疑惑解消
初日の戦闘訓練が終わって練兵場に備え付けられているシャワー室で汗を洗い流して部屋へと向かう事にした。このシャワー室、俺たちより前の時に召喚された勇者の一人が作ったものらしい。その時は3人召喚されて、そのうちの一人が汗かいた後にタオルの様なもので拭くだけな事に耐えられないと言って工作系クラスを持った勇者に頼んで作ってもらったそうだ。
あてがわれている部屋に向かっていると少し開いた状態だった横のドアがいきなり開いて部屋から伸びてきた手に腕を掴まれ引き摺り込まれた。
「へ?」
いつもなら腕を掴まれた時に対処するのだが模擬戦の疲れから思考が鈍っており何も出来ないまま部屋に引きずり込まれてしまった。
途中でつかんでいる手を離されたためつんのめったけどすぐに立て直し、戦闘に備え構えて俺を引きずり込んだ人を見ると、クラスメイトの愛菜先 愛佳であった。
「愛菜先さんか。」
愛菜先 愛佳 優等生の一人で、テストの成績は上位5人の中に入り、よくテストで俺と4位争いをしている。(去年最後のテストの成績は3点差で俺が上だった。)俺の親戚の道場に通っている事もあり学校内外関係なく結構関わることの多い女子だ。背は俺と同じく小さい。(俺の方が1cmくらい高いが他のやつからすればそんなんじゃあ変わらんらしい。)その見た目の可愛さや、困っている人を手助けする優しさから学年問わず人気がある。
見知らぬ誰かではなくクラスメイトであったため警戒を解く。そして
「何故俺を部屋に引きずり込んだんだ?」
俺は疑問をぶつけるが愛佳は何も言わずに近づいてくる。なんか嫌な予感がしながら後ずさる。彼女が一歩前に進む、俺が一歩下がる。彼女が二歩前に、俺が二歩後ろに、そうやっているうちに壁まで下がってしまい、もう後がなくなった。背中に触れた壁にしまったと思って意識がそっちに向いたタイミングで彼女がさらに接近して手を俺の胸の方へ・・・
バシッ
慌てて胸を触ろうとする手を弾く。
「な、、、何を、、、」
彼女は諦めていない様で弾かれた手をまた伸ばしてくる。俺は触られてたまるかとその手を弾く。そのまま30分程彼女と攻防を繰り広げ、
「はあ・・・ はあ・・・ はあ・・・」
「はあ・・・ はあ・・・ はあ・・・」
両方疲れから動きが止まる。
「はあ・・・そろそろ、何か、話して」
そう言っても彼女は何も話さない。
(またこの状態かよ)
俺は彼女によくあることを思い出して心の中で悪態をつく。
彼女は疑惑や驚きの情報があったりするとそれを究明するのに夢中になり喋らなくなってしまうことが多々あった。
俺が男であると言った時本当に男なのか確かめようとした時もこんな感じだった。
(何故胸を触ろうとしてくる?・・・まさか性別が変わってしまったことがバレているのか?バレる様な行動はしてないはず。だとしたら何故?どのタイミングで?)
