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闘い二度目


あきら狗賓ワーウルフに進化できたことに喜ぶあまり、

周囲への警戒を全くしていなかったことに気付いた。


『やっば!

 以津真天いつまでに見付かってたらまた殺されちゃってたよ。』


【気配看破】で周囲の様子を探る。

嗅覚が届かない上空を大鷲や女面鳥ハルピュイアが飛んでないか視認する。

どうやら近くに生物はいないことがわかり晶は安堵する。


『ピュイピーはいないか。

 まぁ、もう少し時間をおいてから再会したいかな。』


晶は予定通り森に向かうことにした。


草原で芋虫などを相手に新たな術の試し撃ちも考えたが、

弱い相手では空腹を満たせないので却下した。


森が生い茂る様が近付くにつれ大きく広がっていく。


晶は二本足で歩いたり四足で歩いたり色々試しながら進む。

本気で急ぐならば四足歩行が適しているように感じた。


『む!?』


森の入り口で晶は獣の気配を感知した。

その存在は木の陰で晶が近付くのを待ち構えていたが、

晶に気付かれたことを察したのか、ゆっくりと姿を現した。


『虎だ、図鑑で見たとおりだ。

 想像よりおっきいなぁ~。』


のんびり構える晶に虎は警戒しているのか遠巻きに円を描く様に回り込む。

晶は視線を外さず体の向きを虎の方向に合わせ回転させる。


先に焦れて仕掛けたのは虎の方だった。


「ウァーウ!」


牛みたいな鳴き声なんだな、と感想を抱く晶に向かい虎は真っ直ぐ迫る。


野生動物としてはかなり上位のスピードで走る虎だが、

晶の眼には捉えやすい速さとして映っていた。


待ち構えてタイミングを計り両手を勢いよく叩き合せた。


「ミギャーウ!」


虎は突然現れた火柱に身体を焼かれのた打ち回る。

晶は動物が苦しむさまは見ていられないので追撃しトドメを図る。

力を込めて足を振りぬき至近距離でつぶてを虎にぶち込む。


虎は唸り声を上げることも無く静かに電子の墓場へと消えていった。


『うん、【危険看破】も働かなかったし、こんなもんかな。

 空腹感は・・・無くならないか。』


すると嗅覚の【気配看破】が新たな獣の接近を伝えてきた。


『また野生動物っぽいな。

 肉食動物かな?

 お、出てきた・・・熊かな?』


四足歩行で現れたのは熊だった。

先ほどの虎よりさらに大きい。

立ち上がってこちらを見つめてきた。

より大きく感じられる。


『虎より少し強い感じかな?

 今度はこっちから攻撃してみよう。』


晶は油断しないよう心で呟きながら草むらの中で警戒する熊に突っ込んで行く。


「ヴァルゥー!」


熊は威嚇して吠えてくるが晶は無言で【螺旋突破】で近付き、

走りながら腕を振り【旋風弾】を連発で叩き込む。


使い込まれた【旋風弾】は威力が上がっており、

顔面に喰らった熊は一時的に視力を失い暴れ回る。


晶は熊の振り回す両腕に当たらないように背後に回り、

ひとっ跳びで熊の頭部に噛み付き【ドリルファング】で決着をつけた。


もはや実在する動物で強敵と思えるのは象ぐらいしかいないだろう。

いまの二連戦はそれぐらいの自信を晶に与えてくれた。

なにせまだ空腹が収まっていないのだから。


晶は恐れず森に入っていく。

警戒すべきはインドラが言っていた蜘蛛の怪物だ。

蜘蛛の巣がどこに張られているかわからない。


慎重に進む。

途中また虎がいて襲い掛かってきたので返り討ちにした。

空腹が収まる気配はない。

あと数匹倒しても大差ないように思えた。


そこに幸か不幸か、晶の【危険看破】にビンビンに反応する存在が出てきた。


それは異形の生き物だった。

また空想上の怪物なのだろうと晶には思われた。


身体は虎より少し大きいぐらいで体格が似ている。

虎の様な模様は無く赤毛の短毛で覆われている。

尻尾は蠍の様な形をしており同様に毒を持っているのだろう。

しかし何と言っても特徴は頭部が人間の顔をしていることだろう。

普通の男性の顔をしているが、口を開けると牙がぎっしり詰まっていた。


『なんていうかぁ、気持ち悪い。』


不揃いの違和感というか、生理的な嫌悪感がこの生き物にはあった。


気持ち悪さをなんとか押し殺し、晶は話し掛けてみる。


「やぁ、きみきみ。

 お話しできるかな?

