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想像する

 だいぶ時間は経ったと言うのに、森をちょっと入った所で子供の声が聞こえて、息を切らしながらぐったりしている親っさんを見つけた。全力で走ったのは久方ぶりだったのだろう。


 親っさんには心配はそうない。ただの運動不足だ。それよりも子供たちである。

 6歳にも満たない子達もいて、彼らは当然ながらに親っさんよりも足が遅く、そして、体のバランス感覚もまだ(しっか)りしていないために、転びやすい。


 必死に涙を堪えてはいるが、実際に膝小僧から血を流しているとか痛々しかった。



「う……うぐ……ううっ」


 いつか水路でナタリアの剣を綺麗だと言ってくれた幼女だ。

 三角に座るその子の頭を、俺は片手で撫でてやる。ただ、内心、つい先程に男を刺した手であるために、少しの躊躇いはあった。


「大丈夫だ。安心しろ」


「奴隷くんさん……ありがとう」


 最近の俺は子供達には変な敬称で呼ばれている。軽傷ではあるが、他にも怪我をしている者は多い。突然に見知らぬ武装集団が現れたのだから、相当に慌てたのだろう。



 親っさんに集落の収拾を頼んで帰らせ、俺はナタリアを出す。


「あ……森のエルフ様……」


「はいはい。もう大丈夫よ。お姉さんがチョイチョイって治してあげるからね」


 ナタリアは言葉通り、早々と子供たちの傷を癒す。なんと詠唱無しの治癒魔法を使ったのだ。

 俺は初めて無詠唱魔法を目の当たりにした。手を挿頭(かざ)す事だけで傷が消えるのだ。そんな奇跡がこの世にあるなんて。しかも、それを幼馴染みのナタリアによって実行されているなんて。


 やはりナタリアは大成すべき身である。俺なんかに拘って、田舎に出戻る人物ではないと強く思った。



 ナタリアが人間でいられる時間は短い。剣になる瞬間を見られるのは子供と謂えど宜しくはないだろう。

 ナタリアは木の影に行き、そこで消える。本当は剣となって地面に投げ出されているだけなのではあるが。



「森のエルフ様、凄い」


「俺、絶対、大きくなったらエルフ様と結婚するんだ」


「森のエルフ様みたいに私もなるっ!」


 子供達は興奮しながら集落へと去った後、俺はナタリアを拾う。それから、再び語らう為に呼び出す。

 先程、ナタリアを呼び出すために血を流した時に気付いた事があったためだ。



「どうしたの? えっ……もしかして、ここで? 初めてなのにワイルド過ぎない?」


 あぁ、お前がワイルド過ぎるよ、ナタリア。



「済まなかった、ナタリア」


「……何がよ?」


 俺は謝る。


 男と戦った時に俺は頬から血を流した。

 もしも、その血が剣に垂れていた場合、ナタリアは俺の手の中で人間化し、無防備に出現したナタリアは男の剣にサックリと斬られてしまっていただろうという可能性を伝えた。余談だが、恐らくは男も余りの出来事に驚愕してしまう所まで想像がつく。


 その上で、考えなしに戦って済まなかったと謝罪したのだ。



「へ? ……えぇ? マジ?」


 ナタリアの戸惑いも分かる。これ、かなり危険だぞ。


「そんな事を謝ってるの?」


「しかし、だな。例えば、俺が相手の腹を突き刺したとしよう。そのタイミングでお前が出て来たら、敵の腹からナタリアが生えてきた絵面になるんだぞ。ホラーだろ? 血みどろで気持ち悪いだろ。俺も暗黒騎士っていうか邪悪な魔法使いみたいに思われそうだ。二度と冒険にも誘われない」


