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つまみ喰い


アルマロスと別れ目的の無いままあきらは歩き続ける。

スキル確認したところ、新たなスキルは芽生えていなかった。

しかし【旋風弾】や【捨身タックル】などがくっきりと表示されている、

スキルの経験が積み重ねられてきているようだ。


だが晶は何気なくアイテム確認をして驚かされた。


『ふぉ!

 【鬼蜥蜴リザードマンの鱗】!?

 新しいアイテムだ!』


晶は新たなアイテムの獲得にテンションが上がる。


『へぇ~、

 あのNPCはリザードマンだったんだ。

 ほかのゲームで見たことあるけど、

 見た目が気持ち悪いから違う怪物に感じるなぁ。』


【鬼蜥蜴の鱗】もキャラメイクで使用するのだろうか?

これはタモンに相談するしかない、と晶は思いながら半透明のパネルを閉じる。


『さて、どこに行こうか?』


とりあえず晶としてはこの沼地からは移動したい。

【ウィッカーマン】の縄張りからは一刻も早く離れたいのだ。


『ヤツとの決戦は炎の力を手に入れてから、だね。

 まずは他の場所で強くなっていこう。』


そう決めた晶は沼が無くなりそうな方向へ歩いていく。


しかし空腹を感じるまで歩かないうちに、、

HCヒュージコンピュータから推奨メッセージが届いてしまった。


『ぬ~、

 気分がノってたとこだったのにぃ~。』


しぶしぶ晶はクリアアウトを選択してホームへ戻っていく。

授業を選択する前に先程の髭蛙を検索してみる。

リザードマンはアイテムから名前が判別できたが髭蛙の名前はわからないままだ。

しかし色々な情報があってよくわからない。


『ん~、

 あとでエミばぁばか誰かに訊いてみよ。』


晶は授業を選択して人工知能から地球の資源状況などを学び始めた。

そして時間が昼になった頃、授業を中断して現実世界に意識を移す。

自室を出て居間に入ると母のエリーゼが不満げに晶に声を掛けてきた。


「アキラ、

 ママと一緒に授業受けようって言ったの忘れてたでしょ?」


「あっ!

 ごめんなさい、忘れてたぁ・・・。」


「んもぉ、ママ待ってたのにー。」


ぷりぷり怒るエリーゼのハグに晶は苦悶の声を上げる。

そうしてる内に憲吾けんごとハンナが居間に入ってくる。


「あ、パパを呼んでこなきゃ!」


わざとらしい言い方で晶は宣言し母の強めの抱擁を脱し居間を出る。

危ない危ないと呟きながら父の仕事部屋へ向かった。

部屋に入ると父の吾朗ごろうがポッドの傍の椅子に腰掛けぼんやりしていた。


「あれ?

 パパもう出てたんだ。

 どしたの?

 やっぱり体調悪いの?」


朝に父の様子がおかしかったのを思い出し、晶は心配して声を掛ける。


「んん、大丈夫だよ。

 ・・・、

 アキラ、パパのこと、好きか?」


急にそんな質問をする父をいぶかしがる様子もなく、

晶は満面の笑みで答える。


「うん!

 パパのこと大好きだよ!

 てへへ。」


そんな真っ直ぐな答えに父は何故か泣きそうな表情を浮かべていた。


「うん、うん。

 そうか・・・、

 あ、昼ご飯だよな。

 よし!行こうか!」


やっぱり体調が悪いのでは?と心配がる娘の背中を押し、

吾朗は娘に見られないように涙をぬぐった。


晶は昼食の際に父が元気になっているのを見て安心し、

SRシックスロード・リィンカーネーション】が順調なことを報告した。

昼食を食べ終え、晶は家族に【狗賓】や【髭蛙】の話をしてみた。


「ワーウルフはヴェアヴォルフ、人狼ね。

 ヨーロッパで有名な怪物だよ。

 昔話だと恐ろしい化物だったり、

 悪い悪魔と戦う戦士だったりするね。」


「へぇ~、正義の味方だったりするの?」


「正義とか悪は簡単な話じゃないけどね。

 豊穣の実りを狙う悪魔と戦った、っていうお話があるだけ。」


祖母ハンナの話に祖父憲吾が割って入る。


「アキラ、【狗賓ぐひん】って名前の方なら俺にも覚えがあるぞ。

 日本に昔から伝わる山の神の使いだ。

 狼の顔をした天狗って感じの妖怪だな、確か。」


「えぇ?

