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真向かう

 俺達を囲む冒険者達の中には知った顔も何人かいた。俺が気付いたということは向こうも同じで、お互いに手を軽く上げて合図をする。


 ふぅ、どうやら戦闘は避けられそうだ。


 親っさんが先程の口上をした冒険者に近寄り、話し合いを求める。流石の元貴族と言うべきなのか、圧倒的な人数差にも(おのの)くことなく、ゆっくりと歩む。頼り無さげにも、堂々にも見える不思議な姿だ。



「拐ってなんかいません。この子達は、僕の開拓を手伝ってくれているんです」


 親っさんは開拓地の権利証書の写しなんかを懐から出して説明したりしている。元々が文書管理の仕事をしていたらしくて、この辺りは抜かりないのだろう。


 でも、冒険者連中で契約文章を読めるのって珍しいんだよな。簡単な単語とか仕事に関連する文なら当然に読み慣れているんだけど、あーいうのは苦手なんだよ。頭が拒否反応を示すヤツが多い。



「レオン、お前、こんな所で何してんだよ?」


 顔見知りのアレンが傍まで来ていた。俺は親っさんに注目しすぎて気付いていなかった。


「カーラから聞いてない? 俺、奴隷落ちしてんだ」


「奴隷には見えねー格好だから、一応、確認した」


 帯剣もしているし、服も冒険者時代の物より良いからな。太ったわけではないが、体格もしっかりした食事のお陰で良くなったかもしれない。


「アレン、お前はギルドの依頼で来たのか?」


「ギルド長から直だよ。子を拐う悪党を成敗するのに参加すれば、銀貨5枚の前金。まぁ、お前がいるなら、止めておくよ。銀貨は返せば良いだろ」


 ……あの痩せ男か。

 受付を通さずに直接依頼なんて聞いたことがない。完全に裏の目的が有りそうだ。砂金について知っているか。


「持つべきは友だな」


「止せよ。気持ち悪い。また洞窟探索に付き合ってくれよ。金持ちハンスに(あやか)りたい」


「あぁ、ナタリア共々宜しく頼む」


「そういや、ナタリアはどこ――」


 俺とハンスの会話はそこで止まる。

 


 何かの音がした。

 視線を変えると、親っさんと話をしていた冒険者側の代表の後頭部から矢が突き刺さり、顔面まで貫いたのが分かった。結果、彼は倒れ、そのまま動かない事から絶命したと思われる。



 矢が飛んできた方向は――集団で現れた冒険者側からだった。



「アレン、こっち側に付いてくれよ」


「あぁ。あいつも良いヤツだったからな」


 俺は顔しか知らないが、倒れたヤツとアレンは知り合いだったようだ。



「オラオラ!! 金は払ってんだから、サッサと皆殺しにしろってんだ!!」


 激しく怒鳴るヤツも知っている。俺を奴隷に落とした際にギルド長の横にいた大柄な男だ。

 今日は皮鎧で上半身を覆っており、それがために、一段と大きく見えた。


「子供拐いの悪党の首1つにつき金貨を1枚やる! さあ、ぶっ殺せ! 反対に、逆らったヤツは明日から依頼無視の罪で奴隷だからな!!」


「……従うか、バカ。何様のつもりだ」


 アレンは短く言い捨てて、剣を抜く。剣先は当然に集落を囲む連中である。彼の仲間も続いていく。


 金に釣られて俺達に敵対する奴等もいたが、下手な煽りによって情勢は変わり、反感を抱いて反旗を翻したのも半分くらいになった。


 ただ、すぐの乱戦にはならない。互いに知った顔もいて、いきなり戦い合うには踏ん切りが付かない。

 考えなしや粗暴な奴等だけが斬り合って、お互いの剣の音を響かせている。幸いにも、そんな連中は、かなり少数だ。



 そんな中、俺は親っさんへ野原を急ぐ。

 金貨1枚という大金で、賞金首になっている。しかも親っさんは冒険者仲間でもないから、魔物を殺るみたいに仕留めるのに抵抗がない連中もいるだろう。



 間に合った。

 親っさんに振るわれた乱暴な剣に、素早く合わせた剣状態のナタリアで阻止する。



「ジョディ! 悪い。退いてくれ」


「あん? レオンか」


 親っさんを殺そうとしたのは、女剣士のジョディだった。こいつは頭が単純だから、金に釣られたな。

 白い袖無しの下着みたいな布が1枚だけの上半身が、見ようによっては目に毒である。頭と顔はイマイチだが、体だけは一級品ってハンスに評されていたのを思い出す。



「親っさんは、俺の主人だ!」


 俺の言葉にジョディは一瞬体を止める。ゆっくりと咀嚼して考えている様子だ。


「これ、貸しだからな」


 ジョディは呟いてから俺に背を向け、手を貸してくれる素振りを見せる。



 その間に親っさんには逃亡する。俺を置いて去ることに躊躇をしていたが、ジョディに「とっとと去れ」って吠えられ、慌てて親っさんは集落へ、それから、森の方へと走っていく。坊っちゃんや子供達も同行する。



 何人かの冒険者はそれを見て親っさんを追った。そして、それを止めるために俺達に味方してくれた者達が追う。

 その大半が念入りに仕掛けた落とし穴に嵌まり、また、結んだ草に足を取られて転んでいた。敵も味方もなく、平等に罠に掛かっていく。

 親っさんは子供達に安全な道を誘導されながら、うまく逃れそうだ。



 それを横目で確認しつつ、俺は草むらを駆ける。


「お前、見たこと有るな。……あぁ、あの奴隷落ちしたヤツか?」


 この場を仕切るヤツの前に来た。俺を覚えていたようで、嘲る様な口調で喋って来た。俺はそれに返す。


「先日の礼を返さないといけないと思ってんだわ。丁度良かった」


「あの時にブスリと刺しておけば良かったんだよなあ」


 小型の弩を地面に投げ捨てながら、ヤツは剣を抜く。


 どっしりと剣先をまったく動かさない。そこからヤツの力量を感じとる。飛び出せば切られてしまいそうな気配さえ感じて、それは初の対人戦であるがために、俺が気後れしている証拠なのだろうか。


 対峙を続けること、数呼吸。


「雑魚が失せろぉ!!」


 叫びながら男はいきなり前に出てきた。

 鋭い突き。

 寸前で体をスライドさせて逃げる。


 俺が避けた先を狙ってのもう一段の突き。

 足捌きも腕の振りも速い。



 頬を剣が掠り、血が流れるのが分かる。

 追撃はそこで一旦落ち着く。


「お飾りか、その剣は?」


 厭らしい笑みを見せながら、俺を嘗め廻すように眼を上下に動かす。

 けれども、相変わらず隙はない。


 こいつは人を斬るのに慣れている。若しくは、人を傷付けるのを楽しんでいる。俺はそう感じた。


「そう見えたなら、お前は節穴だな」


 気を溜め直して、俺は改めて剣を構える。俺の血が流れ落ちないように気を付けながら慎重に。

 こいつは俺が倒す。ナタリアの世話にはならない。

 それが、こいつに射たれた名も知らない冒険者仲間への弔いだ。

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