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共闘初体験


ホームから【SRシックスロード・リィンカーネーション】を選択するとまた白い世界が眼前に広がる。

タモンの推察が正しければキャラ選択の際に【狼】の名称が変化しているはずだ。


『どれどれ?

 あ!

 ホントに変わってる!』


【狼】のところが【禍獣わざわい】に変化していた。

あきらはタモンの推察が正解だったことに何故だが嬉しさを感じる。


『あー、タモンはすごいなー。

 いろんな難しいこと考えてそうだったしなぁ。

 お?

 あれ?』


晶は変化がそれだけではないことに気付いた。

【禍獣】【鉤爪猫】【角大兎】【水牛】【大蛇】【大梟】

と六種類並んでいるのだが、

【禍獣】と【大梟】の名前が点滅しているように見えた。


『んんん?

 違う名前が重なって表示されてる?』


晶はパネルを注視する。

やはり初めて見る名前が【禍獣】と【大梟】に重なって表示されていた。


『禍獣のとこには【狗賓ワーウルフ】、

 大梟のとこには【白妖梟たたりもっけ】か。

 昨日タモンと闘ったから何か影響したのかな?

 大梟は【大鷲の爪】で進化するんだよね?

 じゃあ禍獣も狗賓ってのに進化可能だってことなのかな?』


そこまで考えた後、晶は思い悩む。

禍獣で再スタートするか、夢で見たように大梟にするか、

はたまたまだ試していない水牛や大蛇を体験してみるのか。


『んー、ほかのにも興味はあるんだけど・・・

 やっぱり【禍獣】にしようかな。

 この【狗賓】ってのも気になるし、まだまだ先がありそうだしね。』


心を決めた晶は【禍獣】を選択して【SR】の世界へ勇躍する。


「それではゲームスタートです。


 生き残るため、戦うのです。」



眩しい光の洪水の先に広がった景色は【沼地】だった。


『ひょっ!

 【ウィッカーマン】がいるとこじゃん!

 やっばぁ!』


目下の最強NPCであるウィッカーマン、

いまの晶の強さでは歯が立たないことは分かり切っている。


『ウィッカーマンは見た目からして炎の攻撃に弱そうなんだけど。

 【禍獣】のまま強くなればエミばぁばの言う通り炎の力手に入るかなぁ?』


晶は考え事をしながらも【気配看破】で周囲に敵がいないか探る。

禍獣の嗅覚範囲内には生物はいないようだと分かった。


『ふぅ、良かった。

 さ~て、

 前回タモンにやられたデスペナルティはどんな感じかな?』


晶は少し緊張しながらスキル確認を行う。

が、驚いたことにスキルは死亡時から何も変化していなかった。


前回までは三回とも何かしらのスキルが無くなっていた。

スキル獲得に費やした経験が減らされるのがデスペナルティだと晶は考えていた、

そしてそれにはタモンも同意していたはず。


『こ~れは?

 良く分からないけど早速タモンにフレンドメッセージ送っとこ。』


晶はいそいそと脳内パネルを呼び出しタモンにメッセージを送る。

やはり自分のキャラは【禍獣】であったこと、

【狗賓】や【白妖梟】の名前が点滅表示されたこと、

そしてデスペナルティが見当たらないことなど、気付いたこと全てだ。


ついでにタモンの現在地も教えてくれるよう送っておく、

また不意に遭遇して殺し合うのはしばらく勘弁だ。

共闘するという道もあるが、なんとなく肌に合わない。

ウィッカーマンのような超格上と闘うならアリだが、

普段はお互い強さを高め合う存在でありたい、それが晶の正直な思いだ。


しかしタモンから返信はこなかった、

どうやら【SR】の中にいないようだ。

よく見るとタモンのフレンド表示は薄くなっていた。


『ありゃりゃ、

 うっかりうっかり。

 やだなぁ私ったらもぉー。』


何故か気恥ずかしさを感じた晶は意味なく角を振り小竜巻を撒き散らす。

さらに浮ついた気持のまま今朝家族に披露した小躍りを行う。

すると何やら違和感を覚えスキル確認すると【高速ステップ】を覚えていた。


『おぉー!