 神様の使いなのに妖怪なの?」


「日本じゃ神様も妖怪も大差ねぇからな。

 敬うべき化物ばけもんって存在なのは一緒だ。

 天狗礫てんぐつぶて天狗火てんぐびなんて超能力を使えるんだ。」


人の話に割って入って得意げに話す憲吾を見て晶は思う。


『こういうとこがエミばぁばのかんさわるところなんだろなぁ。

 私も気を付けなきゃなぁ。』


孫に反面教師にされてるとは露とも思ってない憲吾は知識を披露し続ける。

しかし髭蛙については誰も知らなかった。

憲吾は「化け蛙でいいんじゃないか?」と言っていたがそういうことじゃない。

晶はあとでエミリィかタモンに訊いてみようと決め、居間を出た。


自室に戻り授業の続きを受ける。

その内容はここ百年ほどの世界の歴史についてだった。

全世界の戦争・紛争を無くすため、HC主導で様々な文化が消滅していった。

HCには人格が無いため、事実のみが淡々と映像と共に語られる。


何百年も続く少数民族のコミュニティを文化破壊したり、

他宗教から孤立する宗教を苛烈な罰則で根絶させたことなどが語られた。

HCはコンピュータによる社会形成を否定する文化を撲滅していった。

そうして全世界にロボット社会が浸透し、

自然破壊や人間同士の争いは無くなったのだ。


晶は色々考えさせられるものを感じながら今日の授業ノルマを終えた。

授業の影響であまりゲームに興じる気分ではなかったが、

【SR】の誘惑にあらがえず、

結局魔界に引きずり込まれてしまった。


「それではゲームを再開します。


 生き残るため、戦うのです。」



晶はまた沼地に出現していた。

しかしさっきの場所とは少し違うようだ。

だいぶ離れた場所に泥沼が続いている。


周囲に敵がいないかチェックし、スキル確認やアイテム確認を終える。

空腹感以外のペナルティが無いことに安堵して思考する。


『沼地から離れていくなら・・・岩が多いとこに向かおっかな。

 軽くお腹すいてるけど、満足できる敵か・・・。

 餓鬼以外のNPC、いるかなぁ?』


いまの晶の強さだと餓鬼など相手にならないだろう。

新たな敵を求めて岩地へ向かって晶は駆け出した。


景色が灰色に変わり、ゴツゴツした岩が風景に混じり始める。

道中あの嫌な臭いが漂っていたが無視する。

いま求めているのは新たな強敵なのだ。


『ん?

 これは餓鬼とは違う臭いだ。

 でも、くっさ!

 こいつもくさぁ~い!やだぁ!』


晶は新たな生物の臭いを掴んだが、

餓鬼同様の刺激的な異臭に鼻皺を強く歪ませる。


『くぅー、

 どんなヤツだぁ?

 それにしてもくっさいなぁ、もぉ~!』


晶は臭いを辿たどり慎重に進んで行く。

餓鬼と同タイプならば群れでいる可能性に思い当たった。

ウィッカーマンと対峙したときのように囲まれては不利になる。


離れた場所からその生き物を視認出来るところまでやって来た。

禍獣の視力は人間並みになっているが、まだ晶には良く見えないでいた。


『あれは、餓鬼?

 いんやぁ、なんか違うなぁ?』


離れた場所で身をかがめ、その様子を眺める。

数は五匹、餓鬼とは違い全員なにやら棒を片手にたずさえ騒いでいる。

外見は餓鬼と同じような緑色だが体格はあちらの方が大きい。


『ん~、あれは【ゴブリン】ってやつかなぁ?』


晶には他のゲームで見覚えのあるモンスターのように見える。

もしそうであるなら強さは大したことはないだろう。

しかしあの棍棒のような武器で袋叩きにされたら死ぬかもしれない。


『よし、攪乱かくらん戦法でいこう。』



晶は近くの岩に身を潜め、

小鬼ゴブリンの群れから少し離れた岩に向かってに竜巻を打ち込む。


「グギャ?」「グア?」

「ギギャッギギャッ!」


小鬼たちは竜巻が岩に当たった音に驚き、うち二匹が様子を見に離れていった。


『今だっ!』


晶は岩陰から身を晒し【雄叫び】を上げながら残り三匹に突っ込んで行く。


小鬼たちは晶の存在に気付き棍棒を構えようとするが雄叫びに身を竦ませる。


そのまま晶は全力で【捨身タックル】をぶちかます。


禍獣の角は手前の小鬼を消し飛ばし、

その奥にいたもう一匹も腹に角がめり込み電子の塵となり消えていく。


晶はその様を確認することなく【高速ステップ】で残り一匹に向き合う。


小鬼はすでに振り上げた棍棒を晶に向けて振り下ろす体勢でいる。


その攻撃を【緊急回避】で躱しながら距離を取り、

【螺旋突破】で再び距離を詰め、

勢いのまま【ドリルファング】でその腹を噛み砕く。


晶はそこで動きを止めることなく更に【高速ステップ】で横に跳び退く。


そうして紙一重で先程離れた小鬼二匹が放った投石を躱す。


しかし残った小鬼はさらに砂混じりの小石を放ってくる。


広範囲に撒き散らされる砂を全て躱すことは出来ず

その身に砂が当たるのが感じられる。


ダメージは無いものの目潰しを恐れて一瞬目を閉じてしまう。


「ギギャッ!」


小鬼の一匹がその隙を見逃さず飛び掛かってくる。


晶はその棍棒の攻撃に対し逆に加速して突っ込んで躱す。


そしてその勢いを利用し

再び砂利を投げつけようとしている小鬼に向かって行く。


腕を振り上げがら空きの小鬼の胴体に【捨身タックル】を敢行し一撃で倒す。


そして反転して【螺旋突破】からの【ドリルファング】で戦いに決着をつけた。



『ぐはぁ~、ちょっと疲れたな。

 NPCも頭を使ってくるんだなぁ~。』


小鬼は単体としての強さが晶と見合わなかったようで空腹が収まっていない。

しかし少し軽減されたようには感じられた。


『うぬぅ~、五匹倒してまだ足りないかぁ~。

 何匹倒せばいいんだよぉ、くっさいの我慢したのにぃ~。』


ここで晶は閃く。


『あ!カブトムシ倒しに行こう!

 あいつ臭くないし、結構強いもんね!』


晶は【SR】プレイ初日に甲虫を倒しているが、

それは運よく薄羽を噛み砕けたからだと思っている。

タモンのたたりもっけには劣るだろうが小鬼などよりは強いと思われた。


『カブトムシくん、また挑ませてもらうよ。』


晶は脳裏に甲虫から発せられる木の匂いを思い出しながら、

草原のある方向に足を向けた。


角をくれた相手に感謝しながらも、

また電子の命をやり取りするために。



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