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俺の話はくどい  作者: 星野 正道
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第1話

童貞を卒業するということは男にとって、とても重要なターニングポイントになると俺は思っている。俺のイメージする童貞卒業は、背徳感と謎の達成感に満たされる素晴らしいもので、例えるならポケットモンスターシリーズでパッケージになっている伝説のポケモンを捕まえることくらい重要なものだと、そう思っていた。

だが、俺は童貞卒業した時の記憶が完全になかった。


俺の名前は哀川 一。19歳。特技特徴なしの無能。親の勧めでなんとなく工業高校に入学した俺は特に努力もせずに周りに流され下の中の成績で進級していき、周りに流され特に努力もせずに小さい浄水設備の会社に就職した。会社でもやるべきことはやっているが大活躍する訳でもなく新社員として自分に出来ることを覚える毎日を送っている。でもストレスが溜らないわけはなく、先輩に厳しく指導され新しい生活にも慣れず新社会人として順調に精神を削られている。

そんな俺の今の楽しみは次の日が休みの日の金曜日に1人で飲むことだ。地下鉄で通勤する俺は毎週金曜日、家の最寄り駅を降りた後、親に連れて行って貰ってからずっと気に入っている居酒屋「八猫伝」に足を運ぶ。親しい友人の少ない俺は勿論1人飲みだ。だがそれがいい。八猫伝にやってきて愚痴を言いながら飲み食いするおっさん共の端で考え事にふけりながら食べる醤油バター味のフライドポテトとカルピスウォーターは最高にうまい。最高に癒される時間だ。19歳だからというのもあるが俺は酒を飲まない。正確には飲めない。俺は酒に弱い。

アルコールが体内に入ると、肝臓でまず「アセトアルデヒド」という物質に分解される。この物質は極めて毒性が強く、顔面や体の紅潮、頭痛、吐き気、頻脈などの不快な症状を引き起こす。そして、このアセトアルデヒドを分解してくれるのが「ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)」だ。ところが、日本人は約40%の人がこのALDH2の活性が弱い「低活性型」のため、お酒に弱い体質といわれている。さらに約4%の人は「不活性型」と呼ばれ、ALDH2の働きが全くなく、お酒を飲めない体質なのだ。このALDH2の活性のタイプは、親から遺伝によって受け継ぐので、生まれた時から決まっており、後天的に変わることはありません。自分の体質を知り、自分のペースでお酒を飲むことがなによりも大切だ、ということらしい。(コピペ)

で、俺の両親はというと酒に結構強い。両親ともかなり酒を飲むし母は酔っ払うが父は酒を飲んでも意識がはっきりしていてかなり強い。

だが俺はというと、めちゃくちゃ弱い。中学生の頃行った保険の授業で、アルコールの耐性を見る検査で腕にアルコール液をつけた時はびっくりするほど赤くなっていた。ちなみにアルコールに強いひとは全く赤くならないし赤ければ赤いほどアルコールに弱いことになる。18歳になった時は調子に乗って親が酒を飲んでる時に一緒に飲んだことがあった。アルコール度数がものすごく低いほろよいとかいうチューハイを1口飲んだ。結果として1口で頭がグラッと傾いて卒倒してしまった。遺伝というものは不思議だととても感じた。


昨日の夜も俺は、金曜日で明日が休みだという事実に1人喜びながらいそいそと八猫伝に足を運んだ。冬が到来するのを感じさせる11月下旬の風に体を冷やされていた俺は店内の暖房の効いた暖かい空気に頬を緩ませた。入口で店内を見渡すと7時前だということもあり人はまだそんなに多くなかった。俺の定位置になっているカウンター席の一番端も空いていた。店内に入ってきた俺に気づいた女店員がこちらに歩いてくる。

「ぃらっしゃいませー!今日もカウンター端ですか?」

「ぁはい。端で。」

「どうぞー」

4月に入社してからほぼ毎週通いつめていることもあり、もはや店員は俺が「金曜日に1人でカウンター席の端で食事する」という認識を持っていた。俺も店員の顔は大体覚えていた。半年も通い詰めればそりゃ覚えるわな。さっきの女店員も大学生でバイトで入っていることももう覚えてしまった。「また来たのかこいつ…。他に金使うことないのか…。」とか思われてないといいのだが。

正直最初は1人で飲みに行くことに抵抗があった。ネットで「1人飲み 居酒屋 迷惑」とか調べて大丈夫か確認してから店に行くほど。ソフトドリンクしか飲まない客は邪魔じゃないか、とかアレコレ考えて悩んだものだ。ソフトドリンクは逆にアルコール飲料より作るのが楽だから助かるとネットに書いてあって安心した。