 僕は狼女だよ、仲良くできるかな?」


人面虎は晶を見据え動かない。

いや、良く見ると口が動いている。

何か言葉を発しているように見える。

おお?と晶は何を言っているか聴覚を集中させる。


「お前は死すべき運命。

 人間食う、美味い。」


「ぎぇー!お前怖い!

 お前こそ死すべき運命だってのー!」


晶の叫び声で二匹の獣は弾かれたように動き出す。


『こいつっ!速いっ!』


人面虎はかなりのスピードで動き回る。

狗賓となり動体視力が強化されたらしき晶でも捉えきれない。

姿を見失ってしまいそうで迂闊に攻撃することが出来ないでいた。


「わっ!」


急に方向転換した人面虎が大口を開けて晶の頭部を狙ってきた。


横っ飛びに転がり晶はなんとか躱す。


しかし今の動きで人面虎の所在が視認出来なくなってしまった。


臭いはする、しかし木や草むらに紛れて移動していてどこにいるかわからない。


四方から風の草ずれの音がする森の中では聴覚での判断が難しい。


なるべく死角の無い草地にじりじりと移動し人面虎を待ち構える。


もはや嗅覚は当てにならない、聴覚に意識を集中させる。


眼は焦点を合わせず視界全体を警戒する。


いつの間にか人面虎は移動するのをやめ、じっと息を潜めている。


ファッ


空気が揺らめく音が聴こえ晶は身体を捻る、

後方から牙を剥き接近してきた人面虎に照準を合わせ全力で裏拳を叩き込んだ。


「ゲボォッ!」


裏拳の衝撃と、追加で発生した竜巻にダメージを与えられ人面虎は倒れ込む。


晶は全力で右足左足と交互に振り上げ人面虎に礫を連続で叩き込んだ。


トドメに全開の【天狗火】で人面虎を文字通り葬り去った。


『ふぅ~、言葉を話すNPCは初めてだったなぁ、知能は無かったけど。

 言葉だけならほかのゲームだと結構いるのになぁ。

 それにしても速い敵だった、危ない危ない。』


晶は空腹感が消えたことを確認すると、

来た道を急いで戻り森を脱出した。

【危険看破】というか晶の第六感的なものが危険な存在の接近を知らせたのだ。


森を抜け林の木々から離れた見通しの良い場所で晶は休憩した。

のんびりとスキルの確認を始める。


『お、【ドリルファング】がまた【魔狼牙】になってる、よしよし。

 あぁっ!【旋風弾】が【竜巻砲】になってるー!やったー!

 あとは【直突き】が【殴打術】か、なるほど。

 ん?【危険看破】が【危険予知】になったのかー、

 これにはいっぱい助けられてるからなー、

 さっきの危険な予感もこれかな?ありがたいありがたい。』


さらに晶はアイテム確認で【猛虎の牙】があることに気付いた。

虎か人面虎かどちらかを倒した時に手に入れていたのだろう。


午前の授業までまだ少し余裕はあるが一旦クリアアウトすることにした。


その前にタモンとインドラにメッセージを送っておく。

狗賓に進化したこと、【猛虎の牙】を手に入れたこと、

森で蜘蛛の怪物らしき存在とニアミスしたことを伝えておいた。


『うへへ、パンチで勝つのも気分いいんだな。

 機会があれば格闘戦もやってみよっかな~。』


いまの狗賓で格闘戦を行えばパンチには【竜巻砲】が、

キックには【天狗礫】の追加効果が期待できる。

やってみる価値はあるように晶には思えた。


晶は上機嫌になりながらクリアアウトを選択し魔界から退出した。


晶はホームに戻りそのまま授業を受ける。

今日は誰とも授業を一緒にする約束はしていないはずだ。

集中して学び、充実感を覚えながら昼食の為に中断する。


家族揃っての昼食をとる。

母の言葉で人に嫌われたくない自分に気付いたことを話してみる。

両親も祖父母もゆっくり考えるようにと優しく言葉をかけてくれる。

家族の優しさは嬉しいがそれに甘えてばかりもいられない、と晶は思う。


『大人になるんだもん、甘えんぼじゃダメだよね。』


ポッドに入り勇んで授業を受ける。

ノルマ分を越えて少し長めに学んだ。


自分の学習姿勢に満足したものを感じながら、

晶は【SR】の世界に突入していった。


スタート前にメッセージを確認する。

タモンとインドラは既に中にいるようだ。

タモンは晶が未到達の草原で【甲虫の角】を入手したらしい。

インドラは砂漠でデスワームと遭遇したが撃破、

蚯蚓みみずの珠】を入手したとある。


『むむむ、強くなってるみたいだなぁ。

 負けてらんないぞー!

