出会いとは
晶は速度に差がある水牛の来里を何とか沼地まで案内する。
空腹感は飢餓感に変わりつつある。
と、晶の【心眼】に引っ掛かる存在が多数見つかった。
「あ、シャチ。
ほらあっち行くよ。
カエルとかいるから、倒しにいくよ。」
「あ、うん。」
晶は来里に促し沼地の奥へ進む。
遠目で見える陸地に感知した通り鬼蜥蜴や髭蛙が群れていた。
「えぇ?何匹もいるよ?
というかその近くにリザードマンが沢山いそうなんだけど?」
「そっちは姉ちゃんが斃す、
いまお腹減り過ぎてヤバいから丁度いいんだ。
じゃ、行くよ。」
晶は飢餓感のため何の計算も無く突っ込んで行く。
「えぇぇーーー!!??
アキ姉ちゃん!ホントにーー!?」
驚愕のため足が止まる来里を置き去りにして、
晶は【魔狼の咆哮】を上げ群れに飛び込む。
そこからは晶の無双タイムだった。
まず手前にいた咆哮で硬直する髭蛙数匹に【薬叉礫】をブチ当て塵にする。
次いで鬼蜥蜴の持つ棍棒を【錫杖】で叩き折り礫で消し飛ばす。
集団で囲み棍棒で叩き潰そうとする鬼蜥蜴の頭上を【二段跳び】で飛び越え、
固まっているところを【迦楼羅炎】で纏めて燃やし尽くす。
仲間がやられてる間に近付いていた鬼蜥蜴たちが噛み付こうとすると、
錫杖を一瞬で仕舞い【殴打術】と【巧蹴術】を【竜巻砲】込みで炸裂させる。
水中に逃げようとする鬼蜥蜴に錫杖を【投擲】して次々貫通させる。
もはや鬼蜥蜴では暴れ回る人狼を止められない。
離れていた鬼蜥蜴たちは既に逃げ出している。
勝負は決していた。
その戦いぶりを唖然とした様子で眺めていた来里だが、
我に返り晶に続かんと髭蛙三匹に突っ込んで行く。
何とか一匹は【角突き】で倒すことが出来た。
しかし残り二匹の長い舌で脚をすくわれ転倒してしまう。
慌てて立ち上がろうとするが滑る泥沼に足を取られうまくバランスが取れない。
髭蛙が来里に痛撃を与えようと迫る。
すると、
ドンッ!っという音が来里の耳を震わせる。
顔を上げると人狼が髭蛙を二匹まとめて体当たりで吹っ飛ばしていた。
後で聞いたところ【メテオタックル】というスキルだそうだ。
それによりここでの戦闘は終わった。
来里は驚きと羨望の眼差しを晶に向ける。
他のゲームを晶と一緒にしたことがあるが、
ここまで活き活きと躍動する晶を見たのは初めてだった。
来里は晶に助けてくれた礼を言う。
「ううん、私もお腹すいてて気が立ってたからさ、
急がせちゃってゴメンね?
ラ、シャチは空腹感消えた?」
「う、うん。
あ、でも少し残ってるかな?一匹倒しただけだし。
姉ちゃんはいっぱい倒したもんね、お腹いっぱいでしょ?」
「それがね、まだいっぱいじゃないの。
さっきよりはだいぶマシなんだけどね。
まだ足りてないんだ。」
「えぇ?ホントに?」
来里には全く信じられない話に思えた。
あれだけリザードマンたちをボッコボコに倒しまくって、尚足りないと言うのだ。
おそらく来里と晶の実力差は隔絶したものがあるのだろう、と来里には思われた。
「あー、そういえばシャチのアイテム取りに来たんだった。
ごめーん、リザードマン全部倒しちゃったー。
次は一匹だけ残すから、ゴメンね?」
「ううん、そんな謝んないでよ、僕が迷惑かけてるんだし。
あ、一応スキル確認しとこうよ。
何か手に入ったかもしれないし。」
「うん、そうしよっか。
周りの警戒は姉ちゃんに任しといて。」
「えへ、ありがと、アスラ姉ちゃん。」
来里は求めていた優しいアキ姉ちゃんが復活したことを素直に喜んでいた。
スキルは先程【敏捷】と【忍耐】を取って以降変わっていない。
しかし晶が優しさを取り戻してくれたことで来里は満足気に微笑んだ。
『ふふふ、【SR】やって良かった。
こういうのも【良い想い出】っていうのになるんだろうなぁ。
ってあれ?なにこの項目?』
来里は脳内パネルに見慣れないものがあることに気付いた。
「えっ?」
「なに?どしたのシャチくん。」
「アスラ姉ちゃん!僕アイテム取ってる!
