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決意と日常


『折角だから他のプレイヤーと話とかしてみたいなー』


生き残りゲームであるのにそんな呑気なことを考えつつ晶は飛び跳ね続ける。

そして晶はまた身体に力が湧き出る感覚に気付く。

慌ててスキル確認をしてみると【跳躍】が先程よりハッキリと見えている。


『はっはーん、

 スキルは経験でも獲得できそうだなぁ』


そう感じた晶は今度は荒地を出鱈目に全力で飛び跳ね始めた。

そうしてまた空腹感が感じられた辺りでスキル確認してみる。


『おぉ~、

 【ジグザグ跳躍】かぁ~、だいぶうっすい表示だけど』


晶は自分の予想が当たったことを喜びつつ、周囲の探索に集中し始めた。

また何かこちらに近付く音を感知したのだ。


現われたのは、ハムスターだった。

そしてなんとハムスターはこちらを見詰めながら話し掛けてきた。


「あのー、

 プレイヤー、ですよね?」


突然の問い掛けに晶は慌てて返答する。


「そうですそうです!

 あなたもプレイヤー?

 もしかしてそれってネズミ?」


「そうなんですよー、

 設定画面を見たらネズミなのに可愛いから選んじゃってー。」


「うぁー、

 名前だけで弾いちゃってたよー、

 それも可愛いじゃーん。」


「えー、

 ウサギも可愛いよー、

 もっふもふじゃなーい。」


突然始まった女子トークだったが、

それは思わぬ展開で終わりとなった。


「えー、でもでもー・・・

 あれ?」


晶がふと気付くと何者かに足を噛まれていた。


それは蛇だった、体長だけならば晶の三倍はありそうだ。


「うはははー!

 バーカめ!まんまと引っ掛かったな!」


「ぐっ、

 油断させてだまし討ちか、卑怯なっ!」


晶は足に蛇をぶら下げたままハムスターに突進する。

しかし蛇の牙には毒があるらしく思うように進めない。


「ふふふ、観念しなさいって。

 このバビロン様の手に掛かって死ねるんだ、

 ありがたく思ってね。」


「く!

 この、そっちも初心者のくせに・・・」


「うるさい!

 オッセ、とどめはアタシがやるからね!」


「ハガハガ!」


どうやら蛇は噛み付いているのでうまく喋れないようだ。

変なとこでリアリティ求めるなHCヒュージコンピュータは、と晶が思っていると、

目前にやたら大きなハムスターが牙をいて迫ってくる。


『くっそー』


晶は首元に何か刺さったような痛みを感じながら視界を暗転させた。



気が付けばまた白い世界に戻ってきていた。


『くぅ~!

 悔しいぃ~!

 あんな卑怯な手でやられるなんて~。

 ん?

 でもサバイバルゲームで卑怯も何もないのかな?

 でも悔しいぃ~!』


晶は仮想現実の中で地団駄じだんだを踏みまくる。


『くっそぉ~、

 でも決めた!

 私は絶対卑怯な真似はしないで強くなってやる!』


SRシックスロード・リィンカーネーション】は魔界が舞台であるので正々堂々は不利になりそうとの不安はある。

しかし晶は生来から真っ向勝負気質である。

だまし討ちなど肌に合わないと感じていた。


『でも仲間はいると心強いかもなー』


現代は人間関係が希薄なものになっている。

物語で知る友人関係に晶は憧れがあった。


『あんなだまし討ちとかする友達関係じゃなく、

 もっとこう、お互いが背中を預ける、みたいなのがいいなー』


そんなことを思いながらキャラメイキングのパネルを眺める。

鼠があんな可愛かったのだ、ほかのはどうか?と晶はパネルを操作する。

兎のほか、子猫は案の定可愛かった。

小鳥が思ったほど可愛くない、鳩という鳥が少し大きくなったものだった。

蜥蜴はイメージ通りのトカゲだった、晶の感性には可愛く感じられない。


『んー、

 このままウサギを極めても結局別のキャラが後で出るんだよね?