 アキもやるんだもんねー!』


負けん気が剥き出しになった晶はタモン達にライバル意識を燃やす。


『まずはインドラの手に入れた【蚯蚓の珠】を取りに行こう。

 よーし、空腹感が軽いうちに走んないとなー。』


晶は【駿足】を全開に意識して林地、草原、荒地を駆け抜ける。

途中多少【危険予知】が反応したが無視して進んだ。

アイテム入手を優先したのだ。


しかし、荒地の途中で無視できない相手に出会ってしまった。



「ナッキィ、ご無沙汰だね。

 三日ぶりかな?」


「おや、アスラなの?

 よくアタシだってわかったね?」


ナッキィの言葉通り、彼女は前回と同じような大蛇ではなかった。

進化したのだろう、さらに大きさと長さが増している。

姿かたちで目立つのはその頭部だろう。

鱗のようなものでトサカのようなものが複数形成されており、

ライオンのタテガミのようになっている。

尻尾も鱗でコーティングされておりおそらく武器となっているのだろう。


「匂いで分かったんだよ。

 私も結構変わったでしょ?

 で、

 ナッキィ、私も聞いてもいい?

 なんで浮かんでるの?」


そう、何より驚いたことに彼女は翼が無いのに空中に浮かんでいた。


「どうやって浮かんでるかはHCヒュージコンピュータに訊いてよね。

 アタシのこのキャラは【騰蛇とうだ】っていう名前で、

 中国の妖怪を基にしてるみたいだよ。

 アスラ、あんたも随分イカした格好になったじゃない。

 狼男でしょ?それ?」


「そうなんだぁ。

 【狗賓】って書いてワーウルフらしいよ。

 狼男って言うか狼女かな?

 細かくは私もわかんないからHCに訊いてみて、答えないと思うけど。」


晶の返答にナッキィは楽しげに笑い声を上げる。

やけに表情豊かな蛇だなと晶は思った。


「アッハ、確かにそうだ。

 じゃ、

 そろそろやろうか、話すのはフォーラムで出来るしね。」


「オッケー、いつでもどうぞ。」


「ハン、余裕じゃないの。

 ま、あんたの流儀に合わせるよ。


 さぁ、どっちが強いか白黒つけるよっ!

 いざ、尋常に・・・勝負っ!」


ナッキィの啖呵を受け、晶はいつでも【竜巻砲】を撃てるよう身構える。

二人は視殺戦をしながらじりじりと位置を移動する。


晶は【天狗火】の射程範囲に入れるためだが、

ナッキィの意図がわからない。


『何か、飛び道具があるのかな?』


晶は警戒を強めながらさらに距離を詰める。


『もう少し・・・

 あと少し・・・

 あと一歩・・・』


「カッ!」


晶が攻撃を仕掛ける寸前、

ナッキィが奇声を上げるのと同時にその頭部から針のようなものが射出された。


晶の【危険予知】が発動し寸前で全て躱すことは出来た、

だがまた距離があいてしまった。


狗賓が騰蛇を見やる、その雰囲気は茶化せるようなものではない。

ゲームとはいえここは真剣勝負だ。

負けたくないのはどちらも同じだ。


「ふぅ。」


晶は軽めの深呼吸をする。

攻守のリズムを変えたかった。


「やっ!

 ウワオォォーーーン!!!」


そしていきなり仕掛けた。

【雄叫び】を上げながら【螺旋突破】で近付き【竜巻砲】をぶつける。

さらに近付いたら至近距離で【天狗礫】を叩き込みつつ蹴りを入れ、

コンビネーションで【殴打術】をブチ込み、離れ際に【天狗火】を仕掛ける。


晶が今日覚えた攻撃方法を全て詰め込んだラッシュだった。

しかしまだ使い慣れていない甘さが出たのか攻撃のいくつかは外れ、

【天狗火】は完全に躱されてしまった。


「ぐぅっ!」


ナッキィは空中に逃げるがそれほど高度は高くない。


晶は反撃のため尻尾を振り回そうとしたナッキィに肉薄する。


「なにっ!?

 アスラッ!飛べるのか!?」


驚くナッキィの喉笛を【魔狼牙】が捻りあげ食い千切る。


【二段跳び】で宙高く舞い上がったのだ。


「ちっ、やる・・・ね」


そんな言葉を残してナッキィは消え去った。


晶の空腹感は収まっていないが、

良い勝負が出来た実感はあり、満足感があった。


「本気で闘うって・・・楽しい。」


なんだかしみじみとそんなことを晶は呟いた。

いま確かにアスラとナッキィは真剣に向き合っていたのだ。

その事実が晶には嬉しく、そして楽しく感じた。


『ホームに戻ったらナッキィにメッセージ送ろう、

 感謝の言葉を伝えなきゃ。』


晶の闘争心が更に温度を上昇させている。


次の獲物をもとめ、人狼は四足で駆けだした。



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