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晶はナッキィ達に別れを告げ、別のフォーラムに移動した。

待望のパーソナルメッセージが届いたからだ。

そこでは入室したばかりのインドラが待っていた。


「アスラ。

 また会えて嬉しいよ。

 いっぱいお話できるかな?」


「うん!

 私も嬉しいよ!

 いっぱい話そう!」


晶はインドラと話し始める。

まずは先程の尻尾の動きを見せて笑わせるところから始めた。

インドラがホホホと楽しそうに笑うのを見て晶はご満悦だ。


「あれ?そういえばタモンは?」


「タモンは何か用事があるみたい。

 遠縁の親戚と会ってるのかな?」


「ふぅ~ん、私は親戚少ない方だからなぁ。

 ばぁば・・・遠いとこの祖父母にはちょくちょく会うけど。」


「ふふ、そうなんだ。」


穏やかに笑うインドラ。

その綺麗な佇まいに羨望しつつ晶はゲームの話題に切り替えた。

【SR】の詳細な進捗状況を報告し合う。


「へぇ、じゃあインドラはまた牛さんなんだ?」


「そうなの、【白巨牛ナンディン】になったの。

 本当に良かったよ、タモンの話だとね、

 【火蜥蜴サラマンダー】になるんじゃないか、って言われてたから。」


「ははぁー、人によって進化の仕方が違うって話、ホントなんだ?」


ここで晶はインドラに先ほどナッキィ達から聞いた話を伝える。

インドラはそれを興味深そうに聞いていた。


「なるほどぉ、

 ワタシが牛を好きな気持ちがHCヒュージコンピュータに伝わったのかな?

 じゃあアスラは狼が好きってことになるかな?」


「ふぇ?

 私そんなに狼って知らないんだけどなぁ?」


晶は自分が狼好きとは思えなかったが、とりあえずその話は流した。

話題はその進化した自分たちの強さに関してのものとなった。

この話は白熱した。


「ワゥワ!アスラ森の【人面虎マンティコア】を倒したの?

 すごい!ワタシあそこでやられて今日は終わったの。

 【猛虎の牙】取れなかったのぉ、悔しい!」


「いやー、私もギリギリだったよー。

 アイツ速いよねー、

 後ろからの攻撃になんとか裏拳がカウンターで当たったんだ。」


「ふむぅ、牛の身体だと背後が弱点なんだよ。

 どうにか考えないとなぁ。」


晶が森で斃した人面虎はマンティコアという名前らしい。

正直気持ち悪いのでもう会いたくないと思っている。

基本的に強敵には敬意を払う晶だが、気色悪い敵だとその気持ちも薄れる。


「そういえばインドラさ、話せるNPCと会ったことある?」


「えー?んーと、

 さっき言ってたマンティコアはなんか怖いこと話してたよ?」


「あ、それは私も聞いた。

 人間美味い、お前死すべき運命、って。

 きんもちわるいぃ~!」


「ほほほ、確かに気持ち悪いね。

 あと以津真天いつまでも『いつまで、いつまで』って話すんでしょ?」


「うん、そうなんだけど、

 言葉を一方的に話すんじゃなくてさ、

 人工知能みたいに受け答えする感じの話せるNPCのこと。」


晶の意図が伝わったインドラは考え込む。

しかし該当する敵とは会ったことがないとのことだった。


「ほほほ、話が通じないプレイヤーなら会ったことあるけどね。」


「あ、それ私もあるんだー。

 すっごい嫌な気持ちになった。」


晶の脳裏にプルフラスが浮かんだ。

もう記憶から消してしまいたい人物だ。


「あ、そういえばさ、

 私がさっきやってた尻尾の動きあるでしょ?

 あれって【毒針】を尻尾から出すために練習してるんだ。

 インドラも尻尾で攻撃するスキルがあれば背後への攻撃出来るんじゃない?」


「ワゥワ、ワタシもあの動きしなきゃなの?」


インドラは頬に両手を当て恥ずかしがる。


「そうそう、試してみれば?