 深々と刺してみた場合を想像しよう。その場合、敵とナタリアは人間十字架みたいになるだろう。

 更には、剣とナタリアの胴のサイズは明らかに違う。俺の予想ではナタリアは相手と合体した状態で、そのまま腹を圧迫されて息絶える。ほぼ無駄死にだ。


 その辺りを丹念に俺は説明した。

 ナタリアは息を飲み、それから血相を変える。


「レオン、あんた、絶対に血を流しちゃダメよ! 私、そんな死に方だけは嫌よ!」


 互いに命を掛けて斬り合っている最中、突然に相手の得物が素っ裸の少女に変わったら、俺は引く。ドン引きする。大概の者がそうだろう。

 しかも、それを斬り捨てるみたいな事故を起こしてしまったら、剣の道を捨てても良いかと思うくらいの衝撃だ。

 獣だってビックリして退却するさ。


 下手したら、冒険者仲間の間では後々の飲み話のネタになりそうだ。ブラックジョーク系の。



「あぁ。勿論だ。全ての攻撃を避けなければならないと、今は強く思っている」


「頼んだわよ! あっ、そうよ! 戦闘前に私を安全な所に置いて、別の剣で戦いなよ! 若しくは、最初から私を呼び出すとか」


「ああ。分かっている。新しい剣が必要だな」


「そうよ、レオン。私以外の剣を使うのも妬けるけど、それでお願い」


 妬けるのか? それはそれで不思議だ。


「でも、どうしてもっていう時は避けるのよ。ほら、さっきの剣の道は愛の道? よく分からなかったけど、その意気で」


 ……? ……ちょっと待て!!


「ナタリア、気になることがある。剣の道は愛の道って、お前、もしかして、俺の心を読めていないか?」


「……へ!? いや、あの変な騎士の人、いっつも言ってたじゃない? いやー、忘れてるの、もー、やだなー」


 この焦り方は十中八九、俺の心を読んでいたな。分かる。深く長い付き合いだから。



 ナタリアは逃げた。いや、そんな風に思えただけだ。剣の姿になったタイミングが良過ぎて、彼女の意思ではないかと捉えてしまう。



 しかし、アレだな。

 早く完全な人間に戻さないと、恥ずかしすぎるぞ。あいつは鞘がなければ裸だが、俺は常に心を裸にされていたか。

 完全な呪いだ。あの黒い影みたいなヤツに完璧に嵌められた。


 俺は認識を新ため、早々に旧大陸に戻る手筈を整える決意をした。それまでは下手な妄想は避けないといけない。大変に厳しい道程だ。



 少々の憂いを感じながら集落へ戻ると、冒険者達は去っていた。

 俺が太股を刺した男以外にも幾人かは怪我を負っていたが、皆、その状態での撤退にも慣れているからだ。普段の仕事であるギルドからの依頼は、成功が約束されているはずがなく、手痛い失敗をすることも多い。なので、精神的にも肉体的にも鍛えられている。逆にそれくらいのタフさを持っていなければ、生き残ることは出来ないさ。


 むしろ、大袈裟な悲鳴を上げていたあの男の方が珍しい。……冒険者ではないのか。



 また、もう一つ気掛かりな事があった。普通に街へ戻った様だが、アレンやジョディ達、この集落の肩を持ってくれた奴等は大丈夫なのだろうか。

 ギルド長から直の依頼で、この集落の襲撃に参加したという話だった。あのヤセ男に逆らって、冒険者としての地位が維持されるのか心配である。



 その日の夜、集落を守ったからとの理由で、親っさんは俺を奴隷から解放した。だからと言って、何が変わる訳じゃない。ここでは過酷な奴隷生活なんて無かったんだから。


 親っさんが「はい。奴隷くんは今から奴隷ではなくなって、冒険者くんになります」と皆に言っただけだからな。


 続いて、街に行って信頼できる仲間を募る様に指示された。親っさんの奴隷ではなくなったのに、普通に指示されて、それもいつも通りだ。

 だが、俺は親っさんに感謝している。当然にそれを受諾する。

やっと半分で、予定通りの文字数(^^)

どこかで隔日投稿になるかもしれませんが、最後まで当初プランで書けるはず。


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