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又従弟驚愕


バビロンたちを撃退したあきらは空腹感が無くなったことに気付いた。

おそらく進化第二段階と思われた三人だが強さはそこそこだったのだろうか?

だが晶にはそう思えなかった。


プレイヤーはNPCより空腹軽減が大きいと考える方が自然だと思えた。

プルフラスに圧勝した時も空腹軽減があったのが思い出されたのだ。


『ということはー・・・・・・、

 やっぱりスキル進化はゼロ、か。

 あ!【毒針】が【毒撃】になってた!

 ってやっぱそれだけかぁ。』


晶は一応尻尾を振って試してみた。

パパパ、と尻尾から針が飛んでいく。

そして尻尾を良く見ると毛が逆立つように膨らんでいる。

そっと手を伸ばしたら尻尾の毛が硬質化しているようだ。


『あ、そうですか。

 これが【毒撃】ですかぁ。』


晶は特に期待していなかったが、役立たずそうなスキルを目にして力が抜ける。

尻尾で殴る暇があったら錫杖で殴った方が遥かにダメージを与えられるだろう。


『さーて、タモンたちにメッセージ送ろっかなぁ。』


晶は気分を変えてタモン、インドラ、アルマロスにメッセージを送る。

先程バビロンが言っていた【デスペナルティの変化】について伝えておいた。


『よし、だいぶ早いけど一旦終わっちゃおっと。』


晶はクリアアウトして【SR】を終了した。


バビロンたちとの闘いで少し満足感があったので満腹な内に切り上げたのだ。

その分を昼か夜に足して長くやればいい、という考えもあった。



『あ、ライから返信来てる。

 んー、え?

 【SR】やってるんだ?へぇー意外。』


来里らいりからの返信を読んだ晶はさらに返信を返した。

それなら【SR】内で会おうと提案したのだ。

だが晶に来里と闘うつもりはない。

来里はまだ【水牛】だというのだ。

相手にならないし腹の足しにならない。


すると来里が直接晶のホームに行きたいとメッセージが届いた。

了承するとすぐに来里が現れた。


「アキ姉ちゃん、久しぶり。」


「おーす、ライ。

 あれ?ちょっと背ぇ伸びた?」


一ヶ月ぶりに会ったハトコは前より少し大きく感じられた。


「うん、ちょっと伸びたかも。」


「あれ?声もなんか変わってる!

 うわー、ライがおじさんぽくなってるー!

 ひぃー!」


「ちょ、ちょっとやめてよアキ姉ちゃん!」


晶は来里にすね毛が生えてないか確認したりして好き放題はしゃぎ騒いだ。

一通り騒ぎ倒すと晶は何事も無かったかのように澄まして来里に問い掛けた。


「で、ライ、どしたの?」


「あ、うん。

 【SR】やるんなら一緒に授業して終わったあとやればいいかなと思って。」


「あぁ、なるほど、でもお昼ご飯挟むでしょ?」


「うん、午後も一緒に授業受けようよ。」


「えー?しょうがないなー。

 じゃー、そうしよっか。」


そうして晶は久々に又従弟と一緒に授業を受けることになった。

何ヶ月か前にも一緒に受けたが、相変わらず来里は座学の成績が良い。

人工知能の問いにスラスラと答える。


私語厳禁なので口を開かない晶だが、

晶のわからない問いを来里が答えたりすると般若のような顔になる。


『これは【SR】で上下関係を教え込む必要性があるね。』


と逆切れの感情を込めながら午前の授業を終えた。


「じゃあ先に食べ終わった方がメッセ送るってことで。」


「うん、アキ姉ちゃん、また後でね。」


手を振りながら消えていく来里。

晶は手を振り返しながら

『SRで来里牛の背に乗って移動したら楽だな』などという予定を立てていた。




昼食時に朝のSRのことや来里のことを家族に話す晶。

いつも通り全て話している。


「そっか、じゃあ午後の授業はじぃじも参加するかな。」


「あ、じゃあママも。」


「それならばぁばも。」


「ぐぅー!父さん!今日だけ仕事代わってくれよ!」


「駄目に決まってんだろ。」


どうやら吾朗以外の三人が午後の授業を一緒に受けることになりそうだ、

そんな雰囲気を感じ晶は声を上げる。


「んもー、パパが可哀想でしょ?