席に着くと俺はカルピスウォーターとフライドポテト(もちろん醤油バター)を頼む。頼み終えると俺はスマホを見ながらまた物思いに更ける。Instagramでは女子会の様子をあげた高校の同級生のストーリーが流れている。随分高そうな店だ。どこからこんな金が出てくるのか俺には謎だ。次にデート中の様子を移したストーリー。高校2年から付き合っている同級生の投稿。

「お待たせしましたー」

料理が運ばれてきた。会釈で返す。カルピスウォーターを飲みながらまたスマホに目を落とす。仕事帰りに待ち合わせしてデートしているのだろう。ご苦労さまって感じだなあ。仕事帰りに待ち合わせして仕事で金を稼いできたのにその足で彼女に金を費やすために足を運ぶのか。理解に苦しむ。ん、ポテト上手いな。

俺は人生でこの方恋人が出来たことがない。理由はもちろんお分かりですね。見ての通り性格が悪いからだ。それ以外にも要因はもうボロッボロ出てくる。身長がまず低い。160あるかないかくらいだ。会社の上司にも「牛乳飲みまくれ」と仕事中に買ってもらうことがある、正直泣く。あと目つきが悪い。高校の時は「中学生くらいなら目つきで泣かせられそう」と女子に揶揄された事があった。一重はクソだ。身長が低く目つきも性格も悪い。その上大した才能や特徴がなければモテるはずがない。高校三年生あたりで「俺は絶対彼女が出来ない。」と悟りの極地に達してからは恋人を作る気が完全に明後日の方向に飛んで行ってしまった。

「ぁすみませーん」

「はいっ」

「えーとカルピスウォーター1つと、月見つくね1つと、あとミニ餃子1つ、以上で。」

「はいっかしこまりましたっ」

俺はとても面倒臭い性格をしていると自分でも思う。人に束縛されるのは嫌いだし、休日は1人でどこかに出かけるのが性に合っているが、1人だと1人で寂しいと思うこともある。数少ない友人に声をかけるも断られると惨めな気持ちになる。1人が好きだが孤独が嫌いだ。なんとも面倒臭い性格である。

「すみませんっ」

「ぁ、はい?」

「店内混雑しておりまして〜。お隣に他のお客様に詰めて座っていだくことになるんですけどお隣大丈夫ですか?」

「あっ大丈夫です」

「ありがとうございます〜」

ホントだ結構混んできてるな。うるさいおっさんとかじゃなければいいけど。

「すみません失礼します」

女だ。会釈しながら見上げる。うぉっマジか美人じゃん。男と来てるんだろどうせ。ぇマジかよこの人1人で来てる。美人なのに地雷なのか?1人が好きなのかな。

「おまたせしましたー」

会釈をする。月見つくねの卵の黄身が爛々と光っている。テンションが上がってきた。カルピスウォーターも進むというもの。

「すみませーん」

「はいっ」

「カルピスカクテルと、あと焼き鳥が、ぼんじり2本と…」

この人もカルピスか。初っ端からカルピスカクテル頼む人とかいるんだな。普通ビールな気がするけど。餃子上手いな。酢ないんだっけ。たまにはかけるのも悪くないかもしんないな。

「おまたせしましたー」

「ありがとうございます」

ちゃんとありがとうございますって言ってる。会釈するだけの俺とは違うなこの人。俺のコミュニケーション能力の低さが露呈するぞ。はぁ。1口カルピスカクテル飲んだだけで立ち上がったぞこの人。トイレか。

俺はカルピスを口に運んだ。


ここまでが今思い出した昨日の夜の記憶。思い出して多分言えることは俺が間違えて「この女」のカルピスカクテルを飲んだってことだ。まさかカクテル1口飲んだだけで記憶が飛ぶとは思っていなかった。全く末恐ろしい。

ちなみに今の状況を説明すると、全然知らない部屋、ベッド、全身裸、となりに全裸の女、ティッシュが散乱している。女は昨日の相席した女だ。すやすや眠っている。

いやマジでやってるだろこれ。断片的でも記憶ないんだけど。記憶が100%が最大ゲージだとしたらカルピスカクテル間違えて飲んだところから0%なんだけど。アルコールとはこんなに厄介なものだったとは。二度と呑まん。だってゴム落ちてるしねこれ。明らかやったでしょこれ。つか俺酔っ払っててもゴムは着けたんだな。偉いぞ俺。

「…はぁ。」


とりあえず、トイレ借りよ。


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