 何でもやってみるもんですなー!』


なんだか嬉しくなった晶はしばらくワホワホと小躍りを続けた。


はたから見るとだいぶ間抜けな動きを繰り返していた晶だが、

やがて空腹を覚えた頃、周囲の気配に敵の存在を感知した。


『ん?

 これは・・・臭いじゃない、音がする。

 沼から?

 強くはなさそうだけど、2、いや3匹いる。』


前方の濁った泥沼を睨みつける晶。

離れた水面にコポコポと気泡が浮かび弾けるのが視認出来た。

やがてその茶色い沼から顔を出したのは人間大のカエルの化物だった。


『ぐぇぇ、

 また気持ち悪いのが出てきた。

 なにアレ?

 髭の生えたカエル?

 また妖怪かな?』


【髭蛙】は次々と沼から現れ三匹でゆっくり晶を取り囲んでいく。

晶も黙って包囲されるつもりはなく、

前方の一匹に【旋風弾】を喰らわせ、

左に移動していた一匹に【ドリルファング】を仕掛けた。


狙われた髭蛙は口を開き異常に長い舌を伸ばし晶を捕らえようとする。

しかし晶を捕まえることは出来ない。


【螺旋突破】で舌を躱した晶は髭蛙の一匹を回転しながら噛み千切る。

髭蛙はギョギョと苦悶の声を上げながら電子の塵となっていく。


一匹倒しただけでは晶の空腹は収まらない。

晶の方が強者であるようだ。


残り二匹は力の差に不利を覚ったのか水面に戻っていく。

しかし晶を狙うのを諦めたわけではなさそうだ。

水中から上半身だけ出したまま晶に泥の弾丸を吐き出してくる。


『うわっ!

 なんかきったなぃ!』


晶は【高速ステップ】で二方向からの泥団子攻撃を避け続ける。

毒などは無さそうだが、目潰しの効果があるだろうことは予測できたからだ。


だが地の利は髭蛙たちにある。

晶から髭蛙たちに攻撃が出来ない。

先程から【旋風弾】を放っているが髭蛙たちは水中に潜り躱してしまう。


『うぬぬー。

 なんとか地上におびき寄せたいんだけど。』


苦し紛れに【雄叫び】を上げるが髭蛙たちは微動だにしない。

晶は『カエルの面になんとかだなぁ』と思いながら後退を始めた。

髭蛙たちは沼から上がろうとしない。


結局晶は髭蛙を退治できぬままその場を離れていった。


『くぅ~、

 強くなると強い敵を倒さないと空腹感が無くならないんだよねぇ~。』


晶は空腹を紛らわせるように考え事をしながらトボトボと歩く。

ウィッカーマンと出くわさないように周囲に注意を払いながら進んで行く。


『おんや?

 これは、いろんな匂いがする。

 なんだ?』


晶は匂いのする方向へ向け足を速める。

やがて湿地で戦いを続ける獣たちを発見することが出来た。


角を生やした兎が二足歩行で短い角のある蜥蜴2匹と戦っていた。

戦況は角兎に不利なようで鬼のような蜥蜴の攻撃から逃げ回っている。

さらに離れた場所には先ほど見た髭蛙が2匹いた、

漁夫の利を狙っているのか手出しをしていない。


「アスラ推参すいさん

 助太刀いたす!」


晶は祖父憲吾と一緒に観た数百年前の日本を舞台にした観劇の台詞を放ち、

角兎へ向かって棍棒を振り上げていた鬼蜥蜴に【捨身タックル】を炸裂させた。


鬼蜥蜴は胴体を消失させ電子の靄をあげ消えていく。


「何あなた!?

 プレイヤー!?」


「そうだよ!

 いまは協力してこいつらを倒そう!」


なぶり殺しにしようとしていた獲物に仲間が助けにやってきた、

そんな状況に焦ったのか残った鬼蜥蜴は髭蛙たちを呼び寄せさらに大声を上げた。


「気を付けて!

 あれは仲間を呼んだの!

 また数が増えちゃうよ!」


角兎が晶に注意を促してくる。


「わかった!

 まず今いるやつらを倒そう!

 私があの三匹の陣形を崩す!