思考がうまくまとまらないまま攻防を再開する。そんな状態で彼女の手を捌ききる事が出来るはずもなく。
「あ・・・」
捌けなかった手が胸へと伸びていき
ムニッ
思いっきり揉まれた。
「・・・・・」
「・・・・・」
ムニッ ムニッ
「っていつまでやってんだよ!」
慌てて手を弾く。
「やっぱり胸がある。」
先程の感触を確かめるかの様に手をワキワキさせながら愛佳は呟く。
「蓮、貴方女の子になってるでしょ。」
「!」
ストレートに正解を言われ驚く。その表情を見て肯定であることを理解したようだ。
「何故分かったんだ?」
「最初に気になったのは朝の鍛錬をしている時、最初動きに違和感があったの。動きと体があっていない様なそんな感じのね。その違和感はそのあとすぐに調整されたけど、次はルイスさんからステータスの説明を受けるために集まった時。よく見ないと分からない程度だったけどいつもと様子が違って見えた。この二つの事から何か体に異変があってそれを隠しているんじゃないかと予測がたったわ。後は雰囲気かな、前から道場にいない時は男の子っぽくない雰囲気だったけどこっちに来てさらに雰囲気が女の子っぽくなってたよ。最後は私の勘。」
色々列挙されあっさりと気付かれていたことにガックリする。
「あ、クラスメイトの中で大丈夫気づいているの多分私だけだと思う。そうじゃなきゃ色々いじられてると思うし。」
それには同感。あいつらにバレて平穏でいられるはずがない。
とにかくこれ以上の露見は防がねばならない。
「お願いだから他の奴らには内緒にしていてくれよ。」
そうお願いする俺に対して愛佳は、
「そのことに関してはいいよ。条件があるけど。」
と答える。
その条件にあまりいい予感がしないがこればっかりは呑むしかない。
「その条件って?」
「一つ目は、時々私と模擬戦して。」
「それに関しては問題ないが。一つ目って、まだあるのか?」
「もう一つは時々私の部屋で話し相手になって・・・女の子の姿で。」
一つ目がまともだったから油断したが二つ目の最後にとんでもないもんブッ込んできやがった。
「えーっと、出来れば女の子の姿は無しにしてくれると嬉しんだけど・・・」
「ダメよ。これも条件なんだから。それともバレたいの?」
「ぐっ。仕方がない。二つの条件呑もう。」
これ以上の露見させるわけにはいかないと彼女の脅しに屈する形で条件を了承する。
「ありがと。それじゃあ今からお話ししましょ。色々聞きたいこともあったし、話したいこともあるからね。もちろん女の子の姿でね。」
この時の愛佳が悪魔に見えたのは錯覚では無い気がした。
「ふふっ。似合ってるわよ。」
俺は今愛佳から渡された服に着替えたところである。
「その評価、俺的には全然嬉しくないけどな。」
「あら、今は女の子なのに?」
「ぐっ。」
そう言われてはなんとも言えない。
「いっそのこと女の子になっちゃえばいいじゃない。」
「それはやだ。」
「強情だなぁ。まあいいけどね。それより話しましょ。さあ、座って座って。」
なんか釈然としないまま椅子に座る。
「副団長と鍛錬したでしょ。どうだった?」
「かなり強い。一撃も当てられなかったよ。今回の模擬戦、あの人ステータスは俺より少し上くらいに下げてたのに。隙がないし、技量もすごい。1番の強みは手札の多さだよ。その時その時でいろんな手が打てるってああいう事なんだって思う。」
「私達が習った流派の技使ってもダメだったの?」
「全然ダメだった。流水からのカウンターはいつのまにかあった剣に防がれたし、流転撃は躱された。機先技折は直ぐ離れられたからその後が続かない。地崩転惑、六方崩しはそもそも当たらない。閃隙はうまく狙えないし剣乱舞踏は全部防がれた。」
「にしては嬉しそうね。」
「そうなのかもしれない。今までは、道場で親戚とか門下生としか相手してなかったからね。初めての相手でしかも自分より強い、そんな人と模擬戦を通して色々学べるんだ。それが楽しくて仕方がない。」
「そういえば蓮って美奈子さんや高蔵さんとかと相手している時が一番楽しそうだったもんね。」
「そういえば愛佳の方は?」
「私の方は今日は刀だけよ。暗器術が使える人が居ないらしくてね。」
「そういえば俺ら二人同じ道場で同じこと学んでいたのに、俺の方には投擲術があって暗器術がなく、愛佳の方には暗器術があって投擲術がないのだろう?」
「そういえばそうね。私達どの技術もほぼ互角なのにね。考えられるのは向こうで使えた技術はこっちに来た時確率でスキルとして得られるんじゃないかな。」
「その可能性が高いだろうな。」
「私の方も同じような条件で戦ったわ。ほぼ互角よ。どちらも一撃が見舞えない。」
「やっぱすごいな。」
「そうね。私達を強くするために色々手助けしてくださってる。」
「俺たちも応えないとな。」
「ええ。騎士団の方達だけでなく王城の人達が私達を魔王と戦えるよう全力で支えてくれている。それに応えられるよう頑張りましょ。」
今日はこれくらいにすることになった。急いで元きていた服に着替えて、誰もいないことを確認して部屋から出た。俺はそのまま自分に当てられた部屋へ行きベッドの上で横になった。
(愛佳にバレたのは予想外だったけど話しながら今日の反省点も纏まったし、今日の戦闘訓練について話ができたのは良かった。)
そう思いながら夕食の時間まで休む事にした。