中編
最近お嬢様は第一王子殿下とフレデリック様と三人でお茶会をされることが多いです。
後ろで控えてる私は眼福で嬉しいのですが、時々フレデリック様の視線を感じます。フレデリック様はお優しいので後ろでずっと控えてる私にもお言葉をかけて下さります。
使用人の私はお言葉を返すのも失礼ではないかと思うのですが、お嬢様があなたもここの学生よとおっしゃって隣に座らせてくださります。お嬢様は本当にお優しい方です。
生徒会室で書類整理をしておりますと、第一王子殿下とフレデリック様が立ち話をされておりました。第一王子殿下が全て整えた。実行するだけだ。そなたも心を決めて欲しいとおっしゃられてました。なんのことでしょうか。下々の私には関係ないことでしょうけれど。
ある日お嬢様がまた大きな独り言を言ってらっしゃいます。ヒロインは現れなかった!婚約破棄もない!私は断罪されない!よかった!国外追放も修道院も娼館落ちも嫌だったもの!
すごいことを言ってらっしゃいます。侯爵令嬢のお嬢様をいったい誰が裁くというのでしょう。それにあんなにお優しくお嬢様と仲睦まじくていらっしゃるフレデリック様が婚約破棄などする訳ないではありませんか。
お嬢様が第一王子殿下と生徒会の用事でお二人でお出かけになる時、私はまだ書類の山に埋もれておりました。それを見たお嬢様が殿下の護衛が二人ついているから、あなたはそれを片付けなさいとおっしゃられて殿下とお出かけになられました。
書類の山と格闘しておりましたら、フレデリック様が生徒会室に入って来られて、一人?とお尋ねになりました。皆様それぞれの御用でお出かけですとお答えすると、私の隣に座られて、人数の統計を手伝って下さいました。お隣からフレデリック様が使われてるコロンの匂いがして幸せでした。
フレデリック様が書類に手を伸ばされた時書類が崩れて、手前に置いた私の手にフレデリック様の手が重なりました。フレデリック様の温かい体温が伝わって来ました。お優しいフレデリック様に申し訳ないと謝っていただきましたが、私はまた一つ思い出ができたと嬉しかったのです。
あなたは卒業後どうするのと聞かれました。まだ先のことですが、領地に帰って親が決めたお相手に嫁ぐことになると思いますとお答えしました。それは下位貴族の娘の普通のあり方なのです。それなのにフレデリック様はそれでいいの?と聞かれます。
なんと残酷な事を聞かれるのでしょう。思わず涙ぐみそうになって唇を噛み締めました。それ以上はフレデリック様はおっしゃられないので、二人で黙々と仕事をいたしました。
そこに第一王子殿下とお嬢様が戻っていらっしゃったので、私はお嬢様のお供をして寮に戻りました。お嬢様は私にやっぱりヒロインいないみたいなのと嬉しげに話して下さりました。ヒロインって誰なんでしょう。
卒業パーティーでは、卒業生は婚約者もしくは婚約する前提の女性を伴って参加されます。
フレデリック様はお嬢様を伴って参加されることになります。
第一王子殿下は隣国の王女様との縁談が立ち消えになって以来婚約者は決まっておられません。婚約者のいない卒業生は身内の女性と参加されることもあります。
私はお嬢様の身支度を手伝わせて頂いて、制服のまま片隅でお嬢様とフレデリック様のお似合いのお姿を目に焼き付けておこうと思います。フレデリック様とはこの卒業パーティー後はお会いすることもないでしょう。
私の身の程を弁えない初恋はそっとトランクの底に押し花とともに仕舞い込みましょう。歳をとってからトランクを開いた時底にしまった色褪せた押し花を見て、若い頃のほろ苦い初恋を思い出すのだと思います。