が蛇の身体を押し退け現れる。
その一瞬空いた空間に人狼は両手を叩き合せた。
轟音と共に炎が燃え広がった。
「なにぃっ!!」
ナッキィは何が起きたのか分からなかった。
ただ大量の炎の蛇が我が身を焼き昇ってくるのだけは理解出来た。
「はっ、また負けたか・・・」
だがその呟きは晶の耳に届いていなかった。
晶は【迦楼羅炎】の自爆行為による激しい痛みと、
ナッキィに締め付けられたダメージで地面に倒れ伏していた。
ナッキィが電子の塵となって消え去っても晶は立ち上がることも出来ない。
前の黒鬼のようにこの場に新たな敵が現れたらひとたまりもないだろう。
しかし幸運なことに晶の前に現われる者はいなかった。
しばらく寝転がっていると痛みが薄れてきた。
締め付けられた際に骨折などの大怪我には至らなかったようで徐々に回復した。
ナッキィを倒したことで空腹も収まっている。
『ふはぁ~、ナッキィ強かったなぁ。』
晶は好勝負が出来たことで満足気に微笑む。
以前タモンと勝負した時と同様の充足感があった。
「あ、しゃくじょー、助かったよ。
ありがとね。」
右手に握られた相棒に礼を言ってから仕舞う。
『しっかしあの超音波かなんかの攻撃にはまいったね。
対抗手段が思いつかないなぁ。
んで、あの締め付け攻撃は喰らったら終わり、ってことだけはわかった。』
今回は締め付けられた際の右手の角度が良くて助かったが、
次回も同様に錫杖で脱出できるとは思えなかった。
『次会ったら負けちゃうよ、もっと強くならなきゃなぁ。
うーん、よし!
スキル確認しよ!まだまだ強くなれるよね!』
晶はマイナスな思考を打ち消しスキル確認を始めた。
『ナッキィは本当に強かったからなぁ、楽しみ。
お!【金剛伝】が【金剛破邪】になってる!
しゃくじょー大活躍だったからなぁ、へへへ。
お!【螺旋突破】が【稲妻瞬歩】になった!
これは嬉しいような寂しいような、長く使ったからなぁ。』
晶は螺旋突破がジグザグダッシュだった頃まで思い返して感慨にふける。
積み重ねたものが結実した嬉しさと、
積み重ねたものが無くなる寂しさがあった。
『さーて、あとは無いかなー?
んん?
【魔狼の咆哮 改】・・・改?』
晶はナッキィ戦を思い返す。
【魔狼の咆哮】は使用していないはずだ。
岩場でも鬼たちとの戦いで使用した覚えは無い。
『あ、スキル奪取かな?』
プレイヤー同士の闘いだと勝者が敗者のスキルを得ることがある。
晶はナッキィとの戦いを再度思い返す。
『そうだよね、アレしか無いよね。
たぶん超音波攻撃がプラスされたんだよね。』
晶はそう結論付けた、おそらく間違い無いだろう。
これで咆哮に毒効果が付いてたりしたら笑ってしまうだろう。
晶は試してみたくなり、超音波攻撃が効きそうなNPCを考えてみた。
『うーん、思い当たるのはアイツしかいないなぁ~。
今回のプレイはアイツで咆哮を試して終わろっかな。』
そう考えて晶は四足で移動を開始した。
目的地はそう遠くない、さほど時間をかけず到着したのは草原だった。
【心眼】で獲物を探しながら歩く、すぐに見つかった。
晶の咆哮を受ける予定の獲物がギチギチと前足を鳴らしている。
そう、獲物は巨大蛾だ。
晶はコウモリを除けば蛾が最上位に耳が良い生物なことを知っていた。
『三匹か、じゃあ試してみよっかな。』
晶は巨大蛾たちに駆け寄りながら【魔狼の咆哮 改】を試した。
「アォォォ―――――ン!!!」
空を舞っていた巨大蛾は晶の目の前にボタボタと落ちて痙攣し、やがて消えた。
『おぉ、ダメージも入るのかぁ。
でもモスマン以外だと効きそうなのってウサギぐらいかなぁ。
んー、フクロウもいけるかな?タモンには効くかもなぁ。
いひひ、奥の手だね、再戦が楽しみ。』
タモンが既に【烏天狗】に進化していることを失念して晶はくすくす笑う。
それだけ【白妖梟】に負けたイメージが強く残っているのだ。
ここで晶はアルマロスにメッセージを送りクリアアウトした。
インドラとタモンにはこの後にフォーラムで会う予定なので送らない。
晶はフォーラムで再びインドラ達と話せることを思い微笑んだ。
「んもぉー今回の【SR】はホント楽しかった!」
家族と夕食をとりながら晶は午後のプレイ内容をいつものように話していた。
しかし今回は特に楽しかったと晶は言う。
「なんでぇ、来里と一緒に遊んだのがそんなに楽しかったか?」
「んー、違うかなぁ?
ライはずっと足手まといだったよ。」
「ハハ、ライは争い事が苦手っぽいもんなぁ。
殴り合いに向いてないんだろ、きっと。」
「そーなの、頑張ってはいたけど全然敵にダメージ与えられないんだ。
【水牛】って大きな牛なのにカエルとか蛾に苦戦してるの。」
「カエルとか蛾に負ける牛って想像したら面白いね。」
「それがライなんだから笑えないよー。
でもちょっとずつ強くしていくのは少し面白かったかな?」
晶のそんな感想に憲吾は苦笑する。
来里が晶に懐いているのが分かるだけに哀れに思ったのだ。
「じゃあ何がそんなに楽しかったの?」
「んー?あれ?なんでだ?
ナッキィと全力勝負して勝てたのはすごい嬉しかったし楽しかった。
でもそれはタモンと闘ったときも一緒だなー。」
「アキラ、【SR】で戦うのが好きなの?」
「うん、真っ向勝負で勝つとスカッとする!
あ!そうなんだ!
今日は今まで戦ったスキルとか技で全勝出来たんだ!
今まで鍛えたことが形になったような、だから楽しいんだ!」
そんなことを言って喜ぶ晶に家族は心配気な目線を送る。
「おい、吾朗。
女の子が闘って相手ぶん殴る技が完成して嬉しい、ってどうなんだよ?」
「うーん、元気なのはいいことじゃないか?」
「ケンゴ、アキラは優しい子だし大丈夫、かもよ?」
「そうそう、真っ向勝負しかしてないみたいだし、平気、かな?」
「お前らも自信ねーのかよ、どーすんだよおい。」
せっかく自分が楽しい話をしているのに別の話をしだす家族、
晶は不満げに自分の膝をパンパン叩き声を上げる。
「んもぉー!
アキは全然大丈夫だってば!
いつでも正々堂々、意味のない殺生はしない、
卑怯は許さず、弱い者いじめなんてもってのほか、
アキは真っ直ぐ素直に育ってますっ!」
「いやアキラ、自分でそう言っててもなぁ。」
「まぁいいじゃないの、アキラはいいこだもんねぇ~?」
「そうだよぉ~、ママ大好きぃ~。」
晶はソファに座る母の膝の上に飛び込み顔をぐりぐり擦り付ける。
他の三人は呆れた表情からやがて笑顔に変わり晶がはしゃぐ様を見つめていた。