 じぃじかママ代わってあげなよ。」


「え、いや、じぃじ久しぶりに来里に会いたいし・・・」


「えー?アキラ、ママ一緒に授業受けたいよ・・・」


「しょうがない、じゃあゴロー、ワタシが代わるよ。」


「いいのか母さん?」


「ばぁば偉ぁーい!

 我が家で一番いい人なのはばぁばでけってーい!」


「うふふ、ありがとね、アキラ。」


ハンナ以外の三人が『やられた』という顔をしている、

そんな家族の表情に気付かず晶はハンナにハグをし続けた。





「と、いうわけでいっぱい参加者が増えました。」


「そうだね、アキ姉ちゃん。」


授業を受けようと晶のホームには六人の人間が集まっていた。


晶と来里と、憲吾と吾朗とエリーゼ、そして真理亜だ。


「いよーぉ!アキラ!

 元気そうで何よりだね!」


「うん!マリアちゃんも元気そうだね!」


「あったぼうよぉー!気合が違うっての!」


晶と真理亜が挨拶している横で来里が晶の家族たちと挨拶している。


「大伯父さん、お久しぶりです。

 ゴロおじさんとエリおばさんも。」


「おう、なんだ来里、もう声変わりか。

 子供の成長は早ぇーなぁおい。」


「ライ、今度みんなでゴルフするんだけど一緒にどうだ?」


「エリおばさんのダッド&マムも一緒なの、人数多いと楽しいよ?」


「あ、うん、考えとく・・・」


ワイワイした雰囲気のまま午後の授業を始める。

真理亜が元気よく回答し勢いよく間違う。

来里は恥ずかしがっていたが晶にはとても楽しい授業となった。


「んじゃあまた来るよ、伯父さんたち、またね。」


「あぁ、真理亜もな、また近いうちにな。」


そう言って真理亜が帰還し憲吾たちも来里に挨拶して消えていった。

少し淋しげな気持ちになりながら晶は来里に話しかけた。


「いやぁ、マリアちゃん、変わんないねぇ。」


「うん、少しは大人しくなって欲しいんだけど。」


「えぇ?マリアちゃんが大人しくなったら病気かと思って心配しちゃいそう。」


「あは、たしかにそうかも。」


「うひひ、あ、じゃあそろそろ【SR】やろっか?」


「うん、スタート場所違うと思うから僕すぐフレコールするね?」


「あ、そっか、忘れてた。

 じゃあライからね、私待ってるね。」


そう取り決めて晶は【SR】をスタートさせた。




「それではゲームを再開します。


 生き残るため、戦うのです。」



晶が目を開けると今朝と同じで沼地と岩場の中間地点だった。


少し空腹感を覚えながら来里からのフレコールを待つ。

パネルを見ると丁度来里がスタフインした表示になった。


フレコールが表示され晶はすぐ応えた。


「あ、アキ・・・アスラ、僕、いま芋虫とかがいる草原にいるよ。」


「あぁ、そうなんだ?草原は二ヶ所あるんだよ。

 岩場の方を向いてみて?山はどっち側に見える?」


「えーっと、山は左だね。」


「よーし、わかった。

 私がそっち行くから、芋虫倒して待ってて。」


「わかったー。」


晶は来里の答えにホッとした。

以前ナッキィの親戚のヒーシィが【別地域】と言っていたのを、

ついさっき思い出したのだ。


『あっぶなー、来里が山の向こうとかにいたら会えないとこだった。

 いや、見つけるまでわかんないか。

 早く行かなきゃ!』


晶は四足で荒地を駆け出した。

走りながら晶は来里が何故ハンドルネームを【シャチ】にしたのか考えていた。


『【シャチ】って海にいるあの生き物かなぁ?

 ライにしては強そうな名前にしたなぁ。』


草原には僅かな時間で到着した。

走るスピードも晶は強化されていた。

角の無い狼の時と比べたら体感で倍のスピードがあるように思えた。


到着してすぐに【心眼】で辺りを探る。

近くにはいないようだ。


比較的強敵のいない草原だが、中には巨大蛾モスマンもいる。

晶の知らない敵もいるかもしれない。

晶は来里のことが急に心配になってきた。


草原の中心地点まで気配を探りながら駆け抜ける。

まだ見つからない。


晶は少しイライラしながら次に行く方向に迷う。

来里に向けフレコールを送る。


「あ、ラ、シャチ!