 私も色んな動き試してるよ、

 そんでたまにスキル獲得してるよ?」


「ハァン、そうだよね。

 トライ&エラーの繰り返しでHCは理知的な答えを出すんだものね。

 ワタシもやってみるよ。」


「うん!頑張っていっぱい強くなろ?

 近いうちに私たちも闘ってみる?

 いっぱい闘ってお互い強くなろうよ。」


この元気よく発した晶の提案に対し、インドラは眉尻を下げる。


「んー、アスラ。

 プレイヤー同士が闘うと、勝った方が強くなって、

 負けた方との差は広がっちゃうんじゃないかな?」


「え?あー、うーん、そうか。

 じゃあ今いるエリアでさ、敵無しになったら闘ってみる?」


晶の言葉にインドラは眉尻を戻し少し考えるそぶりを見せ、答えを出した。


「うん、アスラ。

 単独でエリアボスを倒せるぐらい強くなったら闘おうか。

 それまでは一時休戦、白い牛に会っても襲っちゃダメだよ?」


「うへへ、オッケーだよ、ベイビーちゃん。

 牛と狼の同盟成立かな?」


晶の言葉にインドラは首を横に振る。


「ううん、あくまで一時休戦。

 あ、でもエリアボスと戦う時は共闘する?」


「なーるほど、同盟と一時休戦は違うかー。

 でも、うん!オッケーオッケー!

 エリアボスと戦う時だけ共闘でどっちがトドメでも恨みっこなし!

 それでどう?」


真っ直ぐな晶の意見にインドラは微笑み首を縦に振る。


「いいよ、それで。

 ほほほ、【SR】がさらに楽しみになってきちゃった。」


「私もだよー!

 強くなった自信がついたら伝えるよ!

 タモンも入れよっか、三人に自信がついた時エリアボスに挑もう!」


お互いの意見を受け入れ二人はまたしばらく【SR】の話をしてから退出した。

ホームでパネルを操作して電子世界にしばしの別れを告げる。

ポッドから出た晶はインドラとの約束に少し気持ちが昂り、

わけもなく柔軟運動したり屈伸運動をする。


居間へと向かいナッキィやインドラと話したことの報告を終えたあと、

晶は母と一緒にゆっくりと風呂に浸かる。


現代では風呂に入らなくても全身洗浄は可能になっている。

しかし日本では湯水に浸かる風呂文化は廃れず残っており、

各家庭には洗浄ロボットとは別に浴槽があるのが一般的だ。


「ねぇママ、アキね、

 【SR】始めてから筋肉少し付いた気がする。」


「どれどれ?あらホントだ。

 いいんじゃない?健康的で。」


「うひひ、もっと筋肉付いたらもっと強くなれるかな?」


「なぁに?

 アキラはVRスポーツの選手になりたいの?」


母の問い掛けに晶は首を横に振る。


「それは考えてないなぁ。

 いまは【SR】で強くなることばっかり考えてるんだ。」


「あらぁ、もうアキラは【SR】に夢中だね。

 レオじぃじの友達みたいに怪我とかしないでね?」


「うんっ!気を付ける!」


元気のいい返事をする娘にエリーゼは心配気な目線を送る。

この自慢の娘はいままで大きな病気や怪我をしたことがない。

しかしそれが逆にいつかより大きな怪我などに繋がるのではと心配になるのだ。


風呂から上がり洗浄ロボットで髪や身体を乾かす。

火照る身体のままエリーゼは娘にハグをする、

いまの幸せを逃がすまいとするように。

それは娘が苦しがって逃れるまで続けた。


晶は自室に戻り全包ベッドに横たわる。

今日は昨日ほど身体に疲れを感じていない。

パネルを操作しホログラムビジョンを開く。

狼の生態や尻尾を動かす筋肉の説明を聴いている内に晶は眠気を感じ、

なんとかパネル操作でビジョンを消すとそのまま眠りの世界に旅立った。



『ん、朝か・・・』


全包ベッドの中で目覚めた晶は意識を覚醒させていく。

今日は【SR】で何をしようか?