 それなら色々試してみよっかな』


そうして晶は二回目のプレイは【子猫】を選択した。



また光の洪水に飲み込まれ、気が付けば草原にいた。

しかしさっきとは違う場所のように晶は感じた。


自分の姿を確認することは出来ないが子猫になっているのだろう。

また視界が低い状態になっている。

晶はそんなことを思いながら前足を前に伸ばす、

子猫の手が見えた。

メイキングで色の変更は出来なかったので茶トラと言われる毛並みのままだ。

兎から猫になったが視力の悪さは相変わらずだ。

しかし嗅覚と聴覚はさっきより良いように晶には感じられた。

猫の嗅覚は人間の30万倍、犬は100万倍らしい。

しかしそこまで良くはなってないだろうと晶は思う。

そこまで再現したら人間は耐えられないとHCは判断するだろうと思われた。


晶はとりあえずスキルを確認する。

可愛さで選んだため確認し忘れていたのだ。

【引っき】と表示されている。

もう一度前足を前に出す、指先に力を込めると爪がチョロっと出た。

晶には至極頼りないものに感じられた。


既に空腹感に襲われてきているが晶は荒地をジグザグにダッシュする。

そしてジャンプしたり草に向かって爪を振るったりした。

しばらく続けても力が湧き出る感覚はなかったが、

スキル表示を見ると【ジグザグダッシュ】と【跳躍】はかすかに出ていた。


晶は空腹感がかなり強くなってきたのを感じ、移動することにした。

できれば弱い相手がいいな、と周囲の気配を探りながら歩く。

少し移動しただけで運よく獲物を見つけた。


また芋虫がいた。


晶はため息とともに戦いを始めたが、先程より苦戦することとなった。

芋虫の攻撃は前回より楽に躱すことが出来た。

しかし攻撃力が弱かった。

短い爪で何度も何度も芋虫を削る攻撃を繰り返した。


苛立いらだった晶は先程同様に芋虫の跳躍に合わせ頭突きを見舞った。

しかしダメージを受けたのは晶の方だった。

首が詰まったような痛みに仰け反り、顔をしかめる。

諦めて爪での攻撃を繰り返し、なんとか芋虫を電子の墓場へ送ることが出来た。


『いたた、

 攻撃用のスキルにないことをするとダメージになるのかな?』


晶が痛みに唸りながら戦いの反省をしているとまた力が湧き立つ感覚を覚えた。

スキルを確認すると【頭突き】と【回避】がうっすら表示されていた。


『この【頭突き】はいまの失敗の経験からかな?

 それともウサギの時の経験が活きてるのかな?』


晶は少しの間悩んでいたが、まだプレイ二回目なのだと開き直り、

色々試しながら次の空腹感が訪れるのを待つことにした。


空腹感は晶の想像より早くやってきた。

獲物を求め場所を移動する。

そして見つける。


また芋虫だ。


そして先程の攻防が繰り返される。

そんな戦いを五回ほど続けた辺りで晶のスキルに変化が起きた。


『おおぉっ!

 【引っ掻き】が【削ぎ取り】に変わった!』


晶は他にも【ジグザグダッシュ】と【回避】がはっきり表示されていることに気が付いた。

【頭突き】はぼんやり薄いままだ。

晶は最初の戦い以降頭突きで攻撃していないことに思い至る。


晶はまた前足を前に持ち上げる、

指先に力を込めると爪が力強く飛び出た。


『なーるほど、

 なんで変化したかはよくわかんないけど、

 色々やった方がいい、ってのは絶対だね。』


うんうんと首を無意味に振りながら晶はひとり納得している。

そうしてまた芋虫と何度か戦う。

今度は噛み付いたりネコパンチを繰り出して戦った。


そうして【噛み付き】と【直突き】がうっすらと表示された辺りで

晶に新たな相手が現れた。


『おー、

 この虫は、カブトムシ、ってやつじゃないかな?たしか』


晶は虫があまり好きではないのでよく知らないが、

生物について学んでいた時にこの虫を見た気がしたのだ。


晶が初めて出会う生物に戸惑っている間に甲虫かぶとむしは高速移動してきた。


『速いっ!』


ブゥンッ、と嫌な音をたてながら一直線に晶を仕留めに向かってきた。

このままではあの鋭く尖った角で一突きだろう。


晶はその攻撃に対し甲虫の下に回転しながら潜り込み、

その下腹に全力で爪を突き立てた。


ガリッ、と少しだけ削れた感触はあったがダメージには至らなかったようだ。

晶はそのまま前進し、甲虫と距離をおいて向かい合う。


だが甲虫は晶に休む暇を与えずまた羽を広げ飛びかかってきた。

晶はジグザグに動きながら相手のすきうかがう。

甲虫はUターンしてこちらに戻ってきたが初速は失われている。

ここが攻撃のチャンスと晶は判断した。


またジグザグに近付きつつ飛び上がり、身体を捻りながら爪を立てる。

最初の攻撃より深く爪はめり込んだ気がするが着地は失敗した。

猫は高い所から落ちてもくるりと綺麗に着地するはずなのだが、

晶は知識と現実の剥離はくりを感じながらズザザーっと地面に滑り落ちた。


なんとか起き上がり振り向くと、

眼前には甲虫の殺意の込められた一本角が迫ってきており、

晶は躱す動きも出来ないまま胴を貫かれ視界が暗転した。



また白い世界に還ってきた。


もっと強くならなければあの甲虫には勝てないな、と晶は分析する。

強さがあまり変わらないまま次に甲虫に会ったなら撤退あるのみだ。

逃げ足を鍛えることも必要な気がした。

甲虫相手に兎の頭突きはダメージを与えられるだろうか?

