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1話 始まりの奇跡

「いつか外の世界で大冒険をしたいなぁ」

これは俺がいつもベッドの上でつぶやく決まり文句のようなものだ。



生まれてこの方、俺の人生は波乱万丈の言葉では足りないほどの苦難が重なっている。



古参貴族である我が家プロメテア家は、

代々世継ぎを繰り返し王家に忠誠を示してきたが、

俺の生まれた今代ではそれも途絶えてしまうのではないか、というのが貴族界隈での噂となっている。



領主でもある父親のピサロ・プロメテアは祖父の時代の圧政を変革し、領民からも評価が高い。



領民としてはこの変革は受け入れられるものだったが、我が家には今までの贅沢な生活から一変し、

長男であるハルクは事あるごとに不満を吐露するのがお決まりのパターンだ。



そんな変革の頃に産まれた俺は、生まれつき体が弱く、10歳になった今でも体が小さく、辛うじて歩ける程度だ。




「カイン様、お食事をお持ちしました」メイドが淡々とした面持ちで自室に食事を運んできた。


俺はもうほとんどを自室のベッドで過ごしている。

「今日はなんだか食欲がないなあ」とパンと芋の姿煮と少しの野菜スープを見て溜息のように呟く。



「しっかりお食事を取りませんと体も丈夫になりませんよ」とメイドは普段笑わないのに何故か笑顔で食事を押し付けてきた。



俺はこの笑顔をいつも気味が悪いと感じていた。まるで悪魔が悪戯をする時にニヤつくように見えるからだ。



目もあまり良くない俺にはぼんやりとしか見えないからだと自分に言い聞かせていた。



食事は済ませたがどうにも今日は体調が悪い。

体中が鉛になったように重く、熱もあるようで、至る所を痛みが躍る。



俺はもうこのまま死を迎えるのかもしれない。

どうせ宮廷医術師に診てもらっても原因不明で解決しなかったのだから治す手立てはないのだろうし。



この辛さが終わることへの安堵に近い諦めは、日に日に大きくなっていたのだ。まるで山頂へ到達する直前のように。



「ふふふ・・・そろそろ限界かしら?安らかにお眠りなさい。さてと、やっと長い仕事が終わったし依頼主へ報告に行こうかしら」

メイドは不敵な笑みを浮かべながら部屋を出て、早足で領主の執務室へと向かった。




タッタッタ・・・コンコン

「だ、だんな様!!カイン様が・・・うぅ、カイン様の息が・・・途絶えました・・・」



「・・・そうか。早急に皆を集めよ。10分後に皆へ報告をするから何も言わずにとにかく集めるのだ」



「かしこまりました」一礼してメイドは部屋を出て、

「ふっ」と少しばかりの笑みを溢し他のメイドへ招集命令を告げに足を進めた。




「カインよ、助けてやれず、すまぬ・・・くっ」





10分後に広間に屋敷の人間が全て集まった。

総勢100人超える人数にもかかわらずまだ広間は余裕がある。



「皆の者、つい先ほどカインは息を引き取った。」



「あぁ」とか「うぅ」という嘆きの声がそこかしこに広がり、感情が伝染していくのが分かる。


一際感情を抑えられなかったのが母親であるセフィア・プロメテアであった。


「セフィアよ、カインとの10年を良きものにする為、しっかりと送ってやろう」



「・・・ううぅ、・・・はい」



「母様、長男である私がプロメテア家をより一層支えますのでどうか悲しまないでください」

ハルクは表情としては哀しげではあるものの心持ちはしっかりとしているようだった。


実際にはプロメテア家のほとんどがカインが近い将来亡くなるだろうと頭のどこかでは予想していたからだ。





皆への報告を告げ、親族のみカインの部屋へ集まっていた。



「カイン・・・カイン・・・ごめんなさい。あなたに辛い思いをさせたまま逝かせてしまって」

セフィアはカインの顔を見て、手を握って思いの丈を告げた。



その横で頭を撫でながら「すまぬ」とだけピサロは口ずさむ。


ハルクは少し離れたところで両親の悲しみを邪魔しないよう傍観している。


その横で3人目の子供である5歳の長女のシール・プロメテアが「カインお兄ちゃん、なんで起きないの?」とハルクを困らせていた。




*************

*************

*************




あれ?さっきまであんなに体が辛かったのになんだかいつもより体が軽いし、痛みがどこにもないぞ?

ああ、なんだ夢か。

だからこんなにも真っ白な不思議空間にいるんだな。

いっそこのままここでずっと過ごせないかな。

なんてずっと夢の中で過ごすってもう死んでるのと一緒か・・・ははは


「カインよ、ここは夢の中ではない」



!!!