そんなことを数分考えてから晶は身体を起こす。

ベッドから飛び降り腕を回し太ももを交互に素早く上げ下げする。


『いよっし!絶好調!』


両腕を振り上げ晶は自分の体調を把握すると自室を飛び出し居間に駆けこんだ。

廊下を走らないように祖父に注意されながら晶は朝食の準備を手伝う。


「なんかアキね!今日調子いい!」


朝食を食べながらそんな宣言をする晶。

両親祖父母はそんな晶を微笑ましそうに見つめ、そうかそうかと頷く。

朝食を食べ終えた晶は自室に駆け戻る、祖父の注意する声が遠くから聞こえる。


一刻も早く【SR】の世界に飛び込もうとポッドに身を横たえパネル操作する。

音も無く電子世界に没入していきホームから【SR】をスタートさせた。



「それではゲームを再開します。


 生き残るため、戦うのです。」



『うん!闘うよ!』


闘志を燃やす晶は岩場と砂漠の間の砂地で目を覚ます。

そしてそれと同時に強い空腹感を感じた。


『そうだった、お腹すいたままクリアアウトしたんだった。』


迂闊な自分に少し闘志を削がれたが、晶は周囲を見渡し【気配看破】を行う。

どうやら現在地から岩場の方向にプレイヤーらしき存在がいそうだった。


『いよーし!正々堂々叩き潰してやる!

 インドラだったら見逃すけどねっ!』


謎のテンションのまま晶は岩場方向へ駆けだす。

近付くとその存在の匂いが濃くなっていく。

そしてその匂いに晶は覚えがあった。


プレイヤーと思わしき敵の姿が視認出来た。

二つの尾を持つ大型の猫だ。

二本の尻尾は交互にゆらゆらと揺れている。


尻尾の動かし方を理解しているのだろうか?

しかし晶には話しかけてそれを訊く意思はない。

スタスタと気配を殺すことなく近付いていく。


どうやら二尾猫の方も晶の存在に気付いたようだ。

バッと振り向き警戒態勢をとった。


「なんだお前?プレイヤーか?」


相手の問い掛けに対し晶は無言で攻撃態勢をとる。


「おい!こっちが話しかけてるんだ!

 無礼じゃないのか!」


二尾猫は怒った様子で尾を振るい何かを飛ばしてきた。

晶は【幻惑ステップ】でサッと躱す。


「あっ!?その角っ!

 貴様っ!もしかして!?」


二尾猫の誰何すいかに応えず晶は突撃する。


「アオォォーーーン!!!」


【魔狼の咆哮】を上げながら【螺旋突破】で近付き【竜巻砲】を発射する。


狗賓に進化後、既に何度も発動していて得意とする連携攻撃だ。


二尾猫はまた尾を振るった遠距離攻撃で迎撃しようとするが竜巻に弾かれる。


晶は至近距離まで接近すると二尾猫の頭部に竜巻入りの左右のフックを連発する。


「ぐぁぁっ!」


さらに間を置かず追撃してふらつく二尾猫の腹に礫入りの蹴りを叩き込む。


「ぐふぉっ!」


バックステップで少し距離をおきトドメの【天狗火】で二尾猫を焼き払った。


「ぎゃーーーっ!!」


おまけで腰を振り【毒針】をパパパと放ち、消えゆく二尾猫に突き刺す。



「やはり・・・貴様・・・アス・・・ラだ・・・な」


消え去る間際、プルフラスがこちらの正体に気付いたようだが、

晶は無言で電子の塵となっていく相手を見送る。



わずかに空腹感が軽減されたのを感じながら晶は軽くため息をいた。

プルフラスが粛清されていなかったことに安堵したのだ。

プルフラスに対しての嫌悪感は減っていないが心のトゲが抜けた気がした。


『ふっふっふ、プルフラス。

 私の前に現われるたびに叩きつぶすよ。

 何度でもかかってきなさい。』


今の闘いは明確に晶から仕掛けたものだが、晶は細かいことを気にしない。


プルフラスに対しての敵対心を自覚しながら、

晶はさらに自らの闘争本能を覚醒させていった。




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