 そしたら二人で突っ込むよ!」


「了解!

 まかせる!」


晶の提案に角兎はすぐに乗っかった。

晶はその気風きっぷの良さに好感を覚えた。


「いっけーーー!!」


晶は全力で【旋風弾】を三匹の魔物に放つ。

今までで最も大きい旋風は魔物たちの体勢を崩すのに充分な威力だった。


「ワォォーーーン!!」


さらに晶は雄叫びを上げながら鬼蜥蜴に【捨身タックル】で突っ込む。


角兎はその雄叫びに少し硬直したのか少し遅れて髭蛙の一匹に突進していた。


晶はすぐさま【高速ステップ】で方向転換し残りの髭蛙に【ドリルファング】を喰らわせた。


「まだ終わってないよ!

 次が来た!」


角兎の声を聞くまでもなく、晶は鬼蜥蜴が二匹近付いてきたのを感知していた。


「ウサちゃん、

 さっきと同じ要領でいくよ。

 近付いたら風を飛ばすからね。」


「わかった。

 でも私の名前はアルマロスだから。

 あと急に雄叫びあげないでよ、ビックリしちゃったから。」


「ごめんなさい、ちょっと焦ってたかも。

 じゃ、いくよ!

 アルマロス!」


「了解だよ!

 アスラ!」


アルマロスは先程の晶の名乗りをちゃんと聞いてくれていたようだ。

晶は何とも言えない高揚感を感じながら

近づく鬼蜥蜴たちに全力の【旋風弾】を二発叩きこむ。


「とりゃー!!」

「たぁーー!!」


二人の突進は見事に鬼蜥蜴たちに命中し、晶は相手の姿を塵へと変えた。

アルマロスも初弾に続いて連続攻撃を行い勝利したようだ。


晶は【気配看破】で周囲の様子を探るが、どうやらおかわりは無いらしい。


「ふぃー、

 もう周りに敵はいないみたい。」


「あら?

 目の前に一人残っているかもよ?」


晶の安堵のため息にアルマロスが不敵な台詞で応える。


「えぇ~?

 やめよーよぉ。

 お腹いっぱいになってんでしょ?」


「ふん。

 まぁ確かにね。

 あと、

 言っときますけど『助けて』なんてアタシ言ってないからね。」


なにやら憎まれ口を叩きだすアルマロス。

気風は良いが気も強い、それが彼女の性格なのだろうと晶には思われた。


「そうだね、言ってないね。

 うんうん、

 じゃあさ、アルマロス。

 次会って二人ともお腹いっぱいだったらさ、

 フレンド登録しようよ、それでどう?」


「はぁ?

 ん、まぁいいよ、それで。

 あとさ、

 できればでいいんだけど、

 そのつのって何?竜巻起こしてたよね?

 教えてもらいたい。」


そのアルマロスの質問に素直に答える晶。

プルフラスもこうやって聞いてくれてたら普通に答えたのになぁと晶は思う。


「へぇ、【甲虫の角】ね。

 なるほど。

 ありがとね、貴重な情報なのに、簡単に訊いちゃって。」


「ううん、

 アルマロス、いっぱい強くなろ?

 んで、自慢できるような名勝負しようよ。」


「はぁ?

 なに急に。

 なんなのアスラ、あんたバトルジャンキーなの?」


「違うよー!

 なんかさ、全力で闘ったあとに芽生える友情!

 それってさ、なんか良くない!?」


正直な気持ちを言ってくる晶にアルマロスは苦笑を漏らす。

しかしアルマロスはもう憎まれ口を叩いたりはしなかった。


「OKアスラ。

 約束しようじゃない。

 次会って、お互い空腹じゃなかったら【フレンド登録】する。

 でもアタシは今のアンタより強くなってやるよ、

 闘うことになってもガッカリさせないようにね。」


「お、やる気出してくれたじゃないのアルマロス。

 私だってもっともーっと強くなるからね。」


向かい合い、約束を交わした二匹の獣は、

やがて別々の方向へ進みだした。

しかしその胸中はしっかりと同じ方向を向いていた。

【最強の存在を目指す】その気持ちが未来を指し示していたのだ。





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