【鬼蜥蜴の鱗】取ってる!なんで!?」
「へぇ~、なんでだろね?
でもとにかく良かった。
第一目標達成だね、イェ~イ!」
そう言って晶は来里の角とハイタッチを交わす。
晶は来里に【鬼蜥蜴の鱗】の使用法を説明する。
これで来里は次回の転生時にパワーアップが期待できるだろう。
「ん?シャチ、気を付けて。
プレイヤーが近付いてくる。」
「えぇ?」
来里は辺りを見回すが沼しか見えない。
「アスラ姉ちゃん、なんでわかるの?」
「そういうスキルがあるの。
シャチも頑張って取った方がいいよ。」
そう言って晶は【気配察知】の取得法を来里にレクチャーする。
その間にもプレイヤーはどんどん近付いてきている。
晶は既にそのプレイヤーを視認出来ている。
そう、その【白い牛】はどんどんと近付いてきていた。
晶は【白い牛】に親しげに挨拶をする。
「この姿で会うのは初めてだね【インドラ】。
それが【白巨牛】かー、綺麗だね。」
「ほほほ、アスラ、あなたも凛々しいよ。
すごく強そう、惚れ惚れしちゃう。
それで、そちらの方はどなた?」
「私のハトコなの、ほらシャチ、あいさつ。」
「初めまして、シャチです。
いつもアスラ姉ちゃんがお世話になっております。」
丁寧な来里の挨拶に晶とインドラは笑いを漏らす。
「ほほほ、アスラのハトコさんは真面目な子なんだね。
【水牛】を選択してるのも良いね。」
「真面目過ぎるとこあんの、長所で短所だよ。」
「そ、そこまで僕真面目じゃないよ。」
和やかな雰囲気の中、来里が質問する。
「あの、姉ちゃん、で、この人だれ?」
「あー、そかそか。
姉ちゃんの友達だよ、インドラっていうの。」
「ワゥワ、友達って紹介されたの初めて。
すごく嬉しいよ。
シャチくん、私インドラっていうの。
アスラのお友達だよ、ほほほ。」
それから少し話していたが三人とも空腹感が強くなり始め、
また後で会おうと約束して渋るインドラと別れることにした。
インドラはまだ話したいようだったが、
強者二人に来里は確実についてこられないため晶が気遣ったのだ。
インドラは名残惜しそうに振り返りつつ去っていった。
「さて、次にどこに行くかだなぁ。」
「近いのは岩場だけど僕の足だとすぐ転んじゃいそう。」
「むー、でもまた草原に戻るのもなぁ、
逆側は林だから空中の敵ばっかだし、
むー、悩む。」
「草原が無難じゃない?」
「うん!岩場に行こう!」
「姉ちゃん?話ちゃんと聞いてた?」
また暴君の片鱗を見せた晶は渋る来里の尻を叩いて岩場へ向かう。
空腹感は人を攻撃的にしてしまうのかもしれない、と来里は諦めた。
岩場には易々と到着した。
晶の【鬼殺し】スキルは弱い鬼たちを遠ざけるのだろう。
【心眼】で餓鬼や小鬼が逃げていく様子が晶には感じられた。
「なんか全然敵出ないねー。」
呑気に呟く来里に相槌をうちながら晶は視線を左前方に向けた。
「しゃくじょー!」
そして錫杖を地面に叩きつけ遊環を鳴らし輝かせる。
「うわぁっ!」
そこには【穏形鬼】が棍棒を構え近付いてきていた。
来里が驚いているが晶は無言で穏形鬼に突っ込み錫杖を突き刺す。
「シャチ!【角突き】して!早く!」
晶は大声で来里に攻撃を促す。
先程の【鬼蜥蜴の鱗】のようにアイテム取得を狙ったのだ。