「だ、だれ!?」



「ここは神の世界。私は”理の神 テンピュール”である。カインよ、あなたは既に死んでしまっているよ」


「ええっ!!じゃあ俺はもうみんなにも会えないし、大冒険も出来ないってことですか!?」



「本来ならその通りだ」



「本来なら?」



「そうだ。あなたは生まれたときから弱い肉体を持ったと思っているだろう?」



「はい」



「それは間違いなのだ。あなたは今まで多くの”呪い”をかけられておる。挙げればキリがない程にな」



「な、なんで・・・じゃあ呪いで死んでしまった、ということなんですか?」



「そうだ。そして死人は本来なら魂の浄化をして新たな精神となり肉体を与えられる。しかしなカインよ。

あなたは本来の役割を全う出来ずに命を絶ってしまった。これは由々しき事態なのだよ」


「本来の・・・役割・・・ですか?」


「役割については神のルールで伝えることは出来ぬが、宿命とは運命で結ばれておる。

生きていれば必然と役割という試練が待ち受けているのだ。カインよ、今一度現世で生き、試練を受けよ」



「生き返られる、ってことですか?」


「そうだ。そしてそうしてもらわねば困るのだよ」


「そう・・・ですか。でもまた呪いで死んでしまうかもしれないですよね・・・」


「その通りだ。しかしこれについては私の加護を授けよう。呪いに対抗できるだけの力だ」



「呪いに対抗出来ればなんとか生きてはいけるかもしれないんですね。わかりました。

どんな試練が待っているのか不安ですけど

やれるだけのことはやってみます。せっかく頂ける命ですし、自由になれるのなら冒険にも出られるといいな」


「ふふ、ではこの” 逆転(リバース) ”のスキルを与えましょう。この先、この力があなたを導くでしょう。

そろそろ魂と肉体の繋がりが希薄になってきたようです。ここでの出来事は朧気になりますが心に刻まれます。

さあ、お行きなさい。あなたの人生に幸運をお祈りしていますね」


「神様、ありがとうございます!きっと試練を乗り越えてみせます!見守っていてくださ」




*************

*************

*************



「い!!」



「「「「!!!!????」」」」

プロメテア家の家族一同が口を開けあんぐりとした表情で放心した。



「カ、カイン?生きて・・・いるの?」

セフィアは絞り出すように言葉を発す。


「あ、あれ?なんでみんな俺の部屋に?どうして母様は泣いているの?」


「お、お前、カイン・・・死んで・・・あれ?生きて?・・・むむ、ちょっと待て、頭が回らん」

父親のピサロはすでに心拍の確認も済ませていた為、あまりの出来事にパニックを起こしていた。


ハルクも同様に信じられない、という様子で何も言えないでいた。


一人、シールだけは「カインお兄ちゃんやっと起きたねー」と笑顔を浮かべていた。




~~~翌日~~~


プロメテア家一同は再度広間へ集まっており、カインの無事が報告された。


「みんな、なんだか騒がせてしまってごめん。でもなんか生きてた」

と自分でも分からないがなんて言っていいか分からないから仕方がない。





少し遡り昨日みんなが俺の部屋から出て行ったあとに分かったんだけど、俺はスキルを身につけていたんだ。


逆転(リバース) ”というスキルが精神に刻まれていることが感覚でわかった。例えるなら自分が男だと認識しているようなもので、

スキルを持っていることを認識しているんだ。

そのスキルを使ってみたら体から悪い憑き物が剥がれるような浄化されるような感じがした。



少しの間が空いて、新しいスキルを認識した。

”成長促進” ”魔力還元” ”肉体強化” ”千里眼”

なんか聞いたこともないスキルが次々と精神に刻まれたことが解る。

それがわかった頃合いで意識が途絶えてしまった。



目を覚ますとすでに朝日が差し込んでおり、今までのぼんやりとした世界が鮮明に映っていた。

元々目が悪かったのは呪いをかけられていたと理解した。


またスキルが発現した逆の呪いが掛けられていたんだと内心ゾッとした。

どうして俺はこんなに多くの呪いを掛けられたんだろうと。


すこぶる調子の良い肉体を、早く動かしたい衝動に駆られて、まずは”肉体強化”を試してみた。


頭の中で”肉体強化”と念じてみると体が少しだけ発光しているような感覚を受けた。


軽くジャンプしてみると「うわあ!!」と天井まで軽々と跳んでしまった。




次に”魔力還元”と念じてみると今まで全くと言って魔力を感じることすらなかったのに

世界とつながったかのような感覚を得ることができた。



魔力とは空気のように飽和している魔気を肉体の中に吸収し、織り交ぜられた時に生まれる力のことで、

魔法はその魔力を肉体の外に放出する方法である。




今までは【魔力遮断】という呪いが憑いていたから魔気を吸収することが出来なかったのだ。


魔気は肉体の成長にも影響するし、魔力枯渇を起こすと頭痛や腹痛、関節痛などの症状を引き起こす。



慢性的に魔力枯渇状態であったカインが10年も生きてこられたのは実は奇跡の一端だったことは、理の神くらいしか知らぬことだった。




「みんな、心配かけたけどもう俺、大丈夫だから!」

笑顔でそう告げて、プロメテア家一同はこの奇跡に喝采を上げた。

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