晶にはそれは無謀な挑戦に思えた。


そんなことを考えていると晶にパーソナルメッセージが入ってくる。

そのメッセージのタイトルだけで晶には内容が予測できた。

どうやら授業を受けるようにとの推奨メッセージがHCから送られてきたようだ。

一日の授業時間は決まっているのでいつ受けてもいいのだが、

HCの【推奨】を何度も断っていると最悪の場合は逮捕となってしまう。

実質HCからの命令のようなものだ。

21世紀中盤の時代を知る老人の中には、

これをコンピュータによる支配だ、と人類主導社会への回帰を訴える人もいる。

しかし人間の判断が最高位になると、

また戦争もしくは一部の人間による独裁となるのは目に見えている。

それがコンピュータによる感情抜きの教育を受けた大多数の人間の判断であった。


晶はしぶしぶホームに戻り、パネルを操作して人工知能による授業を選択した。

仮想現実内なので立っていても座っていても疲れることはないが、

授業の際はテーブルとイスが出現して座って学ぶのがスタンダードだ。

人工知能は人間の姿をとり晶に前回の続きから授業を再開する。

その内容は多岐にわたり、ロボットの遠隔操作の実技や、

現在数少ない現実での人間同士の接触が行われる病院についての説明もされた。


時間は昼になり、晶は授業を中断して電子世界から現実世界に戻ることにした。


「ママー、

 お昼ご飯な~に~?」


階段を下りて居間の扉を開けながら晶は母に問い掛ける。

母は晶に優しげな笑顔で返事をする。


「オムライスだよー、

 パパも呼んできて。」


「りょーかーい!」


ビシッと敬礼のポーズをして晶は父の仕事部屋に向かう。

一応ノックをしてから部屋に入るが、予想通り父はポッドの中にいた。

居間のパネルで呼んでもよかったのだが、

父は家族のコミュニケーションは多いほどいい、という人なので

毎回晶が父を呼びに来ている。


晶はポッドのボタンを数回押し、反応を待った。

やがてポッドのカバーが開かれ、父が身体を起こした。


「おう、アキラ。

 お昼ご飯か?」


「そうだよー、

 オムライスだって。」


「お、いいなー、久々だな。」


現代では過去に家庭で行われていた家事という仕事は残っていない。

料理は完成されたものがフリーズ加工され販売されており、

各家庭でロボットがそれを解凍して提供する。

ロボットといっても人型ではなく料理専用の箱型のものが主流だ。

食べ終えた食器を洗うのも同じロボットだ。

欠けたり壊れた食器は工場へ送られ再利用される。

掃除や洗濯もそれぞれ専用ロボットによって行われている。

人間はすることがないから電子世界で仕事をする、といった状態になっている。


晶が父を連れて居間に戻ると母が五人分の料理を並べていた。

テーブルには祖父と祖母が既に座っていた。

全員揃ったところで食事が始まる。

話の中心はいつも晶だ。


「ね、ね、じぃじ、ばぁば。

 もうシックスロード・リィンカーネーションやった?」


「いやぁ、おれぁ身体動かすゲームはもうキツイわぁ。

 今日はばぁばとまた観光してたんだ。」


「そうだね、ばぁば達またイタリアのジェノバ見て来たよ。」


「またー?

 ばぁば好きだよねー、観光。

 身体動かしてる?

 健康診断の判定大丈夫?」


「ふふふ、ありがと、大丈夫だよ。

 観光で歩いてるし、たまにじぃじとゴルフとかもするから。」


「アキラ、ママも一緒にゴルフしてるんだよ。

 今度アキラとパパも一緒にやろうよ、ね?」


「お、いいねー。

 じゃあレオじぃじとエミばぁばも誘ってみんなでやろうか?」


「あ、いいじゃんいいじゃんそれー!

 私じゃあ後でエミばぁばのとこ行って伝えとくよー!」


晶は母方の祖父母にゴルフの連絡することを請け負い、

【SR】の楽しさを家族に伝えながら昼食を終え、自室に戻った。


晶は再びポッドに入り電子世界へと身を沈めた。


再度の健康診断も問題はなく、ホームで母方の祖父母にメッセージを送る。

すぐに返信があったのでパネルを操作して移動を開始した。


「エミばぁば、三日ぶり、元気?」


「あんらぁー、元気だよ。

 今日はどしたの?」


晶は先程のゴルフの話を伝え、しばらく世間話をしてまたホームに戻った。

離れた地方に住む母方の祖父母だが仮想世界と繋がれば距離は感じない。

そしてまた人工知能の授業を今日のノルマ分受け終えると、

待ちかねた【SR】の世界へ飛び込むためにパネル操作を開始した。




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