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第2話:ミス・クレアから弟子達へ

噴水広場の前には千日前商店街につながるエスカレーターがある。ファイと有、大輔の三人は千日前のカフェにいた。

「とりあえず、お礼を言うよ」

 ファイが二人に言った。

「言っとくけどこれは貸しよ。忘れないでよね!」

 有がウィンクして言った。

「お、俺だってちゃんと由木のこと見守ってやったんだからな!」

 大輔もあわてて主張した。

「そりゃどーも」と、ファイは小さく笑った。

「けど、在羽。本当にクレア師匠が見えるんだよな」

 大輔は半信半疑でファイに尋ねた。

 ふたりがファイをじっと見た。

「ああ。見えるよ」

 ファイはそう言うとコーヒーに口を付けた。


 一時期、大輔と有は馨の受け継いだ魔力を狙って馨を襲ったことがある。そんな彼らに今回、馨のボディーガード役を頼むよう指示したのは、今は亡き西の大魔術師こと、ミス・クレアだった。

彼女は彼女の死をきっかけに、

自分の大きな魔力を受け継ぐことになった孫、馨のことを心から心配し、幽霊となってしまった。今は霊感のある自分のかつての教え子のファイと交信している。

ひとに頭を下げることなど考えられない。ましてや自分よりも下等な者なんかに誰が頭なんか下げるか。

そう言ってミス・クレアの言葉を無視した夜のこと。ミス・クレアは夜な夜なファイの枕元に現れた。熱に苦しむファイの隣で、延々と有と大輔は素直でいい子だから信用できるだの、馨は優しい子だから心配だだの、さめざめと語った。

ファイは思い出して目頭を押さえた。

あのババア…夜な夜な青白い光で枕元に現れやがって。孫守るためなら手段を選ばねえな。

 そんなミス・クレアが言った『ある言葉』のおかげで有と大輔はあっさり馨のボディーガードを引き受けたのだった。

「ところで、ミス・クレアの言った言葉の意味だけど、あれってどういう…」

 言いかけたファイの言葉の端を折って有は話し出した。

「そんなことより!馨、あの子やっぱり狙われてるわよ」

 もう一度口を開きかけたファイを黙らせるかのように大輔もあわてて口を開いた。

「そ、そうや!あいつ、今日の帰りだけでも三回も魔法陣を仕掛けられとったで!」

 二人のよそよそしい態度のファイはもう一口コーヒーを飲んだ。 どうやらミス・クレアがファイに教えた『ある言葉』は二人の触れられたくないものらしい。弟子の弱みを握ってそれにつけこむ辺りがミス・クレアらしいな、とファイは苦笑いした。

「…まあ、聴かないでおいてあげるよ。君たちの名誉のために。これで貸し借りなしだ」

 頬杖をついたファイに有が痛いところをつかれ、苦い顔をした。

「それで?襲われたときの状況を聴かせてもらえる?」

 姿勢を正し、ファイは二人に聴いた。

「まずは校門よ。私、あの子の後ろにいたんだけど、そこに魔法陣が引かれていたわ。あれは魔力のある者にしか見えないし、引っかからないものだったわ」

 有が言った。

「それで、彼女は…」

 聴いたファイに有はあっさり答えた。

「不思議そうに眺めてとっても触りたそうにしていたわ」

 ファイは大きくため息をついた。馨のその姿が大いに想像できた。

「感謝してよね。その魔法陣は、私が消してあげたんだから」

「君に消せたってことはそんなにレベルの高い魔法じゃなかったってことか」

 ファイの言葉に有が、

「なんですって?!」と怒り叫んだ。その隣で大輔が大笑いし、大輔は有に頭をたたかれた。

「それで、二回目に襲われたのは?」

 むっとむくれた有の代わりに大輔が答えた。

「俺が有と合流してからや。難波駅の改札の上に魔法陣が浮いてたんや」

「…それで、彼女は例のごとく魔法陣に触ろうとしたわけだ?」

 ファイの言葉に大輔は首を振った。

「その魔法陣があの噴水まで移動していって、由木はあそこまで連れてこられたっちゅうわけや。つまり、あの魔法陣は攻撃用やなく案内用やったっちゅうわけやな」

「なるほど。それで三回目が噴水の魔法陣か」

 ファイは腕を組んで考え込んだ。

 犯人は馨がどの学校に通い、どこを通学路にしているか把握している。そして、噴水でのあの魔法陣、水に関係する魔法陣を使っていたことから考えるに、犯人はおそらく、海で二人を襲った犯人だ。

「ありがとう。助かった」

 ファイは二人に礼を言い、勘定を手に取ると席を立った。

「あ、在羽君!」

 有は出口に向かうファイを呼び止めた。

「クレア先生は…その、私たちのこと…怒っていた?」

 有は悲しそうな顔でファイに聴いた。有の問いかけに大輔も悲痛な面持ちでファイの顔を見た。 ファイは二人のしょげた様子に笑ってみせた。

「君たちに失望したのなら、自分の孫を守ってくれなんて君たちに頼まないさ」

 二人のほっとした顔をみてファイはその場をあとにした。


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