6話 理解者
カインが初めての外出とゴブリンの襲撃を受けてから数日が経った頃、
公務で出掛けていた父様が領地に帰還したと知らせが入った。
父親であるピサロはカインの復活についてプロメテア家で集めた全員に緘口令を出していた。
それは今回の復活騒動はあまりに不可思議な出来事であったため、説明の仕方に注意が求められると考えたからだ。またピサロにとっての父親であるジードンに知られることが何より厄介な種になると思案させた。ジードンとはそう思わせるだけの人物だと過去の実績が物語っている。
それでもピサロも仕事を放り投げてでもカインの快調を祝いたいと名残惜しくもあったが、王都での会談には出席せねばならなかった。
公爵の身分であるプロメテア家なら他の貴族同士の会談でならば予定変更の融通も聞いただろうが、国王の招集は断ることは出来なかった。
帰ってきたピサロを出迎えたのは妻であるセフィアだった。ピサロは恐らくカインの健康状態の報告かと思っていたが、聞かされた内容は驚愕の事実だった。
「逆転 だと!?むむ、聞いた事もないスキルだが本当にカインがそう言っていたのかい?」
「ええ、私も聞いた事もなくて、貴方なら何か分かるのではないかと思ったのですが・・・」
「カインを交えて話をしよう。ここにカインを呼んでくれないか?」とセフィアに告げると、
セフィアは部屋の外近くで待機していた侍女へとカインを呼ぶように指示し、
数分後にカインは父の執務室へと入っていった。
「カイン、スキルについて聞いたんだが、その、本当に逆転 というスキルなのかい?」
「はい、逆転 というスキルを得て、その他にもいくつかスキルを得ることが出来ました」
「「えっ??」」
ピサロとセフィアはキョトンとした表情を浮かべ、意図せず合わせて間抜けな声を出してしまった。
「カイン?あなたスキルは1つしか覚えてないんじゃなかったのかしら??」
セフィアは笑顔を崩さないものの不服そうな圧を発する。
不穏な空気を感じ、タラ〜っと嫌な汗を背中に垂らし「すみません、どう説明していいのか・・・分からなくて」
「セフィア、まずはカインの話に耳を傾けてみないかい?」
「そうね」と頷き、カインからスキルの内容を聞き、また数回驚きを繰り返した。
全てのスキルについて聞いたところ、
肉体強化はそこまで珍しいスキルでは無いものの、その他の成長促進、魔力還元、千里眼については一般的にはあまり出回っているようなスキルではなかった。
そもそもスキルとは何かを極めた者がアクティブスキルとして獲得すると言われており、
カインのようなスキルはユニークスキルと呼ばれ、持っていることも珍しいとされるのだ。
それを少なくとも3つは持っているカインは全世界で探しても稀有な存在と言えるだろう。
事実を聞いたピサロは頭を悩ませた。
このままプロメテア家の次男として育てていくにはカインのスキルは規格外過ぎたのだ。
このまま能力が成熟していけば王都騎士団の中でもかなり上の方までいけるだろう。
そうなればプロメテア家の後継者であるハルクにとっては扱いに困るだろう。
更にジードンに知られればこれを機に再度悪巧みを考じることは安易に予想される。
カインを筆頭後継者として育成するか?いや、そんなことをすればハルクとカインの関係を破壊しかねい。
そう言えばカインはこの先どうしたいのだろうか?よく冒険に出てみたいと言っていたが・・・
「カイン、もう体調に心配がないとしたら、これからどうしたい?」
「えっと、もし良いのでしたら冒険者ギルドに登録して冒険者になりたいです。そして今まで見ることの出来なかった広い世界を見て回る冒険をしたいです!」
「ふむ、なるほどな。・・・・・・ん?なるほど、それも良いかもしれぬな。カイン、色々と話してくれてありがとう。少し母さんと話をするから部屋に戻っていてくれないかい?」
「はい、分かりました。」そう言ってカインは部屋を出る。
「貴方、もしかしてカインの望むまま冒険者にさせるのかしら?」
「ああ、今はなるべく父上から距離を取っておいた方が良いだろう。自然の多い土地で療養させると伝えておけば暫くはカインに危害が及ぶことも少ないはずだ。セフィア、君の実家の領地の方で鍛錬も兼ねて預けるように出来ないかい?」
「あ、なるほど。分かりましたわ。あの方へ頼んでみますわ」
「さすが私の良き理解者だ。宜しく頼むよ」
「お任せ下さい。そうなると私も暫くは実家へ帰郷となりますので、こちらはお願いしますわね」
「なっ!?くっ、、そうか。仕方あるまい・・・カインを頼むぞ」
その日の夜はプロメテア家で束の間の家族団欒を楽しむことが出来た。