 いまどこにいる!?」


「あ、ア、アスラ、

 いま大きな蛾のオバケに追っかけられて、

 草原の山の方向に逃げてるとこ、助けてー!」


「すぐ行く!」


晶は山方向に弾丸のように加速して走り出した。



途中でプレイヤーらしき存在が何人かいたが全て無視して来里を探す。



『いたっ!!』


さっきの話通りモスマン二体に翻弄されるように黒い水牛があたふたしている。


走る勢いそのままに戦闘に割り込む。



「アスラ推参っ!!」



宙を飛ぶモスマンの一匹に飛び掛かる晶。


一回の跳躍では届かないが【二段跳び】をすることで至近距離に迫る。


「やっ!」


至近距離で【薬叉礫】をブチ当てる。


三発同時に喰らったモスマンはそれだけで塵となり消えゆく。


「しゃくじょぉっ!」


晶はそのまま空中で錫杖を構えもう一匹に投げつける。


錫杖は猛スピードでモスマンに迫りその胴体を貫き通り抜けた。


錫杖が地面に落ちる前に晶は自分の手元に戻し消し仕舞う。


着地して来里を見やると茫然と四足で立ち尽くしていた。



「ラ、シャチ、大丈夫?

 ダメージとか毒とか受けてない?」


「大丈夫だよ、ア、アスラ姉ちゃん。

 まだ何の攻撃も喰らってないよ。」


「そっか、良かった。

 あ、お腹減ってない?

 私いますごい腹ペコなんだけど。」


「えぇぇ?僕、食べられちゃうの?」


「なんでさ!

 シャ、あ、いいのか、

 シャチでも倒せる敵で私の空腹を抑えられるやつ、探そうと思ったの。」


「うーん、僕まだ芋虫とかカエルとかしか倒してないなぁ。」


「うーん、そっか。」


来里は思ってた以上に弱そうだった。

この空腹をどう満たそうか、と晶は悩む。


「それにしてもアスラ姉ちゃん、

 すごい強いんだね、本当にビックリだよ。

 空飛んでなかった?それに何か槍みたいな武器も使ったよね?」


晶は空腹感を堪え、来里に手短に説明していく。


「そうなんだぁ、僕まだ一個もアイテム取れてないよぉ。」


「ふーん、あ!じゃあ沼地行こう!

 姉ちゃんの友達が【鬼蜥蜴の鱗】で炎を使えるようになったの!

 まずそれを取ろう!」


「え?う、うん、頑張る・・・」


「あー、でもお腹すいた。

 シャチ、乗っけて。」


そう言うと晶は来里の返事も聞かずその牛の背にまたがる。

そしてその背をペチペチ叩いて歩くように促した。


「えぇ~、なんか重いぃ~。」


「こらっ、女性に重いとか言うな。

 極刑にするぞ?」


ヨタヨタと人狼を背に乗せ進む水牛、

しかしすぐに力尽きてしまい、仕方なく乗牛作戦は終焉を迎えた。



二足で歩く人狼、しかしその歩くスピードはかなり速い。

黒い水牛はなんとかそれに追いつこうと早足で歩く。


「アキ、アスラ姉ちゃん!速いよ!速いって!」


「ちょっとシャチぃー、鍛えないとスキル取れないんだよ?

 私お腹減ってるし、早く行きたいの。」


「うぇぇー、わかったよぉ。」



晶は常に来里の前を歩き、距離が開くと足をタンタンと鳴らし待つ。


来里はそのプレッシャーに冷や汗をかきながら走る。


するとまた晶が歩きだしまた距離を離す。


そんな行動を三度繰り返し、


来里は【敏捷】スキルと【忍耐】スキルを手に入れた。




『うぅ、アキ姉ちゃんと楽しくゲームしたかっただけなのにぃ』


来里は晶の思わぬ暴君の一面を見た気がした。


そして、


『でも良く考えたら前からこんなだったかも』


と思い直し、諦観の念を抱きながら、またイラつく晶に向かって駆け出した。



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