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4話 冒険の序章

菓子屋ではシールが幼い顔を崩して楽しそうにしていたのが印象的で、

カインにとってはこの何気ない出来事でも思い出深い一時であった。



いくつか焼き菓子を購入した一行は、街を出た先にある草原を馬車で走り、高台へ向かった。

少し拓けた高台にはぽつりぽつりと木々が並び、

「この辺りでお昼ご飯をたべましょう」とセフィアの言葉をきっかけに屋敷で用意した軽食を広げた。




カインは屋敷の外のことは本の読み聞かせなどでしか知ることが出来なかった。

今回のピクニックだけでも絵本の中にでも入ったのではないかと思うほどに心を踊らせた。



「カインお兄ちゃん!はい!サンドイッチ!」


「ありがとう、シール!」


「お兄ちゃん、美味しい?」


「うん、とっても美味しいよ!もしかしたら今までで一番美味しいかも!」


「まぁ、カインたら、ふふふ〜」



カインは本当にそう思っていた。

呪いにかけられていた頃は毎食微量の毒を盛られており、栄養を摂るためと騙されて苦く不味い食事をさせられていたからだ。



食事を終え、のんびりと景色を堪能していると、

「もう本当に大丈夫?」と母様が念の為という雰囲気で俺の調子を伺ってきた。


「はい、本当にもう大丈夫です。実はあの出来事のあとにスキルを覚えたんです。」



「あら、そうなの?どんなスキルかしら?」



「えっと、あんまり聞いた事がなくて俺も聞いてみようと思ってたんですけど、母様、逆転というスキルを知ってますか?」



「逆転??ん〜、私も聞いた事がないわね〜。

一般的なのだと剣術や体術とか料理や裁縫とかが多いわよね。」



「やっぱりあまり知られてないスキルなんでしょうか。」



「う〜ん、そうね〜。カイン、しばらくこのことは皆には内緒にしておきましょうね。特に御爺様には、ね?」



「は、はい。」


セフィアの柔らかな表情ではあるものの、有無を言わさぬ言葉でつい頷いてしまった。



「それにしても、カインには不思議なことが沢山起きるわね・・・」と誰にも聞こえない声でセフィアは呟く。


「母様?」


「んーん、なんでもないの、カインが元気になって嬉しいなって。ふふふ。」


「そうですか。なら良かったです。あ、そういえば母様は魔法が使えるんですよね?俺も使えるようになれますか?」



「私は簡単な水の魔法しか使えないわよ。カインは魔法使いになりたいのかしら?」



「俺は冒険者になりたいな、って思ってるんですけど魔法が使えたら便利かなって」



そっか〜、と言いながら木のカップに、

徐ろに伸ばした手の先から出た水を満たしていく。


「わぁ!これが魔法ですか?母様すごいです!」


「母様すごーい!」とお花を摘んでいたシールが戻ってきた。



「これくらいなら水魔法の適正があれば出来るようになるわよ〜」

少しだけ得意気な母様も可愛らしいな、とカインは口には出さずに留めた。



何度か魔法を見せて貰ってはしゃいでいたあとに、

「母様〜、お菓子を食べてもいいですか?」

我慢しきれなくなったのか、シールがお願いをしてきたところで魔法について聞くのはやめておいた。




のんびりと過ごした3人は、日も傾きはじめたこともあり屋敷に戻ることにした。



またしばらくの馬車の道程。



シールは眠そうに目を細くし俺の肩に頭を乗せる。





ん?馬車が止まった。


屋敷まではまだかかるはずだし、街へすらまだ着く距離じゃない。



馬車の布窓から外の様子を母様と覗くと、

そこには10匹の緑色をした魔物が道を塞いでいた。

人型ではあるものの目は白目がなく真っ黒で緑色の皮膚は全身イボイボしていた。

体は子供の俺よりも少し小さいくらいだ。

初めて見る魔物は醜く、外見だけでも恐怖を感じた。



「こんなところで魔物に遭遇するなんて・・・」

母様もあの魔物に恐怖を抱いているようだ。




すぐに護衛の者たちが戦闘の体制をとり、

「ゴブリンだ!必ず奥様方をお守りするんだ!」

と剣を構えた。




護衛達の実力が高いのかゴブリンを圧倒する。

「ギィギ!ギィヤー!!」と騒ぎ立てる魔物は何かを呼ぶように叫ぶ。



ゴブリンもあと3匹という所まで護衛達が戦闘を続けていると林の中から先程までのゴブリンよりも一回り大きく、若干イボイボが少ない魔物が護衛に襲いかかってきた。

急な攻撃に不意を疲れた1人の護衛が吹き飛ばされ、動けずにいる。


さらにもう近くにいた1人が足に攻撃を受け、倒れたまま動けずにいる。


「不味い!ホブゴブリンだ!」

あの一際でかい魔物はホブゴブリンというのか。

俺は憧れの冒険の一端を垣間見て恐怖の感情と反比例してわくわくしていた。



しかし状況は少しずつ悪化していき、護衛と馬車はホブゴブリンとゴブリン2体に囲まれる形になってしまっていた。

母様もシールも恐怖に震えていた。




その時、ガゴーン!!と大きな音を立てて馬車が傾き、シールが外へ投げ出されてしまった。



俺はわくわくしていた感情が一気に冷めて、一瞬で恐怖に血が引いた。



「シール!!」とセフィアが駆け寄るがホブゴブリンがシールへと駆け寄る。



シールに右手に持った太い棒を振り下ろす。



「ウォーターウォール!」



セフィアが水の壁でシールを守った、がそれでもホブゴブリンは水の壁に攻撃を続け、少しの間に水が弾け飛んだ。



ニィ、と身の毛のよだつ笑顔を浮かべ、シールに近づく。


護衛が1人駆けつけ、ホブゴブリンに剣を振るった。攻撃を受けたホブゴブリンだったが致命打にはならず護衛に反撃を喰らわす。


攻撃後の隙をつかれ棍棒に吹き飛ばされた護衛がピクリとも動かない。



俺は足が震えて身動きが取れずにいた。





『カイン、勇気を出して!』





どこからか声が頭に響く。



何者かに背中を押されるように、気付いたら無意識にスキルを発動していた。





逆転(リバース) !!」

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