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揺れる感情


あきらは意気揚々とした様子で自室のポッドに身を沈めていく。

またタモンと【SRシックスロード・リィンカーネーション】について語り合うのだ。

そんな楽しみな気持ちで晶は電子世界に旅立っていく。


『うぅん、まだちょい時間が早いかぁ。』


晶は【SR】に関してのフォーラムにタモンがいないか調べたが、

まだどこにも入室していないようだった。


『うん、他の人がいないか調べてみよう。』


暇つぶしに知り合いを検索する晶。

ナッキィはいるようだ、アルマロスはいない、バビロンもいないようだ。

バビロンはいたところで会いたいわけではないのだが。


プルフラスも見当たらない、本当に粛清されてしまったのだろうか?

晶はプルフラスの本名を知らないので粛清リストで確認することが出来ない。

特に同情とかそういった感情は湧かないが、

自分が原因で粛清になったかと思うと心安らかというわけにはいかない。


また少し気分が重くなった晶はフォーラム検索をやめ、

母方の祖母、エミリィにメッセージを送り始めた。

少ししたらその返信があり、晶は祖母の許へ移動した。


「ハィ、アキラ。

 最近よく来るね、エミばぁ嬉しいよ。」


「アキラ、久しぶりだ!

 また可愛くなってるじゃないか!

 ほら!レオじぃにもっと顔をよく見せて!」


今日は祖父のレオナルドも一緒のようだ。

仮想現実なので感触はないが祖父は猛烈なハグをしてくる。


「んもぉー、レオじぃじ。

 一昨日おととい会っていっぱい話したでしょ?

 それに容姿についてはあんま言わないように【推奨】されてるじゃん。」


仮想現実では基本的に現実の姿そのままのため、

HCヒュージコンピュータがトラブル防止で

容姿を話題にしないことを【推奨】しているのだ。


「家族間に対してならHCは何も干渉しないよ。

 それにアキラはレオじぃの天使なんだから!

 一日会えないのも辛い!

 可愛い!って自然に何度でも言っちゃうよ!」


「あんらぁ、レオ。

 じゃあ私は?」


「エミーは俺の美しい女神だよ!決まってるじゃないか!」


そんなレオナルドを見て相変わらずだな、と晶は苦笑いが漏れる。

きっと母のエリーゼは母親似なんだな、と祖父母を見比べる。


「それで?

 アキラ、また【SR】のお話しする?」


「うん!レオじぃじも聞いて聞いて!あのね・・・」


晶はレオナルドもいたので初回プレイからの【SR】での出来事を話していった。


「そうね、その髭の生えたカエルはたぶん【ヴォジャノイ】かな。」


「へぇー、聞いたことない名前。」


「ロシアの妖精というか妖怪みたいなもの。

 人型でカエルで髭があるならたぶんそう。」


「エミばぁば物知りだよねぇ~。」


アキラがエミリィに抱きつきながら甘える。

しかしすぐ横のレオナルドは先程から顔を強張らせている。


「アキラ、そんなことよりそのタモンっていう人、どう思ってるの?」


「ふぇ?なにレオじぃじ、タモンが気になるの?」


「気になるなぁ、すごく気になる。

 アキラに悪い友達が出来ちゃうんじゃないかと気になるなぁ。」


レオナルドの真面目な顔に晶は吹き出して笑いながら答える。


「全然悪い人じゃないよー。

 正々堂々勝負できるいい人だよ。」


「ワーオ、アキラ、

 アキラのいい人の基準ってゲームで正々堂々勝負できるかどうかなの?」


「ううん、それだけじゃないけど、

 でも勝負してわかることもあるんだ。

 レオじぃじも【SR】一緒にやる?」


晶の提案にレオナルドは大袈裟なリアクションで断りを入れる。


「アーオ、俺の天使ちゃん。

 是非にも御一緒したいところなんだけど、

 俺と同い年の友達が【SR】をやったら腰を痛めてしまって、

 いまは杖がワイフより大事な存在になってるんだ。

 俺は横にいる美しい女神より大事な存在を作りたくないな。」


「そうなんだー、残念。」


晶はこの母方の祖父と話すたびに感性の違いを実感する。

同時翻訳のせいなのか分からないが笑いどころの違いに戸惑うことが多い。

いまも祖父母は大袈裟に身体を揺すり笑い合っている。

おそらく小粋なアメリカンジョークを言ったのだろうが

晶にはいまいち面白さが伝わらない。


「あ、ごめんね、レオじぃじ、エミばぁば。

 アキ、そろそろフォーラムに行かなきゃなんだ。」


「オーウ、アキラ、またレオじぃに会いに来てね、絶対だよ!」


「アキラ、またね。

 ゲームで無理しちゃダメだよ。」


「うん!またすぐ来るよ!