来里は晶の指示通りすぐさま【角突き】を敢行する。
たいしてダメージを与えられた様子は無かったが晶は追撃して鬼を墓場送りにした。
「どう?アイテム取れた?」
「んー・・・取れてないよー。」
穏形鬼を倒したことで晶の空腹感は軽減している。
来里は空腹感に変化は無いと言う。
やはりトドメを刺したものにだけ力が与えられるのだろう、と晶は確認した。
「【SR】ってさ、わかんないこといっぱいあるけど、
それを自分たちで調べて発見していくのって楽しいよね。」
「うん、姉ちゃんそういうの好きだもんね、
深海探査とかもそうだし。
僕はまだ【SR】を全然理解できてないなぁ。
あんま強くならないし。」
「そうなんだぁ、何が違うんだろね?」
話しながら二人は岩場を進む。
途中で赤鬼や青鬼と遭遇するが全部晶が倒した。
来里も一回だけ挑んだが歯が立たなかったからだ。
道中晶は来里に【SR】で気付いたことや
タモンたちフレンドから得た知識を教えていった。
「へぇ、HCの意図かぁ。
確かになにか目的がある気はするね。」
「あ、ラ、シャチもそう思う?
なんでも合理的なHCだもんね。
意味なくこういうゲーム作らないとアキは思うんだ。」
「姉ちゃん、【アキ】って言っちゃダメだよ。」
「あ、いっけね、てへへ。」
ゲームの世界ではトラブル防止のため本名は明かさないこと、
というマナーがHCに【推奨】されている。
結局二人は岩場を突っ切って砂地まで来てしまった。
二人とも空腹感が激しくなっている。
来里が言うにはそろそろHCからゲーム終了を促すメッセージが来そうとのこと。
ふーむ、と考える晶の索敵に何かが引っ掛かった。
「あ、シャチ、ちょっと待ってて。」
晶は来里にそう言い残して駆け出す。
感知した敵はプレイヤーと思われた。
相手に気付かれないギリギリまで接近して正体を窺う。
『ほぉ、【角大兎】だ。
来里の相手には丁度いいかな?』
すぐに晶は身をひるがえし来里の許へ戻る。
そして来里にその角大兎に挑むように伝えた。
「えぇー?勝てるかなぁ?」
「シャチ、勝負は常に全力真っ向から!
そうやって姉ちゃんは強くなったんだよ。
もう時間的に最後なんだから、頑張って!」
「んー、よし!わかった!
僕やるよ!
たぶん勝っても負けてもそのまま終わるから、
メッセージ残しておくね。」
「りょーかい!
じゃあまた後でね。
夜にフォーラムでインドラたちと会うの忘れないでよ?」
「大丈夫だよー、またねー!」
来里は角大兎のいる方向へ駆け去っていった。
『んー、こういうのんびりしたプレイもいいもんだなぁ。
このお腹減るのが無ければなぁ、
でも満腹だとなんか闘志がにぶる感じだしなぁ。』
晶はまだ来里との平和な時間の余韻に浸りながら砂漠の方を眺める。
気持ちを入れ替えるために死亡覚悟であの巨大蛇のエリアボスに挑もうか、
そんなことを考える晶の【危険予知】が急激に反応した。
「えっ!?」
咄嗟に【烈動回避】で前方に転がり込み背後にいる存在に向き直る。
そこには人間の女性の上半身、蛇の下半身の姿の敵がいた。
胸部分は鱗に覆われている、HCの公共良俗によるものだろう。
その存在を知覚した瞬間に晶はその正体も理解できていた。
「あっ!ナッキィ!」
「アッハー!アスラ!勝負だよっ!」




