第3話:胸騒ぎの知らせ
馨は悩んでいた。
自宅のベットにもぐると、うーんと唸った。どうしても、未送信メールの消し方が判らないのだ。かといって、友人や親には言えない。どうして携帯電話を持っているのだと問い詰められるからだ。弟のタケルに聞いて、うっかりメール内容を見られるわけにもいかず、馨はため息をついた。ファイからは説明書をもらってはいなかったので、馨はいっそうため息をついた。
その時、
「うわー!」
玄関の方で上がった弟の叫び声で馨はガバッと身を起こした。
何かあったのかと駆けつけた馨は、全身ずぶ濡れで壁にへばりついている弟を見つけた。
「どうしたん?」
聞いた馨にタケルは足元に落ちている封筒を指差した。
「い、いきなり水が爆発した…みたいな!」
馨は落ちていた封筒をひらい、中に入っていた一枚の紙を広げた。紙は濡れているせいでくたびれていた。紙を見たタケルは馨から紙を奪いあげた。
「たち悪いいたずらや。何でもないで」
タケルは紙をゴミ箱に入れて風呂場に向かった。
馨は捨てられた紙が入ったゴミ箱を見つめて固まっていた。
馨にも読めたのだ。紙に書かれていた魔法の文字が。
ミス・クレアは多くの子を産んだ。孫もたくさんいる。タケルも彼女の魔力を受け継いだひとりだった。昔から弟には見えて、馨には見えないものや、弟には読めて、馨には読めないものがたくさんあった。
タケルは馨がミス・クレアの遺産全てを受け取ったことを知らない。だからこその行動だったのだろう。弟の気遣いに優しい笑みがこぼれた。
しかし、馨は紙に書かれた文字を思い出して胸騒ぎがだんだん大きくなるのを感じていた。
紙には血のような赤い文字でこう書かれていた。
『誰ダ。
裏切リ者ニハ死ヲ。
探セ。
卑シキ盗人ニハ罰ヲ。』