 じゃあね~!」


祖父母にそれぞれハグして別れ際に手を振りホームに帰る。

遠く離れた地にいる母方の祖父母とは別れ際が一番淋しくなる。

またすぐ会いに行こうと心で誓いながらフォーラムを検索し始めた。


晶はすぐにタモンを見つけることが出来た。

前に会ったフォーラムの同じ場所にタモンはいた。

晶はするするとタモンに近付いていきコンタクトを取る。


「タモン!来たよー!」


「やぁ、アスラ。

 調子はどうだい?」


「うーん、まぁまぁかな?

 さっき死んだばっかだけど。」


晶はタモンと普通に接することが出来たことに安心する。

仮想現実とはいえ相手の顔を見ながら話すとやはり違うな、と晶は思う。

昼間のフレンドコールで緊張してしまったことが思い出されたのだ。


「あ、それでアスラ、紹介したい人がいるんだけど、いい?」


「いいよー、タモンの友達?」


「あぁいや、友達じゃなくて従姉いとこなんだ。」


「いいよいいよー、今いるの?」


現代では人間関係が希薄になり、友達はなかなか出来ない。

その代わり親族間の交流が盛んになる傾向があった。

晶も父方の親戚とよく交流しているのでタモンの紹介の件もすんなり受け入れた。


「良かった、今いるんだよ。

 インドラ、大丈夫だよ、来て。」


「ワゥワ、緊張するね。

 こんばんは、アスラ。

 私、インドラといいます、よろしくね。」


現れたのは目の覚めるような美人だった。


タモンと同じような薄い褐色の肌、結い上げられた長い髪、

大人びていて端正な顔立ち、背も高くプロポーションも良い。

HCの【推奨】が無ければ絶賛しまくっていただろう。


晶が理想とする綺麗なお姉様がそこにいた。


「あ、あの、私はアスラです。

 よろしくお願いします。」


「ハハハ、アスラ、緊張してるの?

 昨日みたいに元気に話してほしいな。」


「いやぁ、インドラさん、大人だから緊張しちゃうよ。」


「あの、私、タモンと同い年なんだけど。」


「ふぇ?じゃあ私とも同い年ってこと?ふぇ?」


晶は混乱してしまい話し方がおかしくなっていく。


「ハハ、インドラも俺と同じで老け顔なんだ。

 叔母さんにも言われてるよね。」


「そうだね、良いことあまり無いけどね。」


「えぇ~?大人っぽいの羨ましいぃ~、ずるいよぉ~。」


晶の反応に二人は微笑みを返す。

晶は今の自分の言動が子供っぽかったかもしれないと思い当たり、

極力大人の自分を心掛けて話し始める。


「オホン、た、タモン、インドラは【SR】をしてるのかな?」


「してるよ、ね?」


「そう、【SR】は配布初日から三日連続体力の限界までやってるよ。

 アスラはどう?」


「わ、私もたくさんやらせて頂いてるよ。

 面白いよね、あれはいいものだよ。」


「あれ?アスラ、同時翻訳がおかしいのかな?

 アスラの話し方が俺のひいおじいちゃんみたいに聞こえるんだけど?」


タモンが真面目な顔でそんなことを言い出した。

アスラは自分の話し方がおかしいのだと気付き慌てて話し方を戻す。


「うんうん、あるよね、同時翻訳が不調なことって。

 いまはどう?大丈夫かな?」


「あ、直ったみたい、よかった。」


「ねぇ、アスラ。

 【SR】のお話ししましょ?

 タモンと相討ちになったんでしょ?

 すごいよね、私まだタモンに勝ててないの。

 お話し聞かせて?」


「オッケーだよ!ベイビーちゃん!

 アスラにおまかせだー!」


晶は先程の件の恥ずかしさもあり、テンションマックスで話し始める。

途中途中でタモンが解説や捕捉を挟みアスラの三日間の軌跡が語られていく。


「ワゥワ、タモンから聞いてたけどアスラってすごいんだね。

 じゃあスキル進化してもすぐ適応出来ちゃうんだ?」


「え?うんまぁ。

 あ、でも【二段跳び】はやり過ぎていま足がプルプルしてるけどね。」


「ほほほ、私も早く強くなりたいなぁ。

 その【二段跳び】もぜひ覚えたいな。」


「インドラはもう既に強いだろ?

 俺に勝ってないと言っても最初に闘っただけだし。」


タモンの言葉に晶は興味をひかれインドラに尋ねた。


「ねぇ、インドラ。

 今はどのキャラ選んでるの?」


「ほほほ、私ね、水牛一筋なの。

 昔から私たちの国では牛が神聖な動物として考えられているんだよ。

 最初はなんとなく小鳥から始めたんだけど、

 いろいろやってたら【水牛】がキャラで出てきてそれからは牛だけ。」


「へぇ~、たぶん水牛もアイテムで進化すると思うな。

 伝説上の牛の妖怪かなにかかな?」


「ワゥワ、ミノタウロスとかは嫌だなぁ。」


「ほんとだね、アレは感性に合わない。」


晶は話を聞いていて【水牛】なら既にプレイヤー相手に対戦し、

勝利したことを思い出していた、現時点でなら勝てると思った。

しかし次のタモンの言葉で晶の想定は崩れ去る。


「しかし今のインドラの水牛に俺は勝てないかもなぁ。

 あの【白色の炎】は脅威だからなぁ。」


「え?なにその白色の炎って?

 全然知らないよ?」


「ほほほ、さっきアスラが言ってた【鬼蜥蜴の鱗】あるでしょ?

 あれを水牛で使って転生したら炎が使えるようになったの。

 でもまだスピードが遅いの、タモンに当てられる気はしないな。」


「えぇ~?いいなぁ~!

 私、炎が使いたくて仕方ないのにぃ~!

 きっとウィッカーマンの弱点なんだよ炎はぁ~!」


地団駄を踏む晶を見てインドラたちは微笑みを隠せない。

そしてインドラはその話に乗ってくる。


「ん~、私もうウィッカーマンと戦ったの。

 でも炎の一撃は当たったけど致命傷にはならなかったなー。

 骸骨は一撃だったんだけど、エリアボスはそれだけ強いってことかな?」


「へぇ、絶対炎に弱いと思ってたんだけどな。

 当てが外れちゃった。」


「根本的にもっと強くならないと駄目かもね。

 俺もまだ【たたりもっけ】のままなんだ。

 そういえばアスラ、俺も進化先がダブって見えたんだ。」


吉報を思い出しタモンは嬉しげに晶に報告する。


「おぉ!なになに?何が見えた?」


「うん、アスラの国の妖怪、【烏天狗カラステング】みたいだね。」


「へぇ~、私の進化先の【狗賓ワーウルフ】と少し被るねぇ。」


この晶の言葉にタモンとインドラは首を傾げる。


「え?アスラ?

 烏天狗と人狼は被らないだろ?」


「私もそう感じるけど、被るの?」


二人の言葉に晶はにんまりと笑い憲吾からの受け売りの知識を披露する。

ワーウルフは人狼のことだが【狗賓ぐひん】は天狗の術を使う狼の頭を持つ妖怪であることなど、昼に得た知識をそのまま伝えた。


「はぁ~、なるほど、文字と読み方が違うものがあるのか。

 さすがHCは人間を試すことが好きなだけある。」


「えぇ?HCに人格はないでしょ?」


「ほほ、タモンはHCに懐疑的だからね。

 私はHCの理知的な方針には賛成だけどね。」


「俺はHCのやり方が全て正しいと思えないだけだよ。

 まぁとりあえず【推奨】に刃向うつもりとかはないけどさ。」


「ふぅ~ん、なるほどねぇ。

 いろんな考え方があるんだねぇ。」


晶も今日の授業でHCの過去の行いを学んだばかりだ。

感情は今の二人の話を聞きまた揺らいでいる。


しかしHCの制作した【SR】をすることで

晶は現実世界の家族の愛の温かさを再確認することが出来た。


そのことを二人に素直に伝えてみると、

インドラは嬉しげに、タモンはしぶしぶと、

HCの【推奨】する【家族の絆】の再確認が

【SR】の狙いの一つであるという説を認めたのだった。



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